第23回国際児童青年精神医学会(IACAPAP2018@Prague)

7月23日~28日までの5日間、チェコ共和国のプラハにおいて附属病院の藤田医師、戸代原医師、市民総合医療センターの山本医師が学会発表を行ってきました。藤田医師は初診患者のお子さんにみられるネット依存傾向と臨床症状や生活環境の関連を調査し口演を行いました。戸代原医師は初診時のお子さんの幻聴体験と幻視体験と自殺関連事象の関連性に関する調査結果についてポスター発表を行いました。また、山本医師は神経性食思不振症のお子さんに対する再栄養療法の入院治療でのアプローチについて検討した調査結果をポスター発表しました。諸外国の精神科医と議論ができただけでなく、日本からも多くの医師が参加しており、世界や日本の各地域の現状を共有できた貴重な体験となりました。

藤田医師発表内容

(藤田医師コメント)アジア各国の児童精神科医と一緒にネット・ゲーム依存の現状についてシンポジウムを行いました。横浜における臨床データから、インターネット依存の傾向は外来初診患者さんの半数にみられること、その傾向には抑うつや多動衝動性の特性、睡眠不足、不登校が関連することを紹介しました。このシンポジウムでは、新しく登場したPhubbing(スマホの使用;Phone+目の前の人への関心の希薄さ;Snubbingをあわせた造語)という概念がタイの児童精神科医から紹介され、活発な議論がなされました。該当する状態は世界中に広がっていて、友人・家族・同僚との本来あるべき関係を蝕んでいることは誰もが否定しえません。日本ではこの視点での議論があまりなされていませんが、皆で考えていく重要な社会現象だと感じました。次の国際学会は2年後にシンガポールで行われます。再び横浜発の精神医療の知見を紹介できるよう実践と研究を重ねていきたいと思います。

山本医師発表内容

(山本医師コメント)摂食障害の入院治療では段階的な経口摂取でのカロリーアップと行動制限を組み合わせた治療法が従来行われていましたが、経管栄養にて必要なカロリー摂取を短期間で達成させ、経口摂取までこぎつけない場合に訪問看護を導入して在宅での栄養状態を確保する急速栄養療法を附属病院で導入して3年が経過し、これらの従来型栄養療法と急速栄養療法の比較した結果を発表しました。私自身の発表に関し、各国の事情に則ったアドバイスを頂きました。また、回復に時間を要し長期入院を余儀なくされる例に悩む臨床医の生の声を聞き、我々感じるのと同様の困難さがあることを知りました。今回の研究が日本のみならず世界においても役立つことが感じられました。会場では、児童精神科医療に関係する各国の臨床医や研究者、また看護師や作業療法士、当事者など様々な立場の参加者がおり、活発な意見交換がなされていました。発達障害、ゲーム使用障害、移民に関連する問題など、各国に特有の問題、もしくは固有の問題があり、様々な研究や課題が発表されました。移民にまつわる精神医学的な問題は、日本ではあまり経験できないながら、日本在住の外国人の方にも当てはまる重要な視点と感じました。また、インターネットの問題使用に関してPhubbingという新しい概念を知ることができました。国際学会の参加は新鮮な情報や様々な視点や考え方に触れられる貴重な機会です。私にとって非常に有意義な経験となりました。この経験を実臨床や今後の研究に生かし、日本の児童精神医学の発展に寄与したい思います。

戸代原医師発表内容

(戸代原医師コメント)学会では、初診患者さんの中に幻聴体験者だけでなく、幻視体験者が意外と多いこと、これが自殺関連事象(自傷や自殺計画・企図)に関連していて注意が必要であることを紹介しました。プラハは歴史ある美しく趣きのある町で、まるで中世の世界にタイムスリップしたかのようでした。たくさんに方々にご協力頂いたおかげで、そんな素敵な町での学会に参加させて頂くことができました。自分の発表に対して様々な意見をいただいて、とても実りある学会となりました。各国の発表では、移民やストリートチルドレンについての問題の研究など、日本国内の学会ではなかなか学べないことも学ぶことができました。今後も視野を広げて勉強していきたいと思います。