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膵腫瘍の治療

 

1.はじめに

悪性膵腫瘍の「唯一の根治療法」は手術による切除です。しかし膵腫瘍の多くは見つかった時点で手術ができないほど大きくなっていることが多く、手術ができる膵腫瘍はむしろ少数であるといえます。と言いますのは小さな膵腫瘍には特徴的な症状がなく、また一般的な健康診断(検診)では見つけにくいため、手術ができないくらい大きくなるまで気付かれないのです。
  悪性膵腫瘍はいわゆる膵臓がん(詳しくは浸潤型膵管がん)と膵神経内分泌腫瘍の2つに大別されます。横浜市大臨床腫瘍科では、手術不能な膵臓がんと手術不能な膵神経内分泌腫瘍に対して重点的に治療を行っています。以下に、一般的な治療方法と、当科における独自の取り組みをご紹介します。

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2.切除不能膵臓がんに対して

膵臓がんの患者5年生存率は5%以下であり最も予後の悪いがんの一つです。膵臓がんは、診断に有効な検診手段が未だ確立していないため早期発見が非常に難しく、診断がついた時には、約半数が肝臓やリンパ節などの全身臓器へ転移している転移性膵臓がんとして発見されます
  進行した状態で病気が見つけられることが大半であるため、治療としては根治が期待できる外科的切除術は少なく、抗がん剤による治療が中心となります。しかし、膵臓がんに有効な抗がん剤の数はいまだに少ないため、膵臓がんに対する新たな治療薬開発を進めていくこと、また現在ある抗がん剤をいかにうまく使用していくかが重要です。

1) ゲムシタビン(商品名 ジェムザール)

ゲムシタビンイメージ

ゲムシタビンは既に数社からジェネリック薬剤も出ている薬です。1997年に出された論文で、膵臓がんに対する効果が確認され、以来、ゲムシタビンは膵臓がんに対する世界的な標準治療薬と位置づけられています。

2) TS-1

TS-1

フッ化ピリミジンという薬剤の飲み薬で、胃癌、大腸癌、乳癌など様々ながんに使用されています。
  日本で行われた臨床試験により膵臓がんに対するTS-1ゲムシタビンと同様の効果が認められることが証明され、標準治療のひとつとして考えられています(2011年米国臨床腫瘍学会:ASCOで発表)。
  またゲムシタビンTS-1併用して治療するGS療法も同様な治療効果が認められており選択肢の一つとなります。

3) エルロチニブ(商品名 タルセバ)

2007年に承認されたエルロチニブは飲み薬のいわゆる分子標的治療薬のひとつです。ゲムシタビンと併用することで、予後改善効果が報告されました。しかし、市販後調査ではエルロチニブによる間質性肺炎の副作用も報告されており、実際にはゲムシタビンを使用している全症例にエルロチニブが追加投与されているわけではありません。

以上より、現在の日本では切除不能な膵臓がんには、第一選択薬としてゲムシタビンが使用されるのが標準治療ですが、TS-1だけの使用やGS療法を第一選択として使用することも容認されます。エルロチニブゲムシタビンだけが使われるときに追加投与されることがあります。
  しかしながらここでの最大の問題点は、いずれの抗がん剤を使用するとしてもその効果の持続期間は限定的であるということです。切除不能な膵臓がんにゲムシタビンTS-1が効かなくなった時のための有効な抗がん剤治療法の研究開発が必要不可欠です。

4) FOLFIRINOXと横浜市大臨床腫瘍科での取り組み

2011年フランスのグループからFOLFIRINOX療法の有効性、安全性に関する論文が報告されました。FOLFIRINOXとはフッ化ピリミジン(5FU)イリノテカン(商品名 トポテシン)、オキサリプラチン(商品名 エルプラット)という3つの抗がん剤を併用投与する治療法です。FOLFIRINOX療法は標準治療であるゲムシタビンの単独投与に比べて2倍に迫る生存期間の延長を果たしたとされています。3剤併用という厳しい治療ではありますが、副作用は対応可能な範囲であり、全身状態が良好な切除不能膵臓がんには、新しい標準治療として考えられるというものです。残念なことに3剤のうちイリノテカンオキサリプラチンの2剤が日本では保険適応外の薬剤となっています(2013年6月現在)が、すでに、国内外でこのFOLFIRINOX 療法をベースとした膵臓がんの新しい臨床試験が計画・実施されており、FOLFIRINOX 療法は近い将来、日本でも保険適応になると考えられています。
  当施設では2011年5月より、院内の倫理委員会の承認を得たのち、ゲムシタビンに対して治療効果がなくなった患者さんを対象に、FOLFIRINOX療法による化学療法を行ってきました。また、現在は患者さんの希望によっては、ゲムシタビンを使用していない患者さんにもFOLFIRINOX療法による化学療法を行っております。これまでに10名以上の患者様が治療を受け、良好な結果を得ていますしかし、保険適応外であることより、患者様に説明の上、同意が得られた場合のみ、全額自費による自由診療という形で、治療を行っております。費用に関しては、FOLFIRINOXによる治療を施行している期間は、抗がん剤による治療費だけでなくその他の検査や薬剤費に関しての一切が自費となります。これは、保険適応外の治療と保険診療を同時に算定することができない、混合診療にあたると考えられるためです。治療費の詳細に関しては、個別の対応となりますので、当院へ受診の上ご相談ください。一刻も早い、FOLFIRINOXの保険収載が期待されるところです。

FOLFIRINOX

5) ゲムシタビンが効かなくなってもあきらめない。多施設臨床試験

現在の保険診療ではゲムシタビン(+エルロチニブ)が、第一選択となる治療ですが、TS-1にもその治療効果が期待できます。そこで、当施設は、神奈川県立がんセンター、東海大学、横浜市立大学市民総合医療センター、消化器病センターなどと協力して、ゲムシタビンが効かなくなった方に対して、S-1だけにするかそれともS-1に再度ゲムシタビンを加える併用を行うのかをランダムに割り付けする(医師あるいは患者の希望による治療法の選択はできません。臨床試験推進センターからコンピューターによりいずれかの方法が指定される仕組みです。)、セカンドラインGS療法の、多施設臨床試験に参加しています。この治療は、前述したFOLFIRIONXによる化学療法とは異なり、何れも保険適応の治療薬ですので、すべて保険診療で行うことが可能です。この試験の結果により、現在使用できる治療薬の順位づけがより明確なものになると考えられます。

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3.切除不能膵神経内分泌腫瘍に対して

神経内分泌腫瘍はあまり多くない腫瘍ですが、最近では診断能力の向上に伴ってか増加傾向にあります。また珍しい病気であるために国内での診療体制は欧米に比較して、残念ながら遅れているというのが実態です。

1) 診断方法としてのオクトレオスキャンと横浜市大臨床腫瘍科、放射線科の取り組み

神経内分泌腫瘍の細胞の表面には、多くの場合ソマトスタチン受容体というレセプターが存在します。オクトレオスキャンとはソマトスタチン受容体に特異的に結合する物質(リガンド)をラジオアイソトープで標識した[111In]ペンテトレオチドという薬を静脈注射し、[111In]ペンテトレオチド神経内分泌腫瘍ソマトスタチン受容体に結合するのを待ってから全身の写真を撮り、ラジオアイソトープの集まり具合で病気のある場所を特定する方法です。オクトレオスキャンは欧米では医学の教科書に載っていますが、国内では保険上認められていません。オクトレオスキャンは従来の検査と比較して感度が高く(80%以上)、CT MRI 等の画像検査を組み合わせることで、より高い検出率が得られることが報告されているため、世界33カ国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど)で承認された標準的な検査方法です。副作用についても、海外における臨床試験で使用した365例中 体が赤くなる、および頭痛が1例で認められたものの自然軽快したと報告されていますので、安全性も高い検査であるといえます。
  当院では、臨床腫瘍科と放射線科が共同で研究をはじめ、オクトレオスキャンが当院でも行えるようにいたしました。担当医師が実際に販売元のオランダ、マリンクロット社に発注書類を直接送り、合わせて個人輸入の申請書類、通関書類を作成し、運送会社を通じて税関、関東厚生局に届を提出し薬監を取得することで日本にはない[111In]ペンテトレオチドを手に入れます(薬剤のキットはオランダから成田空港に到着し、運送会社による輸入手続きの後、病院へ配達されます)。到着後に放射線科で検定を行い十分に診断が可能な薬剤であることを確認した後に使用をいたします。
  本医薬品は、国内未承認薬であり、保険診療下の医療行為のもとで投与することはいわゆる混合診療にあたるためできません。本検査薬代、輸入に関する費用、当院での検査費等の一切に関して自由診療扱いとなり、全額患者様の自己負担となります。他院でのケースからの概算で約12万円になります。この額は、円相場の変動により多少変化することも明記いたします。

2) 切除不能神経内分泌腫瘍(グレード1、グレード2)に対して

神経内分泌腫瘍は3つのグレードに大別されます。これは2010年に世界保健機構WHOが提唱した神経内分泌腫瘍の分類法に従ったものです。グレード1とグレード2は分化度が比較的高く悪性度が比較的低い予後の良いグループであり、中でも細胞分裂があまり起っていないものをグレード1、細胞分裂が少し目立つものをグレード2としています。グレード3とは神経内分泌がんと称されるもので分化度が低く、たちの悪いもので、細胞分裂も非常に多く目立つものです。
  まずグレード1、グレード2に対する治療法を記します。
  これまで症例数が少ないこともあり、できる限り外科的に切除する以外には、明確な治療方針がない疾患群でした。しかし2011年5 月オクトレオチド(商品名 サンドスタチンLAR)、2011年12月 エベロリムス(商品名 アフィニトール)、2012年8月スニチニブ(商品名 スーテント)が治療薬として相次いで保険適応となりました。これらが保険適応になったことは極めて意義深いことで、神経内分泌腫瘍の治療に明るい兆しが見えてきたことを意味します。オクトレオチドは筋肉注射を1か月に1回程度行います。エブロリムススニチニブは飲み薬でいわゆる分子標的治療薬です。しかしこれらは、特殊な副作用が出現することや抗腫瘍効果(腫瘍を小さくする効果)は必ずしも十分ではないなどの問題点があります。当施設でも、切除不能と判断された症例ではこれらの治療をお勧めしておりますが、それ以外の方法としてDOTATOC療法をお勧めすることもあります。

DOTATOC療法に関する横浜市大臨床腫瘍科の取り組み

DOTATOC療法は、ペプチド受容体放射性核種療法(peptide receptor radionuclide therapy; PRRT)の1つであり、先に述べました腫瘍細胞表面に発現しているソマトスタチン受容体を標的とします。ソマトスタチン受容体に結合するDOTA-octreotateという物質を放射性同位元素であるイットリウム90ルテシウム177でラベリングして,腫瘍に取り込ませたのちに放射性同位元素から出るβ線を用いて腫瘍細胞を破壊するという放射線治療法です。治療薬は患者に静脈投与されると腫瘍に集積し、抗腫瘍効果(腫瘍細胞の破壊)は数か月から2年ほど継続すると報告されています。
  2012年のヨーロッパの神経内分泌腫瘍治療ガイドラインの中でも、グレード1、グレード2の切除不能消化管膵神経内分泌腫瘍に対して、DOTATOC療法は考慮すべき治療として明記されています。本治療はヨーロッパを中心に1997年ごろから施行されています。最近の報告では1109名に対し、2472回施行され、34.1%に治療効果が得られたとされており、その高い奏功率と比較的軽い副作用のため、本邦からも多数の患者が訪欧しています。
 当教室からも、これまでに5人の患者さんがDOTATOC療法を最も多く施行しているスイスのバーゼル大学に紹介、入院され、本治療を受けることができました。当教室では本学放射線科と共同でDOTATOC療法が日本国内でも施行できるよう検討しておりますが、法的規制や治療設備の問題等の障害があり、現段階での国内承認や国内での施行は困難な状況です。今後も引き続き当院からDOTATOC療法のための紹介をバーゼル大学に行っていく予定です。治療効果や費用などに関してお聞きになりたいことがあれば、当院臨床腫瘍科を受診していただければ可能な限り対応させていただきます。

3) 切除不能膵神経内分泌がん(グレード3)に対して

神経内分泌がんはneuroendocrine carcinoma(NEC)と呼ばれます。
  NECは全生存期間が、6から16カ月と言われており、極めて予後の悪いがんです。NECの治療は、外科的切除術が唯一の根治術ですが、転移を伴う進行した状態で発見されることが多いことから、一般的には、抗がん剤治療が施行されます。欧米の治療ガイドラインによれば抗がん剤のシスプラチン(またはカルボプラチン)+エトポシドの併用療法が一般的であるとされますが、この治療で効果が認められなかった場合の次の治療方法は確立していません。ヨーロッパの治療ガイドラインでは、切除不能あるいは転移性NECでは、カルボプラチンエトポシドとともに、飲み薬の抗がん剤であるテモゾロミドによる治療が推奨されています。またアメリカのガイドラインでも、シスプラチン(またはカルボプラチン)+エトポシドとともにテモゾロミドによる化学療法が推奨されています。しかし国内ではテモゾロミドは、脳腫瘍のひとつである悪性神経膠腫にのみ使用が可能であり、神経内分泌腫瘍に対しては、保険適応になっていません。テモゾロミドは悪性神経膠腫に対して2008年に保険収載されて以来これまで1000例以上の症例に対して使用されており、悪性神経膠腫に対する有用性は高く、外来処方が一般的でありその安全性も一定の評価が得られています。以上の状況からシスプラチン(またはカルボプラチン)+エトポシドによる化学療法が効かなくなった症例に対して、テモゾロミドによる化学療法を施行することは、妥当な治療でありこの治療に関して、国内での有用性、安全性を評価することの意義は極めて高いものと考えます。
  現在われわれの施設では、最初の抗がん剤治療が効かなくなった切除不能NECに対して、テモゾロミドを使用した臨床試験を実施し前向きにその有用性、安全性の評価を行っています。本研究は、当院における臨床倫理委員会、研究倫理委員会の承認を得たもので、また、当院における先進医療推進支援機構の援助により2コース目までの薬剤費は病院負担により無料で可能となっている研究です。2コース目までは、薬剤費以外は、保険診療で行えます。3コース目からはその治療効果によりますが、継続を希望される場合は全額自費による自由診療となります。治療内容の詳細に関しては、ご連絡いただければ個別に対応いたします。

【連絡先】横浜市立大学附属病院(代表) 045-787-2800


 

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