私は横浜市立大学医学部医学科を卒業後、小児科、特に小児血液・悪性疾患(小児がん)を専門として横浜市立大学附属病院を中心に勤務してきました。小児がんは治療の発達により現在5年生存率が80%を超えますが、抗がん薬が効く患者さんがいる一方で、効果がない、あるいは有害事象(副作用)が強く出てしまう患者さんがいます。「患者さんにより薬の効果、有害事象に違い(個人差)が出るのはなぜだろう?」という疑問を抱いたことが、私の研究者としての原点です。その疑問に答える学問が「臨床薬理学」であることを知り、2011年4月より約3年間、カナダのトロントにあるトロント小児病院(The Hospital for Sick Children)にclinical fellowとして留学し、臨床薬理学の臨床と研究に携わりました。トロントでは、抗がん薬の臨床薬理だけではなく、妊婦への薬剤使用の安全性、薬剤の母乳への移行と児への安全性など、広く小児の臨床薬理について学ぶことができました。このことは、それまで小児がんの診療、研究のみおこなってきた私の興味の幅を大きく広げることに繋がり、大きな転機になりました。その後も日本で勤務した後、縁あって再びカナダのバンクーバーでゲノム薬理に関する研究に従事してきました。
2020年2月からは横浜市立大学附属病院の臨床研究支援組織(ARO)である次世代臨床研究センター(Y-NEXT)で、学内の臨床研究を支援する部署の医師として勤務を開始し、現在も兼務しています。ここでの医師の役割は医学的な支援や研究者の立場から本学の研究者が適切に臨床研究を行うことができるように、他職種(多職種)と連携を取り臨床研究の支援を行うことです。また、臨床研究の立案支援と質の確保をより系統的に効率的に行う手法の開発も行っており、2022年度には国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「研究開発推進ネットワーク事業」として、リアルワールドデータ研究におけるrisk-based approach(RBA)を実装しました(https://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~ynext/amed/)。
このように、小児がん、臨床薬理、臨床研究支援と、その都度研究の興味の幅を広げながら今に至っています。