活動報告

   学術活動    2018.10.9
 

報告ーカロリンスカ大学でのECMO研修ー

横浜市大附属市民総合医療センターの酒井先生がEuro ELSO ECMO courseに参加されました。以下、酒井医師からの学会参加報告です。


 カロリンスカ研究所はスウェーデン・ストックホルムの北にあり、ECMOセンターとして世界的に有名な機関です。また、最近日本人がノーベル生理学・医学賞を受賞しましたがその選考委員会があるのもカロリンスカにあります。

Euro ELSO ECMO Courseはカロリンスカ研究所で毎年開催されているコースで、今年は10月1日から10月4日まで開催されました。ドイツ、オランダ、アメリカ、イギリス、ポルトガル、ポーランド、中国など世界各国より計24人の参加者があり、うち日本人は7人でした。
コース内容は24人を4グループに分け、レクチャー、症例検討、シミュレーション、回路トラブルシューティングを1日かけて順番に学んでいくというスタイルでした。毎日8時から17時まで行われ、初日終了後はカロリンスカ大学病院のECMOセンターの見学も行うことができました。

 ECMOセンターのECMOphysician、specialistなどがカロリンスカで実際に行なっていることを元に直接講義を担当しておりました。普段我々がやっている臨床と同様の管理のこともあるし、全く違うものや、本当にそんなことをやっているのかと疑いたくなるようなものまであり、とても多くの知識や刺激を受けることができました。
ECMO導入基準に関してはELSOガイドラインに準じており横浜市大との大きな違いはありませんでした。カニュレーションはECMO surgeonがいればsemi cutdownで行い、いなければ経皮的穿刺をエコーで行なっていました。カニュレーションサイトは大きく異なりました。VAでは大腿送脱血、VVでは大腿脱血、内頸送血が多いかと思いますが、カロリンスカではVA  VVともに内頸脱血、大腿送血とのことです。理由はVAの場合は内頸脱血ではより酸素化されていない上半身の血液を多く回路に流すことによりmixising pointより心臓側の酸素化を改善すること、VVの場合はリサーキュレーションを減らすことができると述べていました。管理に関してはAPTTを指標とすることは同じでしたが、血液ガスは通常我々がとっているAlineからはとらず(体の酸素化はSATを見ればよいとのこと)、人工肺前の血液ガスを1-2時間ごとに採取していました。これによりリサーキュレーションの割合を推測でき悪化した場合はカテーテル先端の位置異常などを疑うきっかけとなるとのことでした。また、圧測定に関してはルーチンで3箇所(ポンプ前、人工肺前、人工肺後)を常にモニターしていました。トラブルに備え、ECMO患者の前には常に新しい人工肺、ポンプを置いておきいつでも交換ができる体制をとっていました(40秒での交換が目標だそうです)。weaningに関しても異なる点がありました。VVでは最終的にO2フローをクランプし評価を行うという点は同様でしたが、その前にCO2の除去能力評価のため人工肺にCO2を加え、自己肺のみで換気ができるかの評価を行なっていました。VAではblood flowを1L/minまで落として心エコーで評価をしますが、その際にO2フローをクランプします。1L/minのフローがシャントとなりますが、それで堪えるようなら離脱は大丈夫であろうとの説明でした。この方法に関しては他の参加者からも疑問が上がっていました。カニュレーション抜去は動脈の場合は縫合しているとのことでした。

 カロリンスカの臨床の印象としては、世界の最先端のエビデンスを集めそれをもとに多くの症例を実践しているというわけではなく、世界のスタンダードはあるかもしれないが、カロリンスカではこのように行なっている。そしてその根拠はカロリンスカで蓄積してきたデータが示している。というように感じました。症例としてはVV-ECMOが多いようで、あまりECPRについては触れられませんでした。

 とても多くのことを学ぶことができ、大変有意義な研修でした。今後横浜市大としてデータを集積し、独自の戦略を構築し、臨床にぜひ生かしていきたいと思います。