第61回プロテオーム医療創薬研究会を開催しました
第61回プロテオーム医療創薬研究会を開催しました
【日 時】 2015年2月21日 (土) 14:30~17:30
【会 場】 和光純薬湯河原研修所
【参加者】 30名
題名:「グライコプロテオミクス技術の開発とその展開」
演者:川崎 ナナ
(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部部長)
要旨:糖タンパク質の糖鎖は、生物活性や体内動態等に影響を及ぼすことが知られているが、糖鎖の構造と機能の関係には不明な点が多い。しかし、一般的なプロテオミクスの手法では、糖ペプチドは共存するペプチドの妨害を受けて解析困難となることが多く、糖ペプチド選択的解析法が必要とされてきた。演者らは、アセトンを添加するという簡単な操作で糖ペプチドを濃縮し、グライコプロテオームを解析する方法を開発した。この方法により、小胞体やリソソームに従来の糖鎖生合成経路では説明困難な糖鎖をもつタンパク質が存在することを見いだした。今後、細胞内コンパートメントのタンパク質輸送の解明や、疾患等との関係の解明につなげたいと考えている。また、免疫沈降反応とアセトン法を組み合わせることにより、これまで困難であった膜糖タンパク質の糖鎖を解析できるようになった。現在、個別化医療や抗体医薬品有害反応のリスク低減につながることを目指して、EGF受容体の糖鎖とセツキシマブ等抗EGF受容体抗体の反応性の関係を解析している。
題名:「in vitroでの精子形成」
演者:小川 毅彦 (横浜市立大学 生命医科学研究科 教授)
要旨:精子形成は、精子幹細胞が精子になるまでの細胞分化の過程であり、1か月以上の長期に亘っており、減数分裂と精子への形態変化を含んでいる。演者らはマウス精巣組織を培養することで、その全過程を培養下で再現することに成功した。その技術を手掛かりに、より効率的な培養系の開発と、精子形成メカニズムの解明に挑んでいる。培養条件の改良においては、物理的な条件と化学的条件(培養液の組成)の両面から改良に取り組んでいる。本会では、その進展と苦心している点について紹介した。
題名:「ゲノム編集技術を用いた培養精子幹細胞株の遺伝子改変」
演者:佐藤 卓也(横浜市立大学 生命医科学研究科 特任助教)
要旨:精子幹細胞は、ほ乳類のオスの継続的な精子形成を支える細胞である。マウス精子幹細胞は、in vitroにおいて長期間増殖させる方法が確立しており、精子形成を研究するための重要なツールとなっている。しかし、培養精子幹細胞株は、遺伝子改変が大変難しいことが欠点となっている。今回、演者らは、近年めざましい発展を遂げているゲノム編集技術が、培養精子幹細胞株に対して有効かどうか検討した。
題名:「翻訳後修飾プロテオーム解析による疾患関連タンパク質の解析」
演者:木村 鮎子(横浜市立大学 生命医科学研究科 特任助教)
要旨:タンパク質の機能状態を反映する様々な翻訳後修飾に焦点を当てた翻訳後修飾プロテオーム解析技術の応用例として、リン酸化・ユビキチン化修飾の変化に着目して、疾患の病態機構やタンパク質複合体の機能調節などに関わる翻訳後修飾の探索と機能解明を目指した研究について紹介した。
題名:「血液診断に有用な腫瘍マーカーの開発」
演者:荒川 憲昭(横浜市立大学 生命医科学研究科 助教)
要旨:血液から直接的にマーカー蛋白質を見いだすことは血中蛋白質のダイナミックレンジの広さから極めて困難とされている一方で、細胞が分泌する蛋白質は血中に混入する可能性が高いことから、血液診断マーカーとして利用できると期待されている。しかし、実際には新規バイオマーカーに適応可能な疾患特異性を有する細胞外分泌蛋白質は極めて少ない。本会では、プロテオミクス手法を基盤とした新規マーカー蛋白質の探索について解説があった。
題名:「タンパク質の翻訳後修飾の解析」
演者:木村 弥生(横浜市立大学 先端医科学研究センター 准教授)
要旨:巨大タンパク質複合体であるプロテアソームの翻訳後修飾解析、Phos-tag技術を用いたリン酸化プロテオミクス解析、プロテオーム解析センター独自の翻訳後修飾情報や外部データベースの翻訳後修飾情報を効率的に入手するために開設したModProtなどについて紹介があった。
公立大学法人横浜市立大学
プロテオーム科学 教授 平野 久