コラム「検査のはなし」
尿・血液検査、血液型・輸血、あるいは心電図や超音波(エコー)にまつわる一般的な話から新しい情報まで、
臨床検査部の医師や技師が交代で執筆しています。
掲載日 | タイトル | 関連分野 |
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2006年 | ||
12月22日 | マイノリティーの憂鬱 | 輸血 |
12月8日 | 色付きの便器とトイレ洗浄剤は身体に良いか? | 検体検査 |
11月24日 | 牡蠣は食いたし腹痛恐し・・・ノロウイルスと血液型の意外な関係 | 微生物 |
11月10日 | ○○の秋 | メタボ |
10月27日 | 肝腎かなめの・・・ | 生化学 |
8月29日 | 食欲の秋-食中毒について- | 微生物 |
8月9日 | 危険!真夏の脱水 | 生化学 |
7月25日 | レジオネラ感染症 | 微生物 |
5月3日 | 1本だけ・・・のはずが!?〜たばこが及ぼす影響と検査〜 | 呼吸器能 |
3月15日 | あなたはよく夜夢をみて寝言や大声を出したりしませんか? | 脳波 |
2月22日 | あなたは大丈夫?-クラミジア感染症- | 微生物 |
1月7日 | インフルエンザの検査 | 微生物 |
2009年のコラム、2008年のコラム、2007年のコラム、2005年のコラム |
2006.12.22 マイノリティーの憂鬱 |
華やかなクリスマス飾りに彩られた街角で、白いボディーに緑のライン、赤十字の描かれたバスの前で声高に叫んでいる、そんな風景を見かけたことはありませんか?
これは献血を呼びかける日本赤十字社の活動です。 献血者数には季節的な変動があり、特に冬場から春先にかけては学校や企業、団体などの協力が得にくくなるため献血者が減少するため、その確保に必死というわけです。 以前のコラム(2005/07/27:「血液型ミニ知識」参照)で輸血・血液型についてお話しましたが、今回は出現頻度の低い「稀(まれ)な血液型」についてお話ししたいと思います。 「稀な血液型」というと皆さんは何を思い浮かべますか?おそらくRhD(−)を思い浮かべた方が多いのではないでしょうか? RhD血液型が(+)か(−)かは、Rh式血液型抗原の1つであるD抗原というものの有無によって決まっています。日本人ではD抗原を持つRhD(+)の人が約99.5%、D抗原を持たないRhD(−)の人はわずか0.5%といわれています。 RhD(−)の人にRhD(+)の血液を輸血すると7〜8割の確率で抗D抗体というものが産生され、種々の問題(*)が生じます。このため、RhD(−)の人には同じRhD(−)の血液を輸血するのが望ましいのですが、前述したようにRh(−)の人は0.5%しかいないため、その確保が困難な場合があります。 このように、「稀な血液型」とは「出現頻度が1%以下と低く、輸血時に適合血が得にくい血液型」と定義されています。 血液型抗原は200種以上あるので稀な血液型とされる血液型も数多く、日本では30種類以上あります。 具体的には、「Bombay(ボンベイ)型」「p」「Kp(a-b-)」「JMH−」「Jr(a-)」「Di(b-)」などが該当しています(まるで何かの記号みたいですが、これらは血液型の名称です。興味のある方は調べてみて下さい)。 ちなみに血液型抗原の出現頻度は人種により異なるため、稀な血液型の種類も人種ごとに異なります。 たとえば前述したRhD(−)は日本人での出現頻度は0.5%ですが白人だと15〜20%で、わりと一般的な血液型なのです。 さらに、稀な血液型の中でも“稀”の度合いが異なり、その出現頻度によりT群とU群に分類されています。それぞれの出現頻度はおおよそ以下の通りです。 〔T群〕30万人〜40万人に1人 (「ボンベイ型」「p」「Kp(a-b-)」「JMH−」など)、 〔U群〕100人〜3000人に1人 (「Jr(a-)」「Di(b-)」など) この頻度だと輸血用の血液が確保できるのか心配になった方もいるのではないでしょうか? そのような時のために備え、全国の血液センターでは日々たゆまぬ努力で稀な血液型の血液確保にあたっており、また医療機関も稀な血液型患者が安全に輸血できるよう血液センターと十分に協議して輸血計画を決定しています。 最後に補足ですが、冒頭で稀な血液型の例としてお話ししたRhD(−)は厳密に言うと稀な血液型の中には入っていません。その理由は、いざという時に献血に来てくれる登録者が多く確保できていて、その他の稀な血液型に比べて適合血の確保が容易だからです。 *RhD(-)の人にRhD(+)の血液を輸血すると抗D抗体が産生され、次にRhD(+)の血液を輸血した時に、輸血された赤血球が急速に破壊されたり、女性ではRhD(+)の子供を妊娠した場合に流産のリスクが高まるなどの弊害が指摘されています。 (本稿は平成18年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです) 血液・輸血管理担当 S.Ayano・(情報室委員) |
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2006.12.08 色付きの便器とトイレ洗浄剤は身体に良いか? |
風邪をひいたり薬を飲んだりしたときに、おしっこ(尿)の色を見てびっくりしたことはありませんか? 尿は体調をよく反映するため、自分の健康状態を知るための判断材料になります。病気を知る手がかりとして尿の観察が始められたのは、なんと紀元前400年頃のヒポクラテスの時代から行なわれていたそうです。 尿の生成については以前のコラム(2006/10/27:肝腎かなめの・・・)でも既に述べましたが、その平均的な量は1000ml〜1500ml/日ほどで、一般的に透明で淡黄色、黄色あるいは琥珀色をしています。 これに対して、極端に量が増減したり、赤色、褐色、黒色などの異常な色調の尿がみられたりした場合には要注意といえます。このうち、尿の中に血液が混じり色調が変化した状態は血尿と呼ばれています。 尿は生成された後、腎臓の中の腎杯、腎盂(じんう)という部屋に集まり、尿管を通って膀胱へ、そして尿道を通って体外へ排出されます。 尿に血液が混じる要因としては、この経路に何らかの障害があることが予想されますが、どこで血液が混じっても血尿を生じるため、障害の部位を断定することは非常に困難です。しかし、出血の根源が血液を濾過し尿を生成する部位(腎臓の糸球体)なのか、または尿の流路にあるのかを知ることは、その後の治療にとても重要な因子となってきます。 さらに、血尿は尿に混じる血液の量によって肉眼的血尿と顕微鏡的血尿の2種類に分類されています。血液が多く混じる肉眼的血尿では変色が著明なため自分で気付きますが、顕微鏡的血尿では、混じる血液が微量のために検査をしないと判別がつきません。 そこでいろいろな種類の検査が行われることになるわけですが、そのひとつが尿沈渣と呼ばれている検査です。この検査は、尿に含まれている有形成分を遠心分離して抽出し、顕微鏡で観察することにより疾患に有用な情報を得るための検査です。 この尿沈渣検査では観察される赤血球の形態の違いにより、ある程度は出血源の推定が可能になるといわれています。 ・糸球体疾患による血尿 赤血球の形や大きさが不均一で、コブ状、ねじれ状、ドーナツ状、”とげとげ”状など多彩な変形を示す。(写真) ・尿路結石、腎・尿路腫瘍、膀胱炎などの尿路性の血尿 赤血球の形態は円盤状や金平糖状を示し、大きさは均一。 このように、赤血球の形態情報は血尿の由来を考えるための情報のひとつとして有用であると考えられています。しかし実際には個々の形態だけでなく、たんぱく尿がともにある場合には糸球体性疾患の確率が高くなるように、沈渣全体の情報を把握することが重要になってきます。 尿の色調は水分摂取量や運動量、服薬などで変化が出ることがあるので、それだけで疾患の判断をすることはできません。 しかし、トイレの後にすぐに流してしまわずに観察する習慣をつけておけば、いち早く体の変化に気がつくのではないでしょうか。 もっとも、色付きの便器やトイレ洗浄液を利用している場合には気をつけようもありませんが・・・ (本稿は平成18年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです) 検体検査担当 Y.Yukiko.・(情報室委員) |
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2006.11.24 牡蠣は食いたし腹痛恐し・・・ノロウイルスと血液型との意外な関係 |
冬の味覚の代表格ともいえる生牡蠣(かき)を食べて、「あったってしまった!」という経験談をよく耳にしますが、その原因は何なのでしょうか? 牡蠣が傷んでいたのかな?と思う方もいるかもしれませんが、その殆どが牡蠣に含まれていたノロウイルスによるものなのです。 ノロウイルスとはとても小さな球形のウイルスで、原因となる食物を食べた後24〜48時間で急な吐き気や下痢、38℃前後の発熱など、いわゆる食中毒の症状を引き起こします。この病気は、別名「感染性胃腸炎」などとも呼ばれ、この時期には爆発的に感染ケースが増えることもあり注意が必要です。 一般的には症状は比較的軽く1〜2日で治りますが、幼児や老人など体力の弱い人ではまれに重症化する場合もあるので油断は禁物です。(画像は横浜市衛生研究所HPより転載) さて、人によって牡蠣にあたりやすい人とそうでない人がいるという話がありますが、これは事実のようです。この不思議な話は昔から知られていましたが、最近そのしくみが徐々にわかってきました。 一般的にウイルスが人に感染し病気をおこすためには、細胞の中に侵入し、その中で増えなければなりません。そのためにはまず、増殖するための細胞に結合する必要があります。この細胞表面のウイルスの結合部位はレセプターと呼ばれていますが、最近になってノロウイルスは「組織・血液型物質」をレセプターとして利用していることが分かってきました。 すなわち、ノロウイルスを含む牡蠣を食べるとウイルスは腸まで到達します。そして腸管細胞内に入り込むためにレセプターに結合します。このレセプターが組織・血液型物質だというのです。 組織・血液型物質とは、皆さんもよくご存知のABO式血液型と、あまり馴染みはないかもしれませんがルイス式血液型というものをあわせてそう呼んでいます。なぜ腸の細胞に血液型物質が関係するのかと不思議に思うかもしれませんが、実は組織・血液型物質は消化管や気管などの細胞にも発現しているのです。 しかし中には発現しない人もいて、そういう人を非分泌型、発現する人を分泌型と呼び、これはルイス式血液型と密接な関係があります。 以上のことを踏まえて、かつて本当に実施されたことのあるノロウイルスのボランティア感染実験の話をご紹介します。 ノロウイルスの自然宿主は殆どが人のため、感染実験は人で行わなければなりません。そこでボランティアを募り、ノロウイルス入りの液体を飲んでもらいその後の経過を観察したそうです。 結果は組織・血液型物質が発現していない非分泌型の人は一人も発症せず、分泌型の約62%が発症し、その中にB型の人はいなかったそうです。以上のことからノロウイルスは分泌型の人で、血液型がA型・O型の人が感染しやすいということが言えます。 ノロウイルスには沢山の種類があります。研究が進むにつれ、色々なノロウイルスと組織・血液型物質の結合パターンは様々であることがわかってきているようです。 ちなみに、全ての牡蠣にノロウイルスが含まれているわけではありません。またノロウイルスは熱に弱い為、鍋物など加熱されたものは安心です。さらに、調理に利用した包丁やまな板などの調理器具は使用後によく水洗し熱湯などで殺菌すること、食事前に手洗いを敢行することなどで感染のリスクが軽減されるといわれています。 これから生牡蠣の季節が到来しますが、ご自身の血液型好みなノロウイルスにあたらないことを祈りながら美味しく頂きましょう。 (本稿は平成18年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです) 微生物検査担当 H.Hiromi・(情報室委員) |
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2006.11.10 ○○の秋 |
秋といえば・・・、食欲の秋、芸術の秋、読書の秋、スポーツの秋・・・ 皆さん、今年の秋はどのようにお過ごしでしょうか??? 昨今、メタボリック・シンドロームが話題となっています(2005/09/24「最近、ウエストがきつくなっていませんか?」参照)。食欲の秋とはいえ、内臓脂肪も気になるところですね。今回は、栄養状態を知る検査についていくつかお話していきたいと思います。 健康診断などでもなじみ深いと思いますが、日々の食生活のなかで、自分が高脂血症かどうか知ることが出来る検査として総コレステロールがあります。これは、加齢とともに高値を示しますが、あまりに高くなると動脈硬化のリスクも高まりますので気をつけましょう。 日本動脈硬化学会の指針による総コレステロール値は220mg/dL未満が目標となっています。 総コレステロールにはHDL-コレステロール・LDL-コレステロールが含まれています。 HDL-コレステロールは、血管内に付着する脂質成分を取り除き動脈硬化を防ぐことから善玉コレステロールと呼ばれています。目標は40mg/dL以上とされ、運動や適量な飲酒で上昇傾向を示します。 他方のLDL-コレステロールは、HDL-コレステロールの作用とは逆に動脈硬化を引き起こす危険因子となることから悪玉コレステロールと呼ばれています。目標は140mg/dL以下となっていますので注意してください。 食事の影響をうける検査項目としては、中性脂肪・血糖値が知られています。 中性脂肪は、エネルギー源として身体の活動に必要な成分ですが、余った分は脂肪組織に貯蔵されますので注意が必要です。目標は150mg/dL未満となっています。 血糖も同様にエネルギー源となる物質です。この検査は血液中のブドウ糖濃度を測定しており、食後には高値を示します。空腹時血糖値の目標は110mg/dL未満です。 血糖値の測定は糖尿病の診断するための検査の一つでもありますが、1回の検査結果だけで糖尿病かどうかの診断はできません。 この疾患では、ヘモグロビン(血色素量)にグルコースが付いた割合を示すヘモグロビンA1cという物質の測定が効果的だと考えられています。この検査は過去1〜2ヶ月間の血糖値の平均と相関が高いとされています。基準値は4.3%〜5.8%とされていますが、糖尿病の患者さんでは6.5%未満がコントロールの目標値とされています。 “明日は、診察があるから食事は控えめにしよう!”と考える方もあるかもしれませんが、毎日の食生活の傾向はすぐにわかってしまいますので、あきらめましょう(笑)。 ・・・ということで、やはり“スポーツの秋”を堪能しようという方も、多いのではないでしょうか。 検体検査担当 S.Kazuyo・(情報室委員) |
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2006.10.27 肝腎かなめの・・・ |
今回は、身体で重要な機能を担っている腎臓についてのお話です。 尿は血液が腎臓でろ過された「原尿」から、必要な成分が腎臓の中で再吸収(約99%)されたあとの老廃物です。 この作用によって、 ・体内の水分調節 ・老廃物の排除 ・pHと電解質の調節 などが行われ、身体のバランスが保たれています。これらの他にも、腎臓では血圧の調節、造血作用などがあることも知られています。 糖尿病・高血圧症など、私たちが良く耳にする病気でも、病状の進行に伴い腎臓の働きが悪くなる事があります。腎臓の働きが悪くなり尿が出せなくなると、体の中に老廃物などが貯まって、生命を維持できなくなる危険性が高まってきます。このような状態は「腎不全」と呼ばれています。 腎不全の状態では、血液生化学検査で以下のような変化が見られます。 ・老廃物の蓄積→尿素窒素(BUN)、尿酸、血清クレアチニンなどが上昇 ・水、電解質異常→Naイオン、Kイオン、血清リンなど排泄できず上昇、血清リンの排泄障害などにより血清Caイオン低下など ・ホルモンの調節障害→造血ホルモン産生低下による貧血、ビタミンD活性化障害による血中Ca低下など 腎臓の機能が低下した場合には、その機能を回復させる事ができれば一番よいのですが、腎臓はいったん悪くなるとなかなか回復できず、腎不全が進行してしまうと透析によって腎臓の働きを補っていくことになります。 透析は血液透析と腹膜透析に大分され、それらは医師と相談の上、患者様に適した方法が選択されています。それぞれには以下のような長所と短所が知られています。 【血液透析】 長所) ・ある程度病院におまかせの治療で、もっとも普及しており30年以上の歴史がある(安心) 短所) ・時間的制約がある(だいたい1回4時間週3回くらいの通院が必要となる) ・穿刺時の痛み(透析の度に太い針を刺す痛みに耐えなければならない) 【腹膜透析】 長所) ・家庭でできる、通院が少ない(月に1〜2回) ・体に優しい(自分の腹膜で一日中行える) 短所) ・自分で行う(自分で毎日1日4〜5回腹膜透析液を交換) ・細菌性腹膜炎の可能性(自分で清潔操作を行うため) ・被嚢性腹膜硬化症の可能性(腹膜炎がきっかけとなり起こる) 透析療法を長期間続けていると、合併症が起こる確率が高くなってきます。心不全、感染症、血管障害、栄養障害、骨・関節障害、悪性腫瘍の発生など、様々な病態が報告されています。このような合併症を予防するという意味からも、体重管理や食事療法、また抱えている病気がさらに悪くならないように努力を継続していくことが大切になってきます。 最後に、透析は本来の腎臓の働きの約10%程度をカバーできるに過ぎず、痛みも伴う長期療法です。さらに腎不全の末期では、臓器売買の問題も記憶に新しい腎移植が必要になってきます。現実的には、実際に移植の適応となるのは透析を必要とする全患者のわずか1%にも満たない、といわれていますが、いかに本来の体の機能がすばらしいものなのかを改めて認識し、今一度、自身の体を大切に思いやってください。 (本稿は平成18年度臨床検査部学術セミナーで発表した内容の一部を患者様向けに加筆・修正したものです) 検体検査担当 S.Yuka・(情報室委員) |
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2006.8.29 食欲の秋にも油断は禁物 |
朝夕にはかすかに秋の気配を感じる今日この頃ですが、食中毒菌の増殖には気温も湿度も充分、まだまだ油断はできません。食中毒は忘れた頃にやってきます。 食中毒の約6割は6月から9月の間に発生し、そのほとんどは細菌性の食中毒といわれてます。 細菌性食中毒は、感染型・毒素型に大別されています。 感染型は食中毒を引き起こす細菌に汚染されたものを摂取し、菌が生きたまま腸管に達し増殖、一方の毒素型は食品中で細菌が増殖し、菌が産生した毒素を一定レベル以上摂取することで成立します。 サルモネラ菌に代表される感染型菌は肉・魚に付着していることが多いのですが、卵も要注意です。卵の一部にはサルモネラ菌が内部にいる(in egg)汚染卵が混じっていることがあり、今年は生卵を食べてサルモネラ食中毒になり死亡した例も報告されています。 他方、黄色ブドウ球菌に代表される毒素型は食品の保存に問題があるケースがほとんどです。黄色ブドウ球菌は耐熱性エンテロトキシンという毒素を産生します。この毒素は通常の調理で加えられる熱では分解されず食中毒を引き起こします。傷んだ食品を使用しないこと、調理したら早く食べることがポイントです。 ●食中毒を防ぐには ナマ物を食べるときは、冷所に保管するとともに新しいものを購入し早く食べることが肝要です。さらに、食材は調理する直前まで低温保存をするとともに充分加熱し、肉・魚などを調理した包丁やまな板などの調理器具は使用後によく水洗し、熱湯などで殺菌することで予防できます。 ●食中毒と臨床検査 患者さんの嘔吐物や糞便から細菌を培養した後に、ある特定種の菌を増殖させるために分離培養と呼ばれる操作をします。この後、病原特定菌として疑わしい集落(コロニー:写真中の「つぶつぶ」)から細菌を取り出し(釣菌と呼ばれる操作)、顕微鏡検査 、生化学性状検査、血清学的検査などにより食中毒菌であるか否かを判定します。 ●食中毒と思ったら 食中毒の主な症状は下痢・嘔吐・発熱です。下痢・嘔吐を繰り返すと脱水症状を引き起こします。スポーツドリンクなどで水分補給をし、医療機関を受診してください。下痢止めは、時によって深刻な事態を引き起こすことがあります。不用意に用いず、医師の指示を仰いでください。 食中毒は、時によって死に至ることもあり、軽視は禁物です。特に体力のない小児や高齢者はすみやかに受診するようにしましょう。 微生物検査担当 Y.Tetsuo・(情報室委員) |
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2006.8.9 危険!真夏の脱水 |
脱水とは、体内の水分が不足している状態を言います。(要するに摂取量よりも排出量が多い状態)ヒトは体重の60%が水分(体液)で占められ、その2/3が細胞内液、1/3は細胞外液として存在します。 体内の水分は、 @代謝 A酵素・栄養分の運搬 B不要成分の排泄 C体温調節 ・・・・などなど重要な働き(体の活動)をします。 従って、脱水状態は様々な(重篤な)症状をヒトの体に引き起こす訳です。 【脱水の症状】 軽・中程度の場合:倦怠感、疲労感、口渇、めまい、吐き気、頭痛、尿量・発汗量減少など 重度の場合:意識障害、チアノーゼ、四肢冷感、乏尿、ショック状態など(←直ちに受診!) 【脱水のメカニズム】 もともとヒトの体には体内水分の調節機構があり(最終的な調節は腎臓で行なわれます)、これが破綻すると脱水となります。この調節機構には電解質、主にナトリウムイオン(Na)が関与します(血液検査では“塩分”・“ミネラル”などと説明されることが多いですネ)。細胞内と血液中の水分の移動は、浸透圧によって行われており,ナトリウムイオンは細胞外液の浸透圧を維持する重要な成分なのです。脱水状態では血清浸透圧(Na)が高くなり、薄める作用(排泄尿を濃縮、つまり腎臓で水の再吸収を促進)が働き、その結果尿の浸透圧は高く、また尿の色は濃くなります。 体内の水分が不足すると、血液中や細胞内液・細胞外液の体液バランスが崩れて、最初にお話した重要な働き(体の活動)が鈍くなるため、様々の症状が出現するのです。 尿や汗にはナトリウムイオンが含まれています。スポーツドリンクなどのようなナトリウムイオンも含んだ水分を摂取することが推奨されるのはこのためです。 (脱水に体温上昇が加わると、皆さんがよく耳にする熱中症という症状を引き起こします。 熱中症は体温の調節機構が鈍くなった状態です。) 最後に脱水の予防のお話・・・・ 効果的な(電解質を含む)水分の取り方は「飲みたい時に飲みたいだけゆっくりと 飲む」のがよいとされています。「飲みたい」というのは脳の信号でもある訳です。勿論、ドクターに制限されていない場合です。 ちなみに・・・・アルコールの摂取でも脱水になることがあります!!アルコールには利尿作用があることと、水分であるアルコールによって薄くなった体内の電解質濃度を、濃くしようとして余分な水分を排出するからからです。お酒を飲んだら水分補給を忘れずに。 検体検査担当 K.Yuki |
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2006.7.25 レジオネラ感染症〜水にまつわる環境にご注意を・・・ |
1976年、米国のホテルで開催された在郷軍人会で、200名を越える参加者が原因不明の肺炎に罹患し、うち29人が死亡するという事件が起こりました。この肺炎は、冷却塔に潜んでいた未知の細菌が空調設備を介して飛散したことに起因し、在郷軍人会(The Legion)にちなんでLegionella(レジオネラ)属、肺を好むという意味からpneumophilaと命名されました。 レジオネラ属菌は、自然界の土壌、淡水に生息する1本の鞭毛を有するグラム陰性の桿菌です(写真左:顕微鏡像、右:電子顕微鏡像〜東京都健康安全研究センターHPより転用)。 25〜43℃で繁殖、特に36℃前後がより繁殖に適するといわれ、しばしば冷却塔や加湿器、循環型の温泉や風呂などの人工環境における異常繁殖が確認されています。本国でも、300名近くが感染したとされる温泉施設での集団発生や、24時間風呂が原因と考えられる医療機関での例など、水にまつわる状況下での発生が知られています。 一般的に、レジオネラ菌による感染は健康な成人が発症することはまれで、幼児や高齢者、入院患者などの免疫力が低下している人が罹患しやすい日和見感染菌の一つとして認識されています。したがって、多くのケースでは発熱・寒気・筋肉痛などのインフルエンザ様症状から数日で治癒するとされていますが、一部の高リスク群では、熱・呼吸困難・筋肉痛・吐き気・意識障害等の症状で急激に重症化するレジオネラ肺炎に注意が必要になってきます。 日本におけるレジオネラ症患者報告数は年間100名程度とされていますが、欧米の患者数と比較すると日本の報告数は少なく、まだまだ見逃されている症例が多く存在するのではないかといわれています。 レジオネラ属菌が見逃される一因には検査の特殊性があげられます。通常の検査では、細菌を特殊な染色液で染めて顕微鏡で観察する塗沫検査と、培地と呼ばれる寒天上で細菌を増やして観察する培養検査が平行して行われています。しかしレジオネラ属菌は、通常の染色液で染まりにくく、さらに通常使用される培地には発育しないため、検出が困難であるとされています。 臨床的にレジオネラ感染が疑われるケースでは、この欠点を補うために特殊な方法で検査を進めていかなくてはなりません。 主なレジオネラの検査方法としては、 1)グラム染色と平行してヒメネス染色などの特殊染色を行ないます。さらに、喀痰などに存在するレジオネラを増殖・検出するために、特殊な選択培地を使用して培養します。 2)レジオネラ症では特に感染初期に菌が多量に破壊され尿中に排出されます。その分解産物であるリポ多糖類を検出します。特定の型しか検出できない欠点はありますが、簡便で高感度な検査です。 3)一般的に、血清中のレジオネラ抗体は発症から約1週間後に出現すると言われています。その抗体価の上昇から感染の有無を捕らえる検査です。 現在のところレジオネラ菌のヒトからヒトへの感染は確認されていませんが、発生予防のためには、空調の冷却塔、循環型気泡発生装置付き浴槽、加湿器などで使われる水が汚染されないように注意することが大切です。また庭の手入れなどをする場合にも、土の扱いに注意し、粉塵などが飛散して吸い込むことのないよう心がけましょう。 微生物検査担当 S.Yoshifumi・(情報室委員) |
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2006.5.3 1本だけ・・・の、はずが!? 〜たばこが及ぼす影響と検査〜 |
春色のなごやかな季節となり、そよ風も心地良い日々です・・・。 ところが、そんな清々しい空気もたばこの煙とともに、届くことがありませんか? そこで、今回はたばこが身体に及ぼす影響について、またそれに関する検査についてお話します。 たばこの煙に含まれる化学物質は約4000種類以上といわれ、その中の有害物質は200種類を上回り、ニコチン・一酸化炭素・タールなどが知られています。 これらが喫煙者はもちろん、たばこを吸わない周囲の人の健康まで脅かしています(受動喫煙)。 喫煙によって、あらゆる呼吸器系疾患や心臓疾患、脳血管障害など多くの病気を発症するリスクが高くなっています。 ビタミンCが破壊され、ニコチンの作用によって血の流れも悪くなりますので、女性にとっては“お肌の大敵”でもあります。 妊婦には、早産の他、出血・前期破水など、周産期死亡等いろいろな妊娠・出産の異常や新生児異常が起りやすくなります。 特にたばこと因果関係のあるものは、肺がんと慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)ですが、喫煙指数(1日の本数×喫煙年数)が400以上の場合、発病率が増加しますので、定期的な検査が必要です。 慢性閉塞性肺疾患を正確に診断する為には、呼吸機能検査をおこないます。 息を深く吸い込み、思いきり最後まで吐き出した量が肺活量ですが、最初の1秒間に吐き出す息の量が、肺活量に占める割合(1秒率)によって、呼吸機能を知ることが出来ます。 この1秒率が70%以下の場合に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断されます。 せき・たんや息切れといった症状を改善する為には、お薬もありますが、やはり禁煙が最善といえます。 4月からの新たな診療報酬には、禁煙指導も保険適応となりました。 ニコチン依存症の治療と位置づけることで、新しく保険の対象となったわけです。 日本循環器学会などが定める手順書に沿った12週間(計5回)の禁煙治療プログラムが、初回690円、2回目以降550円前後(いずれも窓口負担が3割の場合)で受けられます。 詳しくは、下記の呼吸器内科にご相談下さい。 (呼吸器内科:禁煙支援外来045-261-5656内線1203) 情報室 S.Kazuyo |
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2006.3.15 あなたはよく夜夢をみて寝言や大声を出したりしませんか? |
ポイント1.目をつぶっている。 ポイント2.力が抜けている。 ポイント3.睡眠第一段階に類似した脳波 レム睡眠行動障害(REM sleep Behavior Disorder:RBD)についてのお話です。 人はレム睡眠の時に夢をみます。 レム睡眠は身体の姿勢を保つ抗重力筋の筋緊張の低下(睡眠中に脳からの運動指令が遮断されるため)がおこり、いわゆる生理的金縛りの状態となるのです。そのため、夢をみている最中に筋肉が夢と連動した運動を引き起こすことはありません。 ところがレム睡眠行動障害(RBD)では何らかの原因によってレム睡眠中に、骨格筋の抑制機構が働かなくなり、夢の中の行動がそのまま異常行動となって現れるのです。 夢の内容は人と喧嘩をする、怪物と戦うなど暴力的、抗争的な場合が多く、夢の内容に伴って喧嘩口調の寝言や大声をあげる、徘徊する、隣で眠っている人を殴る、蹴るといった異常行動を起こしたり、タンスや柱にぶつかって怪我をすることもあります。 このような症状は持続時間が短いため、昼間の生活は普通に送ることができます。 しかし、RBDが初発症状となり、後年神経変性疾患を呈してくることもあるのです。 単なる寝ぼけかそれともRBDであるかの確定診断には終夜睡眠ポリグラフ検査が有効です。 早期診断は適切な治療へと結び付けられるため早期に診断を下すことは有意義なことであると最近注目を浴びています。好発年齢は50〜60歳代の中高齢であり、アルコールやストレスは増悪因子です。また、RBDは薬物治療が可能です。そのため、治療することで患者様や御家族の負担が軽減されるようになるのです。 レム睡眠行動障害(REM sleep Behavior Disorder:RBD)の症例は、日本の医師によって世界で最初に報告されました。 脳波室担当 I.Miyuki |
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2006.2.22 あなたは大丈夫? -クラミジア感染症- |
横浜市が福祉保健センター等において希望者に対して、クラミジア検査を毎年2000件程度実施している。…(中略)… 2004年の感染判明は558件と高い割合になっている(神奈川新聞2005.6.18掲載)。
女性のクラミジア感染状況を調査した結果では子宮頚管にクラミジア感染が認められた女性は風俗産業従事者で32%、一般女性で11%となっている(国立感染症研究所の報告)。 最近、クラミジア感染増加の話題を新聞などでよく目にします。性器クラミジア感染症は最も頻度の高い性感染症です。 性器クラミジアは、クラミジアトラコマチス(Clamydia trachomatis)という細菌によって引き起こされます。 検査には、(A)抗体検査、(B)DNA(抗原)検査の2種類があります。 (A)は血液を調べます。血液中のクラミジア属に対する抗体の有無を調べます。クラミジアトラコマチスに限らず、クラミジア属のいずれかに感染したことのある人は陽性となります。 (B)は女性なら子宮頸管スワブ(綿棒でぬぐったもの)、男性なら尿を調べます。クラミジアトラコマチスのDNAの有無を調べます。クラミジアトラコマチスに感染している場合にのみ陽性となります(他のクラミジア属に感染していても陽性にはなりません)。 女子高校生の7人に1人(13.9%)がクラミジア陽性となっています(読売新聞 2005.7.5掲載)。 クラミジア―正しい知識、予防のカギ(日経新聞 2006.2.21夕刊掲載)。 患者数は急激に増え、10年前の2倍に迫る勢いです。ここまで感染が広がると、もはや普通の性生活を送っている人でさえ、感染の可能性は十分あり、身近な病気であるといえます。 性感染症は症状がほとんど出ない場合もあるので、症状がないからといって安心はできません。進行すると、女性では不妊症になりやすく、流産や早産、母子感染を引き起こす可能性があります。 ほとんどの性感染症は簡単な検査で分かります。不安があれば、一度医療機関(病院、クリニック、医院)へ行ってみましょう。また、保健所でも相談にのってくれます。 微生物・分子生物室担当 T.Haruka |
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2006.1.7 インフルエンザの検査などなど |
寒中お見舞い申し上げます。 12月末、既にインフルエンザの本格的な流行期に入ったと言われています。今回はインフルエンザの検査や治療に関するお話です。 インフルエンザウイルスは表面の突起の形や、ウイルス内部の蛋白質の違いで、大きくA、B、C型に分類されますが、主にヒトに対する病原性が強いのはA、B型です。 A型は表面の糖蛋白の違いにより亜型(HxNx)に分類されます。今流行しているのはAH3型(H3N2)がほとんどで、AH1型(H1N1)も多少あるようです。 B型もヒトに感染し流行しますが、C型は大流行した事が無いようです(写真は、CDCホームページより引用)。 インフルエンザウイルスにだけ効果のある治療薬(タミフル:リン酸オセミタビル等)が開発され、意味のない投薬を避けるため、インフルエンザウイルスによるものか、他のウイルスによる風邪症候群なのか鑑別する必要があります。そこで、外来でも簡単に検査ができる迅速検査キットが開発され、保険診療でも検査ができるようになりました。鼻の中に綿棒を入れるだけで採取できる鼻汁や鼻咽頭ぬぐい液を検査して、約15〜20分でA型とB型のインフルエンザウイルスを検出・判定可能となっています。 しかし、抗インフルエンザウイルス薬は、発熱後少しでも早い時期の服薬が有効とされていますが(48時間以上経過した場合の有効性は確認されていません)、検査は初期であればあるほど偽陰性(本当はインフルエンザなのに検査では陰性)になる可能性が高くなります。そのため、検査が陰性であった場合でも、流行状況、感染者との接触歴等から医師がインフルエンザの疑いが強いと判断した場合には抗インフルエンザウイルス薬を処方する場合があります。 他方、安易な風邪薬や消炎鎮痛薬の服薬は、危険な場合があり、特に15歳以下では、投薬を避けるべきとされている薬もあります。以前に処方された薬や他の人に処方された薬を服薬しない方が良いでしょう。 最近問題となっている鳥インフルエンザあるいは高病原性鳥インフルエンザ(HPAI:High Pathogenic Avian Influenza)の原因ウイルスもA型インフルエンザウイルスに分類され(H5N1亜型)、同じ迅速検査キットでも検出可能と考えられています。しかし、あくまでも「A型インフルエンザウイルス陽性」として判定されるだけであり、高病原性鳥インフルエンザと従来型のインフルエンザかの鑑別には、精密検査が必要になります。 高病原性鳥インフルエンザ感染を疑うのは、海外の流行地域に渡航または在住し、帰国後7日以内に発症した場合とされています。さらに、現時点では、病鳥または死鳥からの感染であり、ヒトからヒトへの感染は否定的です。 ともかく、予防が第一。特に体力が低下している人や疲れている時は、むやみに人混みへの外出を控えた方が良いでしょう。 しかし、突然38度以上に発熱し、頭痛や関節痛、倦怠感(だるさ)などの全身症状を伴う場合は早めにかかりつけ医に相談し、インフルエンザウイルスの検査をしてもらいましょう。 微生物・分子生物室担当 F.Yoshimi.・宮島 |
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