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9月定例症例検討

9月20日には定例症例検討会が開催されました。症例提示は市民総合医療センターの太田医師が担当しました。神経性やせ症のお子さんは再栄養に強い抵抗を示すために担当医との信頼関係を築くことに難渋することがあります。また、元来の不安特性や双方向的なコミュニケーションの苦手さから上手に関係を築くことも苦手なことがしばしばです。またその親御さんもしかりです。そんな事情もあって、急性期の場合には1~2か月はベッドサイドで話も弾まずに、事務的な治療方針のやり取りをしてはその子自身の人となりを垣間見る満足感も得られないもやもやとした関りが続くことがあります。子どもが発する言葉や表現が少ないと病状を抱える子どもの家庭や地域での生活の姿がイメージできないこともあります。そういう時の症例検討は得てして参加者に子どもや家族のイメージが伝わらずにもどかしい時間が過ぎることもありますが、そのもどかしさについて当日は様々な意見が交換できました。治療者の投げかけに対するふとした表情や背を向ける態度ひとつひとつをつぶさに観察し言葉以外のメッセージを汲み取ることの重要性や難しさが語られていました。

メタバース診療・インタビュー調査締め切り

告知をさせていただいておりました、メタバース診療・インタビュー調査は満員御礼につき締め切りとさせていただきました。また来年度以降、さらに調査を拡大していきますので皆様ぜひご協力よろしくお願いします。

令和6年度の子どもの心専門医研修専攻医募集

横浜市立大学児童精神科では令和6年度の子どもの心専門医を募集しています。多数の連携医療機関があり、小児科医・精神科医の先生方それぞれのニーズにこまめに対応するプログラムを用意してお待ちしております。現在、1名の先生の研修が確定しています。まだ研修枠には余裕がありますので10月中には当ホームページの問い合わせからご連絡いただければ幸いです。

8月定例症例検討会

8月16日には定例症例検討会が開催されました。長期経過の摂食障害の事例を市民総合医療センターの首藤医師に提示していただきました。複数回の入院を附属病院および市民総合医療センターで繰り返しているため、度々担当医が交替しています。渋々ながら栄養療法を受け入れる時期もあれば、家族を拒否して面談すら拒み、むしろ担当医と蜜月のようになる時期、一切栄養療法を受け入れない時期、そして再度治療を受け入れる時期、と担当医が変れば患者さんのあり方も変わっていく経過でした。こういった様々な様相で展開する治療を地続きとする症例検討は現在の外来担当医の青木医師にとって大変参考になったようです。

7月定例症例検討会

7月19日には定例症例検討会が開催されました。市民総合医療センターの太田先生に症例提示をしていただきました。精神疾患の入院治療において、不潔行為や暴力・暴言などにさらされる最前線のスタッフにどのような助言や見通しを与えるべきか、という点について話し合いました。これは子どもの精神医療に限ったことではないですが、みたてと治療方針についてこまめにスタッフとコミュニケーションをとりながら治療を進めることの大切さを確認しました。

7月レジデント向けクルズス

7月5日にはレジデントのリクエストに応える形で上級医のクルズスが行われました。市民総合医療センターの浅沼医師より虐待を疑って帰宅させることを迷う場合の対応について、廣内医師より療育センターでの発達障害診療と告知説明のあり方について、話題提供がありました。どちらのテーマもケースごとによって対応が異なり的確な判断はいつになっても難しいものです。当日語られた、上級医の経験談や診療姿勢は若手医師にとっては学びになったことと思います。

6月定例症例検討会

6月21日には定例症例検討会が開催されました。附属病院の青木医師が症例提示を担当しました。発達障害とトラウマという児童精神科領域の二大テーマを含む事例でしたが、複雑な家庭環境の中で一家が離散していること、本人との対話が解離症状や発達障害特性のためになかなかうまく進まない中でどのようにみたてと治療方針を固めていくかが難しい事例でした。このような事例は複数の支援機関が入るために児童精神科医は診断と治療方針を周囲にわかりやすく共有し、リーダーシップを取る必要があります。しかし実際は三々五々で外来診療の場に立ちあらわれるため症例全体の見立てに苦労するという経験が語られていました。

令和5年度MEWの会

6月10日は児童精神科が当番幹事となって横浜市内の医療福祉教育の子どもに関わる職種が集まるMEWの会が八景キャンパスカメリアホールで開催されました。「不登校・ひきこもり診療の現在地と未来」と題し、廣内医師・浅沼医師・藤田医師が登壇しました。当日は124人の参加があり、コロナ禍中に縮小せざるを得なかったこのMEWの会も元通りの活気を取り戻した印象です。廣内医師が不登校・ひきこもり診療の事例を6例紹介し、浅沼医師が現在ひきこもり家族支援ツールとして着目されているCRAFTの実際を、藤田医師は現在横浜市大で取り組まれているメタバースによる若者の心の支援について紹介しました。

5月定例症例検討会

5月17日は定例の症例検討会が開催され、浅沼医師に症例提示をいただきました。神経性やせ症の背景には、自閉スペクトラム症や注意欠如多動症など神経発達症による生きづらさを抱える人たちが多くいます。特に女子は目立たぬよう規範に沿いながら、こじんまりとした生活を心がけている子どもたちも多くいて学校も家族も「大人しい子」くらいの認識でずいぶんと時間が経ちます。中学校以降になるとじわじわと強まる不適応感から抜け出そうともがくうちに摂食障害を発症していく事例が多くあります。「大人しい子」というベールをかぶった生きづらさを再定義し、これからの指針を示して伴走する必要があるのですが、決められたレールに沿って進んできた子どもを発達特性に沿った環境へ方向転換させるには精神科医としての上手なコミュニケーションと合意のプロセスが求められます。摂食障害は確実な再栄養と十分な療養期間がないと回復しないわけですが、ここに進学・就労のタイミングが重なって将来を見据えた判断をしなければならないときに悩みが生じるものです。当日はその判断の難しさについて話し合いました。

4月定例症例検討会

新年度は新たな若手医師を迎え、児童精神科チームがスタートしました。最初の症例検討会は藤沢病院から戻られた青木芳子医師に担当いただきました。大学病院を離れる前から解離や自傷行為、心理的虐待を背景に児童相談所も巻き込んで苦心した経過の症例でしたが、1年を経て戻ってもなお、その情緒の安定には治療と支援の継続が必要だと再認識された経験を報告されていました。解離症状や自傷行為を前にどのような対応をすれば良いか、上手に外来診療を切り盛りできるのだろうかと不安を感じる若手医師も多く、様々な感想がありました。ただ、そこは子どもと家族の未来を信じながら激しく多彩な症状の裏側にある生きづらさはどこにあるのか、逆境体験なのか、発達障害的特性と環境のミスマッチなのか、不安障害や気分障害が重層しているのか見立てをしっかりしながら方針を共有することにつきることを確認しました。診療の基本に立ち返る重要な症例検討会となりました。

若者の生きづらさを解消し高いウェルビーイングを実現するメタケアシティ共創拠点

横浜市立大学 医学群教授 宮﨑智之医師をプロジェクトリーダーとする、複数大学、複数企業、自治体が連携する研究グループは、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下JST)が公募する令和4年度「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」共創分野本格型に採択されました。近年コロナ禍において深刻化している「若者の生きづらさ」や心の不調に対して、心理的障壁の低い相談・ケアを提供する場として、医療ケアが受けられるバーチャル空間「MeeTaa」の構築を目指します。児童精神科は研究開発課題②の担当としてチームリーダー藤田純一医師、石井美緒医師、戸代原奈央医師、宮崎秀仁医師を中心に「MeeTaa」の研究・開発と地域への実装を行っていきます。詳細は以下をご覧ください。

Minds1020Labホームページ

3月定例症例検討会

3月15日には今年度最後の定例症例検討会が開催されました。市民総合医療センターレジデントの重井医師に担当していただきました。拒否を続ける摂食障害の場合、身体的拘束や強制的な経管栄養が必要となることもしばしばです。病態が重ければ重いほど、医療スタッフの手が割かれ、時には担当医がつききりで一時間栄養終了まで寄り添うこともあります。このような言葉を介さぬケアから関りが生まれ、子どもの苦悩が少しずつ開示されて症例全体の理解が深まっていく経験があります。つい薬物療法や認知行動療法など、理論先行となりがちな急性期の精神医療の中でこころの治療らしい関与ができたことは重井医師にとって大きな経験となったようでした。重井医師は今年度で大学病院を離れ、一般精神科病院での研修に移りますが、さらなる経験を積み戻ってきてくれることと思います。

2月定例症例検討会

2月15日は定例症例検討会が開催されました。当日の症例提示は深津医師が担当しました。外来診療の中で子どもの表現が淡泊なために、その苦悩がつかみにくいことがあります。往々にして、そのような場合に家族からもどのような経過で子どもの不調が生じたのか、どのような対処をこれまで繰り返して病院にたどり着いているのか五里霧中のままに診察が進むことがあります。みたてと方針がすんなり決まらない症例です。一方で自殺行動や極端なやせなど医療的介入が急がれる事態が生じると、保護のための入院ニーズが生じてきます。ただ、そういう局面においても何のための入院となるのか、どんなことを期待する入院なのかが十分詰まらないままに入院治療がスタートすることが、医師の駆け出し時代にはよくあるものです。主体性を重視して任意入院とするのか、病識がないと判断して医療保護とするのか、開放病棟でよいのか、閉鎖病棟でよいのか、事が生じた時には行動制限をするのか、それとも仕切り直しの退院にするのか、みたてを深めるためにはどのように主治医として関わるのか、家族の面談はどうするのか、そんな迷いと試行錯誤について様々な議論が交わされた症例でした。

2月児童精神科講演会

2月1日には毎年この時期に行っている講演会を実施しました。今回は附属病院心理室の小林陵先生に講師を依頼し「どうして心理検査の所見はわかりづらいのか」と題して、医師と心理士の間で交わされていた精神分析を土台とする言葉が時代とともに共通言語でなくなっていった背景、このため検査結果が難解に見えるようになったこと、若手医師が性格検査を活用する際の留意点、心理療法のオーダーと終了、担当心理士との役割分担のコツなど、若手医師が明日からの臨床に役立つトピックについてお話いただきました。

1月定例症例検討会

1月18日は新年の症例検討会を行いました。いつもよりやや少なめの7名でしたが、活発な討論ができました。症例は市民総合医療センターの重井医師が提示してくれました。児童精神科医療に携わってそろそろ1年がすぎる重井医師ですが、来年度からはいったん児童精神医療を離れ成人の精神医療を学ぶために異動します。面談を繰り返してもなかなか家族の理解が進まず、子どもの能力以上の要求をしてしまう家族、引き続き苦境が続く子どもを診療しながら先々の展開を案じることが多々あるようです。養育態度の修正を強く親に求めるのか、見守るのか自らの決断に迷いが生じることについて話し合いました。イソップ童話の北風と太陽のように、焦って変化を求めれば強い抵抗に会うかもしれません。事例のポジティブな展開をイメージしながら、抵抗の背景を丁寧に理解し解きほぐす診療態度の重要性について議論がなされました。

12月定例症例検討会

12月21日は2022年最後の症例検討会でした。附属病院の太田医師が症例提示を担当しました。寄る辺なき不安とも言える強烈な不安症状と困惑から日常生活が送れなくなる児童青年期症例が時として入院します。背景には何らかの神経発達症や家庭や学校環境への不適応やいじめ被害などのトラウマが隠れていることもありますが、なかなかみたてがしっかりとできずに鎮静のための抗精神病薬が増量されたり長期の隔離拘束を余儀なくされることもあります。大学病院の短い研修期間でその症例の経過を予測することはできませんが、連携先の病院の医師も含めてディスカッションを行うことでその後の教育や福祉との連携、デイケア利用などの長期リハビリテーション、薬物療法以外の息の長い関わりについて話し合うことができました。

11月定例症例検討会

11月16日には定例症例検討会が実施されました。宮崎医師が症例提示を行いました。児童精神科診療においては時として、その病状は親の方が重篤であることはしばしばです。子どもの不登校の背景に、精神疾患を患う親から離れられない、目を離せば何か大変なことが起きてしまうかもしれないという不安の中で仕方なく自宅閉居をしている子があります。逆境の中、ヤングケアラーとしてなんとか生きている子ども達が「不登校」や「自傷」などを主訴として外来につながることがあります。こういった場合は、子どもを労いながら家族全体の支援を考えていく必要があり、地域との緊密な連携が必要です。児童精神科医がリーダシップを取りながら、必要な手当てを全員で考えていくプロセスの中で回復していく子どももいるのです。宮崎医師にとっては、あらためて子どもと家族に向き合う決意につながる症例検討会となったようです。