担当

坂田 勝巳(准教授,部長,日本頭蓋底外科学会評議委員),川崎 隆(助教)

治療実績

令和元年の脳腫瘍に対する手術は76件でした.

開頭腫瘍摘出術 55件
頭蓋底腫瘍摘出術 5件
経蝶形骨洞法下垂体腫瘍摘出術 16件

治療詳細

脳神経外科領域で良性脳腫瘍と言えば,髄膜腫,神経鞘腫(聴神経腫瘍ほか),下垂体腺腫などが挙げられます.これらの腫瘍に対する治療のゴールは機能を温存し,腫瘍を全摘出することにあります.しかし,良性だからといって手術が簡単であるということではありません.なぜなら,発生する場所によって手術の難易度が何倍も変わるからです.頭蓋底手術とは頭蓋骨の底部の骨を削除することにより,機能の中枢である脳に対して愛護的に病変を除去する手術法です.特に頭蓋底(頭蓋の底で重要な血管や神経が存在している)に発生した場合,機能を温存しできるだけ腫瘍を摘出するには経験と技術が問われます.

当施設では約2000例以上の開頭手術を経験した医師が手術を担当しております.また,センター病院である性格上,困難な腫瘍が紹介されて参りますが,頭蓋底手術を専門とする経験豊富な脳神経外科医と頭蓋底再建を専門とする形成外科医がチームを組み,治療戦略を検討し,個々の症例において最良の手術方法を選択し,治療を行っております.また,当施設では術中超音波エコー,脳神経モニタリング,MEP,SEP,ナビゲーションなど最新の工学医療機器を導入し,脳神経,穿通枝はもとより脳静脈の温存を心がけ,より安全にかつ効率的な手術を行い,良好な成績(死亡0.2%,永続的重症合併症3%)を得ております.

当施設での治療方針は患者様のQOL (Quality of Life) を最重視した治療計画を立てることです.もちろん良性脳腫瘍に対する治療の第一選択としては多くの場合,手術療法を選択いたしますが,腫瘍の部位や大きさ,患者様の状況により手術だけにこだわるのではなく,定位的放射線治療(ガンマナイフやサイバーナイフ)も加味した治療を協力関連病院と緊密に連携し行っております.

頭を開ける(開頭手術)ということは,患者様が我々脳神経外科医に命を預けることであり,我々はその重みを常に考え,日々診療を行わなければなりません.自分の家族であればどのような治療方針とするかを考え,診療を行っております.ただ,病気だけを診るのではなく,患者様の人生の手助けをすることが使命であることを十分に認識することが重要です.手術後もほとんどの場合,自らの外来で長期的にフォローさせていただいております.手術をしたら後は診ないということはございません.

手術治療例

手術をお受けになった患者様のご好意によります.個人情報保護のため年齢,性別は呈示いたしません.

髄膜腫

髄膜腫は良性脳腫瘍の中で最も多い腫瘍です.この腫瘍は脳を覆う髄膜(硬膜およびくも膜)から発生します.腫瘍が脳や神経や血管を圧迫することにより多彩な症状を呈します.基本的に良性腫瘍で,外科的に全摘出すれば完治することができます.しかし,頭蓋底部に発生すると脳神経や重要血管を巻き込むことがあり,手術の難易度が上がります.このような場合,頭蓋底手術のテクニックが必須となります.当施設では手術顕微鏡を用いた顕微鏡下微小手術技術はもとより前述したナビゲーションシステムなど最新の手術支援機器を駆使し良好な成績を上げています.摘出による合併症の確率が極めて高いことが予想される場合は,あえて被膜または一部の腫瘍を残し,術後に画像(MRI等)による注意深い経過観察または定位的放射線治療を考慮しております.あくまで患者様のQOLを第一とした治療戦略をモットーとしております.

図1:蝶形骨縁髄膜腫(左:術前,右:術後)
髄膜腫の好発部位の一つです.活動性の低下,右不全麻痺を自覚され,近医でMRIをとったところ腫瘍が発見されました.左前頭側頭開頭にて腫瘍を全摘し,術後症状は軽快,術後15日で退院されました.
図2:後頭蓋窩髄膜腫(左:術前,右:術後)
髄膜腫の好発部位の一つです.頭痛および歩行時のふらつきを主訴に受診されました.MRIにて小脳後方に腫瘍を認め,後頭下開頭にて腫瘍を全摘出し,術後10日で退院されました.

聴神経腫瘍

この腫瘍は聴神経を包む細胞から発生する腫瘍で,比較的多く認められるものです.病理学的には良性のものが多く,ほとんどが神経鞘腫とされています.聴神経といっても実際には聴覚に関係する蝸牛神経と平衡感覚をつかさどる前庭神経からなり,この腫瘍は前庭神経から発生することが多いとされております.初期症状として,耳が聞こえにくい,耳鳴りがする,めまいがするなどが多く認められます.耳鼻咽喉科領域でみられる突発性難聴やメニエール氏病とまちがえられることもまれにあります.組織学的には良性であり,手術で全摘出すれば治癒することができます.ただし,腫瘍周囲には他にも多くの脳神経,小脳,脳幹が存在し,機能をいかに残すかが手術のポイントになります.基本的には手術を第一選択としておりますが,大きさや患者様の状態により定位的放射線治療を選択または併用することもあります.手術において機能温存するために,顕微鏡下手術テクニックはもとより,術中の聴神経や顔面神経モニターが重要とされていおります.当施設でも術中脳神経モニタリングを駆使し,機能温存を目指した手術を行っております.

図3:聴神経腫瘍(左:術前,右:術後)
この患者様は聴力低下とふらつきを主訴として来院されました.幸い術後も聴力検査では聴力を温存することができました
図4:聴力検査 聴力温存が確認できます
図5:聴神経腫瘍
この患者様は聴力障害と歩行時ふらつきを主訴にMRIを施行したところ聴神経腫瘍と診断され,当科外来を紹介受診されました.やや高齢であり,顔面神経に腫瘍被膜の一部を残し,ほぼ摘出しました.術後顔面神経は温存され14日で退院されました.

三叉神経鞘腫

神経鞘腫は他の脳神経や脊髄神経にも発生することがあります.三叉神経から発生した場合,三叉神経鞘腫となり,顔面の感覚障害を呈することがあります.

図6:三叉神経鞘腫
神経鞘腫は他の脳神経や脊髄神経にも発生することがあります.この患者様は左顔面の感覚障害と複視(物が二重に見えること)を主訴に来院されました.頭蓋底手術のテクニックを用い,硬膜の外から硬膜を開けることなく腫瘍を摘出することができました.術後顔面の知覚鈍麻は残りましたが,複視は改善しました.

下垂体腺腫

この腫瘍は下垂体という頭蓋底の中央にあるトルコ鞍と呼ばれるくぼみの中に存在するホルモンの中枢から発生する良性腫瘍で,比較的多く見られます.一般的にホルモンを過剰に分泌する腫瘍(ホルモン産生腫瘍)と,ホルモンを分泌しない腫瘍(非機能性腺腫)に分類されます.

非機能性腺腫の場合,腫瘍の増大に伴い,視神経を圧迫し視力低下や視野障害を認めます.特に視野の外側が見にくくなる(耳側半盲)ことが多く,車庫入れやバックする時にぶつけやすくなることで気づかれることもあります.

機能性腺腫の場合,産生するホルモンの種類により症状が異なります.

プロラクチン 乳汁分泌や無月経
成長ホルモン 末端肥大症(靴や指輪のサイズがあわなくなるなど),巨人症(小児期発症)
副腎皮質刺激ホルモン 中心性肥満など

眼窩内腫瘍

眼窩内(眼球の奥)にもいろいろな種類の腫瘍が発生し,視力障害,複視,眼球突出などの症状を呈することがあります.当施設では伝統的に多くの眼窩内腫瘍の経験があります.頭蓋底手術のテクニックを用い,美容形成的にも注意を払った手術を行い,良好な成績を上げております.

図9:眼窩内腫瘍(海綿状血管腫)
この患者様は眼球突出および複視を主訴に来院されました.手術により腫瘍は全摘出され,術後10日で退院となりました.

関連業績

  • 坂田勝巳 他:外側頭蓋底到達法における静脈性脳損傷の回避:解剖と手術手技(シンポジウム).第16回 日本頭蓋底外科学会(横浜).2004年7月
  • 坂田勝巳 他:手術支援機器に基づく頭蓋底手術:ナビゲーションシステムと摘出支援機器の有用性と限界(ビデオシンポジウム).第63回 日本脳神経外科学会総会(名古屋).2004年10月
  • 坂田勝巳 他:頭蓋底手術における静脈・穿通枝温存のポイント.第14回 脳神経外科手術と機器学会(富山). 2005年4月
  • 坂田勝巳 他:No morbidityを目指した私の基本手技:髄膜腫摘出術における基本とコツ.第70回 日本脳神経外科学会総会(横浜).2011年10月
  • 坂田勝巳 他:巨大髄膜腫に対する手術:その戦略と問題点.第71回 日本脳神経外科学会総会(ビデオシンポジウム)(大阪).2012年10月
  • 坂田勝巳:Orbito-zygomatic approachの適応と限界:歴史的変遷を踏まえて.第25回 日本頭蓋底外科学会(教育講演)(名古屋).2013年6月
  • 坂田勝巳 他:眼窩内腫瘍の外科的治療:到達法の選択と摘出の工夫.第73回 日本脳神経外科学会総会(ビデオシンポジウム)(東京).2014年10月
  • Sakata K., et.al.: Technical strategy and pitfall of functional preservation in surgery for juxtasellar skull base meningioma; Especially focused on the visual function and clinical problems related to perforators.The 15th WFNS Interim Meeting (Roma). Sep 2015
  • 坂田勝巳 他:傍鞍部髄膜腫に対する手術を究める:視神経機能と穿通枝に注目して.第74回 日本脳神経外科学会総会(ビデオシンポジウム)(札幌).2015年10月
  • 坂田勝巳 他:静脈温存に基づく非侵襲的Pterional approach:静脈解剖と手術手技.Video Journal of Japan Neurosurgery 13(2),2005
  • 坂田勝巳 他:手術支援機器に基づく脳腫瘍手術.山下純宏(編);脳腫瘍の外科−Biological behaviorにのっとった新しい治療戦略−.p321-325,メディカ出版,2005
  • 坂田勝巳:頭蓋底部外科解剖:静脈と膜構造.大畑建治(編);NS NOW 7 低侵襲時代の頭蓋底手術:過度な露出をさけるために.p2-11,東京,メジカルビュー社,2009
  • 坂田勝巳:後頭蓋窩頭蓋底の解剖総論.斉藤延人(編);ビジュアル脳神経外科7 頭蓋底2 後頭蓋窩・斜台錐体部.東京,メジカルビュー社,2012,p2-15
  • 坂田勝巳: 外側後頭下開頭.;頭蓋顎顔面の骨固定:基本とバリエーション.東京,克誠堂出版,2013,pp77-82
  • Sakata K, Al-Mefty O, Yamamoto I.: Venous consideration in petrosal approach:Microsurgical anatomy of the temporal bridging vein. Neurosurgery 47:153-161,2000
  • Sakata K., Yamamoto I.: Middle fossa meningioma. in Pamir MN, Black PM, Fahlbusch R (eds): Meningiomas: A comprehensive text, Philadelphia, Saunders Elsevier, 2010,p.469–47
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