研究

海外・国内留学

国立循環器病研究センター・横浜市立大学ヘルスデータサイエンス大学院
~良き臨床医を目指して~
月永晶人

麻酔科1~3年目:良き集中治療医を目指して

私は初期研修医時代に集中治療に興味を抱き、麻酔科の門戸を叩きました。麻酔科1-2年目には手術室で様々な手術麻酔を経験することで全身管理の根幹である気道、呼吸、循環管理を学び、麻酔科3年目にはクローズドICUで研修を行いました。ICUでは心臓血管外科術後患者が多く、順調に回復していく患者が多い中で、ときには術後に重症の心不全を呈することもありました。また、心臓血管外科手術患者ではなくても、心不全を呈する患者がいました。そのようなとき、根拠をもって、自信をもって管理をすることができず、循環管理能力向上のために心臓麻酔研修の必要性を感じました。また当医局には国立循環器病研究センターで研修を終えた方が多くいて、そのような方の循環管理能力の高さに憧れを持っていました。そのような理由から、私自身も麻酔科4年目に大阪の国立循環器病研究センターに行かせて頂き、心臓麻酔を勉強し始めました。

麻酔科医4~7年目:心臓麻酔漬けの日々

大阪で麻酔科としての人生が大きく変わりました。あらゆる心疾患、そして超重症の心不全の管理を数多く経験することで、心臓麻酔が”究極の重症管理である”ことを知りました。同時に、患者を亡くしたり重篤な合併症を残したりすることもあり、もっと自分にできたことがあったのではないかと、悔しい思いをたくさんしました。このような経験を経て、心臓麻酔自体の魅力に虜になり、そして心臓麻酔を受ける患者の重篤な合併症を減らし、生命予後を改善する試みを、麻酔科医として挑んできいきたいと感じるようになっていきました。いつの間にか、集中治療医を志して心臓麻酔に進んだつもりが、心臓麻酔自体にシフトしてしまいました。

写真 アメリカ麻酔学会(American Society of Anesthesiologists, ASA)にて

アメリカ麻酔学会(American Society of Anesthesiologists, ASA)にて

大学院に入学した理由

心臓麻酔能力を向上させるのに重要な知識は、主に循環生理学です。心臓麻酔中に激しく変動する血行動態を常に生理学的に解釈しようと試み、それに基づき術中管理を行います。このトレーニングの積み重ねにより、確実に能力が向上していきましたが、全ての事象を解釈できるわけではなく、疑問が残ることも多々ありました。また稀な疾患や事象になるほど、自分自身で経験できる症例数は限られています。他の方が経験しまとめたデータを自身の経験として蓄積することも、臨床医には求められることです。

臨床疑問に遭遇した際や、他者の経験を自身に還元したい際には研究論文を読む必要があります。しかし当時の私は、論文を読んでもMethodは理解するができず、その研究が正しい方法で行われているのか、記載されている結果が真実に近いのか、いわゆる”批判的吟味”をすることは全くできませんでした。また自身で臨床疑問を解決しようと臨床研究を実施したこともありましたが、「とりあえずデータを集めてみたものの、どうやって解析したらよいのだろう」、「この臨床疑問を解決するためにはどのような研究デザインを組めばよいのだろう」、「統計ってなに」といった具合に、わからないことだらけでした。もちろん様々な臨床研究に関する本を手に取ってみましたが、会得することはできませんでした(自身の能力の問題もあります)。どこかで腰を据えて学んでみたいと思っていた際に、横浜市立大学で2020年度に新設されてヘルスデータサイエンス大学院を紹介して頂き、入学することになりました。

麻酔科医8~9年目:ヘルスデータサイエンス大学院に入学して

多くの方は、ヘルスデータサイエンス大学院という名前から何を学ぶのか想像がつかないと思います。ここでの目標は、研究デザイン学や生物統計学を学び、学術課題を研究するために必要な能力を身に付けるです。日本には公衆衛生や統計学の大学院が多くありますが、ヘルスデータサイエンス大学院では、それらを臨床研究実施という目的に特化させて融合したような大学院になります。
実際に大学院で勉強して1年が経ちましたが、今まで独学してもよく理解できなかったことが、系統的に短期間に濃厚に学べており、着実に力がついています。論文の批判的吟味能力に関しては、1年間で格段に向上しました。またあらゆる研究手法を学んでおり、観察研究からデータベース研究、系統的レビュー・メタアナリシス、最終的にはランダム化比較試験まで、質高く実施できるようにトレーニングを積んでいます。私が尊敬する指導教官は、「臨床医はあらゆる研究手法を実施できる必要がある」と話されました。確かに、臨床疑問によって、適切な研究デザインは異なり、なんでもかんでもRCTが最適な手法ではありません。この大学院での学びをきっかけに、あらゆる臨床疑問を解決に導けるような能力を身につけ、より良い臨床医を目指したいと思っています。ヘルスデータサイエンス大学院に興味のある方は、下記ホームページもご覧ください。

http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~ycuds/hds/

最後に

ICUや、心臓麻酔、ヘルスデータサイエンス大学院以外にも、当医局はあらゆるチャンスを提供してくれます。興味や関心は、刻々と変化する可能性があります。そのような中で、やりたいことを応援してくれる本医局の環境が、何よりの強みです。当医局に興味をもった方は、是非一度見学にいらしてください。

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