医局紹介

麻酔科は患者の治療の中の重要な一瞬に参加できる、
尊い仕事

横須賀市立市民病院 院長
北村 俊治

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自分らしく働ける仕事と環境。そして支え合える仲間との出会い

麻酔科を選んだのは、横浜市大を卒業後、2年間の臨床研修で麻酔科を回ったとき。その場その場での患者さんの命を預かるということを知り、魅力的に感じました。挿管して全身麻酔をかけて、すぐリアルに患者さんと向き合い、その場で患者さんのための対応ができる。生理学的に患者さんの状態を自分がコントロールできるということが、すごく魅力的でした。しかもすぐに結果が出せますし、非常にシンプルです。

またもう一つは、医局の雰囲気がとても良かった。もう40年も前の話ですが、その当時は麻酔科自体が世間的にも認知されていなくて、各先生たちが直に麻酔をかけるのがほとんどという時代。ようやく麻酔科が独立して、いろんな科の麻酔を担当するということが始まった頃だったのです。横浜市大の医局の麻酔科も今よりずっとコンパクトだったので、みんなで教室を盛り上げていこうという雰囲気が強くて、まるで一つのファミリーのようでした。仕事が終わったらみんなで飲みに行ったり食事に行ったり。週末にはみんなで旅行やドライブ行くなど、仲間意識があって楽しかったです。仲間との居心地がよかったのも、麻酔科を選んだ大きな理由ですよね。

毎日毎日麻酔ばっかりかけてつまらないのでは、と思われるかもしれないですが、毎日違う患者さんに麻酔をかけて、その患者さんに応じて考えて麻酔をかけているので、僕にとってはそこに面白さややりがいがありますよね。特に達成感というと、帝王切開の場面。普段は産婦人科の先生が診ていますが、帝王切開でないと赤ちゃんが死んでしまうというときは、緊急で夜中でも呼ばれます。患者さんが苦しむ中、僕が駆けつけてパッと麻酔をかけて手術をし、元気な赤ちゃんが生まれてお母さんが喜んでいるのを見ると、これができるのは麻酔科だなと思うのです。これは毎回達成感ありますよね。麻酔科は患者さんの治療の中の重要な一瞬に参加できるのですよね。

さらに、麻酔科は主治医ではないので、一つ一つの仕事に区切りがつけられます。麻酔が終われば患者さんとは基本的に一期一会のようになり、他に仕事や勉強がなければ、自分の自由な時間が取れます。ワークライフバランスというか、仕事の時間と自分の時間がうまくコントロールできるのですよね。そこは自分の性に合っていたなと感じます。もちろん、オンコールや当直のときは突然呼ばれることもあります。自分が患者を受け持っているというのと、仕事を依頼されることは別ですからね。

麻酔科医はコーディネーター。手術室での気遣いが患者の命を救う

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僕は麻酔をかけるとき、常に患者さんがどういう状況でいるのか、無事に手術を終えて部屋に帰っていただくには自分はどうしたらいいのかを考えています。麻酔方法も1種類ではないので、いくつかの選択肢が出てくるのですよ。この患者さんにはこの麻酔法でも、それをすると術後が大変そうだからこちらの麻酔ではどうかな、などと考えます。しかも主治医の外科系の先生が手術をしやすい麻酔の方法も考える必要がありますよね。「どの麻酔をかけるか」ということを考えるには、さまざまな引き出しがなければ難しいです。知識は学会に行って話を聞く、医学雑誌を読む、いろんな科の先生方とカンファランスをもって症例検討をするなどから得ています。次の経験のときのために、その知識を蓄え、利用しています。

経験値も必要で、そのためには患者さんによって学ばせていただくという感謝の気持ちを忘れてはいけません。手術が始まる前には「お願いします」と言いますが、これはスタッフ同士だけじゃなくて、患者さんにも言っています。終わったときの「ありがとうございました。お疲れ様でした」と言うのも、スタッフと患者さんに対する挨拶。そういう気持ちでいないと、なかなか本当の技術は上達しません。機械を治すように次から次に流れ作業のようになるのは、僕は違うかなと思いますね。

手術室の中で、麻酔科医はコーディネーターだと思います。冷静に俯瞰して、それぞれの作業がスムーズに進むように目を配る役目を果たさなければいけない。目の前の患者さんにただ麻酔をかけるだけでなく、部屋の温度が暑い、道具がそろってない、出血が多い、様子がおかしいなど、一つの手術室の中を麻酔科医がコントロールしないと、治る患者さんの命もうまくいかなくなってしまう可能性がありますから。知識も必要ですが、大事なのは気遣いです。気配りができる人ということですよね。

そういう意味で、麻酔科医が院長という、組織の上に立つ強みにもなると思っています。また、麻酔科というのは中央部門に属しているので、特定の科に偏らない。公平な感じでバイアスのかからない状態で先生方の仕事ぶりを評価できるかな、と思いますね

今後の展望は、やはりこれから病院をいかにうまく経営していくか、です。病院の経営を維持、マネージしていくかが最大の命題。どうやって立て直すかということについて、戦略やプランを立てています。当たり前かもしれませんが、やはり積極的に治療をしてくれる医師がたくさんいれば、病院は助かります。病院が活性化されていい方向に向かっていくよう、うまく医師たちをコントロールできる院長を目指したいですよね。

旅行は行きたいと思ったときがタイミング!次に目指すは南米

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海外旅行、ハイキング、登山などが好きです。一昨年には妻とサハラ砂漠に行ってラクダに乗りました(笑)。やはり旅行って現実と離れた場所でリフレッシュできたり、知らない世界を見ることができたりというのが魅力じゃないですかね。行って期待した通りのところもあれば、予想外で面白くないなと思うところもあり、計画したときといい意味でも悪い意味でもズレがあるというのも面白いです(笑)。行く前のドキドキする感じもいい。好奇心は旺盛な方だと思います(笑)。

今は、南米に行ってみたいです。雑誌やメディア、テレビなどで特集を見ると、マチュピチュやエンゼルフォールなどの、大自然がいい。ただ、コロナで海外旅行自体もうしばらく行けないのが残念です……。僕は行きたいときに行かないと、そのときに気持ちや考え方が変わったりするから、面白くない。なるべくなら行きたいと思っているときに行くのがいいのではないかなと思ってます。

幅広い活躍ができるのも、先人たちの努力のおかげ

さっきも言ったように、40年前では麻酔科は認知されていませんでしたし、外科のお手伝いという雰囲気で、同じ医者なのにちょっと見下された感じもありました。でも今は麻酔科の先生がいないと手術ができない。数十年間で麻酔科が認知されてきたというのは、ひとえに日本全国の麻酔科の先生たちが努力されてきたからかなと思います。難しい症例など無理難題に出くわしても、医師の背景には患者さんの命を救うという命題があります。これまで逃げずに努力をしてきたから、麻酔科の地位を上げてこられたと考えています。

また、最近すごくよかったと感じるのは、麻酔科の知識を持っていればいろいろなことができると医療の中で認知され、仕事の幅が広がってきていること。僕は臨床麻酔一本ですが、ある程度経験した先生が、集中治療やペインクリニック、緩和ケアなど幅広い道に進むケースがとても多くなっていると感じます。例えば集中治療だと、重症患者の全身管理。麻酔をかけず、循環管理、呼吸管理などの全身管理専門の先生もいれば、外科や内科とチームを組んで集中治療をする先生もいます。もはや集中治療は一つの学問として成り立っていますよね。あとは救急医療です。大きな大学病院に行くと救急部門があって、そこにはだいたい麻酔科医がチームに入っていて、外来の救急患者さんを手際よく治療するためには欠かせない存在になっていると思います。麻酔科というのは、外科系の知識と内科系の知識、薬のことなども要求されますし、特に緊急で患者さんの状況を把握してすばやく判断していくという全身管理が要求されるのが魅力だと思いますね。

その他には、がんの患者さんがエンドステージになったときの痛みをとる「緩和」という処置、またペインクリニックも麻酔科の先生が多いですよね。痛みをとるために技術的にブロックするのがうまくなってきますし、薬の使い方もわかってきますから。本当に麻酔科の先生の働くエリアが広がってきていますよね。

常にダイレクトに患者さんの命を預かって管理できる科というのは、麻酔科の他にはないと思います。一瞬一瞬が充実した仕事を経験できますし、興味のある人にはぜひチャレンジしてほしい。経験を積んでいけばキャリアプランも選べますし、仕事のオンオフがはっきりしているので、自分の生活を自由に使いたいという人にも向いている科だと思います。まだまだ解明されていないことがたくさんあるので、研究もたくさんできます。研究を望まれる人には、非常にいい選択肢になると思いますよ。

北村 俊治(きたむら・しゅんじ)

横浜市立大学卒業。神奈川県立こども医療センター、茅ケ崎市立病院等を経て、1987年(昭和62年)横須賀市立市民病院に入職。1999年(平成11年)に麻酔科診療部長、2020年(令和2年)7月に院長(管理者)に就任。

写真:鈴木智哉 取材・文:関由佳

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