実践力と研究力を備えた法医学者育成事業 文部科学省「基礎研究医養成活性化プログラム」採択事業

2019 ワークショップworkshop

第3回ワークショップ
「法医鑑定に求められる法学に関するワークショップ~刑事裁判における法医学の役割」開催報告書

令和元年1 2月1 4日、横浜市立大学附属病院臨床講堂において、甚礎研究 医養成活性化プログラムの 一環として第3回ワークショップ「法医鑑定に求められる法学に関するワークショップ~刑事裁判における法医鑑定の役割~」を開催しました。今回のワークショップでは、法医学者に必要な法学的な知識を習得することを目的として、刑事裁判に詳しい法曹関係者をお招きしてご講演いただきました。

第1 部ではまず、龍谷大学法学部教授で、弁護士でもあられる福島至先生から「法医学者のための法学的墓礎知識」と題し、法医学者が法医鑑定を行い、証人として裁判に出廷する際の手続きや法的根拠について分かりやすくご講演いただきました。我々法医学者が意識している以上に、裁判の場では法医学 者に対する専門家証人としての期待が大きく、鑑定人として公正中立であることを再認識して背筋が伸びる思いでした。

次に、千葉大学客員准教授で、弁護士でもあられる武市尚子先生からは「鑑定書、解剖レボートの記載・表現と法的評価について」というタイトルで ご講演いただきました 。講演では、先生の研究成果を基にして、鑑定書の記載方法によっては法曹関係者の印象が変化する可能性があるという興味深い事実をご提示 いただきました。学会としての鑑定書記載に関する標準化などの対応が求められていると感じました 。

最後に、刑事弁護人の第一人者である神山啓史弁護士からは「刑事裁判における法医鑑定の意義 」についてお話いただきました。刑事裁判における法医鑑定の意義 、鑑定書の記載方法、公判における証言などについて、実際の事例を提示しながらわかりやすく解説していただきました。当然のことながら鑑定人は科学的根拠に基づいた判断をすべきですが、証拠からいえることだけでなく、分からないことや判断できないことについても明示することの重要性についても再認識しました。

  

全体質疑では多くの立場の方から発言がありました。裁判員裁判における法医学 者の任務や検事あるいは弁 護人の役割、解剖で採取した試料の保管方法や期間について、解剖鑑定ならびに鑑定書記載の標準化について、など多岐にわたる白熱した議論が交わされました。通常、法医解剖は捜 査機関からの嘱託によって実施されるため、法医学者が弁護人と接触する機会は少ないですが、公正中立な法医 鑑定のためにも貴重な相互理解の良い機会となりました。

 

第2部では、本プログラム受講生でもある本学医学 研究科博士課程1年の田邊桃佳医師から、ドイツ・ミュンヘン大学法医学研究所での研修についての報告がありました。今回は5日間と短期の研修ではありましたが、研究所内での解剖に立会っただけでなく、講義や裁判の傍聴、生体鑑定への立会いの機会があったことが報告されました。ドイツ・ミュンヘンでは法医学が司法や行政と強く連携し、社会的に大きな役割を果たしており、それを早い段階で実感できたことは若い法医学者にとって貴重な財産になったと思います。

今回のワークショップでは過去  最大の81人の参加がありました。法医学者だけでなく、医療関係者、捜査閲係者、法曹関係者など参加者は多岐に及びました。法医実務の円滑な遂行のためには異職種、多職種の連携が必要であり、多機関における相互理解が求められます。今後もこのような企画を通して法医学者の育成事業を継続するとともに、法医学の社会啓発に貢献していきたいと考えます。