海外・国内留学
Massachusetts General Hospital (MGH), Harvard Medical School, Department of Anesthesia, Critical Care and Pain Medicine
金丸栄樹
はじめに
私は2021年1月より、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンにあるMassachusetts General Hospital (MGH) / Harvard Medical School, Department of Anesthesia, Critical Care and Pain Medicine, Dr. Fumito Ichinose(市瀬史)研究室に研究留学をさせていただいております。この留学体験記を書いている2021年6月現在で、渡米をして早約5ヶ月が経過しました。振り返りますと、ボストンではちょうどCOVID-19 第二波のピークが来ており、かつ-15℃に冷え込む真冬に渡米してからの5ヶ月は本当にあっという間でした。まだ5ヶ月という限定的な期間しか過ぎておりませんが、ここで私の米国研究留学の生活をご紹介させていただきたいと思います。今後、研究留学を考えていらっしゃる若手の先生方に少しでもご興味を持っていただければ幸いです。
留学のきっかけ
私は医師になった当初、まさか自分が基礎研究をしたくなる日が来るとは思ってもいませんでした。心臓麻酔をしたくて麻酔科を選択し、横浜市立大学麻酔科医局に入局後3年間、国立循環器病研究センターで心臓手術の麻酔管理を学ばせていただきました。どんどん心臓麻酔の世界に魅せられ、臨床に没頭する日々を送ってきたわけですが、同時に手術だけでは助けることのできない多くの難治性重症疾患と出会い、1臨床麻酔科医としてできることの限界を痛感するようになりました。その中で、少しでも病気の治療成績を上げることに貢献できることがないか考えていくうちに、基礎研究への関心が徐々に高まっていきました。また、臨床研究の成果を国際学会で発表する機会が何度かあり、その過程で海外に挑戦したいという志気も高まってきました。そんな中、今後の進路について後藤隆久教授にご相談したところ、後藤教授の旧友である市瀬史教授の研究室をご紹介くださいました。留学手続きを進めていく過程で、COVID-19の渦中に巻き込まれてしまい、ビザ取得までに大変苦労しましたが、何とか2021年1月に留学を開始することができました。
研究室と研究生活について
市瀬史教授は、エーテル麻酔の発明者とされるWilliam T.G. Mortonの名を冠したWilliam Thomas Green Morton Professor of Anaesthesiaのtitleをお持ちで、現役の心臓麻酔科医でありながら、心筋細胞の生理学、一酸化窒素や硫化水素による細胞保護作用、心肺蘇生の分子生物学、人工冬眠の研究など多岐にわたる研究をされていらっしゃいます。私は、硫化水素代謝という切り口から、遺伝子改変マウスを用いたミトコンドリア病の治療法探索、マウス脊髄虚血モデルを用いた遅発性対麻痺の予防など複数の研究テーマをいただき、日々研究に勤しんでおります。
市瀬ラボは、複数のラボとオープンラボシステムを取り入れており、お互いのラボカンファレンスにも自由に参加ができ、垣根なく研究者同士が意見交換をできるようになっております。また月に一度、フロア全体のラボが集まって行われるフロアミーティングも行われております。フロアにはアメリカ人はもちろんのこと、イギリス人、ドイツ人、イタリア人、中国人、日本人など様々な人種が入り混じっており、各国独特の訛りある英語が飛び交っております。
研究室
ブタやヒツジなどの大動物用実験室
カンファレンスルーム
同じフロアで働く臨床研究チームのメンバーと
研究においては、ハーバード大学系列のラボに限らず、州をまたいだ他の大学・研究施設ともよくコラボをしています。コラボをすることで、お互いの研究室の強みを活かすことができ、例えば薬品開発系のラボで開発されたばかりの薬剤をvivoで試すことができたり、全く別分野で開発された医療技術を導入することができたりします。同じフロアで働く留学者には、研究一筋で生計を立てている方も多く、Cell, Nature, Scienceなど一流科学雑誌への掲載を目指し、人生をかけて海外から留学しMGHで研究をされています。そのような研究者に囲まれて働く環境は刺激的である一方で、MD(医師免許)を持っていることの有り難みを痛感しております。
実験用薬剤を取りに行った隣州 Rhode Islandにある
Brown University
ボストン生活
私が渡米してきた当初は、ボストンの象徴とも言えるCharles River一面が凍るほどの厳しい寒さでしたが、春になると一気に花が咲き、緑が生茂り季節の変化をダイナミックに感じることができます。私が住んでいるNorth Cambridgeは、ボストン中心部に20分ほどでアクセスできる一方、美しい湖や数多くの広大な公園、散歩に持ってこいのバイクロードがあり、大変住みやすいエリアです。ボストンにはHarvard university以外にも、MITやTufts Universityなど名門大学が複数あり、また世界有数の大手企業がたくさん進出しているため、世界中から研究者や駐在員が集まってきております。したがって、私のような外国人を受け入れる体制が整備されており、皆さん親切に接してくださるので大変暮らしやすい場所です。また、定期的にボストン在住の日本人交流会があり、日本では出会うことのなかった多くの異業種の日本人と出会うことができ、ネットワークや人脈を広げる良い機会にもなっております。
川一面が凍ったCharles River
新鮮なロブスターが食べられる港町 Rockport
散歩コースのバイクロード
ボストンでは、トップダウンの強固な感染対策の実施と迅速なワクチンの普及により、コロナ感染者数はほぼ終息してきております。街中はパンデミック前の活気を取り戻してきており、飲食店やスタジアムは多くの人で賑わっております。せっかくの機会ですので、研究の合間を縫って色々な場所に足を延ばしたいと思っております。
満席のFenway Park
(Boston Red Sox vs. New York Yankees)
ホストファミリー宅でのお食事会
さいごに
アメリカでの留学生活は、いろいろ思い通りにいかず苦労することも多々ありますが、すべての経験が貴重な人生勉強であり、家族と共に乗り越えようと思います。研究も始まったばかりで、今後どのような展開を迎えるかはわかりませんが、多くの学びを得て帰国したいと思います。さいごに、このような素晴らしい機会を与えてくださった後藤隆久教授、そして留学に際し援助をしてくださった医局員の皆様方に心より感謝申し上げます。