医学会講演会



平成20年度 横浜市立大学医学会講演会


回数 演者 演題 期日
 1
(144)
上地 正実先生
日本大学生物資源科学部
獣医学科獣医内科学研究室
准教授
動物モデルにおける循環器疾患の薬物療法と心臓外科手術
 ⇒ 内容要旨
2008/5/29
 2
(145)
矢島 鉄也先生
厚生労働省大臣官房厚生科学課
課長
これからの厚生労働科学研究事業の方向性
 ⇒ 内容要旨
2008/8/9
 3
(146)
Prof. Emilio Hideyuki Moriguchi
Federal University of Rio Grande do Sul
Graduate Course in Cardiology
ブラジルにおける生活習慣病対策
 −150万人日系移住者の健康課題− 
 ⇒ 内容要旨
2009/2/13
 4
(147)
 Prof. Norman Sartorius
ジョンズ・ホプキンス大学
公衆衛生名誉教授
WHO精神衛生部門元代表
 「診断にみる精神医学の今昔」
 −ICD10からICD11へ−
 ⇒ 内容要旨
2009/2/19 



第144回横浜市立大学医学会講演会
演題 動物モデルにおける循環器疾患の薬物療法と心臓外科手術
演者 上地 正実先生
日本大学生物資源科学部獣医学科 獣医内科学研究室 准教授
要旨  僧帽弁閉鎖不全症は、獣医領域で最も一般的に認められる循環器疾患である。犬における僧帽弁閉鎖不全症の罹患率は年齢や品種に関連があり、高齢の小型犬での発症が多い。急性あるいは増悪期の重度僧帽弁閉鎖不全では、血管拡張薬、利尿剤、強心剤、酸素吸入による維持を試みるが、臨床徴候が極度に悪化する症例もある。内科療法では、約80%の症例が心不全発症時から500日前後で亡くなることが明らかとなった。現在のところ僧帽弁閉鎖不全症の治療は内科的な対症療法が中心となっているが、重度の僧帽弁閉鎖不全症の根治療法として心臓外科の役割は重要になってきている。
 犬における僧帽弁形成術の72時間生存率は98%である。術中に亡くなった症例は、出血や肺機能の悪化による人工心肺離脱困難例が経験されている。術後72時間以降の合併症としては血栓症あるいは膵炎が多い。特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルにおいては、左房内血栓形成の発生が多い傾向にある。血栓塞栓症では、脳梗塞が1 例、肺塞栓が疑われる症例が1 例、心筋梗塞が疑われる症例を1 例経験している。合併症のない症例においては、 術後1 週間で退院し、1ヵ月後に循環器薬が休薬されて公園で散歩ができるまでになっており、Q O L の向上が認められた。今後は、術後合併症の発生頻度を減らせるように術後管理を徹底し、術後の予後を改善したい。  (文責 上地正実)
主催 循環制御医学
「横浜医学」59巻4号より転載
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第145回横浜市立大学医学会講演会
演題 これからの厚生労働科学研究事業の方向性
演者 矢島 鉄也先生
厚生労働省大臣官房厚生科学課 課長
要旨  厚生労働省が推進する厚生労働科学研究は、我が国における保健医療福祉分野の緊急かつ重要性の高い課題について、妥当性の高い研究を行い、得られた科学的根拠をもって安全・安心で質の高い健康生活の実現を図ることを目的としている。 これまでに成果を上げた厚生労働科学研究には、疾病の診療ガイドラインの策定、人体の失われた機能の回復、法律や規制等への成果の反映などがある。
 平成20年度の厚生労働省の科学技術研究の推進として、平成20年度予算額は、科学技術関係予算1364億円うち厚生労働科学研究費補助金428億円をあてている。健康安心の推進(健康寿命の延伸) 分野には、 (1) 介護予防の推進や障害のQOL向上等17億円、 (2) 生涯を通じた女性の健康の向上・次世代育成5億円、 (3) がん予防・診断・治療法の開発65億円、 (4) 生活習慣病対策、免疫・アレルギー疾患の克服、難病のQOL 向上66億円、 (5) 新興・再興感染症対策等の充実60億円、 (6) こころの健康の促進19億円、そして臨床研究の推進148億円を充てる。 先端医療の実現の分野には、先端医療実現のための基盤技術の開発84億円、(2) 臨床研究(治験) 基盤の整備の推進50億円、健康安全の確保の分野には、(1) 医療等の安全の確保30億円、(2) 食の安全の確保18億円、(3)健康危機管理対策の充実5 億円。 第3 期科学技術基本計画分野別推進戦略として厚労省が主体的に取り組むべき分野の研究及び体制には、戦略重点科学技術「臨床研究・臨床への橋渡し研究」 「標的治療等の革新的がん医療技術」「新興・再興感染症克服科学技術」 など、研究開発の推進方策「臨床研究推進のための体制整備」 「安全の確保のためのライフサイエンスの推進」 などがある。厚生労働科学研究の新たな枠組みとして、欧米で行われてきたアウトカム研究をモデルとする「戦略研究」が創設され、 H17年糖尿病予防に関する戦略研究、自殺関連うつ予防に関する戦略研究、 H18年がん戦略研究、エイズ戦略研究、H 19年腎臓病戦略研究、感覚器戦略研究が推進されている。    (文責 水嶋春朔)
主催 社会予防医学
「横浜医学」59巻4号より転載
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第146回横浜市立大学医学会講演会
演題 ブラジルにおける生活習慣病対策 −150万人日系移住者の健康課題−
演者 Prof. Emilio Hideyuki Moriguchi
Federal University of Rio Grande do Sul, Graduate Course in Cardiology, Brazil
要旨  1908年(明治41年) 4 月28 日の夕暮れに第一回移民船笠戸丸は165家族781名を載せて神戸港から新天地に向けて出港し、52 日後6 月18 日にブラジル連邦共和国サンパウロ州サントス港に到着した。多くの移住者は農業やコーヒー園での労働に従事した。 その後, 1956年3 月、横浜移住斡旋所が新設されて,、日本最終港の横浜から多くの移住者が乗船するようになった。 1970年に当時小学生の森口秀幸先生もご尊父の森口幸雄先生がリオ・グランデ・ド・スール・カトリック大学の招聘を受けたのを機に横浜港からブラジルに移住されている。昨年移民100周年を迎えた今日、日系ブラジル人の人口は150万人以上となり、世代別には1世12%、2世31%、3世42%、4・5 世15% からなる。
 日本と食環境が大きく異なるブラジルでは、肉の摂取量が増え、野菜や魚の摂取量が減り、その結果、肥満、,糖尿病、虚血性心疾患、動脈硬化系疾患が多くなってきている。日系ブラジル人の摂取量は日本人に比較して、肉は18倍多く, 肉加工品1.9倍, 砂糖3.4倍, 牛乳2.5倍、塩1.2倍、野菜0.7倍、魚0.7倍となっている(森口幸雄・森口秀幸)。 その結果、1970年代には日系ブラジル人の寿命は日本人に比較して18年も短いことが報告されている
 1970年代半ばには、JICA (現, 国際協力機構) から病院機材の支援などが開始され、1980年代ブラジル国ポルトアレグレ市リオ・グランデ ド・スール カトリック大学成人病研究所計画JICA プロジェクト(森口幸雄所長) がスタートとしている。御祖父の細江静男先生が開始され、 ご尊父の森口幸雄先生が発展させた日系永住者への無料巡回診療を通して、循環器疾患の予防のための健診、保健指導を展開している。
 1990年からは、 循環器疾患の一次予防に関するWHO国際共同研究センター(センター長:家森幸男教授、水鴫春朔) との共同研究を実施、日系移住者において魚介類の摂取の減少、肉食摂取の増大によって、血中リン脂質脂肪酸構成でn-3系多価不飽和脂肪酸が低く、尿中タウリン排泄量が低く、ECG上の虚血性変化が多いことなどが示され、 循環器疾患の一次予防が重要な課題となっている。(文責 水嶋春朔)
主催 社会予防医学
「横浜医学」60巻1・2号より転載
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第147回横浜市立大学医学会講演会
演題  「診断にみる精神医学の今昔」 −ICD10からICD11へ−
演者  Prof. Norman Sartorius
ジョンズホプキンス大学 公衆衛生名誉教授
要旨  精神疾患の国際診断基準はさまざまな専門家の多角的な議論に基づいて作成される。現在最も一般的な診断基準は、世界保健機構(WHO) の作成したICD (国際疾患分類) 10 とアメリカ精神医学会(APA) が作成したDSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)-Wであり、今も精神医学の進歩や文化の変化を反映させた改訂版作成のため、世界中の専門家が議論を重ねている。
 Norman Sartorius 教授は1987 - 1993年WHOの精神衛生部門長を務め、世界中の専門家と連携しICD10 を作成した。同職退任後も世界精神医学会(WPA) 会長として世界の精神医療を牽引し、現在もICD11の作成に尽力している。本会ではICD10作成の経験を踏まえ、ICD11作成の現状と課題を示された。
 まずICD11作成委員会を構成するTopic Advisory Groupや280人の言語の異なるエキスパートをまとめたGlobal Scientific Partnership Networkなど諸部門が紹介された。次に、診断基準作成における課題が提示された。「分類Jや「疾患」の概念についての議論や一般医や医療スタッフヘの普及方法、版権、翻訳などの実践的な課題、神経認知障害、精神病性障害、発達障害、感情障害などの診断構造についての議論など解決すべき課題は少なくない。 しかし、最新の知見に基づいた、 科学者、 医療者、行政の共通言語となる。そして各種症状評価尺度や過去の症例、ガイドラインとの整合性をもったICD やDSMの改定は、診断の変化を示す機会となると締めくくった。 
 講演後にも活発な質疑があり、大変充実した講演会となった。
主催 精神医学教室
「横浜医学」60巻1・2号より転載
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