研究

海外・国内留学

京都大学公衆衛生大学院での2年間を修了して
ー京都大学社会健康医学系専攻医療疫学分野への国内留学ー
長嶺祐介

「京都大学社会健康医学系専攻という公衆衛生大学院に行ってみないか?」新たな目標が生まれた瞬間でした。本麻酔科の後藤隆久教授より声をかけられたのは2017年の4月のことでした。京都大学社会健康医学系大学院医療疫学分野の福原俊一教授が横浜市立大学附属病院にお越しになり,本院の臨床研究講演会で講演をされた後のことです。「臨床研究には興味があるのに,どのように始めればよいか分からない」まさに自分もそんな一人でした。縁あって福原先生の主宰する医療疫学教室への国内留学(修士課程2年コース)に2018年4月から行かせていただくことになりました(当時入局13年目です)。京都大学大学院の大学院入試を受験し,入学いたしました。私が入学したコースは,社会健康医学修士(MPH: Master of Public Health公衆衛生学修士)2年コースです。1年目は京都に在住して学業に専念し,2年目は横浜に戻り横浜市大附属病院で勤務しながら週1回京都に通学しました。

写真 京都大学 時計台と”楠学問” ゆっくりだが堅実に成長し大成する学問 / 社会健康医学系専攻 Shcool of Public Health ひとつの校舎になっています

京都大学社会健康医学系専攻は本邦で初めて創立された,公衆衛生大学院(School of Public Health)です。公衆衛生大学院では,医学と社会をつなぐ様々な課題に対して学際的なアプローチで,教育・研究が行われています。本課程には臨床研究者を育成する,医師のための専門コース(通称:MCRコース)があり,私も本コースを受講しました。MCRコースでは,臨床研究を専門とする教員の指導のもと,熱意に溢れた様々な学生が集います。本コースのハイライトは,「プロトコールマネジメント」という講義です。各教室から集う教員の前で,自らの研究計画を発表し,学生と教員全員で討議するという『熱い』講義です。自らの臨床疑問はどのようなものか,臨床疑問に対して現時点でどのようなことがわかっているのか・未解明な部分はなにか,どのような患者を対象に,何と比較し,どのようなアウトカムを設定するのか(PICO/PECOの設定),疫学解析を行うに当たり交絡因子はどのような因子で調整するのか,など臨床研究を行う上での,研究デザインの組み立ての大切さを身をもって学びます。講義の準備は非常に大変でしたが,得られるものはとても大きいものでした。また,医療疫学教室では大規模コホート研究データを用いた修士課題研究にも取り組ませていただき,大学院修了後に原著論文として英文誌にアクセプトされることもできました。得られたのは学業だけではありませんでした。志の高い同期や先輩方と出会うことができたのも,大きな宝物になりました。この京都大学での2年間は,私の麻酔科人生において最も大きな影響を与えていただいた時間になりました。

写真 特徴的な実習「プロトコールマネージメント」

「研究は医療者を元気にする」福原先生がしばしばお話されるお言葉です。日々の臨床を実直に行う中で湧いてくる疑問を臨床研究の「問い」として研究をすすめることは,患者さんの利益につながるのはもちろんですが,我々医療者の生涯に渡る原動力となります。この国内留学の経験を生かして,若手医局員の教育とともに研究を進めていきたいと思っています。大学院を修了してから,若手医局員の臨床研究の指導を行っております。原著英語論文の執筆にあたっても指導者・責任著者として一緒に取り組んでおります。

この場をお借りして,貴重な経験を積ませていただいた福原先生,後藤先生,そして私が不在なときに横浜市大麻酔科を支えてくださった医局員の皆様に心より感謝申し上げます。

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