『重粒子線治療の実際:がん治療の切り札となりえるのか
~理論・実際・未来~』
日時 | 2019年07月30日(火) 18:30開始 |
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場所 | 東京大学医学部附属病院中央診療棟 II 7階大会議室(東京大学医学部附属病院へのアクセス) 〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1 ※来場に関しましては、公共交通機関をご利用ください。 |
※横浜市立大学での同時中継は予定されておりません。
■演題:重粒子線治療の実際:がん治療の切り札となりえるのか ~理論・実際・未来~
■演者:瀧山博年 (国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 QST病院 治療診断部治療課)
放射線医学総合研究所(放医研)の粒子線治療は 1975 年の速中性子線に始まり 、1979 年陽子線治療、さらに 1994 年に始まった重粒子線がん治療装置(通称 HIMAC) による重粒子線治療(炭素イオン線を使用)へと発展してきた。この間、関連する数多く の開発研究とともに臨床試験が実施され、個々の疾患に適した線量分割法の開発や、呼吸 同期照射法など新たな照射技術の開発、PET を中心とした新しい画像診断法の治療への応 用等が行われている。
今回は「がんプロフェッショナル養成プラン」へご参加いただくみなさまへ重粒子線 とそれを応用した治療の概略について紹介するとともに、今後みなさまとの共同研究のシ ーズとなる可能性を見据えて、放医研で行われている研究面についても紹介したい。 まず第1部として、重粒子線治療の特徴を理解する上で必須となる根本的な放射線物 理・放射線生物・放射線治療の3領域に分けて概説する。この知識は、重粒子線治療のみ ならず放射線の人体に対する影響を理解する上で必須の内容である。一般に放射線(電離 放射線)はX線やγ線など波としての性質が支配的な電磁放射線と、中性子線・α線・陽子 線・炭素線などの粒子としての性質が支配的な粒子放射線に大別される。電磁放射線は減 衰しながら体の組織を透過するが、多くの粒子放射線はある一定の深度で止まる性質を持 つ。 そして全ての放射線は直接的・間接的にDNA(デオキシリボ核酸)に損傷を与えること で細胞死をもたらし、その効果は細胞内でのDNA修復機序とのバランスによって決定され る。重粒子線(炭素線)においては、特に高い線量集中性と高い細胞障害性(生物学的効 果)をもつという性質を利用して、腫瘍組織に対して優れた治療効果が期待できるだけで なく、正常組織における障害発生のリスクも軽減することが可能である。
次に、第2部として実際の適応疾患と治療上の特徴、有害反応等についても疾患領域ご とに説明する。2019年7月現在、公的医療保険の適応となっている疾患は主に頭頸部腫瘍 ・脈絡膜悪性黒色腫・骨軟部腫瘍(肉腫)・前立腺がんである。また先進医療として治療 を行なっている疾患は多岐にわたり、原発性疾患(食道がん・肺がん・膵がん・腎がん・ 子宮頸がん・肝臓がん)・術後再発(大腸がん)・転移性疾患(肺転移・肝転移・リンパ 節転移) である。これら先進医療として治療が行われている疾患群は、定まった適応基準 に則って治療を行なった上で全国的に全例登録を行い、調査解析を行うことで保険収載を 目指している。有害反応については疾患の部位と周囲の正常組織との関係によりさまざま に生じうるので各論にて説明する。
最後に、第3部として治療班も含めて生物班・物理班で行われている放医研において行 われている研究について、その一部を紹介する。HIMAC は夜間や週末など治療を行わな い時間は、生物・物理工学的実験のための共同利用施設として国内外の研究者に提供され ている。したがって、一見医学に直結しないような内容であっても、将来的な粒子線科学 の発展(ひいては重粒子線治療の発展)に寄与するものとして幅広い研究が行われている 。
本セミナーに参加される皆様にとって、重粒子線治療を身近に感じて理解していただき 、あるいは重粒子線を用いた将来の共同研究のきっかけとなれば幸いである。