医局紹介

生涯現役が目標。現場の空気を吸ってずっと走り続けたい

大和市立病院 院長
工藤 一大

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どんな患者にも平等に「最上の麻酔」を提供する

麻酔科医を選んだ理由としては、もともと理工系が好きだったから。麻酔科って、数学を使うような部分とか、物理学の応用みたいなところがあるので、勉強自体が興味のある領域だったんです。また、基礎で習う薬理学とか生理学とか、臨床に直結する部分があるところも、興味深かったですね。結果的に、自分の好きな学びが合致することが多かったので、麻酔科に入ろうと決めました。当時は麻酔科ができてまだそんなに年数が経ってなく、先輩も10人ほどしかいなかったですけどね。私の場合は、医大生として勉強しているうちに、興味を持つようになりました。

私が麻酔科医の仕事として大切にしているのは、どんな患者さんも平等に扱う、そしてどんな患者さんにも「最上の麻酔」を提供するということ。「最上の麻酔」というのは人によって違うので具体的に表現することが難しいですが、どんな患者さんでも同じように、安全に何事もなく終われるよう麻酔をかけ、とにかく手術を無事に終えて、生きて帰す。これが我々麻酔科医の最低限保つべき仕事のレベルです。

もちろん、患者さんの状況によって、うまくいかないこともあります。それでも麻酔科医は患者さんが無事に病室に戻れるよう、なんとかしなければなりませんよね。そんなときに落ち着いて対処するにためには、なによりもまず麻酔科の基本的な勉強をして、知識を備えることが重要。さらにその上に経験が必要です。麻酔科学は日々進歩しています。薬はどんどんよくなって、私が麻酔科医になったころに使っていた麻酔の薬はほとんど使われていません。その分、麻酔が安全になってきているということなのですが、それほどいろいろと急速に進歩しているんです。だから経験だけでは現場を判断する情報としては不十分。まずは基礎知識があった上に経験を積んで、実践を繰り返していくのが大事なのかなと思います。

現場の臨場感や空気が好き。死ぬまで現役でいたい

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麻酔科医が組織のトップになる、ということでよく言われるのは、麻酔科医は普段から手術室で外科系の医師を相手にマネージメントをしています。だからその延長として、病院をマネージメントする経験とか力量が喚起されることを期待されるのだろうなと思います。でももちろん、麻酔科医じゃなくてもいい院長はたくさんいますよ(笑)。

私は組織のトップとして、という意識は特にしていないですが、普段から平等に対応するということを大事にしています。病院長になると、医師だけでなく事務の人やパラメディカル(医師や歯科医師以外の医療従事者)とかいろんな人が自分の下にいるわけで、やはり何かあったときに一方的な話だけ聞いて何かしようとすると、判断を間違ってしまうと思います。1人の話ばかり聞いてしまうと、どうしても考えにバイアスがかかっちゃうんですよね。あちこちの部門で関係する人の話をちゃんと聞いて、平等な決定をする、結論を出すっていうことを意識しています。

これからは、今までの経験を活かして、今この病院を経営面からも組織面からももうちょっと立て直していきたいなというのが、院長として考えていることです。けれども、もう充分院長を経験したので、臨床をする麻酔科医に戻りたいというのも正直な気持ちですね(笑)。もちろん、今でも手術室入って麻酔することもあります。やはり現場は楽しいです。一例一例、患者さんによって反応が異なりますし、毎日麻酔をしていれば常に考えて行動し、ワクワクできます。血圧が上がったり下がったりするのを見て、これはどうしてだろうっていうことをいちいち考えて、患者さんの変化に都度対応する。そういう現場の臨場感や空気が好きなんですよね。

できれば、死ぬまで現場で働いていたいです。私はマグロみたいなもので、動いていないと死んじゃうんで(笑)。80歳まではバリバリ現役で働いている先輩の麻酔科医もいますから、周りから「辞めろ」と言われるまではずっと働きたいなと思います。まぁ、自分は大丈夫だと思っても、周りでハラハラされていたらちょっとそれは困るのでね(笑)。辞め時は周りの若い人に言ってほしいなと思います(笑)。

ランニングドクターとして活躍!箱根駅伝の区間にも挑戦

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小さいころから体を動かすことが大好きで、スキーや野球、バレーボールをやったりしていました。今でも冬はスキーには行っていますよ。最近のルーティンはジョギングです。平日は仕事帰ってから家の周りを5~10kmくらいぐるぐる走っています(笑)。走っているとストレス解消になって気持ちがいいんです。しかも肉体的に疲れるから、夜はぐっすり眠れますよ。

走り始めたきっかけは、テレビで東京マラソンを見て自分にもできるかな、と思ったから(笑)。実は、日本医師ジョガーズ連盟という医療支援活動を行う団体に参加して、希望するマラソン大会にランニングドクターとして参加しています。ランニングドクターとは、一般のランナーとともに走りながら、ランナーに健康上重大な事態が起こった際に処置をする役割のドクターのこと。今まで何度か大きなマラソン大会に参加し、心肺停止のランナーを2回救命しました。医師という仕事を活かしながらいろいろなマラソン大会に出られますし、実際に2回も蘇生の場面に遭遇したということもあって、やりがいを感じています。

私は元来、挑戦することが好きで、数年前に箱根駅伝のコースを一区から十区まで全部走ってみたこともあります。1日一区間で、1年目に往路、2年目に復路を走りました。一区間ずつだったら時間置いたらできるだろうな、とか、五区の山登りは大変そうだけどどんなもんだろうと思っていたら、いてもたってもいられなくなってしまって (笑)。なかなか面白い経験でした。ただ、今はそろそろ長い距離を走るのがつらくなってきたので、日々ちょっとずつ走っていられればいいかなと思っています。また10kmくらいの短い距離やハーフマラソンの機会があれば、出たいですね。

現場で信頼される麻酔科医を目指すには「まずは勉強」

麻酔科医を選んでもらったらうれしい限りですが、選んだからには信頼される立派な麻酔科医を目指してほしいと思っています。

信頼されるというのは、実際に手術をする医師や、評価してくれる人が安心するということ。「今日の麻酔を担当するのは〇〇先生です」って言われたときに、外科の主治医から「あの先生が麻酔をかけてくれるなら大丈夫だ」といわれるような麻酔科医が理想ですよね。というのも、手術室の中でリーダーシップを取るのは、麻酔科医。何かあったとき、誰かがリーダーシップを取らないと、患者に適切なコントロールをすることができません。日々ちゃんとした麻酔をかけて、修羅場になっても落ち着いて適切な処置を行っていくこと。そうしていけば、信頼度はおのずと上がってくると思います。しっかり患者の状態をコントロールできて、結果が出せれば、自分の自信とやりがいにもつながりますよね。

やはりそのためには、バックグラウンドとして基礎的な勉強をしっかりして、その知識をもとに経験を積んでいくことが大切。ちゃんとしたいい麻酔科医になってほしいので、未来の麻酔科医の皆さんにお伝えすることとしたら、「まずは勉強しなさい」ということでしょうかね(笑)。

工藤 一大(くどう・いちだい)

横浜市立大学卒。専門は麻酔、集中治療。研究テーマは急性呼吸不全や急性肺障害。横浜市立大学麻酔科准教授、帝京大学溝口病院麻酔科教授、国立病院機構横浜医療センター院長などを経て、2020年(令和2年)に大和市立病院長に就任。麻酔科学会元常務理事、事務局長。

写真:鈴木智哉 取材・文:関由佳

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