焼野まで
村田喜代子/著
朝日新聞出版
東日本大震災直後、子宮体がんと診断された和美は、放射線治療のため九州南端の町に逗留します。がんに放射線を照射するだけの毎日、治療による宿酔(しゅくすい)により和美は身も心も疲弊していきました。けれども、宿酔の浅い夢の中で、亡き祖母が暖かい言葉をかけてくれます。また現実の町では、ふと知り合った人との思いがけない交流やがん友との電話に心慰められてゆきます。
やがて和美は自分の内なるがんと放射線、噴火する山と降り積もる火山灰、震災と原発までイメージを重ね合わせ、次第に自分が宇宙の一部であると感じていきます。
震災直後、がんを発症した経験から描かれたこの物語は、著者の揺れる内面を映し出した味わい深い作品です。
プレゼンター:大竹 亜由美 (逗子市立図書館 司書)