医学会講演会



平成29年度 横浜市立大学医学会講演会


回数 演者 演題 期日
 1
(192)
高部 和明 先生
Roswell Park Cancer Institute
Professor of Oncology,Alfiero Foundation Chair and Clinical Chief of Breast Surgery
Leader of Breast Program and Breast Disease Site,Breast Oncology Fellowship Program Director
「Precision Medicine とは癌の遺伝子変異と治療標的を同定するだけのことか」
 ⇒ 内容要旨
2017/7/10(月)
 2
(193)
岡田 聡志 先生
千葉大学 高等教育研究機構 
特任准教授
「医学教育に関するInstitutional Research (IR)の構築と運営の実際」
 ⇒ 内容要旨
2017/7/10(月)
 3
(194)
須田 先生 先生
シンガポール国立大学 教授 
熊本大学 国際先端医科学研究機構 教授
横浜市立大学 医学部 免疫学 客員教授
「幹細胞とは何か?」
 ⇒ 内容要旨
2017/9/4(月)
 4
(195)
高野 敦司 先生
日本アイ・ビー・エム グローバルビジネス
サービス ヘルスケア・ライフサイエンス事業部
アソシエイト・パートナー
「医療分野におけるWatoson事例紹介」
 ⇒ 内容要旨
2017/10/30(月)
5
(196) 
井上 梓 先生
理化学研究所 生命医科学研究センター
代謝エピジェネティクス YCIラボ
上級研究員・Young Chief Investigator
「Genomic imprinting maternal histones 母性ヒストンによるゲノム刷り込み」
 ⇒ 内容要旨
2018/3/30(金)



第192回横浜市立大学医学会講演会
演題 Precision Medicine とは癌の遺伝子変異と治療標的を同定するだけのことか
演者 高部 和明 先生
Roswell Park Cancer Institute
Professor of Oncology,Alfiero Foundation Chair and Clinical Chief of Breast Surgery
Leader of Breast Program and Breast Disease Site,Breast Oncology Fellowship Program Director
要旨  高部和明先生は,1995年に横浜市立大学大学院医学研究科に入学され,米ソーク研究所に研究留学し学位取得,USCD外科レジデンシープログラム終了後,2006年より米国バージニア州立大学腫瘍外科クリニカルフェロー,バージニアコモンウェルス大学医学部腫瘍外科,生化学・分子生物学准教授をへて,現在はロズウェルパークがん研究所の腫瘍学・主任外科教授に就任され,腫瘍学・乳腺外科の研究・教育・診療にご活躍されております.
 今回の講演では,最先端のPrecision Medicineについて,ご講演いただきました.
 Precision Medicine とは,遺伝子情報,生活環境やライフスタイルにおける個々人の違いを考慮して疾病予防や治療を行うという新しい医療概念であり,医療分野にイノベーションをもたらす可能性があると考えられます.2015年1 月20日に行われたオバマ大統領の一般教書演説において,Precision Medicine Initiative が発表され,米国はNIH,NCIなどへのData Sharingに力を注いでおり世界的にも注目されています.また,がんゲノムのデータベースとして次世代シーケンサーによって取得された情報,マイクロアレイ,メチレーションデータなどを含むThe Cancer Genome Atlas(TCGA)の研究についてご説明いただきました.
 さらに,先生の最近のご研究について膵がんにおける免疫に関与する発現遺伝子の予後について,乳癌におけるタモキシフェン感受性に関与する遺伝子がmicroRNAに関与していること,さらにmicroRNAのバイオマーカーの開発について実際のデータとともにご紹介いただきました.
 第192回横浜市立大学医学会講演会は第20回がんプロ公開セミナー(東邦大学,自治医科大学と遠隔同時中継を実施),第8 回メディカルゲノム勉強会,第185回キャンサーボードを同時開催いたしました.また,文部科学省の多様な新ニーズに対応する「がん専門医療人材(がんプロフェッショナル)」養成プラン事業の一貫としてがん医療の均てん化教育を実施しております.
 当日は学生,先生方,医療関係者54名が参加され大変有意義な講演会となりました.
(文責 岡野 泰子)
主催 横浜市立大学医学会、遺伝学教室、遺伝診療部、大学区医師会
「横浜医学」 68巻4号より転載
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第193回横浜市立大学医学会講演会
演題 医学教育に関するInstitutional Research (IR)の構築と運営の実際
演者 岡田 聡志 先生
千葉大学 高等教育研究機構 特任准教授
要旨   近年の我が国における医学教育分野別認証のうちグローバルスタンダードへの対応として求められているものの一つとして,Institutional Research(以下IR)の組織作りがある.しかし一般的にはなじみのない概念であることは否めない.そこで千葉大学から岡田先生をお迎えして,講演会が開催された.
 IR とは,学内外のデータの収集,分析,報告を通じて,学内の改善に資していく活動のことであり,定常的なレポーティング(Fact bookなど)と探索的な分析から構成されている.アメリカ高等教育では1965年にIRの専門職団体が設立され,諸外国に波及しているとのことである.
 IRは高等教育システム全体,機関レベル,専門分野レベルなど様々な階層で求められている.文部科学省の政策方針もあり,大学においては必須の状況である.
 どのようにIRを構築するかについてであるが,学内諸規定の確認・整理・策定,どのようなデータがとこにあるのかの把握,定常的な分析範囲と探索的な分析範囲の区別,分析結果をどこに,いつ報告するかの決定,という流れを軸に行なわれる.設置の初期段階では,ミッションを策定し,事務局各課,情報関連部門との折衝,長期スケジュールと木橋の設定,基本的なデータリストの作成,学内データの整理などが行われる.ビックデータを取り扱うかどうかは目的や状況に依存すると考えられる.
 求められるIR関連スキルも様々であるが,専門的知識の必要性もあり,単純な分析や集計だけでは議論をミスリードする危険性がある.データ収集に関しても理論的な枠組みが必要で,やみくもに収集・分析するのではなく系統性が必要である.
(文責 稲森 正彦)
主催 横浜市立大学医学会、医学教育センター医学教育推進部門、医学教育IR部門設置検討ワーキング
「横浜医学」 68巻4号より転載
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第194回横浜市立大学医学会講演会
演題 幹細胞とは何か?
演者 須田 年生 先生
シンガポール国立大学 教授 
熊本大学 国際先端医科学研究機構 教授
横浜市立大学 医学部 免疫学 客員教授
要旨  須田年生先生は横浜市立大学医学部をご卒業の後,幹細胞研究で素晴らしい業績をあげられ,現在ではシンガポールと熊本を研究の拠点にご活躍されています.また,横浜市立大学医学部からのリサーチ・クラークシップ学生を受け入れてくださり,本学とシンガポール国立大学との交流にお力添えをいただいています. 今回のご講演では,須田先生のご専門である造血幹細胞と幹細胞ニッチの研究を中心に,研究者のキャリアパスや学生時代の過ごし方についてなど,非常に幅広い講演内容でお話をいただきました.
 造血幹細胞は多分化能と自己複製能を持つ細胞で,骨髄の微小環境(ニッチと呼ぶ)に存在して,膨大な数の血球細胞を産生し続けています.幹細胞は自身が分裂しきって枯渇してしまわないように,通常は細胞周期を止めて静止期を維持し,細胞老化を防いでいます.そして,必要なときにだけ増殖・分化して血球系細胞を産生する仕組みを持っています.須田先生は,このような造血システムの制御が,骨髄の幹細胞ニッチを構成するニッチ細胞や骨髄の低酸素環境であることを世界に先駆けて明らかにされてきました.
 ご自身の最新の研究成果を織り交ぜたご講演に,学部学生や大学院生から教員まで,参加された皆さんが熱心に聞き入っている様子が印象的でした.講演終了後は,活発な質疑応答が行われ,皆さんが須田先生のご研究やシンガポールでの研究生活に高い関心を寄せていることがわかりました.
(文責:市野 素英)
主催 横浜市立大学医学会、免疫学
「横浜医学」 68巻4号より転載
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第195回横浜市立大学医学会講演会
演題 医療分野におけるWatoson事例紹介
演者 高野 敦司 先生
日本アイ・ビー・エム グローバルビジネスサービス ヘルスケア・ライフサイエンス事業部
アソシエイト・パートナー
要旨  平成29年10月30日(月)に横浜市立大学福浦キャンパス A202₂ 教授会室にて,第195回横浜市立大学医学会講演会を行いました.この講演会は第9 回メディカルゲノム勉強会を兼ねておりました.(メディカルゲノム勉強会は,横浜市大附属病院メディカルゲノムセンター構想の活動の一環として附属病院遺伝子診療部,医学研究科遺伝学教室で企画しております.)
 最近,AIが様々な分野で脚光を浴びるようになってきました.そこで本講演会では,IBM社の高野先生をお招きし,IBM Watsonを使った医療分野におけるAIの活用例についてご講演いただきました.
 ご講演では,AIとは何か,何ができるのか,から始まり,医療のどんな分野でどのような使われ方をしているのかについてのオーバービューをしていただき,医学研究,遺伝子解析研究におけるAIの有効な使い方について具体的な事例を提示していただきながら教えていただきました.AIについての正しい知識を得ることができました.基礎,臨床問わずいろいろな専門分野の先生方が聴講にお見えになり,大変有意義な会となりました.
(文責:宮武 聡子)
主催 横浜市立大学医学会、附属病院遺伝子診療部、大学院医学研究科遺伝学教室
「横浜医学」 68巻4号より転載
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第196回横浜市立大学医学会講演会
演題 Genomic imprinting maternal histones 母性ヒストンによるゲノム刷り込み
演者 井上 梓 先生
理化学研究所 生命医科学研究センター 代謝エピジェネティクス YCIラボ
上級研究員・Young Chief Investigator
要旨   理化学研究所の井上梓先生より,卵子から維持されるヒストンメチル化(H3K27me3)という観点から,発生の初期にDNAメチル化に依存しない新しいインプリンティング機構に関して,以下の内容に関して,ご講演して頂きました.
 発生後の体細胞で卵子由来の染色体と,精子由来の染色体で別々に調節される遺伝子はインプリンティング遺伝子と呼ばれ,その発見以来長年にわたって研究されてきた.メカニズムについては,インプリンティング遺伝子の調節領域のDNAメチル化を介して起こっていると一般に信じられている.
 井上先生は,マウスの受精卵および桑実胚において,精子由来の核と,卵子由来の核を分離し,染色体が開いたDNase I 高感受性部位を特定し,開いている場所の違いを,両方の染色体で比べ,母親由来の染色体および父親由来染色体にのみ見られる配列を特定していた(開いている場所が父性アレルだけに見られるということは,対応する遺伝子が母性アレルではインプリンティングされていることをさす).
 次に,母親由来染色体のインプリント状態を維持されるメカニズムを調べ,母性アレルのインプリンティング領域の多くにおいて,特異的にヒストンH3のLys27のトリメチル化(H3K27me3)が認められことを突き止めていた.インプリント遺伝子を特定した後,次は発生過程でこのインプリンティングがどう変化するか調べ,発生後も胎児側,胎盤側で別々に維持されるメチル化依存性のインプリンティングと異なり, 内部細胞塊ではH₃K₂₇me₃マークが失われ始め,エピブラストで完全に消失する一方,胎盤では維持されることを明らかにしていた.
 この研究により,母性アレルに特異的なヒストンH3のLys27のメチル化は,DNAのメチル化を必要としないゲノムインプリンティングを制御することが明らかにされていた.
 当日は,産婦人科をはじめ多数の先生方に出席して頂き,井上先生のご講演内容について活発な議論が行われ,有意義な会となりました.
(文責 佐藤 由典)
主催 横浜市立大学医学会、組織学教室
「横浜医学」 69巻1・2号より転載
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