医学会講演会



平成17年度 横浜市立大学医学会講演会


回数 演者 演題 期日
 1
(132)
杉浦 先生
 東京大学大学院
  領域創成科学研究科 教授
単一心筋細胞機能測定
 内容要旨
2005/7/28
 2
(133)
佐藤 元彦先生
  米国ルイジアナ大学  ニューオリンズ
  医学薬理学 助教授
G 蛋白質心臓におけるシグナル伝達
 
内容要
2006/2/15
 3
(134)
Prof. Chul Park, M.D., Ph. D. 
  The Seoul Center for Developmental  Ear Anomalies, Yonsei University,   Republic of Korea 
My Technical Changes and Improvements
 to the Microtia Reconstruction Procedure 
 内容要旨
2006/2/18
 4
(135)
岩本 隆宏先生
  福岡大学医学薬理学 講師
Na/Ca 交換血管
  − 遺伝子改変マウスから新知見
 内容要旨
2006/3/7

 5
(136)
荻野 史先生
 ハーバード大学 教授
一部 米国病理研修医療
二部 大腸がんの Epigenetics
 内容要旨
2006/3/13


第132回横浜市立大学医学会講演会
演題 単一心筋細胞の機能測定
演者 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 杉浦清了先生
要旨 心臓の最も重要な機能はポンプとしての働きであり、心機能研究は心臓生理・病態研究の中心課題である。杉浦先生は本学出身の故・佐川喜一先生の愛弟子であり、一貫して、心筋収縮弛緩のメカニクスに関して研究をされてきた。技術的な困難さから、従来の心機能計測は心臓全体ないしは心筋筋原繊維レベルに留まっていたが、杉浦先生はカーボングラファイトの使用をはじめとする様々な創意工夫によって、単一心筋細胞レベルでの張力、stiffness、仕事量、 カルシウム濃度変化、膜電位などを精緻に計測することを可能にした。この技術を用いることによって、心筋症ハムスターでは単一心筋細胞レベルで仕事量が減少していること、tubulinなどの微小管構造の変化がズリ応力による心筋細胞のstiffnessに影響を及ほすこと、 単一心筋細胞においても急速な伸展刺激に伴う膜電位変化がみられること、 など次々と新しい知見を見出された 本講演の前半部ではビデオ画像を使い、これらの知見を非常に分かり易く、印象的に概説された。後半は、 最近されている仕事の紹介として、 コンピューターシミュレーションによる心臓モデルに関して、講演された。単一細胞レベルで得られた個々の精緻なデータを、 コンピューター内で統合し、実際の心筋・心臓収縮弛緩と同様の現象をシミュレートしていく作業は、今後の新らしい心機能研究の方法論であることを実感させられた。また、単一細胞の機能解析を極めていくことで、心臓全体の機能を統合的にみつめようとする先生の姿勢に感銘を受けた。(文責 南沢 享)
「横浜医学」57巻3号より転載
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第133回横浜市立大学医学会講演会
演題 G 蛋白質の心臓におけるシグナル伝達
演者 米国ルイジアナ州立大学医学部薬理学助教授  佐藤元彦先生
要旨 G 蛋白情報伝導系は7 回膜貫通型受容体、 G 蛋白、,効果器という3 つのコンポーネントから構成されるが、研究の進展と共にこの系の情報伝達にはG 蛋白を直接制御する蛋白(G 蛋白 modulator) が関与することが解ってきた。これら一群の蛋白は、受容体を介さずG 蛋白を直接制御する新しい情報伝達経路、新しいG 蛋白の役割を担うものと注目されている。これら蛋白の循環器疾患の発症、進展における意義を探る第一歩として、疾病下で発現誘導されるG 蛋白modulatorを同定しようと試みた。すなわち、 ラット間歇性虚血心モデルよりcDNA ライブラリーを作製し、 酵母を用いて G 蛋白modulatorを検出する機能的スクリーンを行った。スクリーンされたクローンの一つはゲノム情報からその存在を推定されていた蛋白、KIAA1866 (Activator of G-protein Signaling8, AGS8) のN端末372amino acidをcoding していた。AGS8 の発現変化を検討したところ、 AGS8 は、ラット間歇性虚血心モデルにおいて、非虚血部にくらべ虚血部で3.5倍上昇していた。興味深いことに、 AGS8の発現上昇は, 他の心臓負荷モデル、isoproterenol持続注入による頻脈モデル、angiotensin U持続注入による高血圧心肥大モデル および動静脈シャント作成による容量負荷不全心モデルでは認められなかった。このような特徴を示すG βγ結合蛋白は報告がなく、AGS8 は虚血心筋下で新たなG βγ経路を担うのではないかと推測された。
(文責 石川義弘)
「横浜医学」57巻3号より転載
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第134回横浜市立大学医学会講演会
演題 My technical changes and improvements to the microtia reconstruction procedure
演者 The seoul center for developmental ear anomalies,
Yonsei University, Republic of Korea
Professor Chul Park,M.D. ,Ph.D.
要旨 We have performed auricular operation on 2000 patients since 1991. Among them, about three forths were microtia patients. Most of them were reconstructed using autogeneous costal cartilage. The characteristic of our methods is to make a projected auricle in one stage, even though an additional stage is needed in each case. In providing a one stagecoverage of the projected framework, a delicate flap design is necessary. In our clinical experience we attempted a safer and more reliable technique for ear reconstruction for better aesthetic results in each patient. The changes of this technique are the following:
1. Framework construction.,
2. The depth of the expander insertion and final expansion volume in the expanded two-flap method.,
3. Indication of the expanded two-flap technique.,
4. Indication of parietotemporal fascial flap.,
5. Elevation of the parietotemporal fascia.,
6. Postoperative care.
Even though in the past 14 years we continuously tried to make technical chages for better aesthetic ear reconstruction, we believe that the future still holds promising new discoveries in more efficient methods for ear reconstruction.
(文責 佐武利彦)
「横浜医学」57巻3号より転載
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第135回横浜市立大学医学会講演会
演題 Na/Ca交換体と心血管病 −遺伝子改変マウスから得た新知見−
演者 福岡大学医学部薬理学講師  岩本隆宏先生
要旨 各種細胞は、細胞内外のイオン濃度を変化させることによって、 実に多くの生命活動を維持させている。 その恒常性を保つことは、 心血管系においても非常に重要である。本講演会では、 ナトリウム・ カルシウム交換体の分子機序の研究において日本の若き第一人者である岩本隆宏先生が, 血圧維持・心機能維持におけるナトリウム・カルシウム交換体の重要性を非常に分かり易く説明していただいた。本講演の前半部では先生が最近Nature Medicine 誌に発表された、 ナトリウム負荷による高血圧にナトリウム・カルシウム交換体が重要な働きをしていることを示した研究を紹介していただいた。この研究を遂行するために、 論文には出てこない基礎準備研究として、400以上の遺伝子異常ナトリウム・カルシウム交換体を作成し、それら全てに対して、機能評価を行われ、ナトリウム・カルシウム交換体がその機能を発揮したり、薬剤に感受性のある部位を同定されたりする地道な努力があったことを教えていただいた。また,、他の研究者が先行実験で否定的な結果を出してぃたにも拘わらず、ご自分の考えによって、 新たな実験系を組まれ、見事に今回の成果に導き出されたエピソードも紹介していただき、 我々研究者にとっては先人の結果に縛られない自由な発想の重要性を教えていただくことが出来た。本講演の後半部では先生が最近手掛けているナトリウム・カルシウム交換体遺伝子改変マウスと心機能についての未発表のデータを紹介いただいた。持続活性型のナトリウム・カルシウム交換体遺伝子改変マウスでは、拡張型心筋症様の病態を呈することなどを示され、心筋症とカルシウムシグナルとの研究に新たな展開を伺わせる非常に興味ある内容であった。非常に膨大なデータを要領よくまとめて話していただいたにも拘わらず、質問を含め、当初予定の1 時間を大きく超過したものとなったが、時間の過ぎるのも感じさせないものであった。
(文責 南沢 享)
「横浜医学」57巻3号より転載
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第136回横浜市立大学医学会講演会
演題 第一部 米国の卒後病理研修と医療安全
第二部 大腸がんのEpigenetics
演者 ハーバード大学準教授 荻野周史先生
要旨 議演1
 講師の荻野先生は東京大学医学部卒業後、病理学教室に1 年在籍した後、 渡米され、 以降米国で病理診断学、分子診断学、遺伝学の分野で臨床研修を積まれてきている。1999年より2001年までペンシルバニア大学(野口英世がアメリカで最初にたどりついた大学)にて分子病理学のフェロー・ポスドクを務めて、 2001年11月よリボストンに赴任されている。2000年には解剖病理学と臨床病理学の認定医の資格、2001年には分子診断学の専門家の資格,、2003年には分子遺伝病理学の専門認定医の資格を取得され、現在、ハーバード大学医学部Bringham and Women's Hospitalで病理学者として活躍されている。ご自分の経験に基づき、日本からアメリカでの臨床研修希望した場合の応募の仕方から始まり、研修内容、研修方法などについて非常に具体的に解説された。また、病理学部門の安全管理における役割、病理診断の安全管理についてわかりやすく解説された。

講演2
 現在先生が参画されているハーバード大学公衆衛生大学院とBrigham and Women's Hospital による大規模な前向き疫学コホート研究について講演された.。健康な12万人の女性を30年(Nurses' Health Study), 5 万人の男性を20年(Health Professionals Follow-up Study)追跡して、 病気の発生を明らかにする疫学的研究が進行している。この2 つの大規模コホートにおいて追跡中に発生した癌の遺伝子異常、たんぱく質の発現異常を解析している。コホートの追跡の開始時より、経過中すべてにあたり、食事、ライフスタイル、薬、 特にアスピリンと経ロピル、家族歴を記録している。こうした病因に関するデータは癌やそのほかの疾患の発症に先立って集められているためにバイアスのリスクがより少ないので、前向きコホート研究の長所となっている。蓄積された貴重な病因データと最新のテクノロジーによって明らかにされる癌組織の分子異常、あるいはさまざまな遺伝子多型(SNPs) を総合して解析することにより、これまでにない知見が得られつつある。この巨大プロジェクトは米国国立衛生研究所(National lnstitute of Health) からの研究費で現在まで運営されている。今回は、最近とくに力をいれている大腸癌におけるEpigenetics・DNAメチル化について特に大腸癌多段階発癌のステップにいかに関与しているかの解析を中心にデータが示された。ほかにもMSI、 KRAS、BRAF、p53 などのCell Cycle Regulators、COX2、 Fatty acid synthase、Angiogenesisなどについても言及された。
(文責 青木一郎)
「横浜医学」57巻3号より転載
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