医学会講演会



平成26年度 横浜市立大学医学会講演会


回数 演者 演題 期日
 1
(178)
馬場 理也 先生
熊本大学大学院先導機構国際先端医学研究拠点施設 特任准教授
新規がん抑制遺伝子FLCNの機能解析
 ⇒ 内容要旨
2014/7/1
 2
(179)
越川 直彦 先生
神奈川県立がんセンター臨床研究所
膜型MMP1(MT1-
MMP)とその周辺分子を標的とした癌治療・診断の新戦略

 ⇒ 内容要旨
2014/8/14
 3
(180)
吉川 元起 先生
独立行政法人物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニク
ス研究拠点独立研究者
次世代呼気/血液検査にむけた、ナノメカニカルセンサの開発
 ⇒ 内容要旨
2014/8/25
 4
(181)
小野 悠介 先生
長崎大学大学院医歯薬学
総合研究科幹細胞生物学研究分野テニュア・トラック助教
細胞極性因子による骨格筋幹細胞の運命決定制御
 ⇒ 内容要旨
2014/9/29
 5
(182)
結城 伸泰 先生
シンガポール国立大学医学部 教授
ギラン・バレー症候群関連疾患の新しい分類と診断基準
 ⇒ 内容要旨
2014/10/29
 6
(183) 
 堅田 利明 先生
東京大学 大学院薬学系研究科生理化学教室 教授
 細胞のシグナル伝達系に介在する諸種のG蛋白質: Giの発見からG蛋白質が果たす役割の拡大に向けて
 ⇒ 内容要旨
 2015/2/19



第178回横浜市立大学医学会講演会
演題 新規がん抑制遺伝子FLCNの機能解析
演者 馬場 理也 先生
熊本大学大学院先導機構 国際先端医学研究拠点施設 特任教授
要旨  FLCN は遺伝性過誤腫症候群であるBirt Hogg Dubé Sydrome(BHDS)の責任遺伝子として,2002年にクローニングされた.BHDSは腎腫瘍,皮膚の過誤腫,肺の嚢胞を₃ 主徴とする常染色体優性の遺伝病で,FLCNに機能欠損型の胚細胞変異を持つ.腎腫瘍ではさらに対立遺伝子の欠失または変異を認め,FLCNはKnudsonのtwo hit theory に従う古典的ながん抑制遺伝子である.FLCNがコードするタンパク質(FLCN)は,579アミノ酸からなる既知のドメイン構造を持たない機能未知の蛋白質である.一方で,線虫,ショウジョウバエから哺乳類に至るまで保存されていることから,がん抑制遺伝子としてのみならず,生体において重要な役割を果たしている可能性が示唆されていた.
 演者らは,FLCN結合タンパク質のクローニングとその遺伝子改変マウスを用いた解析を通して,FLCNの機能解析を行ってきた.その結果,互いに相同性があり(Identity:49%,Similarity:74%),機能未知で既知のドメイン構造を持たない新規のFLCN結合蛋白質FNIP 1 ,FNIP 2 を同定した.FLCN はFNIP 1 並びにFNIP 2(FNIPs)を介して,エネルギー感知スイッチの役割を果たす₅ 'AMP activated protein kinase(AMPK)と結合し,FNIP 1 とともにリン酸化を受けることから,生体の代謝の調節に関与することが示唆された.さらにFLCNとFNIPs は生体の代謝調節に関与し,様々な生命現象において非常に重要な役割を果たしていることを明らかとした.なかでもFlcn/Fnips は転写コアクチベーターである
PGC 1 aの発現を介して,ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を制御し,PGC 1 aの活性はFlcn欠損腎臓上皮細胞の悪性化に関与することも示唆された.
(文責 大野茂男)
主催 横浜市立大学医学会、プロテオーム医療創薬研究会、分子生物学教室
「横浜医学」65巻4号より転載
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第179回横浜市立大学医学会講演会
演題 膜型MMP1(MT1-MMP)とその周辺分子を標的とした癌治療・診断の新戦略
演者 越川 直彦 先生
神奈川県立がんセンター臨床研究所
要旨 細胞外マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は,がん増殖,生存,浸潤・転移などのがん悪性形質の獲得に重要な役割を担うMMPである.膜型MMP1(MT1-MMP)はⅠ型の膜蛋白質であり,膜型MMPのプロトタイプである.MT1-MMP発現は正常組織では殆どみられず,がんの悪性化に伴って亢進する.そのため,MT1-MMPはがん悪性化の主要な動力源と考えられている.演者はこれまでに,膜型MMP(MT1-MMP)によるがん細胞の悪性化を促進する細胞膜のがん微小環境についての研究を行い,その過程においてMT1-MMPは増殖因子や受容体と複合体を形成し,それらシグナル分子を限定分解(プロセシング)することで,これらシグナル分子の制御に働くことを見出している(Koshikawa, JBC, 2008,Cancer Res, 2010, Cancer Sci 2011).そのため,MT1-MMPは細胞外マトリックス破壊の単なる道具としてだけでなく,細胞膜上でがん悪性化シグナルの伝達装置として重要な役割を担っている.
 本講演では,MT1-MMPによる膜型チロシンキナーゼであるEphA 2 のプロセシングがEphA2のリガンド依存的な癌抑制シグナルと,EGF受容体シグナルと共役したリガンド非依存的な癌化促進シグナルの制御に重要な役割を果たす新たな分子機序が提示された.さらに,MT1-MMPによるEphA2のプロセシングの抑制は,MT1-MMPを発現する扁平上皮がん細胞のin vitro,in vivoでの増殖・転移を有意に抑制することが講演中に示された.以上から,MT1-MMP/EphA2複合体は新たながん治療の標的分
子となる可能性があることが本講演で示された.
 聴衆は20名ほどであったが,活発な質疑応答がなされ,有意義な講演であった.
(文責:青木一郎)
主催 横浜市立大学医学会、分子病理学教室、病態病理学教室、分子生物学教室、微生物学教室
「横浜医学」65巻4号より転載
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第180回横浜市立大学医学会講演会
演題 次世代呼気/血液検査にむけた、ナノメカニカルセンサの開発
演者 吉川 元起 先生
独立行政法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニク
ス研究拠点 独立研究者
要旨  平成26年8 月25日に横浜医学会ご援助のもと,物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)独立研究者,吉川 元起先生をお招きし,講演会を行った.昨今の科学技術開発において,物質を感知(認識)し人間や機械が理解できる情報に変換するセンサーシステムが必要である.今日では無数のセンサー素子が新たに開発され現代社会の至る所で活躍しているが,特定の分子を検出する分子検出センサーは強いニーズがありながら,期待に応える製品開発がなされていない.こうした現状の中で吉川先生は,カンチレバー型膜型表面応力センサー(MSS)と名付けた新しい分子検出センサーの開発に成功され,その産業や医療分野での応用に取り組まれている.
 分子検出センサーは,調べたい標的分子の存在情報を電気信号に変える装置であり,その装置は,標的分子を選択的に吸着する受容体層と,吸着した情報を電気的信号に変換する変換器(Transducer)で構成される.標的物質に合わせて吸着層を変えることで,色々な標的物質を検出するセンサーとなる.
 吉川先生は,医療におけるセンサーの利用例としてがん患者の呼気を用いた超早期発見法や薬剤耐性菌の検出法への応用を例に挙げ,その重要性を説かれた.また,ガスセンサーの切実な応用例として地雷検出を上げた.全世界で今も7000万個の地雷が放置されその発見には膨大な時間と費用が必要とされ,経済的で簡便な高感度ガス検出センサーの開発が望まれている.これらの要望に応えるため,期待されるのがナノメカニカルセンサーであり,これの代表例がカンチレバーセンサーである.吉川先生は従来のカンチレバーセンサーの感度を増幅するためピエゾ抵抗部分の構造に応用検出部分を設け,4か所のピエゾ抵抗で形成するホイートストンブリッジ回路構造をHeinrich Rohrer 博士(1986年ノーベル物理学賞受賞)とともに開発した.この構造で構成するセンサーを膜型表面応力センサー(Membrane-type Surface stressSensor, MSS)と名付けた.
 吉川先生は,分子検出センサーの開発の目標として,何時でも,何処でも,誰でも使えるセンサーの実現を目指している.そのためには,検出感度と共に,経済性,安定性,手軽に使用できることなどの条件を揃って満たす必要がある.その実現を狙って,現在第3世代MSSの開発を進めており,その紹介がなされた.講演後には微生物学,免疫学,および消化器内科学の教員や学生から多くの質問が出され,有意義なディスカッションが行われた.
(文責:工藤あゆみ,梁 明秀)
主催 横浜市立大学医学会、微生物学教室、分子病理学教室
「横浜医学」65巻4号より転載
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第181回横浜市立大学医学会講演会
演題 細胞極性因子による骨格筋幹細胞の運命決定制御
演者 小野 悠介 先生
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科幹細胞生物学研究分野テニュア・トラック助教
要旨  骨格筋は,負荷に応じて肥大あるいは萎縮し,損傷しても修復・再生される極めて可塑性に富んだ組織であり,その機構の理解は,健康の維持と増進やスポーツ医学の発展にとても大切です.
 骨格筋の可塑性には,基底膜と筋線維間に位置する骨格筋幹細胞(サテライト細胞)の働きが大切であることがわかってきました.しかし,サテライト細胞の増殖,分化,自己複製能等の運命決定を制御する機序については不明な点が多く残されています.
 演者らはサテライト細胞の運命決定の機構に着目して,この数年活発な研究を続けてきています.また幹細胞の維持の基盤分子として細胞極性因子に着目した研究を開始しています.
 この講演では,骨格筋幹細胞(サテライト細胞)を巡る最近の進展を,筆者らの最近の知見を中心にご紹介いただきました.40名以上の聴衆を集めた講演の後にも,活発な議論が行われました.
(文責:大野 茂男)
主催 横浜市立大学医学会、微生物学教室、分子病理学教室
「横浜医学」66巻1・2号より転載
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第182回横浜市立大学医学会講演会
演題 ギラン・バレー症候群関連疾患の新しい分類と診断基準
演者 結城 伸泰 先生
シンガポール国立大学医学部 教授
要旨  神経内科では病歴が非常に大事になってくる. 主訴,年齢,性別による頻度から疾患を予想する. 家族歴は家系図を書くようにし,それぞれ同胞の年齢,性別,関係性を記載する.また,出身地は転居している可能性もあるため,本人だけでなく親や祖父母の代まで聴取するべきである.
 病歴から病因の検討をつけることができるので,発症様式を意識することが重要である.具体的には突発発症は血管性,急性は炎症性,慢性は変性疾患・遺伝性疾患のようにわけることができる.
 所見の取り方にも工夫が必要である.所見は大枠から入り,次に細かい部分をみる.例えば末梢神経障害ではまずは障害神経が大径線維なのか小径線維なのか,有髄線維か無髄線維なのかを把握し,それからその線維の障害が髄鞘型なのか軸索型なのかをみていくべきである.大径線維の障害では神経伝導速度検査(NCS)は異常を示すが,小径線維の障害では正常値を示す.
 臨床所見と検査の整合性の確認は重要であり,例えば小径線維のみの障害,small fiber neuropathyでは深部感覚は保たれNCSも正常なはずであるが,もしNCSに所見があるならば大径線維の障害も疑い身体所見を再検討する必要がある.
 臨床所見からどんな検査結果が得られるかを予想したうえで検査を選択するべきであり,無用な検査は施行しない.予想と違う臨床所見や検査結果でも,予想自体が外れている可能性もあり,事実のままをカルテに記載するように.
ギランバレー症候群(GBS)について
 GBSでは筋力低下の前に筋力低下の前に手足の先がしびれることがある.また,先行感染では上気道炎が8 割で下痢は2 割程度でそれぞれ出現時期が異なり,前者は1 週間前,後者は10日前に出現することが多い傾向である.
 Fisher 症候群では先行感染では上気道炎が多く咽頭痛と咳が特徴的である.典型的には腱反射減弱~消失だが,10%は腱反射亢進が見られる.
 その他,分類等について御講義いただいた.聴衆は30名ほどであり,普段の診療体制を振り返る機会となり実りの多い講義となった.
(文責:春日井裕美)
主催 横浜市立大学医学会、神経内科学教室
「横浜医学」66巻1・2号より転載
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第183回横浜市立大学医学会講演会
演題 細胞のシグナル伝達系に介在する諸種のG蛋白質: Giの発見からG蛋白質が果たす役割の拡大に向けて
演者 堅田 利明 先生
東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室 教授
要旨  第183回横浜市立大学医学会講演会に東京大学薬学研究科の堅田利明先生に,Gタンパク質を中心とした細胞内シグナル系の研究についてのお話を頂いた.堅田先生は,Gタンパク質の研究では世界的に有名な方であり,そのGiタンパク質の百日咳毒素による修飾に関する発見の初期のお話を頂いた.Gi タンパク質が百日咳毒素によって修飾を受けることは,現在では医学上の常識となっているが,その発見は堅田先生が北海道大学院の学生であった頃にさかのぼる.ふとした偶然から,実験結果の解釈に行き詰まり,それを問い詰めた結果に百日咳のGタンパク質に対する特異的な作用であることが判明した.更にその発見が,Gタンパク質のαサブユニットと,その他のサブユニットの機能解析につながった話を中心に,非専門家にもわかりやすく解説をしていただいた.一方
でご自身はテキサス大学のギルマン教授のもとに留学されたが,その際にも百日咳毒素を用いた研究成果が,その後のギルマン教授のノーベル賞受賞に結びついたこと,さらに近年では研究が最も盛んになっている小分子Gタンパク質の解明につながったことなどをご説明頂いた.過去の40年近いGタンパク質研究で,常に世界の最先端の研究内容を維持できた理由は,どんな小さいなことであっても,自分の実験結果を信じることと,その結果に基づいて新しい仮説を立てていくこと,そしてその証明を勇気を持って行っていくことであるとご解説頂いた.
 堅田先生は多数の教授を内外に送り出し,医学分野の研究者と多く共同研究もされており,さらに今後の発展が期待される若手を多数指導しておられます.特に若手にとっては啓発されるご講演内容でした.会場には薬理学をはじめ多数の先生方をはじめ,多くの大学院生や医学部生もたくさんご参加いただき,盛会に終わりました.
(文責:石川 義弘)
主催 横浜市立大学医学会、循環制御医学教室
「横浜医学」66巻1・2号より転載
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