広報誌・コラム

コラム「検査のはなし」


尿・血液検査、血液型・輸血、あるいは心電図や超音波(エコー)にまつわる一般的な話から新しい情報まで、
臨床検査部の医師や技師が交代で執筆しています。

 掲載日  タイトル  関連分野
 2007年  
 9月8日  なんだか手足の関節がこわばっていませんか  免疫
 8月7日  男の悩み  免疫
 5月28日  大人にはしか?  免疫/微生物
 3月23日  乳がんと検査  超音波
 3月9日  コンビニ世代も要注意-食中毒について-  微生物
 2月23日  ITと臨床検査  情報
 2月9日  骨元気?・・・体のなかのCa(カルシウム)  生化学
 1月26日  万能選手〜人工血液のあれこれ  輸血
 1月1日  皆さんはどんな2007年をお迎えですか。  全体
 2009年のコラム2008年のコラム2006年のコラム2005年のコラム

2007.9.8
なんだか手足の関節がこわばっていませんか
あなたは、リウマチを知っていますか?    

ほとんどの人がリウマチという名前はよく聞くが、どんな病気なのかは詳しくは知らないというのが現状だと思います。  

関節リウマチの概念・定義は、からだの多くの関節に炎症が起こり、関節がはれて痛み、長期間にわたって進行すると関節の変形と機能障害が起こる病気とされています。  
疫学的には日本の人口の0.4〜0.5%、男性より女性に約3倍多く、HLA(白血球抗原)のDR4を持つ人に多く認められています。
年齢階層別では、30歳代から50歳代で発病する人が多く、30歳以上では1%にあたる人がこの病気にかかっているといわれています。15歳以下で発病したときは若年性関節リウマチと呼ばれています。  
関節リウマチ(←クリックで大きく表示されます)
現在のところはっきりとした病因は不明です。病態としては、微生物の関与などなんらかの原因により、関節腔の内面を覆っている滑膜細胞の増殖が起こり、関節の血管が増加し、血管内から関節滑膜組織にリンパ球、マクロファージなどの白血球が遊走します。関節局所で免疫応答が起こり、白血球が産生するサイトカインの作用により炎症反応がひきおこされ、軟骨・骨の破壊が進行します。  

初期症状は、微熱がつづく・体がだるい・顔色が悪い・体重が減る・気分がすぐれない・イライラする・汗をかきやすい・手足がしびれるなどです。
以上のような症状なので、風邪や自律神経失調症と間違えられることも多いようです。

また病気が進行すると関節の骨や軟骨が破壊されて関節の変形が起こり、関節を動かせる範囲が狭くなります。最終的には骨どうしが癒着して、関節の機能を完全に喪失します。これは「関節の破壊」と呼ばれています。このため早期発見・早期治療で、関節の変形を抑えることが大切です。  

一般的に、関節リウマチの診断にはアメリカリウマチ協会の診断基準が使われ、
1)1時間以上続く朝のこわばり
2)3個所以上の関節の腫れ
3)手の関節の腫れ
4)対象性の関節の腫れ
5)手のエックス線写真の異常所見
6)皮下結節
7)血液検査でリウマチ反応陽性
以上のうち4項目以上を満たすもの(ただし1〜4までは6週間以上持続すること)となっています。  

臨床検査の分野においてリウマチの診断に用いられている検査としては、血清のリウマチ反応(リウマトイド因子:RF)・血沈・CRP・抗ガラクトース欠損IgG抗体(CARF)・抗CCP抗体・超音波(血流シグナルで炎症をみる)などが行われています。  

RFは熱変性させたIgGを抗原として用いているのに対し、CARFは関節リウマチ患者にみられるガラクトース欠損IgGを抗原とする検査で、いずれも血液中の自己抗体を測定する検査です。RFに比べCARFはリウマチなのに陰性となる症例が減少し、さらに早期関節リウマチ患者での陽性率向上がいわれています。  
抗CCP抗体の正式名は、同様に抗シトルリン化ペプチド抗体という自己抗体を測定する検査です。最近、保健収載された新しい検査で、リウマチに対する感度・特異度に優れ、発症早期やRF陰性例にも有用であるといわれています。  
また、リウマチの進行を知るための検査としてはMMP-3の測定が行われています。MMP-3は正式名をマトリックスメタロプロテイナーゼ-3といい、滑膜の増殖に伴い滑膜表層細胞で発現・産生される酵素です。MMP-3は滑膜増殖の程度を反映するのでリウマチの進行を知るための検査として重要です。  

関節のケア最後にリウマチ患者の生活上の注意としては、安静をたもつことが大切です。リウマチの活動性が高い時は微熱があり、疲れ易くなります。リウマチは関節だけでなく、全身が消耗する病気ですので睡眠を十分にとり、昼間も疲れたら昼寝をしたり休息をとることが必要です。また1日1回は関節可動域を十分に動かすことが望まれます。

採血室担当 Y.Morishige (情報室編集)

(本稿は平成19年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです。)
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2007.8.7
男の悩み
格差社会といわれて久しいこの世の中、“男”には男にしかわからない悩みもままありますね(笑)。今回は、我が国において急増する前立腺癌についてお話ししたいと思います。    

前立腺癌は名前のとおり、“前立腺”という男性にのみに存在する器官に発生する悪性腫瘍をさしています。この悪性腫瘍は、肺癌とともに世界で最も罹患率の高い癌の一つで、アメリカでは男性の癌の中で死亡率第2位、罹患率第1位となっています。  
おじいさんのイラスト人種的な特徴としては黒人が最も多く、次いで白人、アジア系人種は比較的少ないといわれています。しかし、本国でも高齢化社会の到来、食生活の欧米化などの影響から近年急増する傾向にあり、50年前と比べると死亡率はなんと17倍、現在では、我が国の男性の全癌の中で、死亡率第7位、罹患率第5位となっています。
さらに「がんの統計2005」によると、前立腺癌はこのまま増え続け、2020年には死亡率は肺癌に次いで第2位になると予測されています。  
前立腺癌罹患率を年齢階層別にみると、50歳以降加齢とともに急カーブで上昇し、80歳以上の高齢者群ほど急激に増加しています。この要因の一つには日本人の平均寿命が延びたことも関係が深いといわれています。    

前立腺癌の症状は、初期は無症状で、徐々に頻尿、残尿感、排尿困難が生じますが、その症状も良性疾患である前立腺肥大症と区別が付きにくいとされています。前立腺癌は症状が出てきた頃には病状はかなり進んでいると考えられるため、初期段階で前立腺肥大症と区別をつけ、適切な治療をすることが重要になります。そこで、前立腺疾患の血液検査として重要なものの一つに血清PSA測定があります。  
採血PSA(prostate specific antigen)は主に前立腺上皮と傍尿道腺から産生される酵素の一種です。90年代半ばからPSAを中心とした前立腺癌スクリーニングが盛んになり、早期発見に一番優れた検査法として普及してきました。しかし、PSAは感度が高い反面、特異度が低いことが指摘され、現在ではそれを補う方法が検討されています。  前述のごとく、PSAはほぼ前立腺特異的な酵素ですが、前立腺の“癌”に特異的なものではなく、前立腺肥大症でも上昇します。したがって、前立腺癌と前立腺肥大症が混在する、測定値4〜10ng/mlのいわゆるグレーゾーンが問題になってくるわけです。そこで両者を識別するためには、F/T(free PSA/total PSA)比が有用であると提唱されています。  これは、PSAの多くは血中では主にα1−アンチトリプシンと結合して存在し、一部が遊離型のfree PSAとして存在していますが、前立腺癌ではfree PSAが減少し、結合型PSAが増加するため、F/T比は低下します。他方、前立腺肥大症ではF/T比が増加するため、鑑別が可能になるのが理由とされています。  

さらに、PSAは上述したスクリーニングマーカーとしてだけではなく、予後推定のモニタリングマーカーとしても重要視されています。前立腺癌は早期であれば比較的予後の良い疾患です。したがって治療の効果を継続的にモニタリングし、病態を把握することが重要になってきます。PSAは臨床的な再発、再燃に先行して上昇するため、これをフォローすることにより長期予後を推定することが可能になるわけです。一般的には、前立腺全摘後ではPSAは理論上ゼロになることから、感度以上を示した時点でPSA再発、放射線治療法や内分泌療法後では3回連続のPSA上昇をもってPSA再発、PSA再燃と定義されています。    

前立腺癌の予防法としては、まず食生活面では肉類を減らし、魚や野菜、豆類を中心にした食事にすることが大切です。また、通常PSA検査の適齢期は50歳以上とされていますが、近親者に前立腺癌罹患者がいる場合は、リスク管理の見地からも40歳を過ぎたら検査することをお勧めします。

検体検査担当 W.Masako (情報室編集)

(本稿は平成19年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです。)
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2007.5.28
大人にはしか?
初夏の候。  
最近この病気による大学の閉鎖が盛んに報道されていますが、実際、成人の感染が増加しているようです。「はしか」は子供の病気と考えていませでしたか?  
はしかウイルス「はしか」とは麻しんウイルス(右写真)が原因となって起こる感染症のことです。麻しんウイルスは飛沫・空気感染し、感染力が非常に強いことで知られています。残念ながら(インフルエンザにおけるタミフルのような)特効薬はなく、治療は対症療法に限られています。  

潜伏期間は約10日。発熱・咳・鼻水など「風邪」に似た症状が続き、その後いったん熱は下がりますが、再び高熱が出て全身に発疹が現れ、4〜5日続きます。その後発熱はおさまり、発疹は色素沈着を残して治癒しますが、重症な場合には肺炎や脳炎の合併、また乳児や成人では重篤になることがあるため注意が必要です。  
「麻しん」の予防にはワクチン接種が有効です。  
ワクチンを接種することにより、体内でウイルスに対する抗体が産生されます。抗体というのは私たちの体が作り出す免疫物質であり、病原体あるいはそれらを弱毒化したワクチンが体内に入ってきたときに作られ、私たちを病原体から守ってくれる、いわば自家製の薬のようなものです。    

では予防接種が一般化されている今日、何故このような大流行が起こったのでしょうか?その背景にはいくつかの要因が考えられているようです。  その一つに、今回の流行の中心層である現在の20歳前後は、特殊な年齢層であるということが挙げられています。  
本国では、1988年から1993年まで「麻しん」、「流行性耳下腺炎」、「風疹」の生ワクチンが混合された、三種混合ワクチンが接種されていました。しかし、この混合ワクチンは副作用の発生率が当初の想定より高く、社会的にも混乱を引き起こしていました。これにより、この世代のワクチン接種率は他と比較して低いという要因があるようです。 この世代が20年経た現在、大学生の構成中心層になっていると言うわけです。さらに、ワクチン接種により抗体を得たとしても、その後にその病原体あるいはワクチンが長期間体に入ってこないと、徐々にその効力(抗体価)が落ちてくると考えられています。  
以前は、周囲の自然流行によって麻しんウイルスに何度か接する機会があり、そのために持続的に抗体が体内に保有されている状態でした。しかしここ数年は予防接種が普及した結果、「はしか」の自然流行が少なくなり、ウイルスに接する機会が減ってしまったため、体内の抗体が低下あるいは消失してしまった成人が多いと考えられています。  

一般的に、ワクチンの効果は接種後10年程度しか期待できないと考えられています。つまり、幼少時にはしかのワクチンを接種していても、決して安心できないのです。  この問題点を解消するため、現在では、1歳時と小学校就学前1年間の2度の「麻しん・風疹混合ワクチン(2種混合ワクチン)」の接種が予防接種法により定められ、高い抗体価が維持される(ブースター効果)仕組みが確立されています。  

ともあれワクチンによる副作用を気にされる方もいらっしゃるでしょう。しかし、「はしか」にかかったらどうしよう?とおびえて過ごすのもストレスですね。まずご自身に抗体があるかどうか検査してはいかがでしょうか?  
HI法抗体価はHI法(赤血球凝集抑制反応法:左写真)、EIA法(酵素免疫反応法)などの血液検査で簡単に検査することができます。ただし保険適用とならないため、料金は医療機関によって異なります。お近くのクリニックや病院に、検査可能か、可能であれば料金はいくらか、予め確認するのがよいでしょう。そして検査の結果、不幸にも抗体がないことが判明した場合には早めのワクチン接種をお勧めいたします。  

余談ですが、現在妊娠中の方はおなかの赤ちゃんへの影響がさぞご心配なこととお察しいたします。しかし「麻しん」は「風疹」とは異なり、胎児の発育に直接影響することはないといわれています。ただし感染すると流産・早産の危険があるとのことで注意が必要だそうです。 抗体がない場合でも妊娠中にはワクチン接種はできませんので、免疫グロブリン製剤を投与することになるそうですが、まず感染を避けるために人ごみを避けて過ごしたいものですね。

微生物検査室担当 F.Yoshimi・情報室委員
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 2007.3.23
乳がんと検査
最近、乳がんについての記事や報道をよく目にします。  

では、日本の現状はどうなのでしょうか?  
現在、日本では25〜30人に1人の割合で乳がんを発症すると言われています。乳がんで亡くなる女性は年々増え、女性の死亡原因の第4位、30〜64歳では第1位となっています。  

先日、新聞記事にて日本人の乳がんリスクについての厚生労働省研究班の分析結果が掲載されていました。  
それによると、「初潮が早い」、「出産経験がない」、「少子化」、「身長が高い」、「体格指数(BMI)が高い」などが乳がんのリスクとしてあげられており、個人で予防できるものは肥満のみでした。    

乳がんの発現には女性ホルモンが関与していると言われています。現代の女性は、昔に比べ体格も良くなっており、初潮から閉経までの期間が長いことや、高齢出産や少子化などでエストロゲンの影響を受ける期間が長くなっていることが考えられます。女性の誰もが罹る可能性のある病気であることから、自己検診や定期的な乳がん検診は非常に有用です。    

しかし、厚生労働省研究班の追跡調査によると、マンモグラフィーと視触診併用での乳がん検診において、40代では3割近くの乳がんが見落とさてれいる可能性があることがわかりました。これは、日本の乳がん罹患率は40代にピークがあるといわれていますが、40代では乳腺密度が濃く、マンモグラフィーに腫瘍が写りにくいことが理由として考えられているそうです。  

このような影響をカバーする検査としてエコー検査の有用性が期待されています。昨今では、乳がん検診にエコー検査を取り入れている自治体も一部ですが出てきているそうです。  
当院検査室におきましても、2007年1月に乳腺エコー用の高水準超音波診断装置が導入されました。今後も診療科と共に、乳がんの早期発見・早期診断に努めてまいります。
ピンクリボン
*ピンクリボンは乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを伝えるシンボルマークです。

生理機能検査室 Y.Hiromi
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 2007.3.9
コンビニ世代も要注意!
 最近、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)という細菌による劇症型感染例が日本でもちらほら報告されるようになってきました。  

この細菌は塩分を好み、海や河口で暮らしています。水温が20℃を超える頃になると活発に増殖を始め動物プランクトンに付着、その後はそれらをエサとしている魚介類が汚染されるという食物連鎖のサイクルの中で広がっていきます。  
汚染が確認されている主な魚介類としては、マグロ、アジ、カキ、アサリ、シャコ、イカなどがあげられます。中でも、日本人が生食を好むカキに関しては、日本近海産のものだけでなく輸入品からも本菌の検出が確認され、30%が汚染されているともいわれています。  

ヒトへの感染は、汚染された魚介類の生食、皮膚に傷がある状態でそれらを調理した場合、汚染水域で海水浴した場合などに成立すると考えられています。  

とはいえ、健康な人が感染した場合はせいぜい腹痛や下痢程度ですみますが、この菌は体内で増殖するときに鉄分を必要とするために、鉄分を貯蔵することができない慢性肝疾患や貧血などの基礎疾患を持っている人や免疫力が低下している人が感染すると、発症・重症化する可能性があるといわれています。  

潜伏期間は6〜48時間で、壊死性筋膜炎により手足の激痛を伴う水泡形成・壊死などの特徴的な症状があらわれます。その時点で手足を切断したとしても急激に悪化することが多く、致死率は70%程度といわれています。    

このような症状から、ビブリオ・バルニフィカスは別名「人食いバクテリア」とも呼ばれていますが、とにかく早期診断・早期治療が重要になってきます。  
ビブリオ・バルニフィカスこの菌による感染が疑われるケースでは、まず血液検査を行います。体内の組織が破壊されたときなどに上昇するクレアチンキナーゼ、炎症物質であるCRP等の上昇がみられます。 また、手足の壊死部の膿をガラスの板に塗りつけ、さらに見やすいように菌を染色して顕微鏡で観察すると、左写真のようにピンク色でコンマ状に彎曲した細長い細菌がみられます。この形状はビブリオ属に特徴的なものです。  
A群溶連菌ひと昔前に世間で騒がれた人食いバクテリアであるA群溶連菌も同じような症状を示しますが、右写真のように青色で連鎖状の球形菌なので、ビブリオとは簡単に鑑別することができます。  

今はお酒の飲みすぎで肝硬変を患っている40代〜60代の男性が主に感染のターゲットになっていますが、今後はインスタント食品の食べ過ぎにより肝障害を起こしているといわれる20代〜40代のコンビニ世代も犠牲にならないとも限りません。年老いてからも安心して生ガキを食べたいのであれば、飲酒はほどほどにして、バランスのよい食生活を送り、肝臓を大切にするよう心がけましょう。

(本稿は平成18年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです)

微生物検査担当 F.Yoshimi (情報室編集)
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2007.2.23
ITと臨床検査
windows vista「ウインドウズ・ビスタ」が発売されました。ウインドウズ95が登場したとき以来の大変革といえるようです。操作性の向上、検索機能の向上、セキュリティーの強化、AV機能の拡充が特徴として挙げられています。

今回は、臨床検査における情報システムについてお話したいと思います。  

臨床検査分野における情報には、患者個人情報をはじめ各種分析装置からの測定結果、検体情報、精度管理情報などがあります。これらのすべてを統合し、迅速に且つ正確な情報を臨床へ報告するのが臨床検査情報システムです。これを可能にしたのはコンピューターの登場であり、その進歩とともに今の臨床検査情報システムがあります。  
1950年代に入り、ほとんど手作業で行われていた臨床検査が少しずつ、機械化され始めました。ある領域では分析装置から短時間に膨大な量のデータを得られるようにまでなり、この処理の効率化が課題となりました。そこで、コンピューターの利用が始まり、短時間で効率的な臨床検査が可能になりました。  
1970年代も後半になると、これまで指数関数的な増加をしていた臨床検査も医療経済上の制約を受け、システムも単なる効率化ではなく、経済性に見合うものが求められるようになりました。この頃には、ほとんど全ての臨床検査が自動分析で行われるようになり、膨大なデータの処理には大規模なシステムでなければ対応できない状況になってきました。  
臨床検査システムそこで、各種分析装置を結合させることにより有効に使い、また大量のデータを活用するために臨床検査情報システムが構築されたのです。  

現在では、検査結果の迅速報告や精度保障のために臨床検査情報システムは総合的・統合的なものになってきています。また、病院内の様々なシステムとも統合し、病院全体としてのネットワークを形成し、有益な診療に貢献しています。  

さらに将来的には、臨床検査情報システムは病院ネットワークを利用した臨床との高度な連携が想定されています。例えば、蓄積されたデータベースを利用した検査結果の解釈による臨床診断支援などです。  
その一方で、システムが高度化すると小さなトラブルも増幅し、深刻な問題に発展する可能性も指摘されています。それが、臨床への検査結果報告の遅れにつながり、診療を滞らせ、結果として患者様が不利益を被ってしまうことになります。  
これを避けるためにも、周到なトラブル対策を講じる必要があります。例えば、システムを二重化することで、トラブル時にはすぐにメインと同等のシステムに切り替わる工夫をし、これを達成しています。  

今回は、臨床検査情報システムについて簡単にお話してきました。臨床検査は、高度なシステム化により診療がスムーズになるような方向へ発展を遂げてきました。  

しかし、ここで強調しておきたいのは臨床検査システムの発展はすべて患者様へのサービスのためであり、私たち臨床検査技師が楽をするためではないことです。これをいつでも肝に銘じておきたいと思います。

情報・生理機能検査担当 T.Noriaki・(情報室委員)
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 2007.2.9
骨元気?・・・体の中のカルシウム(Ca)
カルシウム=骨・歯を想像される方は多いでしょう!これは当然のこと。  
歯私たちの体の中のカルシウム(Ca)は、99%が骨や歯等の硬組織(こうそしき)中にリン酸とヒドロキシアパタイトの結晶として貯蔵されているから!!
残る1%のCaは、ほとんどが細胞内(0.9%)、わずか0.1%が血漿に存在しています。
Caは生体内にある無機物のうちでもっとも多量に存在し、成人男性で約1000g(体重の2〜3%)を占めるといわれています。  

Caの働きは骨格の形成はもちろん、イオン化カルシウムとして体内酵素の活性化、血液凝固、筋収縮、神経刺激伝導、ホルモン分泌などを担っています。  
これらの重要な働きを果たすためCaは常に形を変えて骨と細胞を行き来しているのです。血漿Ca濃度が一定になるように、腸管や腎臓におけるCaの吸収や排泄、Ca調節ホルモンが代謝過程に密接に関係し働いています。そして極めて狭い範囲でしか変動しないようになっています。  

臨床検査で測定の対象となるのは血液中に存在するカルシウムですが、このうちイオン化(Ca2+)型約45%、蛋白結合型約45%、塩等結合型約10%といわれています。  主に生体内で生理作用を発揮しているのがイオン化型であることから、本来ならこのイオン化Ca(Ca2+)を測定するのが良いのですが、専用の特殊装置が必要であり実用的ではありません。そこで臨床検査・特に院内検査室の多くは総Caを測定しています。まれに総Caの測定結果と臨床症状が乖離する場合などにはイオン化Caを測定することもあります。  

成人におけるCaの1日必要量は600〜700mgといわれています。  
摂取が不足すると骨からどんどん溶け出して骨はスカスカの状態に!これが骨粗しょう症の原因です。また骨から血漿への移動に女性ホルモンが関係しているため、閉経後の女性はホルモンバランスが悪くなり今までの平衡が保てなくなってより骨粗しょう症になりやすくなるのです。  
ミルクCaは、小魚・牛乳に多く含まれ食品からバランスよく摂取するのがよいとされています。しかし充分量の摂取はなかなか難しいのが現状です。  
最近はサプリメントが簡単に手に入れられるようになっていますので上手に利用してCa不足にならないように心がけましょう。

(本稿は平成18年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです)

輸血管理室 N.Kazuyo (情報室編集)
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 2007.1.26
万能選手?〜人工血液のあれこれ
過去の歴史を紐解くと、権力者の不老不死に対する欲求の強さに驚かされることがあります。しかし皆様もご存知のように、現代の科学技術の進歩によって、無謀とも思えるこの願望も、あながち夢物語ともいえない状況となっています。  

重要な臓器の機能が損なわれると種々の病気になり、重い場合には生命の危機にさらされることになります。人工臓器は、このように病んだ臓器の代行を目的として開発されたもので、近年では元来の機能を補助するだけでなく、臓器そのものを置換することを目指して、再生臓器や代用臓器となる人工臓器の研究開発が進められています。
今回は、赤血球製剤の現状についてお話を進めていきたいと思います。  
輸血日本における輸血医療は、1952年に日本赤十字社東京血液銀行が誕生したことが始まりと考えられています。当時は売血制度も並存していましたが、1964年に米国駐日大使ライシャワー氏刺傷事件によって売血の弊害が大きくクローズアップされると、同年には「日本赤十字を中心とする献血一本でゆく」という国の進路が閣議決定されることとなりました。  

現在では日本赤十字社により献血された血液は厳重な検査と品質管理によって安全な血液製剤が供給され、各医療機関も患者様に安全で適正な輸血医療を行っています。しかし輸血後の肝炎やエイズ、血液型の間違いによる死亡事故、またその他の副作用が無くなることはないのが現状です。  

さらに、2005年12月に日本の人口が減少に転じた事を厚生労働省が明らかにしましたが、日本の社会が少子高齢化に向って行く中で供血者(ドナー)の人口の低下と輸血医療を受ける患者様の人口が逆転し、血液製剤の需要と供給のバランスとれない状況が予測されています。  

このようなリスクを軽減するためにも輸血医療に安全な血液製剤、安定供給システムの環境が必要になってきますが、その一つの手段として人工血液の研究、開発が行われています。現在ではベンチャー企業を中心に、酸素を運搬する人工酸素運搬体の開発と商品化が模索されています。  

新聞報道によると、人工酸素運搬体は2年間という長期保存が可能で、血液型がないことから検査をおこなわず使用でき、加熱処理などによりウイルスの除去が可能になるなど、従来の血液製剤と比較して利点が大きいと考えられています。  

この人工酸素運搬体は、有効期限の切れた国内の献血血液を利用して体内で酸素を運ぶヘモグロビンを抽出し、これを近年発展の目覚しいナノテクノロジーを利用して脂質の膜で覆うことで作られています。この酸素運搬体は直径が約250nm(100万分の250ミリメートル)で本来の赤血球の1/8程度と小さく、この小さいという利点から毛細血管内をスムーズに通過することが可能になります。すなわち、人の赤血球では到達しにくい虚血部位まで到達して酸素環境を供給し、臓器の機能を低下させることなく治療が出来る事も利点であるといわれています。  

私達の病院は災害拠点病院の指定を受けていますが、高度救命救急センターと低出生体重児を扱うNICU病棟も設置されています。それゆえ災害時の対応のみならず、救命救急センターでの出血性ショックを伴う外傷、消化管出血、胸、腹部大動脈瘤破裂など短時間で大量の輸血が必要なケース、さらに新生児における現場では、母体血清中の抗体が胎児へ移行する新生児溶血性疾患などに対して、迅速で有効な治療法として期待されています。    

とはいえ、同製剤の製造コストはもとより、現在の科学水準では様々な機能を有する人の血液と同等のものをつくることは限界もあるのが現状です。血液製剤は限りある大切な資源です。輸血管理室では適正使用を目指し、患者様に信頼される医療機関として努めていきたいと考えています。

(本稿は平成18年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです)

輸血管理室 K.Takao (情報室編集)
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2007.1.1
皆さんはどんな2007年をお迎えですか。
初日の出
“検査のはなし”の掲載を始めてから2度目の新年を迎えました。  

やっとコラムを定期的に更新できるようになりました。皆さんのご意見・ご感想をお寄せいただければ、よりお役に立てる“検査のはなし”を展開できると思いますので、よろしくお願いいたします。なお、昨年よりTOP画面右側のBBSからお気軽にご意見等をお寄せ頂けますのでご利用下さい。  

臨床検査、臨床検査技師は病気の診断や治療経過を診るために重要な役割を果たしています。しかし、検査項目は飛躍的に増え、名前を覚えるだけでも大変ですね。また、検査技師は、患者様と直接お話する機会の少ない医療職のため、あまりご存じない患者様もおられることでしょう。当市民総合医療センターでは、採血室での採血業務から検査結果の報告までを担当するだけでなく、生理検査室での心電図検査や超音波検査も担当しています。  

今年は、検査相談室(仮称)の開設を計画しています。場所は、採血室の一角を考えています。医師からの検査の説明が十分理解できなかった場合やどんな病気ではどんな検査が必要で重要と考えられるのか、あるいは、それぞれの検査の意味や必要性について、検査の専門技師として答えられる範囲で精一杯に、対応させていただく予定です。開設日は、追ってご連絡させていただきます。  

それでは、2007年が皆様にとってより思い出深い良い年になりますようにお祈りし、新年のご挨拶にさせていただきます。  

(平成19年1月1日 臨床検査部長 宮島栄治)
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