内分泌学研究室Endocrinology Laboratory

正常な雌マウスは成熟するとほぼ4日間の性周期を示し、卵巣からのエストロゲンの働きによって、器官重量の増加や、上皮細胞の増殖が誘導されます。マウスから卵巣を摘出すると子宮や膣は小さくなり、膣上皮は萎縮した立方上皮となりますが、出生直後にエストロゲンや、合成エストロゲンであるジエチルスチルベストロール (DES)を投与されたマウスでは、膣上皮が恒久的に増殖・多層化し、成熟後に卵巣を摘出しても上皮細胞は萎縮せずに増殖し続けます。このような出生直後の性ホルモン投与による卵巣非依存の膣上皮の増殖を、正常マウスの可逆的な増殖に対して不可逆的増殖と呼んでいます。不可逆的増殖を示す膣はやがて加齢に伴い腫瘍化することが知られています。さらに、環境ホルモンの一つであるビスフェノールA (bisphenol-A, BPA)を胎仔または新生仔期のマウスに投与すると、子宮、膣に対して不可逆的な影響を及ぼすことも明らかになっています。  私たちは、このような出生直後のマウス生殖器官に対する女性ホルモンや環境ホルモンの影響と、その作用メカニズムについて組織学、生化学、分子生物学的手法を用いて研究しています。

出生直後の合成エストロゲン投与による多卵性濾胞の誘導メカニズム

通常、1つの濾胞内には1つの卵母細胞が含まれますが、出生直後に合成エストロゲンを投与されたマウスでは、複数の卵母細胞を含む多卵性濾胞が発生します。私たちは、ベータ型エストロゲン受容体を介して多卵性濾胞が生じることを見つけました。現在は下流遺伝子群の探索を行っています。

卵巣の卵胞形成、子宮、膣上皮細胞の分化機構

マウスの子宮と膣は同じミュラー管から分化するにも関わらず、その形態、機能に大きな違いがあります。膣の分化時にいくつかの成長因子が働いていること、また、子宮の間質の分化にレチノイン酸が関わっていることを見いだしました。

女性不妊モデルマウスの作成、原因遺伝子の網羅的解析

不妊の原因としてよく挙げられる「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」のモデルをマウスで作製し、原因遺伝子を網羅的に解析しています。また、男性ホルモン産生に関わる酵素の発現調節について、マウス卵巣莢膜細胞の初代培養系を用いて調べています。

出産後の子宮組織修復機構

出産後の子宮はひどく傷ついた状態ですが、3日ほどでほぼ正常な状態に戻ります。この修復過程について、関わっている因子や性ホルモンの影響などについて詳細を調べています。