活動報告

  活動報告   2021.1.9
 

重症呼吸不全センターを目指して

ー横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センター:Primary ECMO Transport報告ー

 重症呼吸不全(予測死亡率50%以上)に対する体外式膜型人工肺(ECMO)施行例は、200-300万人の都市において年間10-12例程度の発症とされ、横浜市においては年間20-30例の発症が予想されます。
 重症呼吸不全に対するECMOは、本邦では一般的な循環不全に対するECMOに比べその管理期間が平均10日以上と長く、合併症も発生します。そのため、症例を経験するほど治療成績が上がると報告されていますが、実際は一つの救命救急センターでの経験数は年1-2件程度であり、症例を多く経験することができません。

 イギリスやイタリアなどでは2009年のインフルエンザパンデミックにおいてECMO症例を集約し救命率72%でしたが、集約ができなかった本邦では救命率36%と報告され、ECMO症例集約化の必要性が示唆されています。
 本邦において重症呼吸不全に対するECMO症例の集約化が進まない理由はいくつかありますが、病院間連携や搬送車両などが要因の一つです。

 

 しかし当センターでは、2014年から横浜市重症外傷センターとして重症外傷症例を集約してきたノウハウがあり、横浜横須賀地域の病院間連携が密であり(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62765320Y0A810C2L82000)、また2020年4月にはECMOを装着した患者をベッドごと運べる搬送機能を有した新しい病院専用救急車(ECMOカー)が導入されています。

 この様な準備状況において、先日A病院から重症呼吸不全のCOVID症例の転院相談がありました。

 横浜市大ECMOチーム:Yokohama Advanced Cardiopulmonary Help Team(YACHT:通称ヨット)のメンバー1名が、先発隊として先方へ向かい患者を評価し適切な搬送手段を検討した結果、先方でECMOを導入しその後センター病院へ搬送する「Primary ECMO Transport」が望ましいと判断しました。

     

 その後後発隊がECMO資機材を持参し、先発隊と合流後にECMO導入し、搬送に耐えうる患者状態を整え、ECMOカーで当センターへ搬送しました。

    

 ECMOカーでの搬送は、非常にストレスがなく、トラブルもなく搬送でき、当院にて加療継続しております。

 COVID19パンデミックの今、いつどこで重症呼吸不全に陥るかわかりません。
 ECMO搬送が可能であれば、その様な状態に陥ってもYACHTが現場へ向かい、ECMOを導入し安全に搬送、そして症例も集約化することができます。

    

 当センターでは、現在までに重症呼吸不全のCOVID19症例に対してECMOを用いた加療を10例以上行い、その救命率は80%以上となっています。
 今後は横浜横須賀地域のみならず、神奈川県における重症呼吸不全センターとしての機能を担っていけるようECMO搬送体制をさらに充実させながら努力していきたいと思います。