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09.04.30

堀越洋輔博士(現・東海大医)らが、PAR-3とaPKC-PAR-6が上皮細胞のアピカル膜の形成過程に必要であることを見いだしました。さらに、両者の分子間相互作用が必要であることを見いだしました。

Interaction between PAR-3 and the aPKC-PAR-6 complex is indispensable for apical domain development of epithelial cells.
Horikoshi Y, Suzuki A, Yamanaka T, Sasaki K, Mizuno K, Sawada H, Yonemura S, Ohno S.
Journal of Cell Science, 122 (10), 1595-1606, 2009.

[09.05.13 紹介記事]

IN THIS ISSUE: Going apical with PAR-3.
J Cell Science, Volume 122, Issue 10, e1003, May 15 2009.

 上皮組織の形成や維持に際して、上皮細胞は極性化と脱極性化の過程を繰り返しています。また、がんの診断の基準は上皮組織の極性でもあります。従って、上皮細胞の極性の実体を明らかにする事が極めて重要です。
  上皮細胞の極性形成過程において、アピカル膜ドメインの形成は細胞接着装置(Adherens junctions, Tight junctions)の形成と並ぶ、二大イベントの一つです。私たちはPAR-3とaPKC-PA-6からなる分子複合体が、細胞接着に引き続いて細胞接着装置に集積し、細胞接着装置の形成を通じて、細胞極性の形成に根源的に重要な役割を果たすことを明らかにしてきました。しかし、上皮細胞の極性化に伴うもう一つの一大イベントであるアピカル膜形成への関わりの詳細は不明でした。 

今回、siRNAによりPAR-3をノックダウンした細胞を詳細に調べた結果、アピカル膜タンパク質のアピカル膜への輸送に異常が生じていることを突き止めました。さらに、PAR-3の様々な変異体をこの細胞に戻すことにより、PAR-3とaPKC-PAR-6との結合が、この過程に必要であることを突き止めました。

 上皮細胞が脱極性化すると、アピカル膜の成分は細胞内の特殊な小胞(vacuolar apical compartments (VACs))に取り込まれます。そして、極性化に際してアピカル面に輸送されます。この過程はTight Junctionなどの細胞接着装置の熟成過程と並んで、上皮細胞極性化の最も重要な過程です。同時に、上皮細胞が集団として組織を形成・維持していくときの最も重要な過程でもあります。PAR-3とaPKC-PAR-6複合体は、この過程にも必須の役割を果たしていることがわかったことになります。これまでの知見を総合し、図のような仕組みで、PAR複合体が上皮細胞の極性化の過程を制御しているものと考えています。

 おもしろいことに、PAR-3をノックダウンした細胞では、ひとつ一つの細胞の極性は一部保たれているにも関わらず、細胞集団であるシストを形成するときに、大きな異常が生じることもみいだしました。
  正常な上皮細胞(Control)をコラーゲンのゲル中で培養すると、一つの腔を有する「シスト」ができます。腔に面した側がアピカル面でF-actinが集積しています(緑色)。この系は上皮細胞が組織を作る過程を試験管内で再現できる貴重な系です。
  PAR-3をsiRNAによりノックダウンすると(PAR-3 kd)、本来一つの腔ができるべきところに、多数の腔ができる異常が生じました。これは、アピカル膜は、本来細胞間の接着のない管腔面にできるはずです。そのアピカル膜が、細胞接着装置の内側(ラテラル面)に形成されてしまった結果、多数の腔ができてしまったと考えられます。


大野茂男 (ohnos@med.yokohama-cu.ac.jp)
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