研修体験記
- 【専攻医1年目】 |
- 【専攻医2年目】 |
- 【専攻医3年目】 |
- 【専攻医4年目】 |
- 【5年目以上】
- 【途中入局】 |
- 【女性医師】 |
- 【ICU】 |
- 【産科麻酔】 |
- 【心臓麻酔】 |
- 【ペイン・緩和】
- 【大学院】
- 心臓麻酔
私は、医師9年目、入局7年目の麻酔科医です。横浜市大麻酔科医局から大阪の国立循環器病研究センターへ来て今年で3年目となり、現在は麻酔科スタッフとして勤務しています。ここでは私の入局から現在までの経験と今後の希望について、拙筆ながら記させていただきます。入局をお考えの皆様の進路の参考にしていただければ幸いです。
私が麻酔科を専門に選んだきっかけは大学の研修で出会った集中治療医学でした。大学病院のICUで複雑な病態を持つ院内の重症患者を一手に引き受け、各科と協力して全身管理を行う医師が麻酔科医であることを知り、内科や救急科と志望を迷っていた心はすぐに決まりました。ここには重症急性期患者に対するいわば究極の総合診療があると思いました。横浜市大の麻酔科医局を選んだのは、私の母校であったこともありますが、ICUが充実していたことと研修を通して若手からベテランまで人数が多く、活気に溢れた医局であることを知っていたのが大きいです。
さて、実はICU研修を経て2年目の冬に入局を決めるまで、手術麻酔のことはほとんど考えてこなかった私でしたが、麻酔科専門医を目指すことになってから本当に一からしっかりと鍛えていただきました。
入局後最初の3年間は専門医取得に必要かつ十分な一般麻酔、心臓麻酔、小児麻酔、ICU研修を満遍なく経験できるように研修がプログラムされています。振り返ると専門研修の大目標は勿論専門医の取得ですが、同時に今後の長い医師人生の基礎を醸成する重要な期間でもあるように思います。私の3年間の研修には大学のclosed ICUや小児病院での研修が含まれており、資格取得が目的の形式的な経験ではなく、身になる経験を積めた研修だったと言えます。後輩に話を聞いても横浜市大の専門研修は、その内容の専門性の高さや個人の希望に合わせたプログラムの柔軟性の点で年々進化を続けているように思いますので、専門医を目指す全ての先生方に自信を持ってお勧めできると思います。
そんな充実した研修の日々を経て、徐々に日々の臨床にも自信が生まれ、専門医の取得が間近になった頃です。お世話になっていた上司に今後の進路について相談したところ、大阪の国立循環器病研究センター(通称 国循)での心臓麻酔フェローシップのお話をいただきました。フェローシップは専門医取得後のサブスペシャリティ研修の場として医局が用意しているプログラムで、国循は幾つかある心臓麻酔フェローシップのうちの一つです。
専門研修中に麻酔科の多様な専門分野に触れてきた私には、当初興味を持っていた集中治療の他に、急性期循環管理の真髄とも言える心臓麻酔をより深く学びたいという気持ちが芽生えていました。横市には多くの国循経験者の先生方が在籍し活躍されており、そんな先輩方への憧れもあって国循での研修を希望することに決めました。研修希望者は全国から集まるため、研修の機会を得ること自体が狭き門ではあったのですが、横浜市大からはほぼ毎年数名のレジデントが派遣されており、幸い希望通り研修の機会をいただけることになりました。
国循は循環器病専門のナショナルセンターで、一般的な心臓血管手術、小児先天性心疾患手術は勿論、ロボットを用いた低侵襲心臓手術や最先端のデバイスを用いたカテーテル治療、人工心臓植え込み、心臓移植など珍しい手術も行われています。電話連絡から執刀まで一刻を争う緊急手術や他の病院では麻酔が困難と言われる程の超重症心不全症例もあり、症例の数、量、種類の全ての点で日本屈指の病院といえます。
全国から臨床に対しモチベーションの高いレジデントが集まってくるので、互いに切磋琢磨して実力を伸ばしていくことができます。国循での研修は症例毎にかかるプレッシャーも大きく、決して平坦な道ではありませんが、2年間の研修で臨床医としての実力は間違いなくアップすると思います。
国循では豊富な症例数を活かした臨床研究も盛んです。国内外での学会発表は勿論、論文作成の指導を受けられます。私も主体的に臨床研究を行うのは初めての経験でしたが、成果の一部を海外学会で発表することができました。そして現在は新たな研究の構想を考えるのと、結果をまとめて論文投稿に向け準備をしている最中です。
心臓麻酔で培う循環管理は、循環器系救急やICU、そして勿論一般麻酔にも幅広く応用できるスキルです。今後横浜に戻った際には、大阪で学んだ心臓麻酔・循環管理の魅力や私の経験を皆で共有し、麻酔科臨床の益々の発展に微力ながら貢献できればと思っています。またこれまでの臨床・研究活動を通して、日本で感じてきた環境やシステム面の課題がありますので、近い将来には年単位での米国留学にチャレンジして能力を磨ける場を探したいと希望しています。
臨床研修を終え、これから一人前の医師としてどう生きるか。診療科と医局の選択は人生の大きな岐路だと思います。既に明確な目標を持っていらっしゃる先生も、そうでない先生もいると思います。目標を持っていても達成のための手段がわからない先生もおられるでしょう。私自身、入局時には心臓麻酔に焦点を置いたキャリアを歩むとは思っていませんでしたが、仕事を通じて興味の赴くままに、ここまで楽しくやってこられました。私にとって横浜市大麻酔科医局と医局の先輩方は人生の道標です。
麻酔科は分野横断的であり、手術麻酔という一つの軸を中心に多様な働き方がある面白い診療科です。麻酔科という大海原を横浜市大という灯台の光を頼りに、共に航海できる日を楽しみにしています。