広報誌・コラム

コラム「検査のはなし」


尿・血液検査、血液型・輸血、あるいは心電図や超音波(エコー)にまつわる一般的な話から新しい情報まで、
臨床検査部の医師や技師が交代で執筆しています。

 掲載日  タイトル  関連分野
 2008年  
 11月27日  一遺伝子多型とオーダーメイド医療-その3-  分子生物
 10月8日  一遺伝子多型とオーダーメイド医療-その2-薬効について  分子生物
 9月3日  一遺伝子多型とオーダーメイド医療-その1-  分子生物
 4月15日  C型肝炎について  免疫/輸血
 3月6日  自己血輸血について  輸血
 2月1日  臨床検査の精度管理  検体検査
 2009年のコラム2007年のコラム2006年のコラム2005年のコラム

2008.11.27
一遺伝子多型とオーダーメイド医療‐その3-

【肥満やメタボリック症候群と関係する一遺伝子多型(肥満は遺伝するの?)】
先日街で、大きなリンゴのようなお父さんと、お父さんのミニ版いわば姫リンゴのような子供が仲良く並んでいるのを見かけました。(メタボ大丈夫かな・・・)
親子の体型がそっくりなのはよくある光景ですが、やっぱり体型も両親からの遺伝で決まってしまうのでしょうか?

まずは、どうして肥満になるのかを考えてみましょう。

安静にしていた時に消費されるエネルギー量を「基礎代謝量」といいます。 運動など体を動かすことによって更にエネルギーが消費されますが、 これらの消費量以上にカロリーを摂取してしまうと、使いきれない分は脂肪として体に蓄えられます。 これが肥満の原因です。 基礎代謝量が少ない人は消費されるカロリーも少ないため、体に蓄える分が多く太りやすくなります。

最近の研究で、この基礎代謝量を左右する遺伝子があることが分かってきました。 この遺伝子は「肥満遺伝子」と呼ばれ、現在50を超えるタイプが確認されています。 これらにも一遺伝子多型(SNPs)があって、基礎代謝量や脂肪のつき方に差がでてきます。

日本人に特に関係する3つの肥満遺伝子とそれが変異したタイプの特徴を下の表にまとめました。
肥満遺伝子の表(←クリックすると大きく表示されます)

肥満遺伝子によって決まるのは『太りやすい体質』ということで、肥満そのものが遺伝するわけではありません。 どの遺伝子型でも余分なエネルギーがなければ脂肪は溜まらないはずなのです。
とはいえ、便利で美味しいものがあふれている中で生活習慣を見直すのは難しいものですよね。 しかし肥満はメタボリック症候群や糖尿病といった生活習慣病を引き起こすことが知られています。

遺伝子と聞くとなんだか難しいイメージですが、 表にある3つの肥満遺伝子タイプは1滴程度の血液で短時間に調べることができます。 わたしたちの検査室でも実施しており、理化学研究所と共同研究をおこなっています。 この検査は自分の体質の傾向を知ることができるので、効率よく脂肪を減らす生活のきっかけになったり生活習慣病になる人を減らすお手伝いができる検査ではないかと考えています。 あなたも、 「親が太ってるから私も痩せないのよ!」とか、 「どうせ遺伝なんだから諦めるしかない!」なんて思っていませんか。 生活を見直せば、リンゴ型の親子もごぼうみたいな親子に変身するかもしれませんよ。

分子生物室
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2008.10.8
 一遺伝子多型とオーダーメイド医療-その2-薬効について
反応カーブ
お酒の分解と同様に薬の分解能力も一人一人違います。しかし病院では、同じ量を一日3回5日間、といったような処方をされますよね。 薬によっては用量を厳密に調節しなければならないものがあります。血中濃度を測定し濃度を安定させるといった管理方法もありますが、薬の濃度の測定が困難であったり、効果が出る前に薬の重篤な副作用が出てしまう場合もあります。

一つ例を紹介しますと、“納豆を食べると効果が無くなる”事で有名な薬「ワーファリン」(抗凝固作用により脳塞栓等の血栓を予防)があります。これは、主に二つの遺伝子多型(ビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1) および チトクロームP450 2C9(CYP2C9)) の組み合わせにより個々人の薬の量が決まってきます。日本人の多くは中程度の効き具合ですが、約20%の人は効きが悪いためやや多めの薬が必要、数%の人は少量でも非常に効く、という事がわかりました。これは、経験的な臨床用量と一致しています。

現在、当検査部でも理化学研究所(http://search-asp.fresheye.com/?ord=s&id=10687&kw=%82r%82l%82%60%82%90) と共同研究で、ワーファリン関連遺伝子の検査を行なっています。ご希望の方はご連絡下さい。

一方、薬の効果は量だけでなく、効果がある人・無い人がいる事もわかってきました。 ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は、一部の肺がんに有効とされていますが、効果がある人は上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異がある人だということがわかってきました。 このように、薬効に関係した一遺伝子多型(SNPs)を解析し、個々の患者さんに最適な薬の種類と量が決められるオーダーメイド医療の時代が直ぐそこまで来ています。

分子生物室
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2008.9.3
一遺伝子多型とオーダーメイド医療-その1 - SNPって何?-
酔っ払い
今回のテーマは、一遺伝子多型 (SNPs:Single Nucleotide Polymorphisms)、つまり、遺伝子の個人差のお話です。お酒の強さは、生まれ持った体質(=遺伝子)によることは、皆さん感じていますよね。
アルコールは、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドへと代謝されます。そしてアセトアルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸となって排出されます。この解毒・分解能の違い =遺伝子的個人差 により、お酒の強さが決まるわけです。
日本人では、DNA配列が一塩基異なる GAA (ALDH 2 * 1)と AAA (ALDH 2 * 2) があり、私たちの遺伝子は両親から一つずつ受け継ぎ1対になっています。

両親から
・GAA を一つずつ受け継いだ人(GAA + GAA) → お酒を普通に飲める
・GAA と AAA を一つずつもらった人(GAA + AAA) → 多少飲める
・AAA を一つずつ受け継いだ人(AAA + AAA) → アセトアルデヒドをほとんど分解できずに蓄積し、皮膚紅潮、悪心が起こるためお酒がほとんど飲めない。

このようにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)には、
・GAA + GAA(日本人では約50%)
・GAA + AAA(同約40%)
・AAA + AAA(同約10%)
の3種類が主に知られています。

一方、はじめにアルコールをアルデヒドに変えるADH2にも遺伝子多型がありますが、 日本人は、比較的活性が強い型が多いようです。
このように、一遺伝子多型(SNPs)が、両親から受け継いだ“体質”を決めていると言ってもいいかもしれません。お酒の解毒・分解と同様に薬の解毒・分解能力も一人一人違います。
次回は、一遺伝子多型と薬効との関係についてお話します。次の次は、皆さんにも関係する?肥満やメタボリック症候群と関係する一遺伝子多型についてお話する予定です。  
分子生物室
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 2008.4.15
C型肝炎について
今回は最近、報道等で話題になっているC型肝炎についてご紹介します。

もともとC型肝炎は輸血後非A非B肝炎として20年以上前から存在が疑われていましたが、原因のウイルスは、なかなか発見されませんでした。
1989年にアメリカ合衆国の研究者グループによってウイルスの遺伝子断片が発見され、C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus: HCV)と命名されました。 この発見を機に非A非B肝炎の多くの原因がHCVであることが確認され、HCVが原因の肝炎をC型肝炎と呼ぶようになりました。 以後、HCVに対する抗体検査の進歩により、輸血による感染は防ぐことができるようになり、現在の日本では輸血後C型肝炎はほとんど発生しなくなりました。 しかし、すでにこのウイルスに感染している方は、国内に約200万人以上存在すると考えられています。

個人差はありますが、一旦C型肝炎ウイルスに感染すると、急性肝炎から高率に慢性肝炎へと移行し、約20〜30年を経て肝硬変や肝臓癌に進行すると考えられています。

肝臓は沈黙の臓器と言われ、医療機関を受診しない場合、肝硬変や肝臓癌へ進行しなければ症状が出ないことがほとんどです。現在でも年間3万人もの方が、HCVが原因の肝臓癌で亡くなっています。

C型肝炎の治療はウイルスの発見後少しずつ進歩を続け、現在ではペグインターフェロンという注射とリバビリンという飲み薬を組み合わせた治療によって、半分以上の方が治癒できるようになってきました。肝炎の程度が軽いほど、また年齢が若いほど治りやすいこともわかってきました。C型肝炎が治癒できれば、HCVが原因の肝臓癌はほとんど防ぐことが可能です。 ここまで癌の発生を予防できるようになった病気は、他に存在しないと言っても良いでしょう。

横浜市では以前より、血液検査で抗体の有無を判断する無料のC型肝炎検査を行っており、症状の出ないC型肝炎の患者様を早期発見する努力を続けてきました。また、4月1日より全国で肝炎インターフェロン治療医療費助成制度が開始されており、従来より高額(保険診療で年約100万円の負担)となっていたインターフェロン治療がおよそ半分以下の負担で受けられるようになっています。 特に40歳以上の方は是非、一度検査をお受けすることをお勧めします。

臨床検査部
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 2008.3.6
自己血輸血について
 自己血輸血について 当院では、同種血輸血(他人の血液)による発熱、じんま疹や輸血後肝炎等の副作用・合併症を防ぐ目的で、患者様御自身の血液を採血し、手術時等に輸血する自己血輸血を積極的に実施しています。

自己血輸血は輸血するすべての成分が自己由来なため、未知のウイルス等を含めて輸血後感染症の心配がありません。 最近の薬害肝炎報道等で、その安全性が見直されています。
その他、血球成分以外の成分も無駄なく体内に補充できるといったメリットもあります。

現在、年間400人以上の患者様が自己血輸血のための採血を行っており、採血量、使用量(実際に輸血した自己血)も年々増加しています。 臨床検査部輸血管理室では、火曜日午前、水曜日午後、木曜日午前に予約制の自己血外来を行っています。輸血専任医師、看護師、技師によるチーム体制で実施しており、ゆったりとした気分で採血を受けていただけるように、リクライニングシートを用意しています。
基本的には手術日からさかのぼって予約を行い、必要な血液量に応じて週1回、1回あたり200-400mlのペースで採血します。採血した血液は特殊な保存液と混ぜて保存するため、4℃で最長35日間の保存が可能です。 また、赤血球の数に応じて鉄剤の内服と造血ホルモン(エリスロポエチン)の皮下注射を加えて、貧血の進行を防ぎます。
その他、輸血管理室以外でも、自己血採血を行っている診療科もあります。手術の予定があり、御希望の方は担当医にご相談していただきたいと思います。

今回は自己血輸血について簡単にご紹介しましたが、献血者数は年々減少の一途をたどり各種血液製剤の確保が難しくなっています。 皆様、献血のご協力をお願いいたします。

輸血管理室
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2008.2.1
臨床検査の精度管理
そもそも臨床検査とは、検査項目の基準値に対して、患者さんの現状がどのような状況であるか、傷病の状態を評価するものです。特定検診では、これによって自分の今の健康状態を正しく知ることができるわけですが、そのためにも検査結果が正しいこと、検査結果の評価が正しいことが大前提となります。つまり信頼性のある結果を得るためには、臨床検査の精度管理というものが重要となってくるのです。

臨床検査における精度管理とは、「より正確に検査が行われるようにする」「より正確に検査結果が評価されるようにする」の2つの側面があります。

まず、正確に検査が行われるようにするためには、何に気を付けることが重要でしょうか?
今回の健診プログラムでも指摘されているポイントを簡単にまとめると、
・健診者は、健診前の注意事項を必ず守って健診を受けること。
 (検査前の食事については、健診前10時間以上は、水以外のすべての飲食物を摂取しないこと!)
・健診実施機関は、ガイドラインに従って採血を適切に行うと共に、採取した検体の取り扱い、保存管理方法、搬送方法などについて最善の注意を払うこと。
・測定の方法は、決められた試薬や装置を使うこと。
などがあげられます。

また、より正確に検査結果が評価されるようにするために、どのようなことが検討されているのでしょうか。

まず、評価基準の見直しがあります。現在、健診を受けた機関ごとに検査法、検査機器や試薬等の違いにより基準値(正常値)、検査の測定値や健診判定値が異なることもあり、異なる健診機関の間では一律に比較することは困難でした。
今後の新たな特定健診では、複数の健診機関での検査結果のデータを一元的に管理し、リスクの高いものから優先的に保健指導をしていくことになるため、共通の健診判定値の設定や健診項目毎の検査測定値の標準化が検討されています。
また、健診項目の判定基準値については、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧症,高脂血症等の関係する学会のガイドラインとの整合性を確保することも必要となります。
以上の様な点において臨床検査の精度管理を十分に実施することにより、特定健診がより一層皆さまの健康管理に役立つものになるといえるでしょう。

附:健診検査項目と判定基準値[PDF]

臨床検査部
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