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教授あいさつ

横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学 主任教授
伊藤 秀一

未来の小児科医を目指す君へ

横浜市立大学小児科学(発生成育小児医療学)教室のホームページにようこそ。

 私達の教室は日本でも有数の大規模な小児科学教室です。教室は二つの大学病院と横浜市と神奈川県内の複数の連携病院より構成されています。横浜市は370万人、神奈川県は910万人の人口圏ですが、横浜市立大学はこのエリアで唯一の公立大学であり、当教室の2大学病院と連携病院がカバーする県内の人口規模は300-400万人の規模と推定されます。そのため、これらの病院には多くの患者さんが集中することになり、臨床医としての経験値や技術が上がり、さらに研究テーマにも事欠きません。

 また、教室員数が多いスケールメリットを最大限に活用し、大学病院での高度専門診療を行う各グループには複数の医師を、さらに当直業務のある全ての連携病院にも10名以上の小児科医を配属し、診療体制の集約化を成し遂げていることが最大の特色です。そして、集約化の恩恵である比較的余裕ある環境下で、教室員の皆さんは臨床、研究に邁進し、さらに国内外の留学や、ゆとりある子育ても選択できます。当教室は、多様性や個性、様々な挑戦を歓迎するリベラルな気風を大切にし、人材育成と教育を重視しています。私たちは、プロフェッショナルとして優れた臨床医を数多く育成し、地域小児医療の基盤を支え、医学の進歩に貢献する研究成果を発信し、小児科医として日本の未来のために働く人材を多数輩出したいと願っています。少し長い文章になりますが、私たちの理念、診療、教育、活動などについて紹介させて頂きます。

1. 当教室の理念

2. 小児科医という仕事とは

3. 小児科学という学問とは

4. 私たちの診療体制について

5. 私たちの小児科専門研修体制

6. 小児科専門研修後のキャリアパス

7. 子育てをする女性医師のために私たちができる事

8. 当教室へのお誘い

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1.当教室の理念

安心感や帰属感のもと、個人と教室の両方が継続的に成長・発展するための環境を創造する。教室員の安定と幸福が、患児と家族の幸福、病院さらに社会の利益に帰結する。

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2.小児科医という仕事とは:もっとも幸福な仕事のひとつ

 私はすでに四半世紀近く小児科医として働いていますが、小児科医という幸せな仕事に就いた運命に感謝しています。客観的にみれば、小児科医は様々な意味で大変な仕事であり、実際に他科の医師や一般の方々からも、しばしばそう言われます。しかし、元気になった子どもたちの曇りのない笑顔や恥じらいながら述べる「ありがとう」という言葉に接するとき、患児や家族からの信頼と敬意を感じるときに、大変なことをすっかり忘れてしまうのが、私たち小児科医の美しい特性です。興味深いことに、小児科医という職業への愛情やプライド、病気の子ども達への献身、疾患への科学的探究心は、医師の国籍、年齢、専門性などを超越し、地球上の全ての小児科医間で共有されるものであり、私たちはお互いすぐに打ち解ける事が出来ます。それは、子どもたちのために、未来のために働く使命が、単純明快で充実したものに他ならないからでしょう。

 小児科で治療を受けている子どもたち、なかでも慢性疾患や長期入院生活を余議なくされる疾患に罹患した子どもたちにおいて、病は彼らの人生に多大な影響を及ぼします。子どもたちにとって、病は自ら望んだものではありません。子どもらしい幸福な生活、友人関係、家族機能、学習、自己評価や安心感など様々なかけがえのないものが、多かれ少なかれ損なわれます。また、保護者そして同胞も同様に多くのもの失います。そして、私たち医療関係者が想像する以上に、病とその治療は、その子どもと家族の中で大きな位置を占める重大事項になります。決して自由ではない長い入院生活、痛みを伴う処置や症状、治療の副作用、通院にともなう休校など、私たち大人でも容易に受け入れがたい状況であっても、病気の子どもたちはそれを受け入れ頑張ります。
 それゆえ、子どもたちも家族も、私たちにプロフェッショナルとしての技術や人間性を期待します。小児科医は病気の子どもたちに寄り添い、彼らの人生に伴走し、代弁者として働きます。ちょうど、マラソンの伴走者の様に、各々にあった速度で進む彼らを見守り、応援し時に駆け寄り手当てをしたり、休息をとらせたりします。私たちは彼らが可能な限り「普通の子どもたちと同じような生活」を過ごすために、手助けし続けます。子どもたちが病に罹っても、それを受容し、やがて打ち勝ち、それぞれの人生で自らが考えた最良の選択を下させることが私たちにとっての大きな目標です。
 殆どの小児科医は、自分で診ていた子どもさんが、医師、看護師、薬剤師、検査技師などを職業として選択するという経験を数多くします。彼らが自らの経験を糧にして、それらの仕事を選択し、一人前のプロフェッショナルとして成長してゆく様は、まるで「子育て」のようであり、私たち小児科医の人生を豊かにしてくれます。これは小児科医にのみ与えられた天からのご褒美かもしれません。一人の子どもを治すことは、この世界を変えないかもしれませんが、私たちが行うことがその子の世界の全てを変える可能性があるのです。

 一方、小児科医の仕事とは、病気の治療に留まりません。予防医学や健診、疫学、学校保健、障がい児医療を含む社会福祉、発達やこころの問題、社会的啓発活動、教育など、小児に関わること全てに、多かれ少なかれ小児科医が関わるべき、といっても過言ではありません。実際に社会は私たちに期待し、様々な社会的活動への積極的な参画を望んでいます。小児科医ほど、医学以外の部分で社会と深く接している診療科はないと思います。今後、少子高齢化に伴い小児人口は減少しますが、逆に小児科医の役割はさらに広がってゆくでしょう。欧米に比較し、これまでのわが国の小児科医の仕事は「疾患を診る事」ばかりが役割であったと思います。すでに、欧米の先進国では、子どもの代弁者としての社会へのアドボカシー(発信能力)、発達障害の診療、慢性疾患患者の成人への移行医療、子育ての指導や Well-child visit 等が小児科医の重要な役割になっています。
 私たちにしかできない新たな仕事はまだまだ沢山あります。小児科医という仕事は、一生涯をかける価値のある重要で幸福な仕事であり、かつ様々な分野を選択できる可能性に富んだ仕事です。小児科になる事を選択してくれた皆さんを、仲間として迎え入れることができるのであれば、それは私たちにとって望外の喜びです。

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3.小児科学という学問とは:幅広く、深く、面白く

 学問としての小児科学について述べます。小児科学は学問的には幅広い領域に及び、かつ大変に面白い学問です。私たちは 400-500 g の未熟児から新生児、乳児、幼児、学童、生徒、そして思春期の子ども、さらには成人期に移行した患者さんまで実に広い年齢を対象にしています。また子どもの発達・発育についても熟知する必要があります。1000 g 未満の未熟児と成人と同じ体格の思春期のお子さんとでは、生物学的にも社会的にも全く違った存在と言えます。さらに対象とする疾患領域の広さについては、他科とは比較になりません。
 日常疾患の中で中心を占める一般的な感染症から世界に数十例という希少難病まで、先天性疾患から後天性疾患まで、さらに血液・腫瘍、循環器、神経、リウマチ・免疫、腎臓、内分泌、アレルギー、呼吸器、消化器などの内科同様の subspecialty に加え、遺伝、新生児、代謝、小児集中医療などの小児科特有の subspecialty もあります。生活習慣病と成人特有のがん以外の内科疾患はすべて小児科に含まれます。さらに小児にしかない希少な疾患も含めると、全ての診療科で最も多くの疾患を担当することになります。たとえ、subspecialty を持っていても、広い一般的知識が基本に必要とされる私たちは、究極の総合診療医と言えましょう。
 また、赤ちゃんや小さなお子さんは、自ら症状を訴えませんので、古典的で正確な診療技術が必要です。私はこれらの実地医療としての classic さがとても好きです。その一方で、特定の分子などの機能障害に基づく遺伝性あるいは先天性希少疾患の病態解明は、その分子の生体内での機能の理解につながり、生理学、生化学、免疫学などの生命科学の基礎的な分野の発展に寄与し、さらに新たな治療法を生み出す源泉となります。
 また、各 subspecialty においても、内科における治療法の進歩と同期することが多いため、病態解明、診断技術の向上、新たな治療法の開発など目覚ましいものがあり、医学の進歩を常に目の当たりにできる刺激的な面もあります。実際、つい10年前であれば死亡していた重篤な疾患の子どもたちが、通常の子どもと変わらない生活や健診を送ることが可能になる奇跡も、ごく普通に経験します。さらに、先にも述べたように、予防医学や健診、疫学、学校保健医療、障がい児医療、小児精神科医療、教育など、研究対象は多岐に及びます。そのため、小児科医は縦横にアンテナを張り巡らせ、常に多くの事を学び続ける必要があります。同時に皆さんが興味を抱けることも、きっと沢山見つかるはずであり、そして飽きる事もないでしょう。
 小児科学という学問は、まさに Long and endless, but exciting journey です。

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4.私たちの診療体制について:2大学病院と連携病院の診療/集約化と専門化

 私たちの教室は、日本でも最も大きな小児科学教室の一つです。二つの大学病院で専門的な診療を展開し、横浜・神奈川県の複数の連携病院では一般小児診療に加え、それぞれの病院が個性を発揮したユニークな診療を行っています。二つの大学病院では、小児病床と新生児病床を合わせ、約 100 床を有し、血液腫瘍、循環器、新生児、腎臓、リウマチ・感染免疫、神経、内分泌などの診療チームが高度な subspecialty 診療を提供しています。
 なかでもリウマチ疾患の診療は全国屈指の診療実績があり、全国から治療困難な症例の紹介を受けています。血液腫瘍疾患の診療においては、わが国で臍帯血移植を最も早期に始めた実績があり、現在も骨髄移植を含め優れた治療成績を実現しています。腎疾患の診療は県内随一の診療数を誇り、腎移植や腹膜透析も行っています。母子医療センターでは、超低出生体重児を含む未熟児の診療を中心に行っています。小児循環器の不整脈に関しては我が国では先駆者的な立場であり、心臓外科とはひとつのチームを形成して先天性心疾患の診療にも力を入れています。神経疾患の診療は急性脳症、難治性てんかん、神経免疫病の診療、さらには在宅を含めた障がい児医療を推進し、内分泌疾患の診療においても糖尿病の診療は全国でも屈指のレベルです。今後は、消化器疾患や遺伝疾患の診療も推進していきます。
 この二つの大学病院は、距離という物理的な問題を超え、必要であれば往来しあう協力体制を取ってきました。私も両病院で外来、カンファレンス、回診を行い、風通しの良い環境が保たれるように常に心がけています。さらに、神奈川県立こども医療センターとも外科疾患を中心に密接な連携体制を構築しています。

 横浜市内では、済生会横浜市南部病院、国立病院機構横浜医療センター、横浜労災病院、横浜市立みなと赤十字病院、済生会横浜市東部病院、昭和大学横浜市北部病院、横浜市立市民病院の 7 拠点病院が連携を組んで 24 時間 365 日の小児医療を展開しています。当教室では、昭和大学横浜市北部病院、横浜市民病院以外の 5 病院の殆どの小児科医を派遣し、診療と小児科専門医研修を行っています。また神奈川県域では、藤沢市民病院、小田原市立病院、大和市立病院、横須賀共済病院、県立足柄上病院などが同様の役割を果たしています。冒頭に述べましたように神奈川県は 910 万人の人口を誇りますが、当教室の連携病院を含む担当領域の人口は、300-400 万人規模と考えています。
 私たちの大学は法人化されていますが、横浜市の下にある"公立大学"です。したがって、横浜市、そして神奈川全域のみが守備範囲となります。それゆえ、大きな教室ではありますが、県外には連携病院がありません。地域医療を大切に、小児拠点病院を中心にして責任を果たすことが大切な役割です。また、そのうえで、私たちは一般小児科医であれ専門疾患の診療医であれ、同じ目標を持った仲間としてお互いを認めあい、協力しあうことをモットーとしています。

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5.私たちの小児科専門研修体制:教育第一主義

 小児科医という幸福な職業を選択して頂いた先生たちに、一人前のプロフェッショナルになって欲しいというのが私たちの願いです。
 教室に入る医師が過去10年間に勢いよく急増したため、当教室には若い医師が大変に多く、卒後教育は教室の最も重要なテーマの一つです。その一方、高度成長期の日本のように若者が沢山いるということは、活気にあふれ、人の数だけ可能性があり、未来の発展の約束ともいえます。当教室では、初期研修後に、全ての小児科医が持つべき基礎的な知識、技術を身に付けるための 3 年間の「小児科専門医研修(後期研修)」と、その先に、専門分野に特化した「小児科 subspecialty 専門医研修」を用意しています。3 年間の「小児科専門医研修」は、連携病院で 1 年もしくは 1.5 年間一般小児科の研修を行い、その後の半年間は大学で各人が希望する分野の subspecialty 研修(3 か月ずつ 2 分野)を行い、さらにその後は、1.5 年間または 1 年間は別の連携病院で一般研修を行います。
 2017 年度からは、少人数ですが神奈川県立こども医療センターでの短期 subspecialty 研修も選択可能になりました。2 つの大学病院で約半年間の研修を行う点が、私たちのプログラムの特徴であり、これにより subspecialty 分野で経験すべき疾患に予め触れることが可能となり、さらに将来の subspecialty を決める上でも参考になります。
 実はこの形式の研修は、当教室では 10 年以上前から開始されており、偶然にも 2017 年より実施される新専門医制度に、何一つ骨格を変更することなく対応可能な方式でした。私たちの研修方式は、ある意味時代を先取りしたものであったと言えるかもしれません。

 先代の横田俊平教授は、当直業務を有する連携病院において、小児科医と患者の集約化を実現しました。これは大変に画期的な事で「横浜モデル」と称されています。現在も連携病院の上層部の方々や横浜市の援助、さらに連携病院の小児科部長の皆様の努力により、24 時間の小児救急を行い地域の拠点となっている連携病院には、11~19 人の小児科医を配置しています。
 この集約化の教育的効果としては、1) 多数の症例を経験できる研修であること、2) 経験した疾患、症例について指導医から充分な指導が受けられる環境を提供すること、3) 心身ともに健康であるための適切な夜間の当直体制を実現すること、などが挙げられます。
 さらに、集約化により学会への参加や研究日の取得、育休や産休の取得、子育て中の時短勤務等も可能となりました。横浜および神奈川県内の地域医療に特化し、集約化体制を維持することが当教室の原理原則です。また、小児科医は社会の財産であり、教室員の皆が健康で幸福な人生を送れる事が、患者さんとその家族の幸福に結びつくと考えています。当教室がカバーする医療地域の広大さは、紹介疾患の多様性と患者数に反映され、より良い研修環境に結実しています。

 ところで、日本でも一部の地域では小児人口の減少に伴い、小児科専門研修中に充分な数の患者さんに接することが困難な場合もあるかも知れません。その場合、小児科専門医研修を横浜で行い、専門医取得後に出身地で地域小児医療に貢献するために、後期研修の 3 年間を当小児科医研修システムで過ごして頂く事も大歓迎です。また次の項で述べますが、3 年間の小児科専門研修を終えた後、subspecialty 領域の研修に進み活躍する道も開けています。また、そろそろ地元の神奈川・東京エリアに戻りたい、後期研修後に subspecialty 領域を勉強したいなどの理由を持つ、後期研修終了後の若手の先生方の教室への加入も歓迎いたします。

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6.小児科専門研修後のキャリアパス:ABC のスピリッツで専門性確立、研究へ

 計 3 年間の小児科専門医研修を終えると「日本小児科学会専門医試験」の受験が可能になります。当教室では専門医試験についても丁寧に指導しています。2017 年以降は小児科専門医の取得に際し、査読のある 1 編以上の筆頭論文のの提出が義務付けられますが、既にその指導も開始しました。
 専門医取得のために論文を書くことは大変なことですが、自らの経験を発信することは科学者としての医師の義務であり、論文作成に慣れるという観点からも良い制度だと思います。実は、論文と研究費は減らない貯金であり、長い目でみると必ず将来のキャリアの選択肢を増やします。若いうちから、論文化を心がけることが大切です。
 専門医の取得後は、連携病院での診療を継続する他に、subspecialty 領域をさらに深めるために、subspecialty グループに所属します。その後、小児病院(国立成育医療研究センター、神奈川県立こども医療センター、都立小児総合医療センター、埼玉県立小児医療センター、長野県立こども病院、静岡県立こども病院、あいち小児保健医療総合センター、兵庫県立こども病院など)での研修、基礎研究を目的とした国外への留学、大学院での研究生活、子育てのための勤務スタイル選択等、各々の人生や目標に適した選択が可能となっています。
 当教室が、2 つの大学病院をもち、その中で subspecialty を分けて配置している理由がいくつかあります。まず、大学に所属できる小児科医数を、他大学より多く設定することが許されます。その結果、ほぼ全領域におよぶ多彩な subspecialty のグループを大学病院に擁し、その上各グループに複数の医師を配置できています。

 また、研究に関しては、大学院への進学、研究生として非常勤で大学に所属、国内海外留学、大学勤務時の空き時間に行うなどの方法があります。海外留学施設として、カナダ・トロント小児病院 (Hospital for Sick Children) 、シンシナティ小児病院、ミシガン小児病院、ノースカロライナ州立大学チャペル・ヒル校ラインバーガー免疫・癌研究所、カリフォルニア州立大学サンデイエゴ校などで研究を行う道も開かれています。
 さらに、横浜市立大学の学内には、世界的にも優れた基礎研究を行っている教室が多数あります。実際、それが高く評価され、本学は 5000 人以下の小規模大学で世界 16 位の評価を頂き、それは日本の大学では 2 番目に位置しました。それらの諸教室との共同研究も積極的に推進し、大学院生の派遣なども行っています。また、平成 24 年度には神奈川県立こども医療センター研究所と横浜市立大学が「連携大学院」の提携を結びましたが、平成 27 年には国立成育医療研究センターも同様に「連携大学院」になりました。これらの小児病院から当教室の大学院生となる人も増えてきました。令和 3 年にはあいち小児保健医療総合センターとも連携大学院協定を締結しました。
 若手の先生方にはこれらのチャンスを積極的に活用して、疾患の病因・病態解明、新規検査法や治療法の開発、そしてそれらの論文化を通じ、わが国の小児医療を推進する担い手となって頂きたいと願っています。医師になってからの 10 年間にどの様な研修をし、どの様な症例を経験し、どの様な人に会うかで、その後の医師としての可能性とキャリアパスがは大きく変わります。そのために、私たちは若い先生方のために、初めの 10 年間に最適な環境を提供できるように、「教育・キャリアパス部会」を設立しています。
 「教育・キャリアパス部会」は、教室の運営部と教室内の若手・中堅医師を含む複数名で構成されでいます。国内および海外留学、専門医取得のための論文指導などを行っています。さらに、当教室では留学の機会の公平性を維持するために、「教育・キャリアパス部会」で留学順位を決定しています。成長のための挑戦の機会は平等であるべきですし、専門性の違いがあってもお互い同じ小児科医であると考えるからです。そして、若手の先生方には、次の「ABC」の姿勢で、前進して頂きたいと思っています。
 A: ambition, B: borderlessness, C: challenge、つまり、大志を持ち、様々な制約や境界線を乗り越え、常に挑戦を続けるという事です。

 さらに、チームとして共同して仕事をしてゆく為に、もう一つの「ABC(DE)」も忘れないで頂きたいと思います。A: appreciation, B: balance, C: communication, D: dedication, E: engagement、です。

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7.子育てをする女性医師のために私たちができる事:働くかっこいいお母さん

 私たちの教室ではここ数年、入局する医師の男女比は均等となりました。今後もこの傾向は続くことでしょう。アメリカでは小児科の女性医師の比率はすでに 60% を超えています。
 私たちは、子育て中の女性医師が、診療技術やキャリアを保ち、「仕事と子育てを両立する、かっこいいお母さん医師」の実現のために努力しています。容易に想像できることですが、女性医師の多くにとって、結婚し、妊娠、出産を経て、いざ子育てとなると、家庭と医療の両立がかなり難しくなります。しかし、女性医師は子育ての経験を通じて、より患児やその母親の気持ちに寄り添うことが可能になり、患児の母親からの共感や信頼が増し、仕事は充実したものになります。妊娠・出産・子育ての経験がキャリアとして最も生かされる診療科は、言うまでもなく小児科です。しかし、一旦仕事を辞めてしまい家庭に入り、1 年、2 年と過ごすうちに、通常の小児科診療への復帰は難しくなることは、これまでの経験が示しています。配偶者の協力が少ない場合、親が近くに住んでいない場合、病児を含む保育所がない場合などは、当直業務のある診療への復帰はさらに困難になります。そして、その期間が長くなるにつれ、体力的にも実力的にも自信がなくなり、フルに復帰することがさらに困難となる悪循環に陥ります。
 一人前の医師を養成するための社会からの投資や、子育てが一段落した後の女性医師の人生設計を考えると、子育てしながらでも診療技術を落とさない事、自信を失くさない事が肝要です。小児科医になろうと決めた日の情熱と決意を忘れてほしくないというのが、私たちの想いです。そのためには、早めに小児科専門医を取得し、さらに自分の subspecialty も早めに決定しておくことが良いでしょう。子育て前に臨床医としての貯金があることは、復帰をより容易にしますし、subspecialty が確立していれば、セールスポイントになり、専門外来を必要とする連携病院でも大事にされます。

 また、現実的な話ですが、子育てはとてもお金がかかります。子どもが小さいうちに養育費を貯め、同時に自立できる小児科医になっておくことは、実は賢明なのです。また、日本の財政状況を考えると、社会保障のある病院で働き、年金と貯蓄を用意しておくことも、老後に子供たちに苦労をかけないように、という親心ではないでしょうか。育児、家事をしながらの勤務は大変ですが、産休中も子育て中も、週のうち何日かでも、診療を継続することが大切です。同時に子育て中の同期を含む他の小児科医との接触を保ち、小児医療の新たな変化をや情報に身を投じることも、プロフェッショナルとしてモチベーションの維持するためには必要です。

 私たちの教室は、「ワークライフバランス部会」を立ち上げ、子育て女性医師の適切な勤務環境の創出、キャリアパスの維持と形成に取り組んでいます。例として、連携病院における当直のない時短業務、大学からの医師派遣による当直回数の軽減、保育園のある職場の提供、ワーク・シェアリング、大学の専門外来、同門会を中心とした開業小児科医や入院部門のない準公的病院小児科の外来診療、横浜市の乳幼児健診業務、同門会小児科開業医の病児保育施設の利用など、様々なオプションを提供しています。さらに、横浜市や厚生労働省などの行政での仕事も斡旋可能です。また、妊娠中から産後の仕事の計画を相談することも始めています。これらの対策において、もちろん、男性医師の子育て参加、女性医師の当直を肩代わりする、その他の医師の負担軽減も重要な案件です。
 この様な努力は地道で、様々な困難を伴いますが、現在では時短や常勤で社会保障のある立場で働く、子育て中の女性医師が半分以上になり、日当直を含め常勤で仕事をしている女性医師も 1/3 以上になりました。さらに、当教室では連携病院のうち 3 施設において、女性医師が部長を務め、専門グループも 2 グループ(2015 年までは 3 グループ)のリーダーが女性医師です。多くの先輩女性医師をロールモデルとして、チャレンジしてもらうことが私たちの理想です。

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8.当教室へのお誘い:私たちの仲間に入りませんか?

 臨床研修制度必修化後は、出身校外での初期研修が激増し、後期研修も同様の傾向となっています。実践的な臨床教育を理念に掲げる、大学病院以外の民間を主体とする大規模病院が人気であり、若い医師が成長の機会と刺激を求めていることは明白です。
 しかし、長い目で見れば、自らの力でその後の発展的進路を開拓し続けることは、時に困難を伴います。米国と違い、地域の大規模病院の小児科や小児病院の主要ポストを、独力で獲得することは容易ではありません。これは、私がこれまでに成育医療研究センターを含む 3 つの小児病院で働いてみて実際に感じたことです。

 一方で、わが国において長きにわたり主流とされてきた教室制度は、もしそれが民主的で透明性が高い運営形態であれば、実は今なお様々な「利点や美点」が残されていると思います。それは、1) 職業・経済面での安定の保証、2) 持続的な教育と成長の機会(研究を含む)の提供、3) 連帯感・仲間意識(顔が見える病診連携、産休・育休援助等)です。とくに、2), 3) については、医学が過去にないほどの勢いで進歩する昨今、私達プロフェッショナルは、その進歩に追いつくべく日夜努力し、成長し続ける必要があります。同じ専門領域に興味身を抱く、ロールモデルとなる先輩、切磋琢磨すべき同期、やる気に満ちた後輩などに囲まれ、チームとして診療・研究にいて精進し続けることは悪くないものです。

 ところで、教室規約にも掲載されていますが、当教室の運営スタイルは、他の多くの大学とやや異なっています。基本的に連携病院を主とする教室人事は、連携病院や市民総合医療センター部長、教室長、教授などを含む複数メンバーで構成される「人事部会」で、調査票により集められた教室員の希望に配慮し決定する方法をとっています。また、留学、専門医についても「教育・キャリアパス部会」により、公平かつ戦略的に優先順位が決定されます。また、産休・育休・子育てしながらのキャリアパス形成のためには、「ワークライフバランス部会」が設立されています。冒頭に掲げた理念に基づき、様々な重要な事項が、各部会でオープンに話し合われ、運営方針が決定されています。当教室を大切に思ってくれる多くの教室員に支えられた運営が、当教室の特色であり、私は、皆に常に感謝しています。

 横浜は、開港してわずか 150 年余の町です。開港前は、白い砂浜に青い松原が広がる小さな漁村でした。開港後、そこに全国から多くの人々が成功を夢見て集まり、街は次第に大きく発展しました。そのため、横浜という街は外から訪れる人たちにとても寛容であり、その気風は本学の校風、そして当教室の美点としても代々受け継がれています。当教室にも、全国津々浦々から人々が集い、出身大学は、北は旭川医大から南は琉球大まで、その数は 53 校にもおよびます。また、過去 10 年の入局者の 87% が横浜市大以外の出身です。一つの教室に、日本の医学部の約 2/3 の大学の出身者がいるという事は、多様性、個性、独自性を大切にする私たちにとって、大変に誇らしい数字です。私たちは、「安心感や帰属感のもと、個人と教室の両方が継続的に成長・発展するための環境を創造する。教室員の安定と幸福が、患児と家族の幸福、病院さらに社会の利益に帰結する」という教室の理念に賛同し、一緒に働いてくださる方をお待ちしています。
 あなたも当教室の仲間になりませんか。ご連絡お待ちしています。

(2014 年 11 月 1.0 初版, 2016 年 5 月 1.1 版, 2021 年 4 月 1.2 版)

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