小児リウマチ性疾患(膠原病)の解説
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1) 若年性特発性関節炎(JIA)若年性特発性関節炎にはいくつかの病型(タイプ)がありますが、「全身型JIA」「関節型JIA」のいずれかに分類される患者さんがほとんどです。いずれも関節の炎症を来たすことからJIAという共通の病名が用いられていますが、この二つのタイプは病態が異なると考えられるため、適切な治療を決定するためには正確に診断することが重要です。JIAは小児リウマチ性疾患の中で最も多い疾患です。
1. 全身型JIA
発熱(上がり下がりを繰り返す)、発疹、関節の腫れや痛み、リンパ節の腫れが主な症状です。小児で熱が出る病気として最も多い感染症や、免疫・炎症に関連する他の疾患でも同様の症状がみられることがありますので、確定診断にはこれらの可能性をしっかり否定することが必要です。現在、当院では約100名の患者さんが治療を受けており、日本で最も患者数の多い治療経験が豊富な施設の一つです。
全身型JIAへの初期治療としては、ステロイドによる治療を行います。冒頭の症状や血液検査で炎症が収まった後に、ステロイドを減量し、最終的には中止を目指します。しかし、ステロイドの減量や中止により再発する場合、あるいは生命に関わる合併症であるマクロファージ活性化症候群(MAS)を合併する場合は、炎症の原因物質であるインターロイキン6 (IL-6)を阻害して炎症を抑える生物学的製剤であるトシリズマブを選択します。約半数の患者さんはトシリズマブ(アクテムラ)の治療を必要とします。当院は全身型JIAへのトシリズマブ(アクテムラ)の治験を主導した施設であり、現在も多数の患者さんが日帰りのトシリズマブ療法を行っています。
全身型JIAは発症約10年で70~80%の患者さんが完治します。しかし中には関節症状のみが長く持続する難治性の患者さんが20-30%存在します。このような患者さんにおいては、関節に障害を残す可能性があるため、メトトレキセート(メトレート、リウマトレックス)やタクロリムス(プログラフ)などの薬剤を追加する必要があります。
また当院は難治性全身型JIAの患者さんに対する新規治療薬(カナキヌマブ)の治験を行っております。
2. 関節型JIA
関節症状が主症状のJIAです。炎症を起こす関節の数によって、多関節型JIA (関節炎が5関節以上)と少関節型JIA (関節炎が5関節未満)に分類されます。当院では関節型JIAも、約100名の患者さんが治療を受けており、日本で最も患者数の多い治療経験が豊富な施設の一つです。
関節型JIAの治療においては、速やかに関節の炎症を抑える事が重要です。関節炎が持続すると、軟骨・骨などの破壊が進行し、やがて関節の可動域制限(曲げ伸ばしが困難になる)や慢性的な痛みを残すことに繋がります。このため、速やかに関節の炎症を可能な限り抑える必要があります。関節型JIAへの初期治療は、ステロイド薬による炎症の鎮静化と維持療法としてのメトトレキサートを組み合わせた治療を行います。
しかし、関節症状や炎症が持続する場合には、成人の関節リウマチと同様に関節機能の維持のために積極的に炎症の原因物質のサイトカインをブロックするための生物学的製剤を導入します。JIAに対してはエタネルセプト(エンブレル)、アダリムマブ(ヒュミラ)、トシリズマブ(アクテムラ)などの生物学的製剤が保険適応となっています。過去10年の生物学的製剤の導入により、関節機能に後遺症を残す患者さんは劇的に減少しました。しかし、生物学的製剤には感染症などの副作用もあるため、治療経験が豊富な専門医が診療することが重要です。多関節型でリウマチ因子と抗CCP抗体が陽性の患者さんでは、70-80%の患者さんが発症10年後も何らかの治療を必要とし、そのため生物学的製剤が必要となる患者が多いとされています。一方、リウマチ因子と抗CCP抗体を持たない多関節型あるいは少関節型JIAの患者さんでは発症10年後に半分以上の患者さんが完治し治療が不要となります。
近年になり診察や血液検査では分からない程度の軽い関節炎でも、長期的には関節の破壊に繋がることが分かってきました。当院では、軽度の関節炎を関節エコーやMRIで評価し適切な治療を選択しています。さらに、必要に応じて、整形外科やリハビリテーション科とも協力して診療を行っています。また少関節型の一部では虹彩炎・ぶどう膜炎などの眼内の炎症を起こすことがあり、その場合は眼科的治療を必要とします。
2015年5月現在、当科では難治性全身型JIA、MTX効果不十分の難治性JIAを対象とした生物学的製剤(アバタセプト)の治験に参加しています。
SLEは全身のさまざまな臓器、特に皮膚、粘膜、関節、血液、腎臓、脳神経など様々な臓器に障害をもたらす、慢性の経過をとる自己免疫疾患です。思春期から中年の女性に多い疾患です。本来は体内に侵入してきた細菌、ウイルス、真菌などの敵を排除するために働く免疫反応に異常が生じ、自分の細胞やタンパク質を誤って攻撃してしまうことを自己免疫反応と言います。SLEにおいては、自分の細胞の核や遺伝子の主な成分であるDNAを攻撃する「抗DNA抗体」を作ってしまい、自分の細胞が傷害されてしまう自己免疫反応を生じます。
皮膚や粘膜症状はよくみられ、様々な発疹が出現します。光線過敏症、鼻や口の内側の粘膜の潰瘍なども認めます。この病気に典型的な蝶形紅斑は鼻と両側の頬をつなぐ発疹で3分の1の患児にみられます。また頭髪の脱毛、寒くなるとの血の巡りが悪化し冷たくなるレイノー徴候、関節炎、筋肉痛、貧血、血小板減少、リンパ球減少、頭痛、けいれん、腸炎、肺出血、胸膜炎、心膜炎など実に多彩な症状を示します。SLEでもっとも問題となる臓器病変は、ループス腎炎と呼ばれる腎炎により腎臓の機能が障害されることです。腎炎の程度を評価することは、治療方針を決定する上で最も重要です。そのために腎生検を実施しますが、当大学では年間60人以上の小児に腎生検を実施しており極めて経験豊富です(ループス腎炎以外の腎炎・ネフローゼを含む)。腎生検は市民総合医療センターの腎臓グループと連携して実施しています。
SLEは1980年代半ばまでは発症5年間で半数近くの患者様が亡くなっていましたが、現在ではステロイドに免疫抑制薬(シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、タクロリムス)を上手に加えて治療することにより、死亡するあるいは重大な後遺症を残す患者さんは大幅に減少し、かつ小児において治療上の問題となるステロイド薬の投与量や副作用も減らすことが可能となりました。その結果、多くの子供たちが投薬のみで、普通の学校生活を送る事が可能となってきましたが、なかには極めて重症な経過をとる患者さんもいます。当科では難治性SLEに対して、種々の免疫抑制薬に加え、血漿交換療法、リツキシマブ療法等の先進的な治療が可能です。SLEの治療において最も重要なことは、発症早期の適切な臓器病変の評価と初期の強力かつ適切な治療です。当科は日本でも有数の小児SLEの診療実績を誇ります。初発、難治例ともにご相談下さい。
病名が示す通り、皮膚、筋肉を中心とした症状が現れる自己免疫疾患です。皮疹は、まぶた、頬部、体幹、手足や指の関節の伸側に見られます。また、筋肉の炎症(筋炎)が起こると、筋肉痛が生じ、やがて疲れやすさや筋力低下に進展し、歩行が困難になり起き上がることができなくなる事もあります。また、握力や腕の力の低下、飲み込み困難などの症状も来たします。一部の患者さんでは生命にかかわる難治性の肺炎(間質性肺炎)を合併します。
初期から強力かつ適切な治療を行わないと、筋力が回復せず障害を残したり、筋肉を包む筋膜や皮下脂肪にも炎症が生じ、皮下に石灰化(カルシウム結節)を作り、その部位の皮膚に潰瘍を作る場合もあります。
JDMでは患者さんによって症状が様々に異なることが知られていましたが、その理由は不明でした。近年、患者さんから検出される自己抗体(自分の臓器・組織に反応する免疫物質)と症状に関連があることが判明してきました。このため当科では、診断時に全身の精査を行うとともに、特殊なタイプも含め可能な限り自己抗体を調べ、炎症が起きている臓器・組織を把握し、重症度を評価し、治療に反映させています。
治療は、ステロイドと免疫抑制薬を併用しますが、重症度に応じて使用する免疫抑制薬〔シクロホスファミド(エンドキサン)、アザチオプリン(イムラン)、メトトレキセート(メトレート、リウマトレックス )を適切に選択し、ステロイドの副作用を少なくする治療を心がけています。JDMは適切に治療を行えば治療が不要になり完治することもあります。
高安動脈炎は大動脈炎症候群とも呼ばれています。日本の眼科医の高安右人先生が発見した疾患ですが、日本のみならず世界中に患者さんがいます。高安動脈炎は大動脈とそこから分かれた太い動脈に炎症が起こる(血管炎)疾患で原因は不明です。本症で問題となることは、血管炎により動脈の拡張(動脈瘤を含む)、狭窄(細くなること)や閉塞が生じることです。また、10~30歳代の若い女性(男女比1:9)に多い傾向があり、さらに白血球の血液型とも言えるHLAがB52という型を持っている人が罹患しやすいことがわかっています。また、潰瘍性大腸炎、強直性脊椎炎、慢性骨髄炎、壊疽性膿皮症などの膠原病・リウマチ性疾患を合併することがあります。
主症状は全身症状と血管症状に分けられます。全身症状としては、発熱、全身倦怠感、体重減少、関節痛、貧血、頭痛、高血圧などです。血管症状としては、障害される血管の部位に関連した症状が出ます。頸動脈に病変を生じると頭部への血流が低下し、頸部痛、めまい、視力低下、耳鳴りなどを生じます。大動脈に病変を生じると胸痛を生じ、手足に行く動脈に病変を生じると腕の痛み、腕のだるさ、手首の脈が触れない(別名で脈なし病と呼ばれる所以です)、歩行時の足のだるさや痛みなどを呈します。また腎動脈に病変を生じると高血圧や時には高血圧性脳症やけいれんをきたします。
小児では頻度が少ないこともあり、診断まで時間がかかることが殆どで、診断時には既に動脈の狭窄や閉塞を来していることも少なくありません。また、一度細くなった動脈は元に戻らないことも多く、全身症状や初期の血管症状から本症を疑い早期に診断し強力に治療を開始することが重要です。
診断には造影CT、造影MRI、超音波検査などで血管の細さを評価し、PET検査で実際に炎症がある血管部位を可視化します。かつては造影剤を用いた血管造影で診断されていましたが、近年では一部の患者にのみ実施されています。PET検査の保険適応はがんの診断などに限られていますが、実は炎症部位を特定するには優れた検査です。当科では附属病院先進医療推進センターの承認を得て研究として実施しており、本症の診断への利用が可能となっています。
治療の中心は副腎皮質ステロイド薬に加え、当科ではメトトレキサート(メトレート、リウマトレックス)、アザチオプリン(イムラン)、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)、あるいはシクロフォスファミドパルス療法(エンドキサン)などを積極的に併用し、早期の炎症の沈静化と再発の防止、さらにステロイド薬の減量に努めています。しかしながら、前述のHLA B52を持つ患児などにおいては、これらの治療が無効な事もあります。そのため、現在では難治性患者さんに若年性特発性関節炎や成人の関節リウマチにも保険適応がある、IL-6受容体阻害薬であるトシリズマブ(アクテムラ)の治験が実施されており、小児科で参加しているのは当科を含め国内で3施設のみです。本症は、動脈に後遺症が残る前の積極的な治療介入が欠かせない疾患です。該当する症状がある方、あるいはすでに診断されている方でも、私たちにご相談ください。
約20年前に提唱された比較的新しい疾患概念です。特徴的な症状は周期的な発熱ですが、他にも発疹、眼症状(結膜炎やぶどう膜炎など)、関節炎(関節の痛みや腫れ)・筋痛、胸部症状(胸痛)や腹部症状(腹痛・嘔吐・下痢など)、疾患毎に非常に多様な症状を引き起こします。発熱パターンは数時間で自然に消失する疾患もあれば、7日以上持続する疾患もあります。しかし、患者さんの多くは、確定診断まで何年も要することが多く、それまでに多数の医療機関で、繰り返す熱に対して感染症や原因不明などと診断されていることが少なくありません。診断にあたり、はじめに感染症やその他のリウマチ疾患や自己免疫疾患を否定することが必要ですが、最終的な確定診断には遺伝子検査が必要となります。当科は国内の複数の遺伝子診断を行っている研究施設と連携し診療を行っています。
現在、当科では自己炎症症候群で最も多くみられるPFAPA症候群のほか、家族性地中海熱(FMF)、TNF受容体関連周期性発熱症候群(TRAPS)、高IgD症候群(メバロン酸キナーゼ欠損症ともいいます)、クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)等の患者さんの診断や新規治療法の治験を含む治療を実施しており、診療実績は豊富です。疾患ごとに有効な薬剤は異なりますが、ステロイド、コルヒチン、シメチジンといった薬剤に加え、現在CAPSに対しては、IL-1β(炎症がおこると体内で大量に産生される炎症性サイトカインの1つ)の作用を抑える生物学的製剤であるカナキヌマブの適応が認められています。
抗生物質が無効で原因不明の規則的な発熱や皮疹を繰り返す、ご家族や血縁者にも同様の症状がみられるなど、該当する患者さんがおりましたら、ぜひ私たちにご相談ください。
線維筋痛症 (FM)は腱、筋肉、関節などの様々な部位に慢性の痛みやこわばりを来す疾患です。患者は人口の1-2%にも及ぶという報告もあり、成人に多い疾患ですが、小児でも少なくありません。診断は定められた全身18か所の圧痛点のうち11か所以上に痛みある事で診断します。また、診断に際し、血液や画像検査に異常がなく、リウマチ・膠原病を含む他の痛みを症状とする病気を否定することが大切です。
FMの原因は今なお不明ですが、感染、外傷、手術、その他の病気、ストレスなどをきっかけに、末梢神経から脳に痛みを伝える神経経路が過剰興奮(車のアクセルの踏み込み状態)を起こす、あるいは痛みを認識した脳が痛みの感じ方を少なくするための信号を送る脳から末梢神経への神経経路の機能低下により(ブレーキの効かない状態)、本来の痛みをさらに強い痛みとして感じてしまうことが原因と推定されています。また、過敏性大腸炎(腹痛、下痢、便秘)、頭痛、めまいや立ちくらみ、音や臭いへの過敏、頻尿、眼や口の乾燥感、疲労感などの様々な自律神経の異常も多くみられます。多くの患者さんは、診断確定までに沢山の医師の診察を受けるものの、小児科医の認知が低い疾患であり、精神的な原因などと誤診され不登校に陥るお子さんもしばしいます。
当科では10年ほど前から若年性線維筋痛症の患児の診断治療に携わっており、治療に当たっては、疾患について正しく理解すること、関節や筋肉に後遺症を残す心配はないこと、適切に治療を行えば完治するお子さんが多いこと、痛みがあっても学校や好きな事が出来るようになること、保護者が痛みを受容し患児をサポートすることを目標に診療しています。治療は、薬物療法(ノイロトロピン、リリカ、アザルフィジン、鎮痛薬など)を軸に、リハビリテーション、環境調整、心理療法、睡眠障害の改善、自律神経症状への対症療法などを組み合わせた総合的なケアに取り組んでいます。