活動報告 2023.10.31
横浜マラソン2023での当教室活動
2023年10月29日早朝から小雨が降り続き、肌寒い気温の元、横浜を舞台に横浜マラソン2023が開催されました。
22934名のランナーが参加、みなとみらいをスタート地点とし、港町横浜の普段走ることのない高速道路上を走ったり、横浜の秋の魅力を感じられる大会です。
横浜市立大学救急医学教師室は、当初より横浜マラソンに救護班として参加し、安全なマラソン運営・傷病者の救護に携わっており、2023年大会も同じように救護班として活動を行いました。
今回も竹内一郎教授が統括とし、数多くの教室員が各関連施設からこの大会に参加し、横浜市医師会と救急医が看護師・救急救命士が協賛し、医療体制構築を行い、それぞれの大会運営本部・各救護所・ドクターランナーとしてランナーの安全な走行をサポートいたしました。
その各所からの担当医師からの報告です。
・本部
まず本部でブリーフィングを行い、CSCAについての確認を行いました。
この際すぐに指示系統の確立・情報手段の確立行っており、各救護所リーダーに連絡を取って確認をされていました。
医療救護班、救急隊、警察と横の関係を島ごとに形成しています。
まずば、CSCAの確立。災害医療と同様であり、今回各救護所につけたweb小型カメラ同様非常に情報が大切であることを現場で感じました。
早朝から小雨の降る、少し寒く感じる天候でありました。スタート前には少し雨が強く降る中、低体温・スリップによる転倒事案を頭に入れながらスタートとなりました。
スタート当初は特段何事もなく、早いペースでマラソンが進んでいきます。
各所に状況と転帰を都度確認しておりましたが、なかなか情報が上がってこない・聞いてる情報と少し齟齬がある等々色々と本部としてヤキモキすることもありました。
いざ救急搬送が必要となった際に本部が救急指示を行い、搬送先病院の確認等々を救急車到着前に連絡を取り、救急車到着時には受け入れ先が決まっていた普段と違う医療体制に平時の転院搬送と同じような状況になっており、傷病者を待たせることなく、搬送できる体制作りに感心しました。
毎年同様ではありますが、高速道路走行がランナーの皆さんにとってやはりきつかったようです。
第11救護所(三溪園)は過去にCPAが発生する場所であり、重点を置いておりましたが、今回はCPAはいなかったものの、救急搬送が多かったところです。風も強く、高速道路のup/downがランナーに負担をかけたのかと思います。
時間と共に関門締切となり、救護所が閉まっていく中、ゴールする方も増えてきて、徐々にフィニッシュライン・ゴール後パシフィコ救護所の負担が増えてきている中、本部の動きも激しくなっていきました。そこに、各救護所から移動してきて増強された両救護所も特段重症例が押し寄せてきたわけではなかったようで、皆さんが救護所活動を円滑に進めてくださっていることが本部まで伝わっておりました。
最後のゴール15時閉鎖で一息つきましたが、16時の完全撤収まではパラパラと傷病者が来る中で、幸い重症例が発生せず大会は終わりました。
以前救護所での活動をやり、本部の状況はほとんど見えないところではありましたが、本部に入るとwebカメラでの情報などもあり、俯瞰的に見ることができます。
その分色々な視覚的な情報が入ってくる分、「この人はなんだろう?大丈夫な人だろうか?」「この人の情報欲しいな」と思うことがあり、さらに「あの人はどうなっただろう?」と情報が欲しいところもありました。
指揮所本部の確立・情報体制の確立・情報処理体制を非常に勉強した1日でありました。
しかし、なんと言っても重症患者さんが出ず、無事に大会が終了したことに安堵しています。
・救護所
<パシフィコ救護所>
スタッフA
本日の横浜マラソンにおいて担当した、パシフィコ救護所でのスタート前対応、フィニッシュ救護所の報告をさせていただきます。
今後参加される若手の先生方の参考になれば幸いです。
1. パシフィコ救護所でのスタート前対応
救護所の設営とスタート前に発生した傷病者の対応を行いました。
傷病者は競技者、見学者合わせて数名の軽傷のみでしたが、walk inでの病院受診を調整する症例もありました。
2. フィニッシュ救護所
救護テントでの傷病者対応を行いました。
例年100例ほど対応するフィニッシュ救護所では、内因性対応テント5ヶ所×担架3台、外傷テント1ヶ所で、医師・看護師6チームの体制でした。
当救護所では、受付医師の判断で、症状の確認と見た目の重症度から内因性/外傷テント、あるいは、柔道整復師によるマッサージテントへ振り分けられます。
両足がつったとの情報で内因性テントで対応した傷病者は、呼吸器症状はないものの、測定するとSpO2 84%と低いものの呼吸努力なく、その他のABCDEは異常ありませんでした。
冬季の災害同様、寒冷環境では末梢冷感のためSpO2測定エラーも想定されますが、深呼吸継続で最終的に99%まで漸増し、口唇の色調が土色から紫色に変化していったことから、一過性の低酸素血症があったと評価しています。
病院前での特殊な環境、限られた資機材の中での診察の難しさ、アンダートリアージせずに最悪のケースを想定しながら対応することの大切さを改めて実感しました。
来年度入局予定の当院の研修医の先生も参加し共に活動をしましたが、普段の診療からvital signや身体所見から重症度や患者の状態を考える習慣をつける必要があると感じた、大変貴重な経験になったとのことでした。
けいゆう病院Dr.car、横浜消防救急車、今年から配属された日体大学救急車がフィニッシュ救護所からの病院搬送に当てられてました。
重症例はなくいずれもけいゆう病院へ搬送されたのも理由の一つではありますが、搬送の方針に決まってから10分程度で車内収容し、スムーズに搬送できております。
けいゆう病院では、災害訓練を兼ねて一般外来ブースに災害時の緑エリアを設置し、搬送された軽傷傷病者の対応を行っており、Web会議システムを利用して救護所と病院内ブースを中継、混雑状況を共有していたのが印象的でした。
傷病者、病院搬送ともに昨年より少なかったこと、スムーズに搬送できていたことにより、患者がスタックすることはありませんでした。
現場活動における学びは上記ですが、劇薬含む薬剤やME機器の取り扱いなど、病院前救護に向けた物品の持ち出しにおける病院内での調整についても勉強になりました。
マスギャザリングイベントでの救護活動は、病院前救急、災害対応の訓練になるだけでなく、
普段の診療にもつながる学びがあるので、未経験の若手の先生方にはぜひ積極的に参加していただければと思います。
スタッフB
初めての救護所対応で、初めてお会いする他の病院からのスタッフとコミュニケーションを取ったり、患者層から救護所の配置を調整したりしながら対応しました。
かつて100人程度の傷病者の対応したことのある救護所と伺っていましたが、50人弱でほとんどが緑〜黄でした。
夕方に1人ほど経口接種困難による両足の痺れおよび歩行困難のため横浜医療センターに病院救急車で搬送していただきました。
<第5救護所>
第5救護所(本牧市民公園)のリーダーをさせていただきました。
今朝の雨の影響か気温は低く、高速道路下を走るため日陰でさらに寒く感じました。位置としては10キロ地点であったため、幸い要救護者はなく、リタイア希望者の案内をするのみでした。
その後、フィニッシュ地点の救護所へ再配置となりました。軽症外傷が多い中、ACS疑いの胸痛患者の対応もいたしました。直近病院への搬送フローのおかげで迅速に搬送に繋ぐことができ、強い連携を感じました。
各所の事案に関しては、本部より逐一共有があったため、現場にいながら全体の情報把握をいただき、常に緊張感のある活動ができたのではないかと思います。
<第6救護所>
15km地点と比較的序盤の救護所であり、転倒による挫創や、下腿の筋挫傷疑いなどの軽症患者数例の対応を行いました。
パシフィコ救護所に再配置となり、リーダー医師の指揮下の元、患者対応を行っています。比較的状態は安定しており、救急搬送が必要な患者はいませんでした
市大センターチームで帰路に付いている途中、仰臥位で動けなくなっている男性患者に接触し対応を行いました。意識ははっきりしておりましたが、下肢の疼痛を訴え血圧70台と低値てあり、また体動困難の状態で救急要請して搬送を行いました。
今回は初めての大規模イベントへの参加でしたが、教室員の先生方のご指導のもとスムーズに診療を行えたと感じております。
自分自身の勉強にもなりました。
<第7救護所>
今回、磯子第7救護所に配置となり、リーダー業務をさせていただきました。小雨が降り気温も低めでしたが、傷病者は軽症外傷のみで重症者は発生せず無事終了しました。
その後、フィニッシュ地点の救護所へ再配置となり、ゴール後の傷病者の対応に当たりました。
ドクターランナーとして救護に当たってくださった先生方の勇姿も拝見し、いつか私もドクターランナーでも参加したいと思いました。
<第11救護所>
高速道路上、スタート約30kmの地点であり、競技者にとって終盤かつ強風というコンディションの悪い場所となっております。
その影響もあり、転倒患者、筋痙攣患者、嘔吐患者等の多数患者が押し寄せてまいりました。
リーダーの下、トリアージ行い、軽症患者、中等症患者と振り分け、限りある人手、処置を行っていくのは非常に勉強になりました。
その中で、脱水による血圧低値や、電解質異常と思われる嘔吐を繰り返しているような病院搬送が必要な症例に関しては救急隊と連携して搬送としております。
また、移動医師として1件、路上の気分不良患者に接触を行いましたが、現場でのバイタル安定化を確認し、現場スタッフと協力し救護所まで搬送しております。限られた資機材の中で搬送のため現場で何ができるか、何をすべきかを考える貴重な経験ができました。
今回は初めての大規模イベント参加となりましたが、非常に勉強になることが多くありました。
・ドクターランナー
ドクターランナーの任務としては、
①CPAなどの重症患者の初期対応をする
②走行が継続困難なランナーに対して無理をさせない(リタイアを勧める)
①幸にしてCPA事案はなく、始まって5kmほどの場所で痙攣患者の対応を一件行ったのみでした。まだ人もバラけていないタイミングであり、救急車が来るまでにやや時間がかかりましたが、痙攣は落ち着いたため、大きな問題には至らず、救急隊に引き渡し、コースに戻りました。
②明らかにスタート早々から足をひきづりながらも走っているランナーに対して、無理をしないように声掛けをしました。他にも何人かに声掛けをさせていただきましたが、自分としては結構これは抑止力として意味があることだと考えております。
「他人から無理して走っているように見えるのか、ならば無理はしてはいけない」とドクターランナーの姿を見て思ってくれたら、①の予防になると考えます。
また先日抄読会で扱った論文(Br J Sports Med. 2022; doi:10.1136/bjsports-2021-104964 日本のマラソンのデータです)で、CPAが発生する頻度がまとめられており、これを意識しながら観察を続けました。
特に、フルマラソンで一番苦しい30km前後で論文にもあるリスク区間であり、かつ高速で風も強く、アップダウンを繰り返し、応援もないという横浜マラソンにおいては鬼門です(昨年はCPAも出ている)。
今年もCPAはなかったものの救護所には多くのランナーが、駆け込んだという事実から、横浜マラソンの目玉とアピールされる高速道路コースですが、ランナーに優しいかどうかは不明です(昨年から高速道路区間が5kmほど伸びて、ランナーとしてはかなりしんどくなりました)。
コース配置には、行政、関係団体、警察など多くの関係者がいるので、そう簡単なことではないと思いますが、医療もしっかり介入している横浜マラソンであるからこそ、データに基づいたリスク等の提言ができたらとも思いました。
最後になりますが、ドクターランナーのビブスを着て、スタートラインに立っていると「先生がいてくれると安心して走れます」と言われたり、走っていると「ご苦労様です、ドクターランナーよろしくお願いします」と沿道から声をかけていただいたりと、結果的には大した仕事はしていませんが、ドクターランナーとして走ることが、横浜マラソンの安心につながっているのかなと感じました。
医師として横浜に直接還元できることを感じられる良い機会と考えます。
横浜市大救急医学教室では2021年東京オリンピック、2019年ラクビーワールドカップ、そして 横浜マラソンやTICAD(アフリカ開発会議)など多くのマスギャザリングのイベントの医療救護を取り仕切ってきました。
これらは地震や風水害などのDisaseter時の対応にもつながることであり、救急医としても必須のスキルの一つです。
大規模なスポーツイベントは、多くの人々が集うイベント(マスギャザリング・イベント)として、多数の傷病者を発生するリスクを持っています。
当教室では、このようなマスギャザリングイベントにもスタッフを派遣し、会場で発生した傷病者への対応はもちろんのこと、多数傷病者発生時にいち早い対応を展開出来るよう対策をしております。