実践力と研究力を備えた法医学者育成事業 文部科学省「基礎研究医養成活性化プログラム」採択事業

2018 国際ワークショップworkshop

4第2回国際ワークショップ
「連携が開くトビラ~法医学とその関連領域」
開催報告書

平成30年12月11日に横浜市立大学附属病院臨床大講堂において、第2回国際ワークショップ「連携が開くトビラ~法医学とその関連領域」を開催しました。今回は「物理的外力と損傷」という主テーマで、ミュンヘン大学法医学研究所 Matthias Graw主任教授、Lisa Eberle講師、国内から長崎県警察科学捜査研究所 平川俊介上級研究員、防衛医科大学 原田一樹准教授をゲストスピーカーとして招聘し、ご講演いただきました。また、前回と同様に法医学者だけでなく、大学院生、学部学生、行政機関、警察等からも多数ご参加いただきました。

まず第1部では、Graw教授からドイツ ミュンヘン大学における法医学の教育システムについての説明と交通外傷に関する法医鑑定についてご講演いただきました。ドイツの法医学教育は充実しており、医学部の学生は法医学の講義だけでなく、希望者は小人数のセミナーや解剖実習も選択することができます。ドイツの法医学者は専門医や博士号を取得した後にHabilitation(研究と教育を行うための資格)を得て、最終的に教授ポストに就任します。Habilitationには解剖や検案だけでなく病理学や精神科の研修も必須であり、法医学者に幅広い知識を求めています。ドイツでは厳密な教育カリキュラムや認定基準によって法医学者の質を担保していると感じました。講演の後半では、ミュンヘン大学が得意とする交通事故症例の損傷所見から事故状況を再構築する技術についての紹介がありました。事故状況を再現したアニメーションは理解しやすいだけでなく説得力がありました。質疑応答では、ミュンヘン大学で法医学者育成をする上での工夫や課題についての質問や、本邦とドイツでの法医学者育成の違いに関する感想、今後、本邦の法医学者育成システムはどのように進むべきかなどについての質問がありました。

次にEberle講師のご講演は、頸部器官の損傷形態から外力の作用方向や受傷機序を再構築する方法についての紹介でした。ミュンヘン大学では、解剖時に頸部器官に損傷が疑われた症例では、後日、実体顕微鏡を用いて丁寧に舌骨、甲状軟骨、輪状軟骨を露出し、それらの損傷を観察することで作用した外力の方向や受傷機序を明らかにしています。本邦では一般的ではない手技であり、実際の手技に関する質問や難しさなどについての質問がありました。

平川先生からは、絞頚症例において頚部にかかる外力を客観的に計測するための実験についてご紹介いただきました。一般に絞頸では頚部全体に均一な圧力がかかると考えられてきましたが、平川先生の実験によると絞め方や体位によって、頸部に作用する圧力の大きさが異なる可能性が示されました。医学だけではなく工学や物理学の知識や技術を使って研究を進めていることは大変興味深く、また大きな可能性を秘めていると感じました。

最後に原田先生からは硬膜下血腫の診断について、基本的なことから課題などについて幅広くお話しをしていただきました。硬膜下血腫を「トリックスター」に例え、外傷性と非外傷性の硬膜下血腫の診断がいかに難しいか、特に外力が弱い場合はどう判断すればよいのかなどについて、法医実務において鑑定人が苦慮する症例をわかりやすく解説していただきました。

第2部では、本学大学院の解良仁美医師から本事業の研修報告がありました。プログラムとしては同じ課題をこなしていても、前年とは異なる疑問や感想を持っていることに気付き、それこそが自身の成長の結果であると感じているとのことでした。本プログラムの目的のひとつは連携大学を含めた他大学、多領域の専門家と交流することによって、幅広い物の見方ができる法医学者を育成することであり、その成果が出ていると感じました。

アンケートを通じて参加された方々からの感想をいただきました(下記参照)。いままで知らなかったことを勉強することが出来て有意義であったという感想を多くいただきました。一方で「物理的外力」というテーマが広過ぎたため、テーマを絞った方がより深い議論が出来たのではないかという指摘もいただきました。次回以降のワークショップの参考にしていきます。