YCU 横浜市立大学 データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻

Researchers

教員紹介

桑原 恵介
KUWAHARA Keisuke
主要担当科目
研究デザイン学
Q.1

これまでの研究者としての
歩みを教えて下さい

私は、2003年に文理融合型の大学・学部に入りました。そこで、公衆衛生学といった学問、そして、「少食は世界を救う」といったユニークなアイディアと活動と出会い、人々の命と健康に関わる課題と対峙し、解決する面白さを認識しました。その後、たまたま大学院に進学し、疫学を学びながら、人を対象とした実験研究や観察研究をさせていただきました。
2011年度に博士後期課程を修了し、博士(学術)を取得した後は、2012年から国立国際医療研究センターで研究員(注:2014年度以降は客員研究員など)として、職域多施設研究(J-ECOHスタディ)に関わらせていただきました。そこでは、大企業の従業員約10万名の健康診断データベースの構築や分析、論文作成のスキルを実践的に学びました。国立国際医療研究センターの先輩がたには、産業疫学や栄養疫学で優れた業績を上げられておられた先生がたが多く、そうした先生がたから丁寧にご指導いただいたことで、疫学のスキルが随分と上がったように思います。
国立国際医療研究センターでは、スリランカで地域ベースの介入研究なども関わらせていただき、国際保健の魅力や介入研究の難しさ・面白さを体感しました。同僚にはアジア圏を中心として、海外の優秀な研究者もおり、国際的な視点やネットワークを広げることもでき、今の活動にも活かされています。後藤温先生とは、国立国際医療研究センター時代に職場が近く、その時から接点が時々ありました。今は同じ職場になり、御縁の妙を感じます。
2014年度から2022年度まで、帝京大学大学院公衆衛生学研究科(以下、帝京SPH)において、社会を変革し、公衆衛生上の諸課題の解決にあたることができる人材(チェンジ・エージェント)の養成に疫学領域の教員として携わってきました。公衆衛生領域における専門職教育のホットトピックには、コンピテンシー基盤型教育や問題解決型アプローチなどがあります。日本の文脈でその実践に先駆的に関わることができたのは、貴重な財産です。
帝京SPHでは、疫学の大家であるKenneth Rothman先生と親交が深く、「ロスマンの疫学」として知られる有名な著書を日本に広く普及させた矢野榮二先生が疫学の教鞭をとっておられました。ほかにも生物統計学の山岡和枝先生をはじめ、産業保健や地域保健、国際保健、ヘルスコミュニケーション領域の素晴らしい先生がたが多くいらっしゃいます。帝京SPHはハーバード公衆衛生大学院と連携して活動を進めており、毎年、疫学を含む公衆衛生の主要5領域の先生が集中講義をされています。そうした様々な領域の先生がたの授業方法を直に数多く学べたことは、自分の教育方法を確立していく上で、大変役立ちました。
学生時代は研究のセンスがなかったですが、周りのご指導のおかげで、なんとか研究がそれなりにできるようになりました(気がする)。その意味では教育にも力を入れて(ヘルスデータサイエンス教育学を確立?)、学生の方々に還元したいと思っています。
私は地方の学校保健の出身であるため、社会医学・公衆衛生系の知り合いはほとんどいませんでした。しかし、帝京SPHの広報活動の一環で、日本疫学会疫学の未来を語る若手の会と関わるようになり、また、帝京大学にいらっしゃった先生のご紹介で、日本産業衛生学会の若手研究者の会の活動とも関わるようになり、様々な領域の知り合いが一気に増えました。さらに、疫学会の若手の会の活動が契機となり、日本医学会連合での領域横断的な活動(リトリート・フォーラム)や第31回日本医学会総会での活動につながりました。若いうちは、専門性を高めることが重要ですし、充実感もあります。しかし、それを続けると「たこつぼ化」「サイロ化」して、視点が偏り、他の領域との分断を生みかねません。若い方もそうでない方も、息抜きをかねて、領域横断的な場に集まってほしいです。
最後に、高校生の方が本ページをご覧になってくださっているかもしれませんが、私は高校で文系を選択しました。その意味で、文系の方も臆せず、人々の健康と命に関わる課題を科学的に検証し、解決していきたい方にはぜひ門戸を叩いていただきたいです。
疫学には、個人を見ているだけだとなんとなくしかわからない、あるいは気づかない、集団としての傾向を数値として定量化してくれる面白さがあります。フィールドによってはそれが直接、対策の参考になることもありますし、論文化すれば、国内外のガイドラインに反映されたり、メディア等でも紹介してもらったりして、多くの方に参考となる情報を届けることができます。その疫学の方法論たる研究デザインは、まだ発展途上です。異分野の知見が新たなデザインの開発につながるかもしれません。また、保健医療上の課題の解決は簡単ではなく、他領域の専門家や企業、住民をはじめとしたステークホルダーと連携して解決にあたる重要性が増しています(commercial determinants of health、市民参画といった概念も近年出てきています)。公衆衛生とは何かを考えると、社会のすべての在り方が関わってきます。ぜひ出身に関わらず、大学院へスキルアップをしに来てほしいです。

Q.2

学生と一緒にやりたいことに
ついて教えて下さい。

現代社会には、人々の健康や命に関わる様々な課題が山積しています。こうした課題は単純なものではなく、倫理的・法的・社会的課題と向き合う必要があります。また、気候変動や災害、食料危機、エネルギー危機、紛争、技術革新、労働人口の減少といった、社会で生じる大きな変化にも目を向け、社会全体を最適化していかざるをえません。こうした社会の中にある課題を将来の世代に残さないためにも、学生の皆様には、広い視野を持って、ご自身の持ち場でまだ着手されていない、困難であるが重要な課題の解決に取り組んでいただきたいと思っています。私自身も学びながら、そうした活動を学術的にサポートすることで、一緒に取り組んでいけると嬉しいです。研究力の低下が指摘されて久しい日本ですが、その対策として研究・研究者評価の在り方も重要です。一見、本業とは関係なく、関わる機会のなさそうなメタサイエンス的な活動も、第31回日本医学会総会の若手のプロジェクトとして関わってきました。面白そうと思ったら、ぜひ積極的にご参画いただき、一緒に取り組みたいです。