活動報告 2020.08.17
高度救命センター:外科グループ定期症例検討会
横浜市大附属市民総合医療センター高度救命センターでは日々重症外傷症例・緊急手術が必要な症例が多数救急車で来院し、救命センター所属の外科医3名を中心に、救急スタッフおよび専攻医・研修医で病態に応じた外科的治療を行なっています。
当該患者の日々のカンファレンスはなおのこと、月例症例検討を行い、外科グループのみならず、全てのスタッフ・教室員・専攻医で情報を共有しています。
<実際の検討症例の1例>
X歳 ●性 S状結腸捻転疑い
来院経過:〇〇〇〇(症例の経過詳細)
術式:DL→開腹S状結腸切除+Hartmann手術
所見:〇〇〇〇(術中の所見および手術の詳細)
術後経過:〇〇〇〇(術後経過詳細および転機)
振り返り:
<本症例についての検討>
良性の急性大腸閉塞性疾患は大腸軸捻転、偽性大腸閉塞症(ACPO; Acute Colonic Pseudo-Obstruction)の主に二つある。
本症例ではS状結腸過長症があり、画像上捻転ははっきりしないもののS状結腸軸捻転を最も疑った。
一方で、本症例は、ACPOについても合致する点もあった。
ACPOは明確な診断基準があるわけではなく画像上明らかな閉塞機転のない疾患群のことであり、病態は大腸の自律神経失調により停滞し結腸の膨張をきたしてしまうというもの。特に、高齢者や入院患者、最近手術を受けた患者に発症しやすく、減圧をしなければ内圧上昇により結腸壊死をきたす場合もある。
本症例は、本年4月に整形手術を受けており、ほとんど自宅で寝たきり、自律神経失調を来たしやすい状況であったと推察され、画像上で閉塞は認めない点でも一致している。
また、結腸軸捻転か、ACPOかで治療戦略も変わってくるため明確な診断が重要と思われた。
<S状結腸軸捻転の治療戦略>
S状結腸軸捻転は腹膜炎症状、穿孔、内科的減圧で改善しない場合は緊急手術を要する。
逆に、前述の項目に当てはまらなければ、第一選択は内視鏡下の整復(±減圧チューブ留置)である。
本症例では来院時のCTで腸管壊死所見ははっきりしなかった。こういった場合には、治療戦略がその判断で大きく変わってきてしまうが、採血データやvitalなどの所見から判断しなければならない。本症例では結論から言えば腸管壊死を伴っていたが、比較的vitalは安定し、腹部所見や採血データの推移で腸管壊死を考え手術に臨んだ。
逆に、腸管壊死を疑わないと判断していたら、アルゴリズムからは経過観察の上で内視鏡を考慮する事となり更なる全身状態の増悪を見たかもしれない。(余談であるが, 回盲部の捻転に置いては内視鏡よりも手術が優先される)
<ACPOの治療戦略>
虚血や腹膜炎症状、回盲部径>12cm、強い腹痛、これらが無ければ保存的治療を選択するのが第一選択となる。(原因薬剤中止や絶食, 感染症治療やイレウス管挿入を含む)
保存治療で70-80%は改善するとされるが、奏功しない場合、48-72時間でネオスチグミン内服治療あるいは内視鏡的減圧を試みる。
ネオスチグミンの有用性は複数のRCTで示されてお理、80%程度改善するとの報告もある。
一方で、内視鏡的減圧についてはRCTが存在せずエビデンスに欠けるが多くの施設で施行されている。減圧効果のみならず粘膜に刺激を与えることで蠕動を促す効果も期待できるとのこと。減圧チューブの有用性についても不明。
内服治療および内視鏡的減圧が奏功しない場合に手術が選択されることとなる。
以下にアルゴリズム抜粋。
(日本のガイドライン、文献にいいものが見当たらないため、最新のアメリカのガイドラインより抜粋)
Mariam Naveed, et al. American Society for Gastrointestinal Endoscopy guideline onthe role of endoscopy in the management of acute colonicpseudo-obstruction and colonic volvulus. Gastrointestinal Endoscopy .2020; 91(2) :228-235
以上の例のように、術前・術中・術後の詳細のみならず、その症例の現行ガイドラインや標準治療などを共有し、今後の症例にさらに経験を生かすようにしています。
当教室では専門科グループ(ECMO・外科・整形外科・形成外科・脳神経外科・循環器科・精神科・基礎研究 等々)の情報を共有し、教室員全体のレベルアップ・教育に力を入れています。