ケニア・トゥルカナ族の驚異的な視機能
~光学的に完璧な眼と、人類の視覚能力の極限~
私たちは眼科医として臨床に従事する一方で、眼疾患の病態解明を目的に、遺伝学や分子生物学の研究にも長年取り組んできました。
今回、日本テレビ「木曜スペシャル・衝撃報告!これは奇蹟なのか、世界ウルトラ超人伝説」と連動した現地調査に参加することになりました。
ケニア北部、トゥルカナ湖周辺に暮らすトゥルカナ族は、約500年前からヤギやラクダを放牧して生きてきた遊牧民です。草木の少ない厳しい自然環境の中、藁で作られた家に電気もなく暮らしています。
このトゥルカナ族が「非常に優れた視力を持つ」との報告を受け、私たちは最新鋭の検査機器を多数携えてサバンナに向かい、その驚異的な眼の秘密に迫りました。
光学的に完璧な“ガラス玉のような眼”
検査の結果、若者の眼は驚くほど理想的でした。
・屈折は正視で、近視・遠視・乱視がほとんど無い
・角膜形状に歪みがなく、不正乱視もなし
・高次収差も検出されず、光学的に極めてクリア
・眼軸長や前房深度も理想的なバランス
つまり、一切の歪みやいびつのない、よく磨かれたガラス玉のように澄み切った眼球。
その結果、裸眼視力4.0以上という驚異的な視力を持つ人が、何人も普通に確認されたのです。
驚異の識別実験:1km先のヤギの識別、500m先の妻の識別
科学的な測定に加え、現地ならではの実証実験も行われました。
・20数頭のヤギの群れの中に自分の飼っているヤギを紛れ込ませ、1km先からそれを正しく言い当てる
・500m先に並んだ複数の女性の中から、自分の妻を瞬時に見分ける
これは単なる静止視力では説明できません。
動く対象をとらえる卓越した動体視力、そしてわずかな形状やシルエットの差異を見抜く鋭敏な視覚能力が備わっていたからこそ可能なのです。
なぜここまで見えるのか?
当初は網膜の視細胞の数や間隔に違いがあるのでは、と考えました。
しかし、同じ人間でトゥルカナ族だけ視細胞が2~3倍多いとは考えにくい。
むしろ、答えは環境にあるのだと思います。
私たちはネオンやディスプレイに囲まれた人工的な光の世界に暮らしています。
そうした環境では、視細胞の一つひとつの刺激が“ボワン”と広がり、隣の視細胞も巻き込んでしまい、結果として2点を2点として識別できなくなるのかもしれません。
一方、サバンナで暮らす人々は、自然光の下で遠景を見続ける生活をしています。
夜になれば藁ぶきの家に入り、人工照明のない暗闇の中で過ごします。
昼は強烈な太陽光、夜は焚き火と星明かりだけ――その明暗のリズムこそが網膜を鍛え、視細胞の解像力を最大限に発揮させているのかもしれません。
実際に、視力の優れたマサイ族も日本に来ると視力が下がってしまうという報告があります。
また、かつての日本人も視力は良好で、台湾の原住民族・高砂族の中には視力6.0という驚異的な記録さえ残されています。
つまり、トゥルカナ族の視機能は特別な「異人種の能力」ではなく、人類本来が持ち得る潜在能力なのかもしれません。
結びに
サバンナという過酷な自然環境が育んだ、光学的に完璧な眼球と、驚異的な総合的視機能。
それは単なる「目がいい」という次元を超え、動体視力や色覚までも含めた人類の視覚能力の極限を示すものでした。
この現地調査は、眼科医としても研究者としても忘れがたい体験であり、
「人間の視覚は環境によってここまで変わり得る」――その事実を強烈に実感する機会となりました。
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