医学会講演会



平成18年度 横浜市立大学医学会講演会



回数 演者 演題 期日
 1
(137)
中野 敦先生
 Harvard University MGH
Postdoctoral Fellow
Multipotency of isl1+/Nkx2.5+/flk1+primordial cardiovascular progenitor cells
 ⇒ 内容要旨
2006/10/19
 2
(138)
加藤 良夫先生
  南山大学法科大学院教授
 弁護士
安全な医療を求めて〜医療事故をめぐる諸問題
へのアプローチ〜
 ⇒ 内容要旨
2007/1/12
 3
(139)
中潟 直己先生
 熊本大学生命資源研究支援センター動物資源開発研究部門 資源開発分野教授
遺伝子改変マウスが空を飛び交う時代がやってくる!
−国内外のマウスバンクの最近の動向と増え続ける遺伝子改変マウスの凍結胚・精子の輸送−
 ⇒ 内容要旨
2007/1/26
 4
(140)
磯貝 典孝先生
 近畿大学医学部附属病院形成外科教授
骨・軟骨組織における再生誘導の基礎研究と臨床応用
2007/2/2


第137回横浜市立大学医学会講演会
演題 Multipotency of isl1+/Nkx2.5+/flk1+primordial cardiovascular progenitor cells
演者 Harvard University. Massachusetts General Hospital, Cardiovascular Research Center
Postdoctoral Fellow  中野 敦先生
要旨  心臓は、脳と共に再生が極めて乏しい臓器であるが、心筋の再生を制御できれば、心筋梗塞などの後遺症に苦しむ患者にとっては、まさに夢の治療になり得る。近年、心筋細胞にもごくわずかであるが、分裂能を有する心筋源細胞とも呼ぶべき細胞が存在することが明らかとなり、その細胞の由来と運命を知ることは、心血管系研究における大きなトピックスとなっている。今回、講演をお願いした中野先生はHarvard大学Kenneth Chien博士の研究室に所属し、心筋源細胞の成り立ちについて世界的な研究を展開している。Chien博士は2005年Nature誌に「Postnatal isl1+cardioblasts enter fully differentiated cardiomyocyte lineages.」を発表し、その後の研究の展開は世界中の注目を集めている。今回の講演では、その研究をさらに発展させ, 2nd cardiac fieldの重要な分子マーカーであるisl1陽性細胞が、心筋のみならず、平滑筋や内皮細胞にも分裂能力を持ちうることを含め、まだ未発表の最新データを紹介していただいた。セミナー室が満席となるほどの聴講者が集まり、活発な議論が繰り広げられた。多分化能をもつ一群の細胞が、どのような生理的意味合いを持つかについては、今後一層の研究が必要であることは論を待たないが、この分野の研究に新たな展開を伺わせる非常に興味ある内容であった。非常に膨大なデータを要領よく、丁寧に説明してくださり、特に若い研究者には参考となったと思われる。
(文責 南沢 享)
主催 循環制御医学
「横浜医学」58巻2号より転載
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第138回横浜市立大学医学会講演会
演題 安全な医療を求めて〜医療事故をめぐる諸問題へのアプローチ〜
演者 南山大学法科大学院教授 弁護士 加藤 良夫先生
要旨  患者・家族サイドにたった医療事故の弁護を行っている加藤先生を講師に迎えて、医療安全に関する講演が行われた。講演概要は、次のとおりである。
 医療安全の基本的な姿勢は、@起きた事象を速やかに集約して、A的確に分析を行い、B再発防止策を立てていくというサーベイランス体制を整えておくことが重要である。横浜市立大学附属病院で事故が起きた7年前に、A市立病院で患者取り違え事故が起きており、その事故についての徹底した調査がなされ、サーベイランス体制の重要性が述べられていれば,附属病院の事故も防ぐことができたのではないかと考える。
 医療被害者は、@原状回復、A真相究明 、B反省謝罪 、C再発防止、D損害賠償という五つの強い願いを持っている。しかし、この思いは、医療従事者の願いと同じものである。このため、医療被害者の方を医療安全のためのパートナーとして迎え入れ、例えば講演会講師や医療事故調査委員会委員として貢献していただくことは、被害者の気持ちに反しないものである。
 医療事故、医療関連死、異状死、合併症などの不具合事象の中には、再発防止のヒントがたくさん含まれており、これら事象のピュアレビューを行うことが大変有効である。ピュアレビューは、自浄作用と医療の質を高めていくために行うものであり、責任追及を行うものではないことと、参加者が対等平等に考えを述べる雰囲気や文化が必要である。また、このような真相究明のプロセスは、被害者の心のケア機能も有しているとともに、当該医療従事者の立ち直リプロセスをも兼ねている。
 B大学病院で起きた医療事故では、外部委員をいれて、事実検証と再発防止策を約2ヶ月間という短い期間で出したこともあり、結果として送検されずに終了した。起訴されるポイントは次の点にある。 @過失の内容 (重大か、初歩的なことか、難しい事象か等)、A結果の重大性 (死亡、結果回避の努力等) 、B被害者が当該医療従事者に対して処罰を求める意思を強くもっているかどうかである。ことにBについては、事象が起きた後の病院、医療者の対応に大きく左右されるため、謝りたい気持ちがある場合は謝った方が良いと考える。何故なら、一度謝ったからといって、仮に裁判になった場合に、病院にとって不利な裁判所の判断が下されることは無いからである。
 患者・家族サイドの視点にたった医療安全の講演で、約300名の聴講者があり、医療安全に対する認識の高さが伺えた。  (文責 横浜市立大学附属病院医療安全管理室)
主催 横浜市立大学附属病院医療安全管理室
「横浜医学」58巻2号より転載
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第139回横浜市立大学医学会講演会
演題 遺伝子改変マウスが空を飛び交う時代がやってくる!
−国内外のマウスバンクの最近の動向と増え続ける遺伝子改変マウスの凍結胚・精子の輸送−
演者 熊本大学生命資源研究支援センター動物資源開発研究部門 資源開発分野教授 中潟 直己先生
要旨  近年、遺伝子の機能解析およびそれに関連した研究開発が、国家プロジェクトとして世界中で盛んに行われている。その中で重要な役割を果たしているのが遺伝子改変マウスであり、今後、その数は、爆発的な勢いで増えることが予想され、最近、これらマウスの系統保存と輸送が、世界中の実験動物施設においてきわめて深刻な問題になっている。今後のライフサイエンスの進展にとって、バイオリソースとしての遺伝子改変マウスは、まさに知的基盤の根幹を成すものと言っても過言でなく、その作製、収集、保存、供給を行うマウスバンクが世界中で設立されている。このバンクは、日本では理研と熊本大学が中心であり、ヨーロッパ、アメリカはもちろんのこと、中国にもマウスバンクが設立されており、先生のお話からシンガポールを始め他のアジア各国が、研究の面でも日本を猛追していることが感じられた。精子による系統保存は、世界中のマウスバンクのほとんどが演者である中潟教授が考案した中潟法を用いている。従って、今回この実際の開発者からお話を聞けた事は貴重な体験となった。またより簡便な精子の凍結乾燥保存法が確立されつつあり、マウスの精子が注射用アンプルに入って世界を将に飛び交う時代が、すぐそこまで来ていることがわかり、この分野の最先端のお話を聞く事ができた。さらに熊本大学マウスバンクシステムの説明があり、特に凍結受精卵の品質管理が高い精度で行なわれている点は感銘を受けた。バンク業務以外に、一定期間非公開という条件でも年間数万円の維持費用でマウス受精卵の保存を受託しており、研究者の様々な形での要望に柔軟に対応しているバンクシステムであることも研究者の立場ではありがたい。以上、遺伝子改変マウスを日常の研究で用いるために大変有用なお話が伺えた。  (文責 大保 和之)
主催 組織学(微細形態学)
「横浜医学」58巻2号より転載
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