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留学便り

園田先生のミシガン便り

2020.07.04 [1]

夫の米国留学に帯同したミシガン生活

2018年5月から米国ミシガン州に国外留学中の園田香里(医師13年目)と申します。

夫の留学(新潟留学5年間、米国留学現在3年目)に帯同して長らく横浜から離れておりますので、医局の多くの先生方にとって、「初めまして」になってしまっていると思いますが、どうぞよろしくお願い致します!

新潟生活中に、夫の米国留学が決まり、私も帯同しながらできる範囲で勉強したいということから、伊藤教授と相談し、国外留学枠に入れていただきました。夫の留学先は、2016-2019年に留学していた本井先生と同じ、Wayne state university(ウェイン州立大学), Children’s Hospital of Michigan (ミシガン小児病院)の神経診断部(浅野英司教授)です。初年度は、ミシガン小児病院てんかん合同カンファランスへの参加や、脳表脳波を用いた基礎研究のデータ解析を行う機会も与えていただきました。全くの専門分野外でしたが、難治てんかんの症例を、小児科医、脳神経外科医、成人神経内科医、病理医や神経心理士などの多分野のエキスパートがインタラクティブにディスカッションするカンファランスは大変刺激を受けました。研究は、脳表脳波データの解析から論文化までを私自身で行うことを目指しておりましたが、異国の地で家庭と研究のバランスを取ることは私の想像以上に難しく、現在は研究テーマのFirst Authorの立場から外して頂き、私が得た解析データや解析方法を後任の先生に引き継ぎ、研究継続をお願いしています。研究内容についてはまた後日ご報告させてください。

現在は、軸足を家庭に置きながら、ミシガン州に在住の日本人のご家族からの育児相談、メーリングリストで情報提供、親子教室を開催し日本語の手遊び・歌や読み聞かせのボランティア、などを行っております。ミシガン州デトロイト近郊は自動車産業が有名なこともあり、日本からの駐在員家族を中心とした米国最大級の日本人コミュニティーを形成しています。この様な活動をしている理由としては、日本人コミュニティーでの関わりの中で、私と同様に、多くのお母さん達が異文化の中での育児でたくさんの悩みを抱えていることに気づいたからです。以前から、お母さん達にとって身近な存在として育児相談をもっと気軽に受けたいという希望がありましたので、新潟での第一子の育休中に保育士の免許を取得し、仕事復帰後は病児保育を担当し、育児相談についても関わりながら勉強しておりました。日本から離れて生活するお母さん方の心配・不安は日本で受ける相談とは異なるものも多く、私自身も共感しながらもお母さん達の相談に答えることで、大変勉強になっています。

夫の米国留学へ家族で帯同し、一番良かった点は、家族の時間が増え、結びつきが強くなったことです。異国の地では、初めは頼れるのは家族しかおらず、また我が家には乳児を含め子供が3人いるためどうやってもワンオペでは手が足りません。そして米国では、家族で過ごす時間をとても大切にし、育児や家事を夫婦で分担・協力することが当たり前なので、日本で使われている“イクメン”の英訳はシンプルに“Father, Dad”だそうです。このような文化を経験することで、日本ではいわゆる“イクメン”だった夫は、“Dad”にパワーアップしました!大変だったことは、特に渡米後の三ヶ月は、言語や文化の違いにも戸惑い、また貯金を切り崩しながらの生活のセットアップは困難の連続でした。そういえば留学直前に、伊藤教授から、「留学中に、我慢や怒りで2回くらい家の中で皿を投げる時が来るだろう(伊藤家についての真偽は定かではありません…)」と予言をいただきました。勿体無いので実際にまだ皿は投げていませんが、確かにこれまで頭の中では何枚もの皿が飛び交っています…!

予想以上に米国で生活すること自体が大変で、特に自分の勉強や研究は、渡米前に想定・期待していた通りには、うまく行かないことも多々ありました。しかしながら2年経過し、色々と折り合いをつけながら、この貴重な機会を自分なりに楽しんでいけるようになってきた頃、新型コロナウイルスのパンデミックがやってきました…。(次回へ)

2020.07.04 [2]

ミシガン州の新型コロナウイルスの状況について

米国ミシガン州では、2020年3月10日に初感染例が報告され、州知事により直ちに非常事態宣言が発出されました。幼稚園、学校もすぐに休校となり(結局8月の今年度いっぱいまで)、3月24日付けで外出禁止令が出されました。ミシガン州はその後感染者が増え続け、全米の州の中でも一時期はワースト3位の感染者数となってしまいました(2020年7月1日現在累積患者数71092人)。新型コロナウィルス関連死亡率も他州と比較して高く、外出禁止の鬱々とした気持ちも相まって、日々ニュースを見ながら暗い気持ちになっていました。ただし、居住区地域(インナーシティ問題の名残で、私の住居は都市部のデトロイトから離れています)では、感染者が診断されたということがニュースになる程度の発生頻度でした。

ミシガン州の外出禁止令は、食料や生活必需品の買い物、通院、健康維持のための散歩など以外の外出は控えることとなっており、家族以外との交流は禁止で、公園もバリケードで封鎖され(写真1)、街中も閑散としていました。スーパーマーケットでも長蛇の列(写真2)となり、購入制限や、紙類・パスタ・小麦粉・肉類・じゃがいもなどがごっそり棚から消えてしまうこともありましたが、生存に支障をきたす状態ではありませんでした。夫の留学先のデトロイト市内の病院・研究室は患者と医療従事者の動線分離を行う段階を経て、どこの研究室も基本的に閉鎖となりました。夫は、三ヶ月間、完全テレワークでデータ解析、論文化作業、オンラインミーティングを行っていました。機能脳神経外科などの緊急性の低い手術は、病床を空けておくためにほとんど延期になったそうです。幸い、結果的には新型コロナウィルス関連で小児病院に入院する症例は非常に少なかったようです。学校の対応は、休校の決定と同時に、各家庭に自宅学習を行うためのパソコンの貸し出しが行われ、必要な家庭にはインターネット環境の提供もありました。6月中旬の本来の学期終了までは、オンライン上で日々の課題学習が与えられ、週に3回、担任とクラスの生徒で行うオンライン授業が継続されていました。

米国は感染者数が全世界でも圧倒的に多く、論点は多々あるかとは思いますが、各種の政策決定や対応は非常に迅速な印象でした。非常事態宣言下で、大多数の人々が禁止令のような命令を遵守している姿は、個人や自由を重んじる米国から私が勝手に想像していた米国民の姿と大きく離れたものでした。ミシガン州の外出禁止令の期限はその後度々延期され続け、6月1日付けで解除されました。一口に米国といっても、州ごとに独自の政策決定がなされており、それに応じて患者数や経済に与える影響の度合いは非常に異なっています。ミシガン州は他州と比較しても特に厳しい封じ込め政策を行っていたと思います。まだまだ手放しには安心できませんが、最近は感染者・死亡者数が落ち着いてきたという良い報告もされています。一方、ミシガン州といっても非常に広いので(日本の本州とほぼ同等の面積)、特に感染率の低い地域では、長期間の外出禁止令や高い失業率に反発した人のデモ抗議も度々起こっていました。そのような中、やっと産業もこの数週間で再開し始め、造園関連の店の再開、テイクアウトのみだったレストランも客数制限付きで開店、大型ショッピングモールも要予約で入場可能、など身近な生活も変化してきました。集まることができる人数もかなり厳格に制限されていましたが、現在は屋外ならば大幅に解除され、公園や屋外プールも再開し、また季節も夏になったことも相まって、レジャーやスポーツなど人々の動きもだいぶ開放的になっているように思います。そんな矢先、アフリカ系米国人が非常に多いデトロイトでもBlack Lives Matterを掲げた抗議デモが多く行われ始めております。残念ながらまだ構造的差別が存在する米国にとって、非常に重要な問題であり、米国にとって、もう一つの歴史的な場面であると思っています。

大変なことも多いですが、おかげさまで我が家は皆元気にしております。現在夫は週2、3回の研究室勤務とテレワークを組み合わせています(写真3)。先週末には、ちょっと緊張しながらですが、家族で広大な畑でイチゴ狩りをしてきました(写真4)。ミシガン州は、デトロイトが有名で都市部の印象が強いと思いますが、実は、たくさんの湖に囲まれ、農作物の栽培などが盛んで、米国の中ではどちらかというと自然豊かな田舎の州です。早く安心して思いっきり外で自然を満喫できる日々が来る事を願っています。

最後に、貴重な機会を与えてくださった伊藤秀一教授、受け入れてくださった研究室の浅野英司教授、また医局員の皆様に大変感謝しております。日本でもまだ新型コロナウイルス感染症が収束されない中、大変忙しくお過ごしのことと思います。くれぐれもどうぞご自愛ください。

[写真1] 公園の遊具の様子:使用禁止が3ヶ月ほど続き辛かったです

[写真2] スーパーマーケット前の列:Social distanceが必要なのでさらに長蛇に…

[写真3] 病院内にディスプレイされた医療従事者へのメッセージ

[写真4] Strawberry picking:その場で食べてもOKですが、基本的には詰んだ分を買います。楽しいけれど、畑は広いし地面だし、後から腰にきます。

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