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ESRA(The European society of regional anaesthesia & pain therapy)参加体験記

後期研修3年目、同期が着々と専門医申請に必要な学会発表を積み重ねる中、これまでほとんど学会発表がない私は焦っていた。そんな中、本院へ異動して間もなく、先輩医師から「発表点数足りてる?」との声がかかった。共同研究のお誘いだった。ただし、内容は末梢神経ブロック。これまでその分野にあまり馴染みがなく、不安を覚えないわけではなかったが、この機会を逃すなどありえない。先輩を信じて誘いに応じてみることにした。
テーマは「高位脛骨骨切り術に対する選択的脛骨神経ブロックの術後尖足発症予防効果の検討」。人工膝関節置換術や高位脛骨骨切り術などで膝窩部坐骨神経ブロックを併用する際、合併症として尖足を発症するリスクがあるが、脛骨神経を選択的にブロックすることでそのリスクは減らせるのか、後方視的に比較検討を行うこととなった。
臨床研究について右も左も分からないという状況から今回の研究は始まった。ご指導賜った菊池先生は、そんな私に何度匙を投げたくなっただろうと察するに余りあるが、幸い発表まで見捨てられることはなかった。終始先輩におんぶに抱っこというスタンスで進行したものの、電子カルテから収集する項目の設定、データ拾い、解析、抄録作成、演題登録、ポスター作成という大まかな流れを当事者として体感することができたのは、非常に貴重な体験となった。データ収集は根気のいる作業だったが、良いデータが出そうだ、という感覚が次第に湧くようになると、とても励みになることも分かった。データ解析も終わり、無事演題も受理され、ポスター作成にとりかかった。上級医、教授と数段階にわたり校正を経た英語のポスターは、もはや私の作成した当初の原型を留めていなかったが、外に出しても恥ずかしくない、納得のいく物が出来上がった。
こうして無事作成したポスターを携え、今回のヨーロッパ区域麻酔学会の地、スペイン北部にあるビルバオへと旅立った。ビルバオはスペインではマドリッド、バルセロナに次ぐ第3の都市で、バスク地方を代表する美食の街として有名である。またそれ以上に今回私を興奮させたのは、ビルバオが『ダヴィンチ・コード』などで知られるダン・ブラウン氏の著『オリジン』の舞台でもあったからだ。市内を流れるネルビオン川にかかる巨大な赤い吊り橋、グッゲンハイム美術館の巨大な蜘蛛や子犬のオブジェ、街歩きをする中で作品中に出てきた建築やオブジェを目にするたび、私は高揚した。こうして普段中々訪れることができない土地へ赴くことができるのも、海外学会ならではの良さだ。

学会は4日間を通し開催された。通常のセミナーやセッションをはじめ、企業協賛ブースでは実際のモデルによる神経ブロックのハンズオンなどが至る所で行われており、非常に活気があった。マラソンイベントやグッゲンハイム美術館での懇親会など、イベントも盛りだくさんだ。区域麻酔に精通した達人たちによる、天下一武道会のような世界を想像し戦々恐々として参加したが、私のような若輩者でも日常診療に活かせるようなセミナーも数多く行われ、決して飽きることはなかった。

 

 

 

ヨーロッパの学会だけあって、英語は比較的ゆっくりで、私のような拙い英語力でも辛うじて相手の意図するところを汲み取ることができる。しかし双方向のコミュニケーションとなると自分の思うことを相手に伝えられず、自分の英語力の乏しさを改めて痛感した。中には英語で活発にディスカッションをする東洋人も少なからずおり、自分がいかに今の境遇に甘えているか、また英語が話せないことでいかに機会を損失しているかを実感し、無事発表を終えて帰国したら英語の勉強をしよう、と強く心に思うこととなった。

最後になりますが、菊池先生をはじめ今回の臨床研究、発表のご指導を頂いた諸先生方、また1週間にわたる不在を快く許可していただいた大学のスタッフの先生方に改めてお礼申し上げます。
また同期の中で決して優秀とは言えない私でも、後期研修3年目にして臨床研究、海外学会発表という経験ができたのは、積極的に臨床研究を推進しようという部長の宮下先生の意向と、横浜市大麻酔科の雰囲気のおかげであることは間違いありません。この恩恵を享受できる環境に感謝するとともに、自分からも周囲に恩返ししていけるよう、邁進していく所存です。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。