YCU 横浜市立大学 データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻

Researchers

教員紹介

水原 敬洋
MIHARA Takahiro
主要担当科目
エビデンス計量評価論
Q.1

これまでの研究者としての
歩みを教えて下さい

【面白いから研究をしている】私はそんな研究者です。面白いという理由で臨床もまだ続けています。こんな私は、その場その場で「やれる事」と「やりたい事」のバランスをとってやってきただけなのですが、今までの経験を少しまとめます。
 2003年に横浜市立大学医学部を卒業後、2年の研修期間を経て麻酔科に入局しました。麻酔というのは手術患者さんの生死に大きくかかわるエキサイティングな科です。例えば、術中大出血が起こると術場の指揮官は麻酔科医になります。私の腕の見せ所です。急激に低下する血圧を横目に、外科医と連携しつつバイタルを維持し、必要な処置を指示、並行して輸血ポンピング、、、状態が立ち直ったら手術続行、事なきを得て患者さんを麻酔から覚醒させる。何事もなかったかのように、いつも通りに患者さんが麻酔から目を覚ますこの瞬間が私の一番好きな時間です。
 麻酔臨床を面白くも真面目にこなしていた当時の私ですが、臨床経験を積み重ねるだけでは学術スキルはほとんど伸びず、英文論文を読むのが苦痛で輪読会担当から逃げ回っていた記憶があります。それでも、医師であれば一度は研究してみたい、という欲求があり2008年に大学院(基礎研究)に入学しました。大学院4年間は昼夜問わずの動物実験が続き、ヒトよりもネズミに麻酔をするのが得意になりました(院卒後は一度も使っていないスキルですが)。全身麻酔薬が概日リズムに及ぼす影響について一定の結論を得て、英文論文化に成功し、学位取得の運びとなりました。英文1行書くのに数時間掛かったあの頃の記憶は私の宝物です(もちろん渦中にいる時は、こんな時間早く終わって欲しいと思ってましたが)。この大学院4年間は学術的側面以外でも多くを私にもたらしました。大学院の同期はいわば戦友となり、今でもとても仲がいいです。社会人になってから戦友ができるのは大学院の一番いい所だと思います。
 しかしながら、基礎研究では私の「臨床疑問」に対する直接的な答えを導くのは困難でした。既に麻酔科医としてある程度一人前になっていた私は日々の臨床で答えのない疑問を抱くようになっていました。抜管後喉頭痙攣は予防できないのか?―どんなに気を付けても起こるときは起こるし、対処法はあってもエビデンスのある予防法は確立されていません―。複数種類のある気道確保器具のうち、どれが最も性能が良いのか?術後合併症の予測はできないのか?海外の研究で証明されたリスク因子は日本人にも当てはまるのか?これらの疑問に答えるために2012年頃から臨床研究を学び始めました。独学で、というとカッコいいのですが、実際には既に先人が残した教科書があり、ネット上記事があり、YouTube解説動画があり、と学ぶ教材はある程度揃っていました。あとは時間を捻出して勉強するだけ。なんとか研究デザインと立てて、研究可能であれば臆せずチャレンジして、の繰り返しです。独学だと失敗の繰り返しになりますし、教えてくれる人もいません。歯抜けの知識になりますし超非効率ですが、当時の私は気にせず学問してました。
 臨床疑問にフィットするデザインを片っ端から、というやり方なので系統的レビュー&メタ解析、ランダム化比較試験、観察研究、いずれも経験できました(詳細はResearchMap参照: https://researchmap.jp/metaanalysisr)。特に研究アイデアが浮かんだら、まず系統的レビュー&メタ解析を行い論文化し、それでも疑問が解決できない場合に自分で追加の研究(ランダム化比較試験など)を行うスタイルは当時としては独自性の高いものだったと思います。そのようにして、麻酔臨床と臨床研究を並行してこなせるようになった2017年秋に、横浜市立大学で臨床研究支援組織(Y-NEXT:次世代臨床研究センター)にポストの空きがあるとのオファーがありました。私のスキルは独学で偏りがあったので、務まるかどうか不安でしたが、一点「面白そう」というだけで引き受けました。私が今までに身に着けてきた臨床研究技術を伝えるだけでなく、周囲から教えてもらいつつ自分も研鑽を積むという心づもりでした。このY-NEXTという組織には臨床研究支援のエキスパートがいて、私の期待以上に勉強になりました。給料をもらいながら勉強もできて、これで良いのだろうかと若干後ろめたさがありましたが、その分、皆に還元する事に注力した充実した日々でした。
 そのように仕事をしている中で、現専攻長の山中竹春教授から、「2020年から新しい大学院を作りたいので協力してくれないか」、という私にはもったいないオファーを頂きました。山中教授は、医学部とデータサイエンス学部を併せ持つ国内唯一の大学である横浜市立大学で、臨床研究を教える大学院―ヘルスデータサイエンス専攻―を立ち上げたいと事でした。様々な不安もありましたが、単純に「面白そう」と感じ本専攻の専任教員を拝命いたしました。また山中教授の熱意と行動力に引き寄せられるように強力な講師陣が集まりました。私は、そのメンバーに気後れしつつも、Y-NEXT着任時と同じで「足りない部分は周囲から教えてもらいつつ自分で研鑽を積もう」と考えていました。
 現在は新型コロナ禍であり遠隔授業となっており、遠隔授業をいかに面白くするかに腐心しております。ゼミ生にも、研究成果よりも大切な大学院の財産―戦友、臨床研究基礎技術、面白さを感じる感度―を得てもらいたいと願って教鞭をとっております。また、新型コロナウイルス関連の観察研究に関与する機会を頂き、スケールの大きな研究の経験値を上げている最中です。今後も修行の日々でしょうし、新しいことにチャレンジする日々だと思います。

〈好きな言葉〉 明鏡止水、大胆かつ細心、巧遅は拙速に如かず
〈好きな研究〉 系統的レビュー&メタ解析、Trial Sequential Analysis、Network Meta Analysis
〈最近感銘を受けた本〉 シン・ニホン(著:安宅和人)

To be continued…?

Q.2

学生と一緒にやりたいことに
ついて教えて下さい。

私が学生と一緒にやりたい事を一言で表現すると、臨床研究の過程の全てを楽しみながら共有したい!という事です。具体的な臨床疑問は学生さん発信が好ましいと思っておりますが、なければ私の疑問をテーマにしたり、話し合いながら何か決めたりしております。Q1でも書きましたが、大学院在学中の研究成果は必要条件ではありますがそれだけでは不十分です。学術成果以外の部分は、学友や講師陣との人脈であれ、面白さを感じる感度であれ、必ずしもその全てを我々が教えられるものではないのが残念です。授業を受けるに留まらず、プラスアルファを得る努力ができる学生さんを歓迎します(そうでない学生さんももちろん歓迎します;在学中に変わると思います)。