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西澤知宏
教授
京都大学大学院理学系研究科博士後期課程修了(2009年)、理学博士。東京大学大学医科学研究所研究員、東京大学大学院理学系研究科・助教・准教授を経て、2021年4月横浜市立大学大学院生命医科学研究科教授。
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シスチン尿症の原因となるタンパク質生合成異常のしくみを解明

李勇燦助教と東京慈恵会医科大学 永森收志准教授、Pattama Wiriyasermkul助教らによる国際共同研究グループは、シスチン尿症に関わるアミノ酸輸送体であるrBAT-b0,+ATの生合成における重要なプロセスを発見しました。 

今回の研究により、長年謎とされてきたいくつかのシスチン尿症の病態変異が説明され、分子・原子レベルでの新たな治療法の可能性が示されます。 

本研究成果は「Nature Communications」に掲載されました。(日本時間2022年5月16日18時)

研究成果のポイント
  • シスチン輸送体の生合成は小胞体*2でのカルシウム結合と超分子複合体の形成を必要とする
  • 生合成メカニズムの発見は、これまで知られていなかったシスチン尿症の病態変異の説明につながる
  • I型シスチン尿症の治療法としての可能性を見出した
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研究背景

シスチン尿症は、世界各地で見られる腎臓の遺伝性疾患の一種で、7,000人に1人(本邦では2万人に1人)の頻度で発症します。

血尿、腹痛、腰背部痛、尿路感染症状を10〜30歳で発症する事が多く、腎不全を来すことがあります。

シスチン尿症は、シスチンと二塩基性アミノ酸のトランスポーターであるrBAT-b0,+ATの変異によって引き起こされ、再発性の尿路結石(シスチン結石)を引き起こします。

腎臓でのシスチンの再吸収は、近位尿細管の各セグメントにおいて、2種類の輸送系によってそれぞれ担われています(図1)。

セグメント1-2ではrBAT-b0,+ATが、セグメント3ではrBAT-AGT1がはたらきます。

これらの輸送体は、ヘテロ二量体アミノ酸トランスポーター(HAT)と呼ばれるタンパク質ファミリーに属し、制御サブユニットである糖タンパク質rBATが、触媒サブユニットであるb0,+ATあるいはAGT1と二量体を形成することで、シスチンを含むアミノ酸のトランスポーターとして機能します。

rBAT-b0,+AT複合体に関しては、長い間研究が進められ、I型シスチン尿症につながるrBATの変異が多数発見されています。しかし、病態の意味するところは未だ不明であり、輸送の生理的なメカニズムとの関連は不明でした。

(図1)腎臓近位尿細管の各セグメント(S1、S2、S3)ではたらくシスチン輸送系の概念図

研究内容

研究グループは、クライオ電子顕微鏡を用いた最先端の技術と複数の生化学・細胞生物学的手法を用いて、rBAT-b0,+ATの生合成とI型シスチン尿症における小胞体カルシウムの役割を発見しました。

グループは、超二量体と名付けられた2つのrBAT-b0,+AT複合体が二量体化している構造において、rBATの細胞外ドメインにカルシウムイオンが存在することを突き止めました。(図2)

また、カルシウムの結合は、複合体を安定化させて小胞体で超二量体の生合成を完了させることで、rBAT-b0,+ATの細胞膜への局在と輸送機能を促進させることを発見しました。

一方で、カルシウムが結合しない変異を導入すると、I型シスチン尿症変異体に見られるように、タンパク質が不安定になるなど、細胞膜局在が阻害されました。

例えば、ヨーロッパで多く見られるT216M変異では、発症する理由がわかっていませんでしたが、変異によりカルシウム結合と超二量体化が阻害され、タンパク質が小胞体で捕捉され機能不全になることが明らかとなりました(図2)。

また、超二量体を形成できない変異体に対して、さらなる改変を加えると、超二量体が回復しトランスポーターが正常に局在できるようになりました。

このことは、タンパク質の局在異常によって起こるI型シスチン尿症の治療法開発につながる手がかりとなります。

(図2)カルシウムイオンによって安定化されるrBAT-b0,+AT超分子複合体の構造と、シスチン尿症変異によるその異常

本研究が社会に与える影響

本研究は、トランスポーターが正しく働くために超分子複合体形成が必要であることを示しました。

さらに、トランスポーター複合体の安定化因子としてのカルシウムの新しい役割も明らかとなりました。

これにより、これまで長い間説明のつかなかったいくつかのシスチン尿症変異の分子病態が説明されます。

これまで、シスチン尿症の治療は水分の大量摂取や尿のアルカリ化、食事制限などの間接的な方法で行われてきました。

本研究は、原子レベルでトランスポーターを直接標的とする新たな治療法や、トランスレーショナルリサーチにつながります。

また、小胞体カルシウムの役割は、膜タンパク質の生合成における普遍的な現象として、今後、より幅広い生命現象や疾患との関連で研究されることが期待されます。

研究費

本研究は、科研費(JP19K07373、JP21H03365、JP21K15031)、AMED(JP21gm0810010、JP21ek0310012、JP21lk0201112)、東洋紡バイオテクノロジー財団、Human Frontier Science Program、風戸研究奨励会、持田記念医学薬学振興財団の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル: Ca2+-mediated higher-order assembly of heterodimers in amino acid transport system b0,+biogenesis and cystinuria 
著者: Yongchan Lee, Pattama Wiriyasermkul, Pornparn Kongpracha, Satomi Moriyama, Deryck J. Mills, Werner Kühlbrandt & Shushi Nagamori. 
掲載雑誌: Nature Communications 
DOI: 10.1038/s41467-022-30293-9

用語説明

アミノ酸輸送体(トランスポーター)

生体膜を介した、アミノ酸の出入りを担うタンパク質の総称。20種類以上あるアミノ酸のうち、それぞれに対して特異的なトランスポーターが存在する。1種類のアミノ酸に対して、複数のトランスポーターが割り当てられている場合もある。 

小胞体

細胞内構造の一種。タンパク質の生合成とその品質管理、カルシウムの貯蔵などを担っている。 

クライオ電子顕微鏡

マイナス180度程度のごく冷たい温度で生体試料を凍結し、その構造を見ることのできる電子顕微鏡や、それを用いた技術の総称。今回の研究では、クライオ電子顕微鏡技術のうち、2017年にノーベル化学賞の受賞対象となった単粒子解析という手法を用いている。  

I型シスチン尿症変異体

シスチン尿症は病気の原因や程度により、I型(あるいはA型)と非I型(あるいはII、III型、もしくはB型)に分類される。I型はrBATの異常によるもの、非I型はb0,+ATの異常によるものであるとされている。

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