第2回 創薬シーズ開発研究会を開催します

第2回 創薬シーズ開発研究会を開催します

さて、今回も日本製薬工業協会のご協力をいただき、下記の研究会を催すことになりました。

この研究会によって、横浜市立大学を中心に、大学にある研究シーズを製薬企業の研究者、研究企画担当者に知っていただき、シーズ研究を応用に繋がる産学連携研究に発展させることができたらと考えています。今回も3名の先生方にプレゼンテーションをお願いいたしますが、研究シーズをお持ちで、シーズ研究を将来産学連携研究に発展させたいとお考えの先生方にはぜひご出席いただきたく、ご案内申し上げます。

 

第2回 創薬シーズ開発研究会

日 時:平成28年5月12日(木)

17:00~18:30

場 所:日本製薬工業協会会議室

〒103-0023 東京都中央区日本橋本町2-3-11

日本橋ライフサイエンスビルディング 7階

TEL:03-3241-0326

 

講 演:横浜市立大学 足立 典隆 教授

横浜市立大学 緒方 一博 教授

北里大学    片桐 晃子 教授

企  画:横浜市立大学

世 話 人:大野茂男、西島和三

企画協力:日本製薬工業協会研究開発委員会(創薬研究部会)

 

 

講演要旨:

ヒト遺伝子改変技術と創薬研究

横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 足立 典隆

 

近年、人工ヌクレアーゼを利用したゲノム編集技術が大変な脚光を浴びており、特にノーベル賞確実といわれているCRISPR/Casシステムは科学技術全般に革命をもたらしつつある。このような新技術が注目される最大の理由は、基礎研究から創薬研究、遺伝子医療まで幅広い応用が期待できる点にあるが、元を辿ればDNAの相同組換えを利用した遺伝子ターゲティング法(2007年ノーベル生理学医学賞)が未熟な技術であったということに他ならない。すなわち、相同組換えを利用した従来法では、目的とするヒト細胞株(ノックアウト細胞、ノックイン細胞、疾患モデル細胞等)を作製することはきわめて困難であった。この最大の要因は、細胞に導入したベクターDNA(ターゲティングベクター)が染色体のランダムな位置に挿入される反応(ランダム挿入)が遺伝子ターゲティングよりも圧倒的に高い頻度で起こってしまうことにある。我々は、ランダム挿入の頻度を低下させるための手法を開発するべく、(1)遺伝子導入条件の検討、特にベクター構造の最適化と、(2)細胞が備えるDNA二本鎖切断修復機構の解明に長年にわたり取り組んできた。(1)に関しては、新規マーカー遺伝子の開発(U.S. Patent 9,303,272)をはじめ一定の成果が得られたものの、ランダム挿入体を絶滅させるには至らなかった(reviewed in BPB,39:25-32,2016)。一方(2)ではalternative end-joiningとよばれるDNA修復機構の解析を通して、ランダム挿入反応に深く関与する因子を絞りつつある。こうした因子の阻害剤を開発できれば、理論上100%の効率で遺伝子ターゲティングを行うことが可能になると期待される。本講演では、ヒト遺伝子改変技術に関する我々の研究成果を紹介するとともに、創薬研究における遺伝子改変細胞の利用法や課題についても議論したい。

 

 

転写因子の活性制御機構と創薬への応用

横浜市立大学大学院医学研究科 緒方 一博

 

近年のがん治療は、手術、放射線療法、化学療法に加え、がん分子標的療法という全く新しいアプローチが選択肢に加わり、がん研究は新たな局面を迎えつつあると言える。しかしながら、がん分子標的療法が可能な標的分子は主としてリン酸化酵素などに限られているため、現状では発がん過程にリン酸化酵素の制御異常が関与する一部のがんが適応対象となっているに過ぎない。発がん過程では、リン酸化酵素などの酵素タンパク質のほか、Gタンパク質などのアロステリック制御タンパク質や転写因子なども主要な原因分子となっているが、これらの分子は未だにがん分子標的療法の対象とはなっていない。我々は、多くのがんにおいて変異した転写因子がドミナント・ネガティブな様式で標的遺伝子の転写制御の異常を惹起していることに着目し、標的遺伝子のエンハンサー上での転写因子高次複合体の形成制御機構を分子構造レベルで解析することにより、変異した転写因子の機能を阻害する薬物の開発を目指している。本講演では、転写因子を対象としたがん分子標的療法の可能性について議論したい。

 

 

 

Tリンパ球異常に基づく大腸炎・がん発症メカニズム

北里大学理学部 片桐 晃子

 

動的監視システムである免疫系は、活発に移動する免疫細胞が創出する生態系に支えられており、リンパ球の生体内移動は時空間的に厳密に制御されている。すなわち、血流を介して全身を移動しているリンパ球は、抗原情報を受け取るために、リンパ節に到達すると高内皮細静脈(HEV)と呼ばれる特殊な血管上で停止しリンパ節内に移動する。リンパ節内で抗原と出会うと活性化されエフェクター細胞へ分化するが、出会わなかったリンパ球は血流に戻り、再度リンパ節へ移動するということを繰り返している(リンパ球再循環現象)。このリンパ球再循環の制御は、リンパ組織の細胞数を一定に保ち自己寛容を維持する上でも重要である。何らかの理由により、リンパ球が減少すると、末梢リンパ組織にできた空間を埋めるまで、リンパ球の活性化・増殖が起こり、恒常性を維持しようとする。この際、自己反応性クローンが増大し自己免疫疾患を発症することが示唆されている。特に、腸管粘膜免疫システムは、常に腸内細菌からの刺激を受け恒常的微炎症状態であり、リンパ球の活性化と抑制の絶妙なバランスの上に成り立っている。従ってリンパ組織の恒常性が破綻すれば、直ちに病的過炎症状態へシフトし、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患を引き起こす。低分子量G蛋白質Rap1が、リンパ球の生体内移動の制御において中心的役割を果たすことを見出し、その下流シグナル分子群を同定し、それらをリンパ球のみで欠損させたマウスを作製すると、リンパ球減少症となり、様々な自己免疫様疾患を発症する。特に、Rap1をT細胞でのみ欠損させたマウスでは、生後数週間で下痢・腸重積、体重減少などの激しい大腸炎を発症するだけではなく、同時に高度異型腺腫の形成が認められ、大腸炎からがんへの急速な移行が生じる。本講演では、免疫システムの恒常性維持の仕組みとその破綻で生じる腫瘍化を伴う大腸炎について紹介する

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