研究

海外・国内留学

Massachusetts General Hospital (MGH), Department of anesthesia,
critical care and pain medicine
菅原陽

2019年のある春の一日、附属病院のICUでの出来事。
「先生、留学に興味がありますか?僕が留学中にお世話になった先生がreaserch fellowを探しているのですがどうですか?」
私「もちろん行く。連絡先教えて」
同僚の柏木静先生からのありがたいお誘いから、私の留学がはじまりました。

少し自己紹介をさせていただくと、私は2003年に大学を卒業し、初期研修終了後(その当時、研修義務化はされていませんでした)に横浜市立大学麻酔科学教室に入局しました。10年ほど麻酔・ICU・少し救急で臨床経験を積み、大学院へ進学、5年かけて肺高血圧症の研究で博士号を取得したのちに附属病院のICUで勤務を再開したところでした。
留学については機会があればとは考えていましたが、今回のチャンスを逃したら年齢的に次のチャンスはないと考え、速攻で留学することを決めました。懸念事項は、臨床業務、後輩・大学院生の指導や教育などを行う立場でありながら留学という選択が可能なのかという点でしたが、この点について後藤教授へ相談したところ「チャンスがあるならば留学すべきだ」とのお言葉をいただきました。この時ほど、この医局に所属していることをありがたく思ったことはありませんでした。もちろん家族にはきちんと説明し、快諾してもらいました。
留学することを決めた後、実際の手続きを始めたのですが、いろいろな理由でスムーズには進みませんでした。そうこうしているうちにCOVID-19のパンデミックが起こり、留学先の研究室は一時閉鎖、VISAの発給も厳しくなり、留学自体ができるか不透明な状況となりました。しかしながら、後藤教授をはじめ、多くの人に助けられてようやく2020年11月に渡米することが可能となり実際に留学が始まりました。

前置きが長くなりましたが、私は2021年7月現在、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンにあるMassachusetts General Hospital (MGH), Department of anesthesia, critical care and pain medicineに所属し、安原進吾先生(PI)の指導の下で基礎研究を行っています。ご存じの方も多いかと思いますが、MGHはHarvard Medical Schoolの関連病院として有名で、世界で初めて全身麻酔が行われたことで知られ、その偉業はエーテルドームとして記念・保存されています。今回のパンデミックでのCOVID-19の患者受け入れ数としても世界有数です。私の所属する研究室は、MGHの隣にあるShriners Hospital for Children(SHC)という小児熱傷の専門病院にあり、ここで日々基礎実験を行っています。
SHCには主に外科と麻酔科の研究室があり、麻酔科の研究室を主催するDr. Martynのもとで安原先生とともに5-6人程度のResearch fellowが研究しており、現在は中国、日本、インドからの研究者が所属しています。

写真 Massachusetts General Hospital の正面玄関

Massachusetts General Hospital の正面玄関 
増築を繰り返しているようで、非常に広く入り組んでいます。

写真 LaboのあるShriners Hospital for Childrenの玄関

LaboのあるShriners Hospital for Childrenの玄関。
MGHとは地下でつながっているので、冬でも移動は快適。

研究テーマとしては、autophagyに関する研究を行っており、特にミトコンドリアに対するautophagyであるmitophagyの機序解明と、mitophagyが障害された病態と炎症の関連についてマウス熱傷モデルを用いて解析しています。研究手法としては、ウエスタンブロット、PCR、蛍光免疫染色、FACSをはじめとして、様々な蛍光色素をtag付けした細胞の作成、Confocal microscopyでの観察、生体顕微鏡(安原先生の自作!)によるマウス筋組織の観察など様々な手法を学んでいます。ほとんどの実験を自分で行うため、かなりタイトなスケジュールですが、他のfellowと協力しながら楽しく実験しています。この原稿を執筆時ではデータが出始めたところなので、論文化を目標として日々励んでいます。
日本の大学の研究室とは2週間に1回程度Zoomでリサーチミーティングを行っており、大学院生や研究室の先生方とのつながっていられるため非常にありがたいです。

ボストンでの生活について

ボストンは人口70万人程度の都市ですが、そのうち25万人近くが学生・研究者と言われ、学術都市として有名です。市内にはHarvard University、MITなど有名大学があり当初はすごいところに来たと感じました(慣れれてしまえば日常です)。私はRed Lineという地下鉄で通勤しているのですが、Tufts UniversityからHarvard Universityを通り、MITを抜けてMGHで降りるという経路で研究室に通っています。
アパートはArlingtonという町に借りて家族と住んでいます。家賃は高いですが、近所に公園と湖が多くあり環境としては非常に恵まれています。冬には湖が全面凍りつき、子供たちがその上でスケートをしていました。小学校も近く、教育環境も充実していると思います。学校も英語が話せない子供の対応に慣れているようで、子供たちはすぐに現地校に馴染んで楽しそうに通っています。

写真 アパートの裏にある公園では野球場やテニスコート

アパートの裏にある公園では野球場やテニスコートが自由に使えます。

写真 アパートから小学校、駅まで続く遊歩道

アパートから小学校、駅まで続く遊歩道。
ボストンではバイクロードが整備されている。

写真 公園にある湖

公園にある湖。冬には全体が凍り付きました。

私が渡米した時点では、パンデミックの影響で街中の人出は減少し、州の間の移動も制限されており、飲食店もほぼ閉まっており外で食事をすること自体が難しい状況でした。そのため、いわゆる留学生活のようにいろいろな場所へ行くことはできませんでした。2021年に入りワクチン接種が始まったあたりから人出が増え、徐々に日常に戻りつつあります。検査やワクチン接種については非常に合理的に行われていると感じました。

写真 Boston Red Soxの本拠地Fenway park

Boston Red Soxの本拠地Fenway park。
6月から観客を入れてMLBが開催されています。

実際に留学を開始してから8ヵ月ほどたちました。楽しいことばかりではなくつらいこともありますが、日々少しずつ成長していけるように努めています。英語に関しては、相手の話していることはなんとか理解できるようになりましたが、伝えたいことをうまく言葉にできないもどかしさがつらいです。一度日本語に変換する癖がなかなか抜けません。もう少し頑張ってみようかと思っています。
日本とは異なる環境で学び、生活する機会は非常に貴重な経験です。後藤教授をはじめ、たくさんの人に協力していただきこのような留学を行うことができとても感謝しています。学んだことや、経験を医局員の皆様に少しでも還元できるように頑張ろうと思います。

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