横浜市立大学眼科先進医療学講座

研究内容

ゲノム全域を対象とした遺伝子解析

ゲノム全域を対象とした疾患関連遺伝子の検索

本講座では、様々な遺伝性眼疾患について、ゲノム全域を対象とした遺伝子解析を実行している。各疾患の発症に関与する遺伝要因の網羅的な同定を行うとともに、同定した遺伝要因を介した疾患の発症機序の解明を行っている。本遺伝子解析研究で得られる成果は、疾患の迅速な診断、予防および新たな治療法の確立に繋がることが期待される。本講座で実施している主な遺伝子解析手法を以下に示す。

①ゲノムワイド関連解析

ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)とは、DNAマイクロアレイを用いて、特定の疾患の非血縁の患者集団と非血縁の健常対照集団との間で統計学的に有意な頻度差を示す遺伝子多型をゲノム全域に渡って網羅的に検索する手法である。GWASでは、遺伝マーカーとして主に数10万~数100万個のSNP(single nucleotide polymorphism:一塩基多型)が用いられる。GWASは複数の遺伝要因と環境要因が複合的に作用して発症する多因子遺伝性疾患の遺伝要因(疾患感受性遺伝子)の全容を解明する上で非常に効果的な遺伝子解析手法である。2005年に加齢黄斑変性を対象とした初めてのGWASが報告されて以降、現在までに、およそ2,000種類の疾患および形質に関する3,000本を超えるGWAS研究が報告されている(NHGRI-EBI GWAS Catalog)。

本講座におけるGWASの主な対象疾患は、近視、ベーチェット病、サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、正常眼圧緑内障、網膜格子状変性、円錐角膜である。日本人および海外人種の大規模な患者集団と健常対照集団を用いて国際的な多施設共同GWAS研究を実行しており、各疾患の発症に関与する疾患感受性遺伝子の網羅的な同定を行っている。

GWASマンハッタンプロット

図1 日本人集団を対象としたベーチェット病のGWAS研究の結果
(Mizuki N, et al. Nat Genet 2010; 42(8): 703-706.)

②エクソーム解析

エクソーム解析とは、次世代シーケンサーを用いて、遺伝子の最も重要な領域であるエクソン領域を対象にゲノム全域に渡ってシーケンシング(塩基配列の解読)を行う手法であり、近年の遺伝子解析技術の進歩により、全遺伝子上のエクソン領域の迅速かつ極めて高精度なシーケンシングが可能になっている。GWASが多因子遺伝性疾患の遺伝要因(疾患感受性遺伝子)の同定において有効であるのに対し、エクソーム解析は特定(単一または数個)の遺伝要因が疾患発症の原因または主因となる単一遺伝性の疾患における遺伝要因(疾患責任遺伝子)の同定に非常に有効である。

本講座におけるエクソーム解析の主な対象疾患は、発達緑内障、ベーチェット病、サルコイドーシス、強直性脊椎炎、視神経脊髄炎であり、各々の疾患が集積して発生する日本人および海外人種家系を用いて疾患責任遺伝子の系統的な同定を行っている。

エクソーム解析対象の発達緑内障家系

図2 エクソーム解析対象の発達緑内障を多発する日本人家系
(井上洋一.臨床眼科.1969; 23(3): 366-378. より改変引用)
■:罹患男性、□:非罹患男性、
●:罹患女性、○:非罹患女性

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