診断基準、重症度分類
ベーチェット病の診断基準
ベーチェット病の症状はさまざまであり、症状の現れ方も異なります。そのため、ベーチェット病には診断に直接結びつくような検査所見はなく、症状の組み合わせなどから考えられた診断基準によって診断されます。
【ベーチェット病の診断基準(2016年 小改訂)】
1. 主要項目
(1)主症状
- 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
- 皮膚症状
- 結節性紅斑様皮疹
- 皮下の血栓性静脈炎
- 毛嚢炎様皮疹、痤瘡様皮疹
参考所見:皮膚の被刺激性亢進
- 眼症状
- 虹彩毛様体炎
- 網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
- 以下の所見があれば(a)(b)に準じる
(a)(b)を経過したと思われる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆
- 外陰部潰瘍
(2)副症状
- 変形や硬直を伴わない関節炎
- 精巣上体炎(副睾丸炎)
- 回盲部潰瘍で代表される消化器病変
- 血管病変
- 中等度以上の中枢神経病変
(3)病型診断の基準
- 完全型:経過中に4主症状が出現したもの
- 不全型:
- 経過中に3主症状、あるいは2主症状と2副症状が出現したもの
- 経過中に定型的眼症状とその他の1主症状、あるいは2副症状が出現したもの
- 疑い:主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの
- 特殊病変:完全型または不全型の基準を満たし、下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し、以下のように分類する。
- 腸管(型)ベーチェット病—内視鏡で病変(部位を含む)を確認する。
- 血管(型)ベーチェット病—動脈瘤、動脈閉塞、深部静脈血栓症、肺塞栓のいずれかを確認する。
- 神経(型)ベーチェット病—髄膜炎、脳幹脳炎など急激な炎症性病態を呈する急性型と体幹失調、精神症状が緩徐に進行する慢性進行型のいずれかを確認する。
2. 検査所見
参考となる検査所見(必須ではない)
- 皮膚の針反応の陰・陽性
20~22Gの比較的太い注射針を用いること - 炎症反応
赤沈値の亢進、血清CRPの陽性化、末梢血白血球数の増加、補体価の上昇 - HLA-B51の陽性(約60%)、A26(約30%)。
- 病理所見
急性期の結節性紅斑様皮疹では中隔性脂肪組織炎で浸潤細胞は多核白血球と単核球の浸潤による。初期に多核球が多いが、単核球の浸潤が中心で、いわゆるリンパ球性血管炎の像をとる。全身的血管炎の可能性を示唆する壊死性血管炎を伴うこともあるので、その有無をみる。 - 神経型の診断においては髄液検査における細胞増多、IL-6増加、MRIの画像所見(フレア画像での高信号域や脳幹の萎縮像)を参考とする。
3. 参考事項
- 主症状、副症状とも、非典型例は取り上げない。
- 皮膚症状の(a)(b)(c)はいずれでも多発すれば1項目でもよく、眼症状も(a)(b)どちらでもよい。
- 眼症状について
虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎を経過したことが確実である虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆は主症状として取り上げてよいが、病変の由来が不確実であれば参考所見とする。 - 副症状について
副症状には鑑別すべき対象疾患が非常に多いことに留意せねばならない(鑑別診断の項参照)。鑑別診断が不十分な場合は参考所見とする。 - 炎症反応の全くないものは、ベーチェット病として疑わしい。また、ベーチェット病では補体価の高値を伴うことが多いが、γグロブリンの著しい増量や、自己抗体陽性は、むしろ膠原病などを疑う。
- 主要鑑別対象疾患
- 粘膜、皮膚、眼を侵す疾患
多型滲出性紅斑、急性薬物中毒、Reiter病 - ベーチェット病の主症状の1つをもつ疾患
口腔粘膜症状 慢性再発性アフタ症、Lipschutz陰部潰瘍 皮膚症状 化膿性毛嚢炎、尋常性痤瘡、結節性紅斑、遊走性血栓性静脈炎、単発性血栓性静脈炎、Sweet病 眼症状 サルコイドーシス、細菌性および真菌性眼内炎、急性網膜壊死、サイトメガロウイルス網膜炎、HTLV-1関連ぶどう膜炎、トキソプラズマ網膜炎、結核性ぶどう膜炎、梅毒性ぶどう膜炎、ヘルペス性虹彩炎、糖尿病虹彩炎、HLA-B27関連ぶどう膜炎、仮面症候群 - ベーチェット病の主症状および副症状とまぎらわしい疾患
口腔粘膜症状 ヘルペス口唇・口内炎(単純ヘルペスウイルス1型感染症) 外陰部潰瘍 単純ヘルペスウイルス2型感染症 結節性紅斑様
皮疹結節性紅斑、バザン硬結性紅斑、サルコイドーシス、Sweet病 関節炎症状 関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症などの膠原病、痛風、乾癬性関節症 消化器症状 急性虫垂炎、感染性腸炎、クローン病、薬剤性腸炎、腸結核 精巣上体炎
(副睾丸炎)結核 血管系症状 高安動脈炎、Buerger病、動脈硬化性動脈瘤 中枢神経症状 感染症・アレルギー性の髄膜・脳・脊髄炎、全身性エリテマトーデス、脳・脊髄の腫瘍、血管障害、梅毒、多発性硬化症、精神疾患、サルコイドーシス
- 粘膜、皮膚、眼を侵す疾患
ベーチェット病重症度分類(2016年小改訂)
Ⅱ度以上を医療費助成の対象とする
ベーチェット病の重症度基準
Stage 内容
- 眼症状以外の主症状(口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍)のみられるもの
- StageIの症状に眼症状として虹彩毛様体炎が加わったもの
StageIの症状に関節炎や副睾丸炎が加わったもの - 網脈絡膜炎がみられるもの
- 失明の可能性があるか、失明に至った網脈絡膜炎およびその他の眼合併症を有するもの
活動性、ないし重度の後遺症を残す特殊病型(腸管ベーチェット病、血管ベーチェット病、神経ベーチェット病)である - 生命予後に危険のある特殊病型ベーチェット病である
慢性進行型神経ベーチェット病である
- 注1
- StageI・IIについては活動期(下記参照)病変が1年間以上みられなければ、固定期(寛解)と判定するが、判定基準に合わなくなった場合には固定期からはずす。
- 注2
- 失明とは、両眼の視力の和が0.12以下もしくは両眼の視野がそれぞれ10度以内のものをいう。
- 注3
- ぶどう膜炎、皮下血栓性静脈炎、結節性紅斑様皮疹、外陰部潰瘍(女性の性周期に連動したものは除く)、関節炎症状、腸管潰瘍、進行性の中枢神経病変、進行性の血管病変、副睾丸炎のいずれかがみられ、理学所見(眼科的診察所見を含む)あるいは検査所見(血清CRP、血清補体価、髄液所見、腸管内視鏡所見など)から炎症兆候が明らかなもの。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
- 病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状であって、確認可能なものに限る)。
- 治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態で、直近6ヶ月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
- なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要な者については、医療費助成の対象とする。