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12月定例症例検討

12月15日に今年最後の症例検討会を行いました。青木医師に担当いただきました。主治医と子ども、家族との間で治療方針が共有しにくいことがあります。それは子どもの表現力の問題、子どもや家族が問題について腫れ物扱いとなって語れない場合、主治医の説明が拙いせいで治療の主旨を十分理解できていない場合など様々です。食い違いがあるまま、薬物療法や入院治療などそれなりの侵襲の可能性と同時に、子どもや家族側に何らかの期待を含む決定を主治医が行った場合に治療への失望につながることもあります。治療方針を十分吟味しながら焦らないという精神医療に限らない基本事項について確認しました。

12月レジデント向けクルズス

12月1日にレジデント向けクルズスを行いました。 シニアレジデントの武越医師、宇賀神医師のリクエストにて浅沼医師が「選択性緘黙の診療」、藤田医師が「神経発達症の説明・告知」を担当しました。緘黙の治療と支援は「スポットライトを浴びながら人前に立つ不安」のさらに強烈なものを感じる当事者に寄り添いながら経過を見守るのか、緩やかに背中を押しながら言葉を話す練習をするよう水を向けるのかで大きく方針が異なります。両者を同時に兼ね備えた診療が理想なのかもしれませんが、現実の臨床ではなかなか難しいという意見が大半でした。神経発達症の説明・告知についても、診断名を伝えるか伝えないか、それをいつ伝えるのか、どのような内容で伝えるのかはそれこそ医師の経験や力量、臨床姿勢に負うところが大きいようです。ただ、自分がどの立場を取ったとしても診断・説明・告知に対する臨床医としてのスタンスが極端なものになっていないか、それが当事者のニーズに沿ったものであるのかは常に点検が必要であるという話になりました。

11月定例症例検討会

11月17日には定例症例検討会を開催しました。宇賀神医師に症例を提示いただきました。先週の抄読会で自殺予防のテーマを提起するきっかけとなった事例です。外傷体験を有するものの、家族・児童相談所・学校と身近な支援のリソースがあってもなかなかケアされる機会に恵まれずに、傷つきを抱える苦痛から自殺企図が繰り返される事例について、話し合いました。治療者の視点は自殺予防、トラウマ治療と目に見える成果に行きがちで、家族や当事者と評価や治療について話題にしていくことがしばしばあります。しかしながら、経過の中で一度も人に頼ることができず自らの苦痛や体験をじっくり人と共有することをしないまま、ひたすら笑顔で取り繕って場をしのいできた子どももいます。そういう場合は、これ以上傷つかない安全で安心な環境の提供や味方となる大人が側にいる安心感をいかに補うかを考えることが先決です。そんなことを考える余裕のない家族もいます。家族も傷ついて必死なのかもしれません。家族の傷つきにも目を向けて家族ケアからはじめる必要もあるでしょう。本日は臨床で出会う子どもの深刻なトラウマ体験の背後の文脈を汲み取ることの重要性を確認した時間となりました。

11月レジデント抄読会

11月10日にはシニアレジデントの武越先生と宇賀神先生による抄読会を開催しました。 武越先生には「Family-based treatment for adolescent anorexia nervosa: What happens to rates of comorbid diagnoses?」 という論文を元に神経性やせ症とその併存症が児童青年期の摂食障害の標準治療であるFamily based treatmentでどの程度改善するのかという議論していただきました。治療により併存するうつ病は有意に前後で改善がみられるものの、不安障害は有意差がないというデータは臨床実感に符合する内容でした。宇賀神先生には「Adaptive intervention for prevention of adolescent suicidal behavior after hospitalization: a pilot sequential multiple assignment randomized trial 」 という論文を元に、自殺行動をとる児童青年期の患者さんにSafty planを提供し、それに関する動機づけ面接を実施し、退院後にもフォローアップを行うことでの自殺予防効果について議論をしていただきました。定期的に電子媒体で毎日のようにメッセージが送られる仕組み、しっかりと自殺予防に必要な構成要素を動機づけ面接として提供する仕組みは、曖昧な自殺予防を意識した一般臨床から一歩踏み込むことの重要性を我々に意識させてくれたような気がします。担当をしていただいたお二人ともお疲れ様でした。

9月定例症例検討会

9月15日には定例症例検討会が開催されました。宇賀神医師に症例提示をしていただきました。救命救急センターで一命をとりとめる程度の深刻な自殺行動の後は、その背景にあった精神的苦痛は語られぬまま、これまでのことがなかったかのように生活が再開されることがあります。一見、落ち着いたかのように見える淡々としたあり方はカタルシスとも言えますが、一連の経緯は子どもにとっても、家族にとっても触れてほしくないことが沢山あることでしょう。こどもの心のあり様を理解できぬままに淡々とした生活の中で身体的回復が進み退院の是非を判断する時期がやってくるかもしれません。しかし、このような場合は精神科医は子どもが次の自殺行動を起こすことを引き留められるような繋がりを持てていないことに焦りが出るものです。精神科医として傷ついた子どもの人生にどこまで踏み込み理解していけばよいのか、どのように安全管理について助言すべきかについて話し合いました。

9月児童精神科レジデント向けクルズス

9月1日にはレジデント向けクルズスを実施しました。レジデントからのリクエストに応え、上級医が実施するクルズスです。宇賀神医師からは日頃診断が曖昧な症例に付与しがちな「情緒障害」とは何か、武越医師からは「チック症の治療」というテーマでリクエストがあり、宮崎医師が「情緒障害」について、藤田医師が「チック症の治療」について話題提供をしました。「情緒障害」という診断は幼児期のかんしゃくや習癖に通常付与される診断ですが、教育・福祉の場面では発達障害を意味する病名としても使われて混乱があります。ただ、これを医学病名として転用しているのは圧倒的に神奈川県が多く、横浜市立大学や神奈川県立こども医療センターが慣習的に診断が曖昧な例に付与して来た歴史があることを確認しました。全国的にはうつ病や不安症などの診断を明確につけがたい事例には「適応障害」の病名が付与されることが多いようです。

戸代原医師の論文が掲載されました

戸代原医師の論文がChild and Adolescent Mental Health誌に掲載されましたのでお知らせします。関係者の皆様、ご協力ありがとうございました。
https://acamh.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/camh.12504
>
> 横浜市立大学児童精神科2病院と神奈川県立こども医療センターの初診患者さんたちの臨床症状に関する調査です。幻聴も幻視も外来患者さんにはそれぞれ10数%存在しますが、自殺の行動化に関連するのは幻視よりも幻聴であることを示唆した結果です。ご一読いただければ幸いです。

8月定例症例検討会

8月18日に定例症例検討会を開催しました。症例提示は青木医師に担当していただきました。プレイセラピーは子どもの発達特性や性格傾向、葛藤を観察し、緩やかに枠組みを示しながら治療的な言葉や関係性を提供する上で役立ちます。居場所のない子どもたちの寛ぎの場としても役立つところではありますが、治療技法・治療介入であるため、何の目的でそれがなされているのか、利用している子どもや家族はその意義をある程度理解できているのか、主治医は確認することが必要です。担当している心理士とも目的の共有が必要ですが、これがあいまいになってしまうと脱落例も出てくることを学んだ会になりました。

8月レジデント抄読会

8月4日はシニアレジデント抄読会を開催しました。市民総合医療センターの宇賀神北斗医師より「 Antipsychotic medication versus psychological intervention versus a combination of both in adolescents with first-episode psychosis (MAPS): a multicentre, three-arm, randomised controlled pilot and feasibility study 」、附属病院の武越百恵医師より「 Reports of parental maltreatment during childhood in a United States population-based surveyof homosexual, bisexual, and heterosexual adults 」の2つの論文について各自の臨床疑問と共に紹介をいただきました。1つ目の論文は初回精神病エピソードに対して抗精神病薬治療、認知行動療法と家族療法、抗精神病薬と認知行動療法と家族療法の3つによる現実的な治療実施可能性を検討した報告でした。児童青年期の精神病エピソードは統合失調症の確定診断がしにくいものが多く、当初予定した治療法から別の治療に切り替える例が多いという結果でした。目の前の精神病エピソードを呈する子どもがどのような診断なのかどのような治療が最適なのかは経過と相談しながら検討していくという現実的な治療を描きだす内容でした。実際宇賀神先生が診療している患者さんも診断が悩ましい事例で治療方針についても試行錯誤の連続のようです。2つ目の論文はやや古い論文ですが、1990年代にアメリカで実施されたゲイ、レズビアン、バイセクシャルの人々の幼少期の虐待体験についてインタビューした大規模疫学調査の報告です。今では性の多様性について多くの人が認識する時代になりましたが、20年以上前のアメリカでは自分の性的指向を報告する人が数パーセントと極端に少ないことが印象的でした。LGBTQの人たちと小児期逆境体験、精神不調の関係は数多く報告されていますが、我々児童精神科医も性別不合に悩む子どもたちに積極的相談にのっていくべきであることを確認しました。

7月定例症例検討会

7月21日には定例症例検討会が開催されました。当日は市民総合医療センターの宇賀神医師に症例提示をいただきました。約3年の経過に渡る症例でしたが、解離性障害、精神病危機状態(ARMS)、カタトニア、統合失調症と様々な診断が疑われては修正されと試行錯誤が繰り返されている症例でした。児童青年期の症例では、内的言語が未発達であることもあり、本人が体験している病的体験や奇異な思考過程が言葉として表現されないこともしばしばです。行動化が先行するため、自傷行為や他害行為などがあったあとでもなぜそのようになったのか経過を振り返れないこともあります。時期により多彩な症状が出ては消えするため、診断や治療方針が定まりません。診断が定かではないために、治療方針について明確に子どもや家族に説明できないもどかしさが伝わる症例でした。わからないことは、わからないと保留にし、とにかく丁寧に関係を作り評価を繰り返していくこと、時間経過でみたてていくことの重要性を確認した会となりました。

6月定例症例検討会

6月16日には定例症例検討会が開催されました。附属病院レジデントの武越医師が症例提示を行いました。抑うつ状態や自傷行為など明らかな精神不調があるにも関わらず、症状について子どもと対話ができない武越医師の悩みを検討しました。言葉でのやりとりを中心とした面接が膠着する背景は複数想定されますが、なんとかしたいと焦る医師は自ら治療技法に問題があるのではないか?と内省しがちです。そのような態度ももちろん大事ですが、その前に面接場面のセッティングで医師と1対1の対話をすることに緊張を感じているかどうか、家族が同席していた方が話しやすいのではないか、逆に家族がいることで切り出せない話題はないのか、などを考えることも必要です。また、子どもの表現力もそれぞれですので、能力検査や性格検査を実施しながら、どの程度の表出が期待できるのか査定することも必要になります。作業療法や遊戯療法など非言語的な治療アプローチから入りながら子どもと関係を作っていく必要があるかもしれません。後日、症例検討会での助言は実際の診療に活かされ、家族同席での面接で子どもの笑顔も垣間見られて武越医師もホッとできたとのことでした。

6月児童精神科レジデントクルズス

6月2日に上級医による児童精神科レジデントクルズスを開催しました。まだ外来診療を開始して間もない武越医師と宇賀神医師のリクエストを受け、藤田医師より児童精神科における薬物療法の留意点、浅沼医師より摂食障害入院治療後の外来診療の2つのテーマで講義が行われました。成人グループで研修中の医師も複数参加してくれました。

5月定例症例検討会

5月19日には定例症例検討会が開催されました。症例提示は市民総合医療センターの宇賀神医師が担当しました。精神科医として仕事を開始して間もない中、神経性やせ症のお子さんが少しでも長く医療に留まれるように、関係づくりに腐心される様子が伝わってきました。治療中の子どもからの拒否に遭い、どのように働きかけて良いのか悩む時は度々あります。病棟の看護師さんには話すのに、主治医として関わろうとするとそっぽを向かれてしまったり、看護師さんから自分についての不満を伝え聞くこともあると悩むことでしょう。ただ、拒否の理由は様々で、不定期に自室を訪れる主治医の不安定な面接構造に困惑していたり、家族面接のようなシナリオの決まらない面接は苦手であったり、肥満恐怖に対してぶれない姿勢の主治医に対する恐怖感であったりと色々あるかもしれません。このような症例検討の場で多角的に本人や家族のあり方を検討することで新たな関わり方が見えてくるのだと思います。駆け出しの児童精神科医である宇賀神医師を参加者は応援する気持ちで参加者は様々な視点を提供してくれたと思います。

5月シニアレジデント抄読会

5月12日はシニアレジデント抄読会を開催しました。成人グループで研修中のレジデントの先生方にも参加いただき活発な議論となりました。市民総合医療センターの宇賀神北斗医師より「 Predictors of psychotic symptoms among young people with special educational needs」、附属病院の武越百恵医師より「Effectiveness of enhanced cognitive behavior therapyfor eating disorders: A randomized controlled trial」の2つの論文について各自の臨床疑問と共に紹介をいただきました。1つ目の論文は特別支援学校に通う子どもたちについて将来の精神病発症を予測するための観察項目としてCBCLによる行動障害の評価とSISによる精神病症状の評価が有効かどうかを示したものですが、陽性的中率26%という結果を慎重に解釈する必要があること、むしろ陰性的中率が97%という結果は将来の発症を予測しない場合に有効化もしれない、などの議論となりました。2つ目の論文は平成28年度から保険適応となっている摂食障害に対する認知行動療法CBT-Eの効果を通常治療(TAU)と比較したものでした。この論文で取り上げられたオランダの摂食障害治療センターの治療はCBT-EおよびTAU両群とも日本の摂食障害診療の現状と比べて質および量ともに上回っていることを前提に我々の診療への適応可能性について議論し、少しでも摂食障害診療の底上げをしていく必要性があることを確認しました。

インターネット・ゲーム障害治療プログラム「横浜遊技計画」がスタートしました

コロナ禍の中、半年遅れでようやくスタートすることができました。第一回は、簡単なイントロダクションの後、「メイクンブレイク」というアナログゲームを楽しみました。第一回ということでスタッフも手探りでしたが、参加者の方々の協力もあり、楽しく盛り上がれた1時間半でした。GWがあるため次回は1ヶ月後ですが、また元気に集まれたらと思います。

4月定例症例検討会

新年度がスタートして新たなメンバーとともに症例検討会を再開しました。今回は児童精神科をローテート中の研修医、成人グループのシニアレジデントも参加して賑やかでした。症例提示は青木医師が担当しましたが、片親からの暴言や威圧的な養育に起因するPTSDの診断と父母の不和・離婚を巡る家庭環境に対する適応障害の診断とで担当医の方針が揺れている症例でした。片親の養育態度が問題なのか、父母の不和自体が問題なのか慎重に見極めないといけません。共同親権が認められていない日本では、ともすれば訴訟の材料になります。判断を誤れば主治医の診断が子どもの生活環境に悪影響を及ぼすことさえあります。客観的な視点で病歴を把握できているか自己点検が必要です。

ゲーム障害治療プログラム「横浜遊技計画」が開始されます

新型コロナウイルス感染拡大のために延期となっておりましたゲーム障害治療プログラムが4月21日より市民総合医療センターにて開始されます。今後申し込みを検討される方は4月以降の初回クールが終了してからのエントリーとなりますので、適宜担当医とご相談ください。