医学会講演会



平成23年度 横浜市立大学医学会講演会


回数 演者 演題 期日
 1
(163)
大西 佳彦 先生
国立循環器病研究センター
中央診療部門長   
心不全患者の周術期管理:
 心移植やLVAS(左室補助装置)を中心にして
 ⇒ 内容要旨
2011/6/26
 2
(164)
萩原 聡 先生
大分大学医学部
麻酔科学講座 講師 
全身性炎症反応症候群に対する
   基礎的結果から見た治療戦略
-強化インシュリン療法・抗凝固薬の重症病態に
おける役割と抗酸化剤の新たな可能性-
 ⇒ 内容要旨
2011/7/14 
 3
(165)
南嶋 洋司 先生
慶應義塾大学医学部
医化学 講師
低酸素応答が生体に与える影響
  ~その功罪について~
 ⇒ 内容要旨
2011/7/15
 4
(166)
宮本 浩 先生
Department of Pathology & Laboratory Medicine, Surgical Pathology Unit/Genitourinary Pathology Section,
University of Rochester Medical Center
尿路上皮腫瘍の病理組織学的分類:
WHO/ISUP classification vs. 新・癌取扱い規約
 ⇒ 内容要旨
2011/10/26
5
 (167)
小森 哲夫 先生
国立病院機構箱根病院 病院長
役立てよう,深めよう,末梢神経伝導検査
 ⇒ 内容要旨
2011/12/20
6
(168)
田畑 泰彦 先生
京都大学再生医科学研究所
生体組織工学研究部門
生体材料学分野 教授
バイオマテリアルを用いた再生治療 2012/3/12



第163回横浜市立大学医学会講演会
演題 心不全患者の周術期管理
 -心移植やLVAS(左室補助装置)を中心にして-
演者 大西 佳彦 先生
国立循環器病研究センター 中央診療部門長   
要旨  心臓外科手術を受ける患者の中には,重症心不全患者がいまだ多数見られる.特に,国立循環器病研究センターでは,本学では行っていない,心移植や左室補助装置(LVAS)を装着した患者が多く手術を受けている.今回はそれらの患者の周術期管理を中心とし,国立循環器病研究センターでの周術期管理や手術室運営についてご紹介いただいた.
 心不全患者の麻酔管理では,かつてはβ刺激剤やフォスフォジエステラーゼ阻害薬などの強心剤が多く使われたが,最近では,冠動脈灌流圧を確保することを重視し,ノルアドレナリンなど体血管抵抗を上げる薬剤が多く使われるようになってきている.また,経食道心エコーの役割が大きい.国立循環器病研究センターでは,三次元(3D)経食道心エコーを複数台持ち,局所心筋の運動や弁の評価に積極的に使用しているとのことであった.
 また人工心臓やLVASの開発は,これまで国立循環器病研究センターが日本を引っ張ってきた歴史がある.今回の講演では歴代用いられた各種人工心臓やLVASが紹介された.最初のものは駆動部分が大型なため持ち運びが出来ず,患者はベッドにしばりつけの状態になっていたが,最近のものはかなり小型化され,患者が歩けるようになっている.また生存率もあがっている.
 本学附属病院でも要望が非常に高い,手術室と透視室を組み合わせたハイブリッド手術室についても紹介された.大動脈弁置換を透視下で行うなど,先進医療を担う医療機関としては,是非必要な施設であることが認識できた. (文責 後藤隆久)
主催 横浜市立大学医学会、麻酔科学教室
「横浜医学」62巻4号より転載
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第164回横浜市立大学医学会講演会
演題 全身性炎症反応症候群に対する基礎的結果から見た治療戦略
 -強化インシュリン療法・抗凝固薬の重症病態における役割と抗酸化剤の新たな可能性-
演者 萩原 聡 先生
大分大学医学部 麻酔科学講座 講師 
要旨 以下の3つのテーマについて講演があった,
  1. 強化インスリン療法:ラットに実験的に高血糖を作成し,同時にグラム陰性菌のエンドトキシン(LPS)を注入すると炎症性サイトカインやHMGB1が上昇し,心機能が低下,肺傷害が増加するが,これにインスリンを投与して血糖を降下させると,これらの悪影響が軽減される.
  2. 抗凝固薬と炎症:実験動物にLPSを投与して発生する傷害に対して,同時にアンチトロンビン-III を投与すると血中のHMGB1が低下,肺のHMGB1陽性細胞が減少,p42のリン酸化が低下し,肺傷害が軽減される.ただし質疑応答で議論されたように,これらの作用が微小血栓の予防により二次的に起きた事かアンチトロンビン-IIIの直接作用かは不明である.
  3. 抗酸化剤が肺傷害を軽減する:抗酸化剤であるE-Ant-S-GSばマウスの腹膜炎(CLP)モデルでの解析で,細胞内シグナリングに関与するMAPキナーゼのリン酸化を抑え,肺傷害を抑えることが示された.
これらの知見から,将来的には新たなDAMPsの発見・解析とその調節による治療薬の発見が期待される.
(文責 倉橋清泰)
主催 横浜市立大学医学会、附属市民総合医療センター、麻酔科
「横浜医学」62巻4号より転載
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第165回横浜市立大学医学会講演会
演題 低酸素応答が生体に与える影響 ~その功罪について~
演者 南嶋 洋司 先生
慶應義塾大学医学部 医化学 講師
要旨  さる平成23年7月15日に横浜医学会のご援助のもと,慶應義塾大学医学部講師・南嶋洋司先生をお招きし,講演会を行いました.
 後生動物には,利用できる酸素が限られた環境(低酸素環境)においても生き延びることが出来るような“対低酸素防御システム"が備わっていますが,ひとたび低酸素環境に暴露されると,その限られた酸素を全身の細胞に効率よく運搬するために“低酸素モード"へと切り替わります.本セミナーにおいて南嶋先生は,低酸素環境による造血系・血管系における影響や,自身が作製した低酸素モデルマウスを用いた個体レベルの解析まで幅広い知見をご紹介されました.“対低酸素防御システム(低酸素応答)"は本来生体に有利に働くべきものですが,実際にはこの低酸素応答が遷延すると,心筋の変性や耐糖能異常などの有害な生体反応が観察されました.一方で,短期の低酸素状態は冠動脈狭窄による心筋壊死を顕著に低下させるなどのプラスの効果も認められました.これら低酸素応答の功罪について,個体レベルでの疾患に結びつけて大変興味深い講演をしていただきました.講演後には微生物学,免疫学,皮膚科学および泌尿器科学所属の教員や学生から多くの質問が出され,有意義なデイスカッシヨンが行われました.
(文責 梁 明秀)
主催 横浜市立大学医学会、微生物学教室
「横浜医学」62巻4号より転載
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第166回横浜市立大学医学会講演会
演題 尿路上皮腫瘍の病理組織学的分類:
WHO/ISUP classification vs 新・癌取り扱い規約
演者 宮本 浩 先生
Department of Pathology & Laboratory Medicine,
Surgical Pathology Unit/Genitourinary Pathology Section,
University of Rochester Medical Center
要旨  宮本浩先生は本学63年卒で,最初泌尿器科医として研鑽を積んだ後米国で病理学のトレーニングを積み,米国で病理専門医の資格を取得された病理学者であり,現在泌尿器病理学を専門として米国Rochester University で活躍されている.本講演では専門とされる尿路上皮腫瘍の病理組織診断についてWHO(World, Health Organization)/ISUP(International Society of Urological Pathology)classification system(2003年改訂,2004年発行)と最近改訂された我が国の「腎盂・尿管・膀胱癌取り扱い規約」病理組織分類を比較して概説された.特に,病理医間で違いの大きい異型度の診断基準や,異なる異型度が混在する症例の異型度分類基準について概説された.尿路上皮癌の異型度はWHO/ISUP 分類では2段階(Low-grade,High-grade)であり,low grade urothelial carcinoma とpapillomaの中間にPUNLMP(Papillary Urothelial Neoplasmof Low Malignant Potential)が記載されている.最近改訂された我が国の「腎盂・尿管・膀胱癌取り扱い規約」病理組織分類においてもWHO/ISUP 分類に倣い異型度分類が2段階に変更され,PUMLMP も記載されるようになったが,完全に同一というわけではない.その点を中心に再発・進展に関するデータを示した上で両者の比較を講演された.病理医・泌尿器科医にとり大変有益な講演だった. (文責青木一郎)
主催 横浜市立大学医学会、分子病理学教室,病態病理学教室,附属病院病理部
「横浜医学」63巻2号より転載
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第167回横浜市立大学医学会講演会
演題 役立てよう,深めよう,末梢神経伝導検査
演者 小森 哲夫 先生
国立病院機構箱根病院病院長
要旨  末梢神経伝導検査は様々な神経疾患の診断をするうえで必須の検査の一つである.簡便に行うことが出来るが,意外とその技術は奥深く,検査結果の解釈も難を要することが多い.今回は筋電図のエキスパートであり,日本神経学会や日本臨床神経生理学会でのセミナーでもおなじみの小森哲夫先生にお越しいただき,末梢神経伝導検査の原理・基礎から応用まで御講演していただいた.神経線維の伝導性を規定する因子は軸索径,絞輪間距離,髄鞘の厚さ,温度である.軸索径と髄鞘の厚さには最適な関係がある.軸索障害で軸索径が細くなることでも伝導速度は低下する.温度に関しては,29~38度までは伝導速度と直線的な関係がある.したがって検査時は体温の測定を行う.伝導速度は軸索が太いほど早く,人の感覚神経線維では速度(m/s)=5.7×軸索径(μm)といわれている.この5.7はscaling factor と呼ばれる.軸索径が太いほどランビエ絞輪間距離が長く,これもscaling factor に影響している.Conduction block(CB)が起こると,CB のない神経線維のみの電位が伝わり,振幅が低下する.神経幹内でCB のみが起こった場合はtemporal dispersion の増大はない.
 神経の多点刺激法により支配筋のMUNE(Motor UnitNumber Estimation;運動単位数推定)を行うことができる.これを用いると,例えばCMAP が保たれているがMUNE が低下している場合は慢性的な神経障害(SBMA,頸椎症,腰椎症,CIDP など)を示唆する,など臨床応用ができる.
 以上の講演後,出席者との質疑応答があり盛況のうちに終了した. (文責上田直久) 
主催 横浜市立大学医学会、神経内科学・脳卒中医学教室
「横浜医学」63巻2号より転載
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