植物や人為的活動から発生するVOCを計測し、大気中での化学反応を理解する
私たちを取り巻く大気の99%以上は主に窒素や酸素、二酸化炭素、水蒸気などから構成されますが、残りの1%未満には、数千種類にも及ぶ揮発性有機化合物(VOC)が含まれています。VOCは生物(呼吸などの生命活動)あるいは人為的活動(車や工場の排ガスなど)から放出されますが、VOC1つ1つの大気中濃度は、ppb(10億分の1)あるいはppt(1兆分の1)レベルという極めて低いものです。しかし、VOCは大気中で様々な化学反応を起こして、対流圏オゾンやエアロゾルなどの大気汚染物質の生成を促し、環境や気候変動に多大な影響をもたらします。
当研究室では最新の質量分析法を駆使し、「各起源からどのようなVOCが放出されるか、それらは大気中でどのような化学反応を経て何に変化するのか」ということに焦点を当て、実験室での研究を行っています。また国際研究機関と共に、野外観測を通じた研究も行っています。
北米西部で起こる山火事の航空調査に参加
近年、世界各地で山火事が頻発し、そこから放出される物質の環境影響や健康影響が懸念されています。2019年の夏、北米西部の山火事の環境影響を調査する大規模プロジェクト FIREX-AQに参加してきました。米国立海洋大気庁(NOAA)と米航空宇宙当局(NASA)による当該プロジェクトでは、大型ジェット機(NASA DC-8)など複数の航空機が使われました。見た目は普通の機体ですが、中は実験室そのもの。DC-8には30種類以上の最先端機器を搭載し、山火事上空の噴煙や風下に向かうプルームに含まれる様々な大気成分を“その場 ( in situ ) ”で計測しました。関本はNOAAのCarsten Warneke博士が率いるVOC計測グループに加わり、プロトン移動反応質量分析法(PTR-MS)を用い、山火事から放出される何百種類ものVOCをリアルタイムに計測していきました。以前に行った植物燃焼に関する予備実験により、火災によって放出されるVOCの種類と量は、燃焼温度に依存することを見出しています(K. Sekimoto, A.R. Koss, C. Warneke, J. de Gouw et al., Atmospheric Chemistry and Physics, 18, 9263-9281 (2018))。この知見が現実世界の山火事でも通用するか、現在解析中です。