写真:2007年度麻酔科スタッフおよび初期・後期研修医(2007.5.)
1970年(昭和45年) 初代教授に東京医科歯科大学から天羽敬祐を迎え、横浜市立大学医学部麻酔科学教室は発足しました。
当初は少ない医局員ながら、術後低酸素血症、麻酔中および人工呼吸中の呼吸生理に関する研究を開始し、
「呼吸生理」がその後の横浜市大麻酔科のメインテーマになっていったといえます。
同時に天羽は集中治療室での呼吸管理にも精力的に取り組み、臨床に即した知見を集積しました。
1980年(昭和55年) 自治医科大学から沼田克雄を2代目教授として迎え、「呼吸生理の横浜市大麻酔科」をさらに磐石なものとしました。
1989年(平成元年) 国立循環器病センターから奥村福一郎を3代目教授として迎え、従来からの呼吸生理の臨床・研究に加え、
心血管および脳循環に関する臨床・研究も開始、より幅広い専門分野の専門家が育成されるようになりました。
基礎研究も盛んになり、それまで以上に活動性があがった時期といえます。
奥村教授時代に医局員も120名を越え、国内有数の麻酔科学教室に発展しました。
1999年(平成11年)に横浜市立大学医学部付属病院で発生した患者取り違え事件という、
社会的にも大きな問題となった事件の当事者となってしまいましたが、事件以降、病院全体を挙げての安全管理に取り組み、
それまで以上に安全な麻酔・集中治療に取り組んでいます。
2000年(平成13年) 東京大学医学部より山田芳嗣を4代目教授として迎えました。
山田教授のもと、我々は今まで以上にあらゆる麻酔科関連領域における臨床・研究に力を注ぎ、「実力ある麻酔科医」の育成に取り組むと同時に、
次の世代の医師を育成する医学教育への麻酔科の関与にも積極的に取り組み、特に救急蘇生法実習では中心的な役割を果たしてきました。
麻酔科学と救急医学の不可分性の観点から、日本ACLS協会横浜トレーニングサイトの設立にも深く関与し、
多くの仲間たちがアメリカ心臓病協会(AHA)の推奨する心配蘇生法講習会に参加しています。
一方子育てが必要な麻酔科医のキャリアをどのようにすべきかといった現実的な側面にも力を入れて取り組みを開始し、
柔軟な人事システムの下で多くの女性医師が志を断念することなく、自分のペースで働ける土壌を築きつつあります。
2006年(平成18年) 山田教授の東京大学医学部麻酔科学教室への転出に伴い、帝京大学医学部より後藤隆久を5代目教授として迎えました。
若くエネルギッシュな後藤教授を迎え、今まで以上に安全な麻酔サービスを提供するばかりでなく、良質な麻酔科医の育成、
麻酔科医たちがやりがいを持って仕事を続けられるスキルアップへの道筋の構築を推進していきます。
横浜市立大学麻酔科は手術室における手術麻酔を核として、集中治療、
救急医療、ペインクリニック・緩和医療の各分野にまたがる総合診療を行っています。
院内活動としては、安全管理や感染対策といった病院機能のなかでも比較的重要な部分で幅広く活躍しています。
さらには、未来(近未来)のより良い医療の実現のために基礎研究・臨床研究の両面で学術活動にも力を入れています。
業務の詳しい内容については別項に譲り、ここでは横浜市立大学附属病院での私たちのスタンス・視点をご紹介いたします。
臨床業務においては、病院の中央部門の担い手としてバランス感覚を保ちながら、『病院として患者さんに最高の医療を提供するにはどうすべきか?』
ということを常に考えて業務を行っています。
手術部門では、安全かつ高度な麻酔を提供することは当然でありますが、外科系医師、
術前評価に関わる内科系医師、手術部看護師、臨床工学技士、等との連絡の要として、時には方針決定に主導的立場もとります。
術前併診外来では、主治医が問題有りと判断した患者さんを事前に診察し、検査の追加や、加療を行っています。
手術直前では術前管理が手遅れになるようなケースを未然に防いで、安全な手術/麻酔に寄与するだけではなく、
患者さんの利便性向上や病院のコスト削減にも一役を買っています。
今後は全ての予定手術患者さんをこの術前併診外来で診るシステムにする予定です。
集中治療室では24時間体制で集中治療部所属の医師が常駐し、主治医との討議を踏まえて診断や治療方針を決定し、
各種処置や入退室の判断をしています。病棟の重症患者や人工呼吸器装着中の患者さんの管理にも助言を与えています。
ペインクリニックでは、麻酔科を受診する慢性疼痛の患者さんに加え、検査や処置時の神経ブロックや各種の鎮痛処置の相談や依頼に対応しています。
緩和医療は、チームを編成して院内で広く活動しています。その活動の有用性が認められてか、最近患者数が急激に増えています。
救急救命室においては、「周術期のgeneral physician」である麻酔科医師の役割は、今後大きくなることは確実であり、さらなる発展が予想されます。
私達は、救急医療部門を究極のPrimary Careの場として捕らえ、Generalist育成の場としての救急医療部門の充実を、他施設との協力関係を築きながら推進しています
。附属病院救急部や関連病院では、救急専門医や救急を志す医師を派遣し、
地域の救急医療に貢献するとともに、初期治療からの一貫した診療や各科・部署が連携して行うチーム医療の指揮、レジデントの指導などで中心的役割を担っています。
医学生、レジデントに対しては、各分野(部門)の専門医がほぼマンツーマンの体制で、教育/指導を行っています。
各分野の専門知識や技術の習得(手術患者の術前評価、周術期の患者管理、術後急性痛の評価と治療、重症患者の集中治療、救急医療、慢性痛の診断と治療、
緩和医療、終末期医療)にとどまらず、それらを通じて臨床医として身につけるべき基本的態度・患者医師関係の構築にも力を入れて教育に当たっています。
特に、麻酔下の患者あるいは集中治療室や救急外来において危急な状態にある患者にとっては、わずかな判断の誤りや治療の遅れが致命的にもなり得ることから、
正確な判断と迅速な対応をするトレーニングを行っています。
シニアレジデントおよび若手スタッフに対しては、それぞれの希望に応じてさらに専門性の高い診療技能を身につけさせる教育を行っています。
しかしながらこれらの教育は1施設で完遂することは不可能なので、本附属病院の他に附属市民総合医療センターをはじめとする市内、
県内の基幹病院や専門病院、あるいは県外の専門病院とも協力して、多様なニーズに応えられる人材の育成に努めています。
このように、本学麻酔科では、経験年数に応じて高いレベルの教育を提供し、多くの優秀な専門医を育成し、地域医療へ貢献することを目標にしています。
医学部教育においては、麻酔科の講義/実習に加え、近年講座の枠組みを超えた横断的な陣容で実施されているコア・カリキュラムにおいて、
教授をはじめ複数のスタッフが、カリキュラム長あるいは副カリキュラム長、チーフディレクター等を拝命し、医学教育の充実に努めています。
博士課程の大学院生の指導も重要な教育目標にしています。
生体制御・麻酔科学の大学院には各学年数名ずつが在籍しており、それぞれ指導教員の元で立派な研究を行い学位を取得しています。
近年の麻酔科学の発展にはめざましいものがありますが、これは黙っていて起こるものでは決してありません。
先人たちが、あるいは隣で働いている同僚たちが行った観察や研究のお陰で、私たちはこうして先端技術(医療)の恩恵に浴しているわけです。
裏を返せば、今このホームページを読んでいるあなたの発見が、今後の麻酔科学あるいはその他の学問・臨床を変えることになるかもしれないのです。
私たちは常に臨床医として現場(臨床)の疑問を解決したいという思いで日々研究を行っています。
新しく立ち上げた研究プロジェクトからも成果が出てきており、競合的研究費も安定的に得ることができています。
グループによっては今後プロジェクトを拡大する構想もあります。子どもだった頃を思い出してください。
よく大人に「これは何、あれは何?」「何でこれはああなるの?」と聞いていたと思います。
大人になった今、あなたはそういうことに答える知識や技能を身につけたかもしれませんが、疑問を感じる『心』を失いかけてはいないでしょうか。
今必要なのはあなたの情熱と、日常に対するちょっとした疑問なのかもしれません。
研究に興味がある方、学位って本当に必要?と思っていらっしゃる方は、
こちらの大学院紹介も参考にしてみて下さい。
救急部が発足する以前から、院内ではBLS&AED講習会や、各病棟・科単位での救急処置の講義/実習の依頼に応えていましたが、今後もこの活動を継続していきます。
院内急変に際しては、全館放送等に対応してスタッフが現場に急行し、各科医師と手分けをしつつ現場指揮をとり救急活動に積極的に参加しています。
災害医療に詳しいスタッフも多く、災害をシミュレーションしてそれに対する対応をワークショップ形式で開催して院内スタッフに教育と啓蒙を行っています。
安全管理や米国CDCのガイドライン等に準拠した感染対策には積極的に関わっています。
特に肺塞栓予防マニュアルの制定や改訂作業、中心静脈カテーテル挿入手技の標準化と登録医制度/講習会の開催、人工呼吸器使用の安全教育などには、
麻酔科の関与が高く評価されています。
栄養サポートチーム(NST)では、リーダーをはじめ複数のスタッフをメンバーに送り、入院患者さんの管理に有用なアドバイスを与え、また講演をおこなっています。
AHA 横浜トレーニングサイトの一員として麻酔科の複数のスタッフが参加し、
BLS/ACLS講習会の実施に貢献しています。
救急救命士が蘇生の一手段として用いることが認められた気管挿管を実施するために必須となる気管挿管実習を受入れ、
高度な技術と判断力を持つ救急救命士の養成に協力しています。
その他、市民講座やフォーラムへの講師としての参加、学会等への代議員/評議員等としての参加等を通して、多くのスタッフが積極的に地域貢献に関わっています。