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モンゴルでの医療支援体験記 2016.9.4~9

出発までの経緯

朝カンファレンスで、「モンゴルで医療支援を行うミッションがあり、麻酔科医を募集している」という話がありました。当医局では、以前より参加している諸先輩方がおり、昨年には同期がガーナでのミッションに参加していた経緯もあり興味を持っていました。機会があれば是非参加してみたいと思っていたところ、幸運にも参加する機会を得る事が出来ました。しかし、小児麻酔を日常業務でほとんど行っておらず、また自分自身のつたない英語でミッションをこなせるか、出発前までかなり不安に思って過ごしていました。

 

実際のミッションと奮闘

今回はIVU(international volunteer in urology)medicineが主催するミッションに参加しました。IVU medicineは発展途上国の子供に泌尿器科治療を提供していくとともに、現地の医師・看護師教育を行う目的で設立され、モンゴルを含め世界各国で活動を行っています。私はモンゴルでのミッションに参加しました。ミッションは、1日目 スクリーニング、2〜4日目 回診及び手術、5日目 回診 という日程でした。私自身は学会発表後の参加であったため、2日目からの参加となりました。今回のチームのスタッフはアメリカ人泌尿器科医師1名、日本人泌尿器科医師1名、麻酔科医は埼玉小児医療センターの蔵谷紀文先生、私の2名、計4名でした。実際の麻酔業務は私達の他、現地人麻酔科医2名の計4名で行いました。場所はモンゴルの国立母子センターで行いました。患者は6ヶ月〜15歳程度。手術はHypospadias、腎摘出術などを行いました。Hypospadiasなどの会陰表面の手術では、仙骨硬膜外麻酔とラリンジアルマスクによる自発呼吸を温存した麻酔管理で行いました。腎摘出術などの開腹手術では、気管挿管下の全身麻酔とし、術後鎮痛は硬膜外麻酔ではなくモルヒネ投与を行いました。今ミッションを逃すと次の手術が出来る機会が来るか分からない状況のため、可能な限り手術を行う方針としている。そのため、手術件数は1日7〜8件程度と多く、毎日8時30分〜21時まで麻酔業務をしていました。そのようなハードなスケジュールに加え、気候も寒く、慣れない食生活のためミッション中はかなり疲労しました。

しかし、術後回診時の子供の笑顔や、患者家族や現地人スタッフからの感謝、スタッフ達との懇親会は何にも代え難いものがあり、今ミッションに参加して本当に良かったと感じました。またミッション前に不安に思っていた英語も散々でしたが、なんとか乗り切りました。

麻酔に関しても蔵谷先生に助けられながらトラブルなく終える事が出来ました。

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ミッションに参加した感想

普段の日常業務と異なる環境で麻酔が出来たことは非常にいい経験になったと思います。以前参加した先輩から、血圧は触診、酸素飽和度は術野の血で判断、麻酔器は壊れており手動でバッグ換気をしていたという体験談を聞いていてかなり不安でいっぱいでした。

 

実際は、麻酔器は日本から寄贈されたアコマのPRO-next+iがあり、故障しておらず、きちんと作動してくれました。麻酔薬もデスフルラン、レミフェンタニルなどはありませんでしたが、セボフルラン、イソフルレン、フェンタニル、モルヒネなどはそろっていました。そのため、他の国でのミッションや以前のモンゴルでのミッションと比較してかなり恵まれた環境だったと思います。しかし、恵まれた環境といっても、やはり根本的には日本とは環境がかなり異なっており、苦労しました。普段の日常業務もそうですが、今ミッションでは出来るだけ多くの手術をこなさなければいけないため、それ以上に導入抜管の素早さが求められました。また自分が普段行っている麻酔では通用しないことも多く、しっかり状況を考えないといけないと思うことが多くありました。特に腎摘出術で術後鎮痛をモルヒネとした一件では強く感じました。一般に日本では小児の開腹手術で硬膜外麻酔を行ってため、施行する方針でいました。しかし、硬膜外カテーテルキットはあるが、術後持続注入を行う手段がないため状況でした。術後鎮痛として使う事が出来ないため、ベネフィットよりリスクが高いと指摘されたため、最終的には施行せずモルヒネ投与を行う方針としました。実際は現地スタッフの理解が得られず、なかなか投与をしてもらえず、満足する結果は得られず残念でした。

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また今回、外国人スタッフと一緒に仕事ができたのもいい経験になりました。アメリカ人医師の卓越した手術の技量、人格、ユーモアは一流で尊敬の念を感じました。また気が強く苦労しましたが、モンゴル人医師からも学ぶ事が多かったです。モンゴルには自国語の教科書がないため、学生時代から医学の勉強を英語で行っており、卒業後は他国に留学して経験を積むため、英語能力はかなりハイレベルでした。また今回ミッションで行った病院では小児症例数も多く、麻酔経験も豊富で技術力も高かったです。また医療チームの技術を吸収しようとする姿勢もすごかったです。麻酔中は彼らと麻酔方針を巡って意見の交換をよく行っていましたが、きちんと理路整然と論理的に物事を伝えないとなかなか納得してくれず、苦労しました。しかし彼らから学ぶ事も多く一緒に働けて本当に良かったです。

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今回のミッションは慣れない環境で非常に苦労をしましたが、それ以上に楽しく貴重な経験をさせていただきました。ただ同時に自分の英語力、麻酔力の力量不足を強く痛感する事が多かったです。次回は是非、麻酔力、語学力を上げてリベンジしようと思っています。

 

横浜市立大学 麻酔科学教室  奥 真哉