私は2008年に福井大学医学部医学科を卒業後、救急医として臨床のキャリアをスタートしました。寺沢秀一先生・林寛之先生らに師事しながら、当時ER型(北米型)救急と呼ばれる臨床現場で働く中で、臨床だけをしていても現場が改善されないことや、社会的入院など社会のセーフティネットの側面が強いこと、そして高齢化に伴い今後の救急医の負担が増えることなどを課題に感じていました。一方で臨床面においても、十分にエビデンスが確立されていないと認識しつつも、慣例的に治療を行わざるを得ない場面に直面し、「なぜ誰もこれを科学的に検証しようとしないのだろう」と疑問に思っていました。その問題意識から、初期研修医の時にランダム化比較試験をやりたくて研究計画書を作成しましたが、適切に指導いただけるメンターがおらず、結局頓挫しました。
転機となったのは、初期研修医の時に若手救急医の集いで、後に私の研究メンターとなる長谷川耕平先生(現ハーバード大学医学部教授)と出会った事です。救急専門医を取得したあと、長谷川先生の支援もあり、本格的に臨床研究を学ぶため米国に留学しました。ハーバード大学公衆衛生大学院で臨床研究の知識を体系的に学びつつ、マサチューセッツ総合病院救急部で研究のプロフェッショナルとしての指導を頂く機会は本当に貴重で、自分の中での研究者としてのあり方に大きく影響したと思っています。
帰国後は、東京大学大学院の臨床疫学・経済学講座で日本の大規模医療データベースを用いた研究を行うことでさらに学びを深めました。しかしその過程で、既存のデータベースを解析するだけでは、自分が本当に解決したい課題の解決は難しく、当初の目的であった救急医療の負担軽減においてはそもそものデータがないという状況でした。そんな中、医療データのスタートアップであるTXP Medical株式会社と出会いました。救急医療データを構造化し、データに基づいて医療を変革するという同社の取り組みに魅力を感じ、参画を決意しました。
企業の文化と研究(アカデミア)の文化は大きく異なりますが、本質的に共通する部分もあります。今後のデータサイエンスは企業が中心的な役割を担う一方で、それを学術的な観点から評価するアカデミアとの連携が不可欠だと考えています。特にヘルスデータサイエンスの分野においては、データを活用して新たなアプリケーションやシステムを開発する企業と、それらを公正に分析しエビデンスを創出するアカデミアとの連携を促進し、開発された技術やシステムを適切に社会実装・評価していく体制を構築することが、今後の重要な課題です。私自身、ヘルスサービスリサーチにおいても、この「企業とアカデミアの連携構築」という課題に、次はアカデミアの立場から取り組みたいと考え、現在の職に就きました。
