mRNA surveillance:mRNAの品質管理機構

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遺伝子変異に対する細胞の防御機構:mRNA サーベイランス

 モデル生物の変異体やヒト遺伝性疾患の遺伝子変異の解析から、遺伝子変異の1/4から1/3は最終的にタンパク質コード領域にpremature termination codon (PTC) (異常なナンセンスコドン)を導入すると言われています。nonsense 変異はもとより、スプライシング部位の変異や、遺伝子レベルでの組み換えにより、このようなPTCが出現します。

 しかし、PTCを有する異常なmRNAは通常検出出来ません。これは、細胞が PTC を有する異常なmRNAを分解する機構を備えているからであることがわかってきました。これは、mRNA サーベイランス或いは、nonsense-mediated mRNA decay, NMDと呼ばれています。

 PTCの出現によりmRNAはC-末端の欠けた異常なタンパク質をコードすることになります。しかし、このような異常なタンパク質は場合によっては毒性を発揮することが容易に予測できます。細胞はこのような異常タンパク質の出現をmRNAレベルで環視し、排除しているのです。このmRNAサーベイランスは酵母からヒトまで保存されており、細胞の細胞の基本的な機能と考えられます。大切な事は、NMDの研究は酵母や線虫の遺伝学の研究に端を発しており、ヒトにも存在することがはっきりしてきたのは、つい2,3年前からであるという点です。

mRNAサーベイランスはヒトの遺伝性疾患の症状緩和に大きく寄与している

 ヒト遺伝性疾患における遺伝子異常と症状との関係が最も詳しく解析されている例がグロビン鎖の異常に起因する疾患ですが、mRNAサーベイランス機構が疾患症状に大きく関係していることがわかっています。今後、遺伝子異常と症状との関係をmRNA サーベイランスという視点で整理することにより、様々な疾患への直接的な関わりがどんどん明らかになるはずです。

mRNAサーベイランスの分子機構

 mRNAサーベイランスの分子機構の解析は酵母の変異体、線虫の変異体、ヒトの遺伝性疾患、mRNA代謝系の生化学的な解析という方向から進められてきました。最近、mRNAのスプライシング機構の生化学的な解析が大きく進み、スプライシングを経たmRNA上には、過去のエキソンーイントロン結合部位にマークタンパク質が結合していることや、リボソームがmRNAをスキャンして(1st round)タンパク質合成する際にこのマークを目印にPTCの有無を検出し、PTCがある場合には分解し(NMD)、ない場合には通常のタンパク質合成を行う(2nd round以降)、、といった事が続々と明らかとなりつつあります。

 現在、リボソームがmRNAを1st roundでスキャンする際には、UPF-1/SMG-2というDNA/RNAヘリカーゼが重要な役割を果たしており、他のタンパク質(UPF-2/SMG-3, UPF-3/SMG-4)との複合体が、mRNAサーベイランス複合体を構成し、これがマークタンパク質とtermination codon の位置関係、つまりPTCの有無を検出していると考えられています。

サーベイランス複合体とタンパク質のリン酸化・脱リン酸化

 さて、私たちは、新規のphosphatidylinositol kinase-related protein kinase (PIKK) ファミリーのキナーゼのcDNAのクローニングに端を発して、これが、線虫のmRNAサーベイランスに関わる遺伝子、smg-1の産物のヒト版であることを見いだしました。実際、ヒト細胞を用いて、hSMG-1がNMDに必須のタンパク質であることを証明しました。さらに、hSMG-1によるhUPF1/SMG-2のリン酸化が、NMDの必須の段階であることを見いだしました。

 hSMG-1のキナーゼ活性を欠く点変異体や、阻害剤を用いて、ヒトがん細胞で、通常発現されていないトランケート型のタンパク質を発現させることに成功しました。

mRNAサーベイランス機構の臨床的意義の解明とその応用

 すでに述べたように、mRNAサーベイランスは遺伝子の異常に起因するすべての疾患の症状に直接関係していることが容易に予測できます。しかし、このような観点での考察はほとんど全く行われてきておりません。今後の発展がおおいに予測できます。

参考文献

最近の分子機構研究の成果

06.02.01

鹿島勲博士らの研究グループが、ナンセンスmRNAの認識機構の解明に成功

紹介記事
Perspectives:
Isabelle Behm-Ansmant and Elisa Izaurralde. Quality control of gene expression: a stepwise assembly pathway for the surveillance complex that triggers nonsense-mediated mRNA decay.Genes Dev. 20: 391-398, 2006.

03.11.21

大西哲生(現、理研脳科学総合研究センター、研究員) 、山下暁朗(現、テキサス大、研究員)、鹿島勲君らの論文が Molecular Cell に掲載されました。質、量ともにかなりの力作です。(Phosphorylation of hUPF1 Induces Formation of mRNA Surveillance Complexes Containing hSMG-5 and hSMG-7)Molecular Cell, 12 (5), 1187-1200, 2003.

 同号のPreviewsのトップにも紹介され、この発見の重要性を示しています。(Miles F. Wilkinson, The Cycle of Nonsense, Molecular Cell, 12 (5), 1059-1061, 2003.)

 mRNAの品質管理(mRNAサーベイランス)に際して異常な終止コドンを認識していると思われているサーベイランス複合体がhSMG-1によるhUPF1のリン酸化とPP2Aによる脱リン酸化によりリモデリングを受けること、これがmRNAサーベイランスに必須のステップであることを見いだしました。

 興味深いことに、このリモデリングの過程で、exon junction complex (EJC)の構成タンパク質であるhUPF3Aのアイソフォームの交換が起こります。これが何を意味しているかが次の大きな課題となります。

 一部は昨年のCold Spring Harber Symposium で大野が発表した内容です。November 24 (Mon) - November 27(Thu), RNA2003, Kyoto でも、大野、鹿島が発表します。

Ohnishi et al., Molecular Cell, 2003

大野茂男 (ohnos@med.yokohama-cu.ac.jp)
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