活動報告

   学術活動    2019.11.1
 

報告ーAPHP研修ー

横浜市大附属病院の小川先生がフランスパリのAPHPの研修に参加されました。以下、小川医師からの報告です。
 


 平素より大変お世話になります。横浜市立大学附属病院救急科の小川です。この度9月9日〜本日13日までAPHP(Assistance Publique Hôpitaux de Paris)で研修させていただきましたのでご報告させいただきます。この研修に関しては毎年当大学より参加させていただいており、この度とてもよい機会をいただき参加させていただきました。
 
 今回の研修の目的は、①Parisにおける救急医療体制(Doctor car EMS system; SAMU)②ParisのER, intensive care、trauma emergency, post operative care、Pediatric emergency上記を学ぶことです。
 
 これまで同教室員の先生方、救急病棟Nsが歴代で参加されており、恐らく先人の方々に追記することはほとんどないかと思いますが、基本的にはParisのDoctor car systemと日本やアメリカで採用されているParamedic systemの違いは何かというものをSAMUを通じて学ぶことができました。非常に学びが多すぎて、かなり端折っている部分も多いですが、Volumeとしては非常にHeavyです。なので読み飛ばしていただいて結構です。
Parisは直径10km、円周33kmに囲まれた20区からなるフランスの首都であり、病院の配置等に関しては横浜市とほぼ変わらないというのが印象でありました。各病院間は約10分以内のところに配置されており、救急車が搬送のメインであり、ドクターヘリを必要としない市でありました。施設内でヘリポートを有しているのは2施設のみ。基本的にはドクターヘリは使用しません。郊外からの搬送・郊外への搬送時にのみ使用いたします。
 
-SAMUに関して- Professor Benoît VivienSAMU(Services d'Aide Médicale Urgente): 横浜市でいうと指令センター&#7119の役割を担っており、一日2000-2500件の救急に関する連絡を受ける場所。Paris市内の南方Montparnasse Station近傍にあるNecker Hospital敷地内にSAMUにはEmergency Physician 3名、General Practitioner 2名、regulation assistant 6名で構成されているregulation roomを施設内に持ち、24時間3交代制で救急の連絡を受けるという体制を取っていました。救急連絡が入ると(#15;日本の119)、Regultion assistantが医療相談を受け、プロトコールに沿って救急車の必要性、SAMU(Mobile ICU)の必要性を判断します。実際にSAMU出動を決定するのはEmergeny Physicianでありますが、その選定の基準は電話において、胸痛はSAMU必須、その他会話中の息遣いや声の変化などある程度「医師の勘」でMICUを出動させるか否かの判断をするということをPhysicianは担っておりました。必要と判断されない場合、日本同様所轄消防から消防救急に出動要請がかかり、現地に行き、病院に運ぶというParamedic systemを採用していました。日本同様8-9割は救急の指令だそうです(消火活動は1-2割くらい)。SAMUが出動してもPA連携同様消防士とともに診療に当たります。SAMUの構成は、ER physician 1名、Anesthesia Ns 1名、Caregiver 1名の合計3名のグループが、4チーム構成されて順番に出動しています。シフトに関してはかなりstrictであり、どこの病院においてもParisの医師は週44時間以上の労働を国家的に決められています。これを破り、診療を続けて医療訴訟を起こすものなら刑務所に入れられ禁固刑になるそうです。なので夜勤や自身の勤務体制に関しては非常に重要なpointとなります。SAMUに所属する医師は30名、regulation assistantは40-45名です。その人数でシフト制で回しております。General Physician、Regulation assistantに関しては救急に関する相談を受けてアドバイスを行い、横浜市での#7119と同様の役割を行なっています。実際、SAMU1隊の出動は勤務時間内に3回くらい。幸か不幸か自分の出番は2件、サイレンを鳴らしてParis市内を爆走し、現場に行きましたが、積極的なSAMUの活動が必要ない症例であり(出動したPhysicianもなぜ出動になったの?と言っていました)、患者搬送もありませんでしたが、別の隊でCPA症例があったようでSAMUのECMO専用Mobileも出動し、患者を搬送していたようです。SAMUの利点は、いち早く現場に到着し、安定化させ、病院に運ぶ。基本ER(初療)は介さず、直接intensive care unitに運び治療が継続されるところでしょう。

 
-ER/GICU/Trauma center/ORに関して-Hôpital européen Georges-Pompidouはセーヌ川沿いに位置する約800床の病院
ER, Trauma center, oncology, 心血管外科が非常に有名な病院であり心移植・肺移植の中心となってる病院でもある。ERはwalk-in, ambulanceともに受け入れており、1日平均70-100人くらいが来院。このERのBossはProf. Juvinで議員さんでもある。https://en.wikipedia.org/wiki/Philippe_Juvin患者が来院すると、まず前室で10分以内にNsが症状・バイタルサイン等を取り、Protocolに従いトリアージ、Blue, Yellow, Redに振り分け、BlueはBlue Unit(walk-inで問題ないところ)、Yellow/Redは病室に移動となる。ERの構成は、Triage room, Blue unit, Yellow/Red Unit, Door Unit(15床)に分かれており、Nsがそれぞれ2-2-3-2で配置されており、このNsに加えて介護士(caregiver)が補助に入る。Drも各勤務帯で責任者制。Nsはルート確保・採血・BGA・ECG全てやる。(医師がこれらのことをすることはよほどのことがない限りないらしい)ER physicianは基本的に患者を診て、検査オーダーして、専門家にコンサルトするという流れであり、完全に初期処置を行い、各科に振り分ける。もちろん外来で帰せるものは帰す。しかし、日本のように救急科が全て診断・治療を行うわけではない。救急外来の奥に存在するDoor Unitは、temporaryな病棟で最大で2日間の滞在、目標としては1日で転機を決定する。ここにはNs2名が常駐、各主科医師がここの患者を診る。入院は一日35人くらいで夜間15人くらい入院するが、ベッドがほぼ満床であることが多く、病棟を探すのが大変であり、朝からの責任者の仕事はベッドコントロール。当直帯はスタッフ2名、レジデント2名、深夜0時までの勤務が1名の4.5人で構成されている。常に医学生(intern;医学部3年生から午前中は毎日出勤しており患者の診療にあたる。5人の患者を受け持つ。午後は授業。)がおり、スタッフについて病歴等々から診療の流れ、確定診断の過程をディスカッションをしている。当教室が初療室で行なっているようなスピード感はなく、救急患者の外来での待ち時間は長い印象、さらにはERでの滞在時間が長い。Traumaに関しては基本ERに来ない。Trauma centerに直行。SAMUで搬送された患者はそのままICUに直行。Post operation room-術後の回復室の位置づけで痛みや冷め具合によって滞在時間が異なる。全部で16床。麻酔科医が管理を行う。ICUは25床 Unit 1-4となっており、基本はGICUの位置付け。この病院は心移植・肺移植の拠点病院であり、Unit 3-4の前部屋がある病室で管理する。これは感染に配慮したもの。医師は、スタッフが3名、レジデントが10名の13人制。2交代制をしいている。勤務時間は44時間/週。ICU Nsは重症患者2名を1人が担当する。ECMOは12台あり、7台くらい同時に稼働していたこともあり。心血管系が発展していることもあり、使用頻度は高い。ECMOはintesivistが責任を持って管理する。導入はcardiovascular surgeon,Cardiologist, Intensivistが行う。

 
Trauma Center-患者が幸か不幸か来院なく、詳細は全く不明。
operation room-この病院には3箇所あり、今回訪問したのは、整形・形成・婦人科の手術室。スケジュール管理はステーションで確認することができる。1730からは4人、1930からは2人のNs体制になってしまう。ここでも勤務時間の管理が非常に厳密である。手術麻酔は麻酔Nsがanesthesia管理下に薬剤投与・挿管・術中管理・抜管を行う。日本では主科医師が手術開始前から手術室を出るまで麻酔科医を一緒に管理していることが多いと思うが、ここではあっという間にいなくなり、術後管理も基本的にはしない。

 
-Pediatrics ER-Parisには3箇所小児科救急病院がある。Hôpital Armand-Trousseau Ap-Hphttp://trousseau.aphp.fr
年間15000件くらいのPediatric ERの来院があり、一日平均200件くらいの来院があり。冬場には250-300件の小児を受け入れる。この病院には小児科のほか産科がある。(Necker Hospitalに関しては年間75000件くらい小児救急を診ているらしい。)小児ベッド数は120-130床くらいで冬場にはベッドを探すのが大変である。ER小児科医はスタッフ15人、レジデント10人+インターンが数名おり、外来リーダーが毎日交代でコンサルテーションやベッドコントロールを行っている。勤務に関してはやはりとても厳密で、Max44時間まで。2交代制。ERに続く24時間ベッド(Door Unit)は12床Max Pediatric ERもAdult ERと同様な体制をしいており、Nsがプロトコールに従ってトリアージし、physicianに渡す。実際このトリアージに関しては6ヶ月のER見学とその後2日間の実践トレーニングで行う。このトリアージプロトコールが非常にしっかりとしており、症状別に分かれたものがトリアージ室(3カ所)に置かれている。ER Phycsicianは診断・治療に関して、全て病院としてのProtocolがあり、治療方針も1年に一度bookletを改定して仕様している。初療と簡単な処置を行う。採血もしなければ点滴も入れない。もし挿管が必要な患児がいる場合、SAMUがすでに挿管済みでERを通らずICUに行くか、ERでそう判断された場合には、小児ICUからintensivistが降りてくる。実際ER physicianの挿管は2年で1回しかないと。小児診療室には患者の不安や痛みを取るという目的のため、iPadを使用した診療を行っている。ICUはNICU12床、PICU8床、超低出生体重児4床でICU intensivistがいる。24週500gが最小でNeonatalから18歳までの集中治療を行う。このICUにはECMO使用する部屋が2床あり、ほぼ常に使用している。VV-ECMO、VA-ECMOを年間40-50例。場合によってはパリ郊外のECMO centerにヘリで搬送することもあり。ヘリポートは施設内にはなく、20分くらい離れたところからヘリ搬送を行う。
Adult, PediatricsともにERには非常に多くの患者が来院し、トリアージからコンサルト・入院まで同じような流れで行われていた。役割が本当にしっかりしていた。Parisでも診療は予約制であり、急患の場合は日中でもERに行くことになる。ここは日本との違いと思います。

 
-others-研修は朝8時30分から18時までしっかりさせていただいておりましたが、もう一つ我が教室にとって非常に嬉しいことがありました。去年Université Descartes de Paris から当大学に交換留学生として救急科も1週間ローテーションしてくれたAndy Benziと会いました。彼は医学部最終学年として、Necker Hospital, Hematologyで3ヶ月間勉強中であり、敷地内にあるSAMUに会いに来てくれました。彼は横浜市大での研修が本当に為になったそうで、その際に当教室員から受けた「おもてなし」が本当に嬉しかったそうです。ご両親が我々3人を自宅に招待してくださり食事を共にしました。ご両親からは本当に美味しいフランス家庭料理と非常に温かいお言葉を頂きました。これも教室員みなさんのお陰です。
以上のような報告ではございますが、ここでは書ききれないまだまだ多くのことを学ぶことができました。今回研修に推薦してくださった竹内先生をはじめ研修員として選出してくださった方々、研修をアレンジしてくださった方々、この研修期間に負担をおかけした附属病院の先生方を含め関係者各位に深謝いたします。